8.来ない手紙
ブルーノから手紙が来ないことに気がついたのは、三週間後のことだった。
次の勉強会の日をいつにするかの手紙が、いつもなら来ているはずなのに。
前回の勉強会から、もう一か月が過ぎていた。
アレバロ家で何か起きたのだろうか。
以前、祖母の体調が悪いからと二か月ほど来られない時期があった。
あの時は謝罪の手紙が前もって来ていたけれど、
突発的に何かあったのかもしれない。
もう少しだけ様子を見ることにした。
だが、それからまた三週間がすぎても手紙は来なかった。
さすがにおかしいと思い、知っていそうなベンに確認しに行く。
ベンの執務室は本邸ではなく、使用人棟の中にある。
これもフルールに嫌われたために移動させられたのだが、
ベンは仕事がやりやすくなったと言って笑っていた。
執務室に入ると、下級使用人が掃除をしているところだった。
小柄だが体格がしっかりしている赤毛の女の子。
最近、私の部屋に食事を運んできてくれるララだった。
「ララ、ベンはどこに行ったの?」
「ええと、資料を持ってくると言っていたので、すぐに戻ると思います」
「そう。じゃあ、待つわ」
近くに置いてあったソファに座ると、ララは掃除の手を止めている。
気をつかわなくていいと言うと、また本棚の整理を始めた。
ララはまだ幼いが、父親が借金を作ったままいなくなってしまったらしい。
母親だけの収入では暮らしていけないので、
下級使用人として雇われたと話していた。
たまに来る本邸の侍女よりも真面目に働いてくれているが、
平民のララではできることに限りがある。
それでも信用できない侍女よりも、
ララが来てくれたほうがよっぽどいいと思う。
少し待つとベンが紙の束を持って戻って来た。
「お嬢様、どうしました?」
「あのね、ブルーノから手紙が来ないの。何か聞いていない?」
「そういえば、今月は勉強会がありませんでしたね。
手紙は……見ておりません。何かあったのでしょうか」
どうやらベンにも心当たりがないらしい。
これはアレバロ家に問い合わせするべきだろうか。
悩んでいると、ララが意外なことを言い始める。
「あの?お嬢様、ブルーノ様って、
もしかして身長が高くて、金髪で水色の目をした令息ですか?」
「ええ、そうよ?どうして知っているの?」
ララが私の部屋に食事を運ぶようになったのは最近のことで、
それまでは離れには来ていなかった。
だからブルーノを見たことはないはずだが。
「昨日、本邸にいらっしゃいました」
「え?」
「フルールお嬢様と一緒にお茶をしていたところを見かけまして。
本邸の侍女たちは毎週来ていると話していましたけど」
「毎週?ブルーノが?本当に?」
「いえ、私も侍女たちが話をしているのを聞いただけなので……」
私が険しい表情になったのに気がついたのか、ララがしまったという顔になる。
あまり考えもせずに話してしまったのだろう。
「あの……私が言ったってこと、内緒にしてもらえませんか?
ここを辞めさせられてしまうと困るんです」
「大丈夫よ……言わないわ」
「あ、ありがとうございます」
ほっとしたのか、いつもの笑顔に戻るララに、
一つだけお願いをすることにした。
「ねぇ、ララ。あなたの名前は絶対に言わないわ。
だから、今度本邸にブルーノが来ていたら、教えてくれない?」
「わかりました」