大洗にも星はふるなり
「おい、何で、命令通り緊急サイレンを点けてないッ⁉」
私の上司である、日本海軍国境警備隊大洗第2大隊第3中隊の中隊長である菅原朝臣大隈海兵衛尉中宗朝は、そう叫んだ。
おっと、名前がクソ長いのは判ってるが、我々「シン日本人」の名前……特に女の名前は、昔から、こんな感じなので仕方ない。
ちなみに、私の正式な名前は、平朝臣東郷海兵衛尉下貞光だ。
男の名前は、もっと短かくて、日常生活においては便利だが……それは、あいつらが白人扱いされてないのと表裏一体だ。
そして……私達女も普段は……。
「豹次様、公用でも無いのに公用車を使って、緊急事態でも無いのにサイレンを鳴らしたら、どうなるか判ってるんですか?」
「判ってないのは、お前の方だ、弥助。問題ない。今の監察部の責任者は、私の伯母だ。私のやる事にイチャモンを付けた監察官こそ左遷される」
と、このように幼名を使ってはいるが。……って、私は、今、誰に説明してるんだ?
まぁ、いい。
「大体、中隊長と最先任の中隊付き士官が両方共詰所に居ない方が問題だろうが。何で付いてきた?」
「そりゃ……」
「間もなく、警察署です」
私が話をしている途中で、運転をしている軍用下士官型のオスの家畜亜人がそう割り込んだ。
野生の旧本亜人を品種改良した「家畜亜人」達の中でも、柔軟な判断を行なわなければならないタイプは、先天的ロボトミーの度合が軽度だが、それでも気が効かない事が有る。
「ああ、すまない……えっと……吉四六……あれ? お前、どの吉四六だったっけ?」
「はい、吉四六IB−OA−05−208206M−002012でありますす」
「ああ、ご苦労だった吉四六。警察署の駐車場に車を駐車させて、私達が戻って来るまで待っててくれ」
「了解であります。御意のままに、中隊長様」
ああ、そう言えば、家畜亜人の名前もクソ長かった。
こいつの場合は、「吉四六」がタイプ名、「IB−OA−05」が茨城県の大洗の工房の第5棟で生産されたという意味、「208206M」が製造ロット番号、「002012」が当該ロットの他の個体と区別する為のシリアル・ナンバーだ。
「行くぞ、警察の阿呆どもから、私の『タヌくん』を取り戻すんだ」
「あの……」
「何だ?」
「何で、あの家畜亜人の娘は『タヌくん』なんですか? あんまりタヌキっぽい顔じゃありませんけど。どう見ても、『トメ』タイプの萌え系メイド家畜亜人の平均から大きく外れてない外見です」
「それは長い話になってな……あと、私の大事な『タヌくん』の事を『トメ』とか呼ぶ……ん?」
その時、警察署から出て来たのは数人の……。
「おい、あんな外見の家畜亜人って居たか?」
「いえ……同じタイプの家畜亜人でも技術上の理由からDNAには、わざとバラツキが有るので……」
作業着のような服を着た十代後半から二十代前半に見えるメスの家畜亜人が4名……ん?
「待て、貴様ら何物だッ?」
「無関係な者は巻き込みたくない。逃げろ」
そう答えたのは……明る目の茶色の短い髪の……いや、家畜亜人の目と髪の色は、黒に近い色ばかりの筈。
いくら、わざと各個体ごとのDNAにバラツキが有るように作られているとしても、こんな色の髪の毛の家畜亜人など居る筈は無い。
そして、我々、白人に、こんな口のきき方をする家畜亜人も居る筈は無い。
「き……貴様ら……まさか……」
「ご明察の通りって所かな?」
別の……外国の工作員が、そう答えた。
「やっぱり、そうだ……。馬鹿の集団だろ、お前ら?」
「へっ?」
「あのなぁ……何で、外国の工作員のクセに白昼堂々、町中を出歩いてる。警察を呼べば……」
「おい、弥助。警察はここだ」
豹次様は……冷静なのか馬鹿なのか判らないツッコミ。
「第一、そいつらが今出て来た場所こそ警察署だ」
……私も自分で思ってたより、かなり馬鹿なのかも知れない。
「あと、ここの警察署は壊滅させた。可哀想だが、警官のみならず、事務員も皆殺しにした。あと一〇分後に爆破する」
……。
…………。
……………………。
「たぁ〜ぬぅ〜くぅ〜んッ‼」
この世の終りでも来たかのような絶叫と共に、警察署に飛び込む豹次様。
「あのさ……ボクたちの事、馬鹿の集団とか言ったけど……キミの連れも相当な馬鹿だろ」
「爆破時刻は二〇分後に変更してやる。礼は要らん」