表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

バーチャルハピネス

作者: 砂糖の剣豪

 何も良いことがない。私はつい最近、会社をクビになった。そして、そのせいで妻に別れを告げられた。まあ、理由はそれだけではないかもしれないが、主な原因はそれだろう。娘は、妻の方について行ったので、私は四十歳にして独り身になった。思えば人生、何も良いことがなかった。よくここまで生きてこれた。それだけで、自分を褒めてやりたい。

 そんな私は誰もいない寂しい家で、スマートフォンで、ネットサーフィンをする。リーディングリストなどから、気になるサイトを色々見ていると、怪しい広告を見つけた。その広告には、"幸せを体験しませんか?バーチャルハピネス"と書かれていた。私は、少し気になったので、タッチしてみると、サイトに飛んだ。そのサイトは、全体的に白黒で、気になった方は説明会へと書かれていた。私は、説明会の日程を調べた。すると、明日やっていることが分かった。私はすぐに、申し込みをした。そして、明日を待ち眠りについた。

 翌日。説明会の時間が近づき、私は着替えと食事を済ませた。そして、会場へ電車で向かう。会場付近には、私以外にも人はいたが、会場へ入ると私しかいなかった。そこへ、スーツの男性が入ってきた。

「お待たせしました」

 その男性が説明してくれるようだ。そして、説明会が始まった。

「あなたは、現在不幸せですか?」

 いきなり胸にくる質問をされた。私は、「はい」と答えた。

「我が社のサービスは、バーチャル空間で、架空の幸せを体験していただくというサービスなのです」

 私は、何となくサービスについて分かってきたような気がした。

「あなたには、我が社の開発した機械に入り、その空間で、様々な幸せな出来事を体験していただきます。所謂、幸せの擬似体験というわけです」

「なるほど。料金はどのぐらいかかるのですか?」

「初回なので、無料で構いませんよ」

 その人はそう言ったので、私はやってみることにした。

「では、こちらへ」

 その人が、案内してくれた場所は、隣の部屋だった。そこには、試着室のような箱型の部屋が置いてあった。

「今から、この中へ入っていただきます。そして、私がスイッチを入れると、あなたは幸せな体験ができます」

 私は、その箱へ入った。そして、私が入ったのを確認し、その人は扉を閉めた。

「では、ごゆっくり」

 その人がスイッチを入れると、機械はウィーンと音を立て始めた。そして、私は気がつくと幼稚園にいた。そして、隣には小さな女の子がいた。その女の子は、私に抱きついて言った。

「しょうらいけっこんしようね!」

 私は、少し恥ずかしさと嬉しさの混ざった感情になった。

 そして、次は小学校になった。みんなで、卒業アルバムを作っているみたいだ。そして、クラスページに載せるクラスランキングのアンケートが行われていた。

「じゃあ、かっこいい人ランキングを決めよう」

 前に立っている生徒が言った。

「あいつが良いと思う」

 一人の生徒が言った。

「私も!」

 女の子が同調する。

 あいつとは、私のことだった。そして、私の名前が一位の欄に刻まれた。バーチャルだとしても、これは嬉しい体験だ。

 そして、次は高校になった。なにやら、放課後の教室で、女の子二人が話をしている。

「私、川田のこと好きなんだよね」

 それは、私のことだった。しかし、この辺りから、私は妙なことに気がついた。何故か、出てくる景色に見覚えがあるのだ。景色が変わるたびに、どこか懐かしい気持ちになる。そして、また景色が変わった。それは、分娩室だった。ベッドでは、女性が子供を産もうと必死になっている。ここで、私は気がついた。その女性は、私の妻だと。そして、子供が産まれ私は抱き上げた。何とも素敵な気持ちになった。すると、バーチャルの映像は突然終了した。私は、箱から出た。

「いかがでしたか?」

 その人は言った。

「いや、なんか懐かしい気持ちになって」

「そうですか」

「いや、私の人生もこんなに素敵だったらなーなんて思ってしまって」

 すると、その人は言った。

「これは、あなたの人生ですよ」

「え?」

「この機械は、あなたの潜在記憶から再生した、あなたの人生なんです。ですから、これは全て、あなたが過去に経験した出来事なんです」

「そうだったのか、、」

 私は、胸が熱くなる感覚になっていた。

「どうですか?あなたは、これでも不幸せだと言えますか?」

「でも、今は、、」

「大丈夫です。あなたが忘れているだけで、小さな幸せは日々の中にもあるはずですよ」

「そうかなあ」

「今までこんなに良いことがあったんですから、これからの人生にもきっと良いことがあります。自信を持ちましょう」

「分かりました。私も自分から幸せを探してみます」

 こうして、私は少し前向きになって、自宅へと帰った。今不幸な人も、挫けそうな人も、今まであった幸せや、これから起こる幸せに思いを馳せてみて欲しい。そうすれば少しは、前向きになれるはずだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ