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プロローグ 転校入試

 今日、俺は、裏口で入学した学校に初登校する。

 私立山ノ上高校――県内では知らぬものはない有名進学校だ。中高一貫、高い偏差値と、同じくらい高い学費。

 初め俺は何も疑わなかった。中三の夏ごろに、急に親に狙ってみろと言われ、とにかくがむしゃらに勉強した。年末の模試ではD判定だったが、それでも両親は「行ける行ける」と口々に励まして、俺はそのまま入試に突入した。

 二月の合格発表の時、俺は騙されているんじゃないかと思いながらも、飛び上がって喜んだ。入試の手ごたえはなかったが、それでも合格は合格だ。長い人生、こんなラッキーパンチもきっとあるんだろう。


 浮かれた気持ちは長くは続かなかった。三週間後のことだ。山ノ上高校から、制服が届けられた。制服は二種類あった。男子用と女子用。

「送り間違え?」

 俺は首をかしげたが、同封されていた手紙に訳が書いてあった。

『我が校はSDGs教育を取り入れ、ジェンダフリーを推進するべく、云々……※ネクタイは男女共用です』

「へぇ、時代だねぇ」

 手紙を覗き込んだ母親はそうつぶやいた。

「で、アオ。どうする?」

「何がさ」

「着てみないの? スカート」

「着ねぇよ」

「エー残念。なら母さん着てみようかな?」

「破けるぞ」

「まっ!」

 母親と軽口をたたきながらも、俺は舞い上がった気持ちがうっすら冷めていくのを感じていた。

 山ノ上高校は、間違いなく優秀な学校のようだった。当たり前のように時代の一歩先を行く。俺はそんな学校について行けるのだろうか。山ノ上高校は中高一貫校。俺の受けた入試は数枠しかない高校転入枠だ。つまりは外様ということになる。なじめるだろうか。そもそも俺なんかが行っていいのだろうか。

 そんな悩みを抱えて過ごして、一か月。俺の疑いは、いつしか確信に近いものになった。

 多分、俺はきっと裏口入学をしたのだろう。そうとしか思えない。両親は黙っているけど、きっと俺に内緒で学校にお金を渡したのだろう。そんなお金がどこにあったかもわからないが、きっとそうに違いなかった。


 時計が午前七時を指した。

山ノ上高校のブレザーに身を包んだ自分を姿見に移す。鏡に映る自分の姿にはさほど違和感はない。

(なぁに、別に裏口入学だって、入ってから必死に勉強して、落ちた連中よりいい成績出せりゃ誰も文句言わねぇよ)

 心の中でそう言い聞かせて、カバンを肩に担ぐ。肩にかかった衝撃で、新品の制服が固く肌にこすれた。「お前に着る資格ねぇよ」と言われたような気がした。


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