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俺は華を誘い、天宮家が所有する郊外の別荘へ向かっている。決してR&Hラブストライクチームの圧に負けたわけではないが、その地域は星が美しく見えることで有名で、プロポーズするのには最適の場所だ。この時期は紅葉も美しく、夜は澄んだ空気の中で星空が一層輝く。
俺がそこでプロポーズするということを輝と翔に告げると、二人は「任せろ!」と言って、同行することになってしまった。
翔が運転席、輝が助手席に座り、俺と華はミニバンの二列目キャプテンシートに座っている。
車内は和やかな雰囲気で、翔の好きなアーティストの曲が静かに流れている。外の景色は徐々に山間部へと変わり、紅葉が美しく色づいているのが見える。
前方では翔と輝が軽い冗談を交わしながら運転を楽しんでいる。翔は時折バックミラーで俺たちの様子を確認し、輝はナビゲーションを見ながら道案内をしている。
「湖の別荘、久しぶりだよね」
華が俺に顔を向けて楽しそうに言った、俺はそんな彼女を見て、これからの時間が特別なものになることを確信した。
別荘に着くと、目の前に広がるのは自然と調和した建物と美しい風景だった。別荘は無垢材を基調とした洗練されたデザインで、大きな窓からは自然光がたっぷりと入る。周囲には豊かな緑が広がり、遠くには山並みが見えた。深呼吸すると新鮮な空気が鼻をくすぐった。
「なぁ、釣りしよーぜ! 釣り!」
「釣り~~~?」
「華、お前、子供の頃、一匹も釣れなくて泣いたよな?」
翔の提案に、華と輝が互いをからかいながら話している。
「輝だって魚触れないって泣いたじゃん!」
「泣いてねぇよ」
「よーし! 行こうぜー!」
俺たちは別荘の周りの自然を満喫しながら、近くにある湖を目指して歩いた。肌寒い気温が吐く息が白くさせるが、澄んだ空気は肺に心地よく、紅葉が美しく色づいている。
歩くたびに足元では枯れ葉がカサカサと音を立て、秋の深まりを感じさせる。
木々の間を歩きながら、昔ここで遊んだことや、秘密基地を作ったことなど、懐かしい話が次々と飛び出した。
「あ! ねぇ、覚えてる? あの木の下でかくれんぼしたよね?」
「ああ、あのとき、華が見つからなくてみんなで探したよな」
「そうだっけ?」
「そうそう、俺たちより大人たちが焦ってたよな」
「華は別荘でアイス食ってたけどな?」
次々と蘇ってくる思い出に笑い声が響く中、俺は当時を思い出して、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
そうだ……。あのときの俺は本当に焦っていた。華がいなくなった世界を想像するだけで、怖くてたまらなかった。
あの瞬間、俺は初めて自分の中にある華への特別な想いに気づいたんだ。
湖に着くと、目の前には広々とした水面が広がり、周囲の木々が水面に映り込んで美しい景色を作り出していた。湖のほとりには小さな桟橋があり、そこから釣りを楽しむことができる。
「絶対に大物を釣ってやるからな」
「翔、昔から同じこと言ってるけど、結局小魚しか釣れねぇじゃん」
「アハハ! そうそう、五センチの大物!」
華がそう言って笑いながら、俺に釣り竿を手渡した。
「はい、蓮の」
「ああ、サンキュ」
渡された釣り竿を下げて、静かに待つと、すぐに華の声が聞こえた。
「やったー! 見て見て、蓮。釣れたー!」
驚くほど綺麗になった華だが、楽しそうにはしゃいでいる姿は幼い頃と何も変わっていない。その無邪気な笑顔を見ていると、俺の胸が温かくなる。華への想いが、ますます強くなるのを感じた。
近くにいた親子も、楽しそうに釣りをしている。
「お父さん、今日はびっくりするくらい魚がたくさん釣れるね!!」
「本当だな!! でも、この湖にこんな魚がいるなんて知らなかったなぁ……」
冷めた目で湖を見つめる輝が、ボソッとつぶやいた。
「やりすぎだろ……」
夕食は地元の人気店に行くことにした。店内は木の温もりが感じられる落ち着いた雰囲気で、地元の人々や観光客で賑わっていた。柔らかな照明が料理を一層美味しそうに見せている。
メニューには、地元の食材を使った料理が並んでいた。新鮮な野菜サラダは色とりどりに美しく盛り付けられ、ドレッシングの香りが食欲をそそった。
地元の川で獲れた新鮮な魚のグリルは、皮はパリッと焼かれ、中はふっくらとした身がジューシーだった。
メインディッシュには、地元産の牛肉を使ったステーキが登場した。肉は絶妙な焼き加減で、ナイフを入れると肉汁が溢れ出し、付け合わせの新鮮な野菜との相性が抜群だった。
地元のクラフトビールはフルーティーな香りと程よい苦味が特徴で、料理の味を引き立ててくれた。どの料理にも良く合い、一口ごとに幸せな気分になった。
ふと、店内の照明が暗くなり、各テーブルにキャンドルが灯された。店内の奥の方では金管四重奏による生演奏が始まり、店内はロマンチックな雰囲気に包まれた。
「当店の開店十周年の特別なサービスです」
店員がそう言いながら、各テーブルにデザートを運んでいった。出されたデザートは、地元の果物を使ったタルト。サクサクのタルト生地に、たっぷりと乗せられた果物が鮮やかに彩られていた。
そのとき、近くのテーブルの客が店員に声を掛けた。彼は常連客のようで、店員とも顔なじみのようだった。
「この店が開店してもう十年も経つんだね。まだ、七年くらいだと思っていたんだけど、年を取ると時間経過が曖昧になるというのは本当だな。それにしても、金管四重奏とは豪華だ。ここのオーナーがこんな演出をするなんて驚きだよ。次はオーケストラでも呼ぶつもりかい?」
店員は困ったように笑い、曖昧な返事を残しながら、そっと別のテーブルへと足を運んだ。
輝と翔は一瞬目を合わせたあと、黙々とタルトを食べていた。




