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64.お義父様からの報告

その話をお義父様から聞いた時には耳を疑った。


お義父様とハルト様が陛下に呼ばれて王宮に行ったはずが、

なぜかお義父様だけ先に帰ってきた。

いつも穏やかな微笑みのお義父様が難しそうな顔をしている。

話を聞いてみて、どうしてそんな顔をしているのかわかった。


あのフルールが結婚したという。

まだ十六歳になったばかりだというのに、婚約ではなく結婚。


「結婚ですか?フルールが?」


「ああ。相手はエミールだ」


「ええ?……本当なのですか?」


「兄上も驚いていたが……本当のようだ」


「いったい何が……?」


あの春の狩りで女神の加護を失ってから、フルールは屋敷にこもっていると聞いた。

フルールの支持者だった令嬢や夫人たちも衰えた容姿を見せたくないのか、

誰も社交界に出て来なくなってしまった。


フルールを殺そうとしたブルーノは、貴族の籍をぬかれ犯罪奴隷になったらしい。

人工絹のドレスの危険性をわかった上で火をつけようとしていたのだから、

あの場にいた令嬢や夫人を全員殺そうとしてたことになる。

もし実行されていれば間違いなく処刑されていた。

幸い怪我だけだったとしても、許されることでは無く、

アレバロ伯爵もブルーノの処罰に同意せざるを得なかった。


そして、騒ぎの原因はフルールからの一方的な婚約破棄だと知れ渡り、

その処罰としてフルールには三年の謹慎が言い渡されていた。

これには私が学園を卒業して結婚式が終わるまでという意味もあったようだが、

醜くなってしまったフルールは屋敷から出るつもりはなさそうだった。


これからラポワリー家はどうなってしまうのだろうと思っていたところで、

フルールとエミール王子の結婚話だったのだから驚かないわけがない。


「エミールは領地にいる伯爵に手紙を送り、

 伯爵夫妻を養う代わりにフルールとの結婚を申し出たようだ。

 伯爵は領地経営を何一つできなかったからね。お金も尽きていたようだ。

 エミールの手を取るしか生き延びる方法がなかったのだろう」


「自分たちの生活のために結婚を承諾したということですか。

 フルールは納得したのですか?」


「どうやら結婚は形だけのものらしい。

 フルールも金がなくて追い出されるよりかはましだと思ったのだろう」


「形だけですか?」


「フルールはそれほど長く生きられない。

 エミールもそれはわかっている。だから、子どもは無理だろうと。

 自分が亡くなったら王領にしてほしいと願い出たようだ。

 フルールは離れで過ごしているそうだ」


「……そうですか」


前の王女が二十八歳で老婆のようになって亡くなったのは知っている。

だから、フルールもきっと長くは生きられないとは覚悟していたけれど。

子どもをあきらめるほどだとは思っていなかった。


「夫妻は領地に送ったようだな。

 本邸はエミールと側妃が住んでいる」


「側妃様も?」


「ああ、今は元側妃だな。離縁したらしい。

 フルールとミレーと同じだ。元側妃も容姿が戻らなかったらしい」


ミレーは侯爵家に嫁いだと言ってたが、実際には妾の状態だった。

醜くなってしまったミレーを侯爵家は受け入れずに生家の伯爵家に帰してしまった。

それからミレーも屋敷から出てこないと聞いている。


「もしかして側妃様も部屋にこもりきりなのですか?」


「そのようだ。部屋に近づけるのはエミールだけだと。

 だから側妃の宮から出て行ったのだろう。

 王宮の敷地内は人が多いからな。

 兄上は離縁する時に王領にしていたラポワリー家の領地を贈ったと。

 エミールにも爵位を渡し、ラポワリー家は侯爵家に戻っている」


「侯爵家に戻るのはいいのですけど、その分領地経営は難しくなりますよね。

 エミール王子に領地経営はできるのでしょうか?」


「その点については心配しなくていい。

 あいつは王子教育も領地経営も独学で覚えてあるそうだ。

 エミールなら大丈夫だとアルバンが言っていた。

 だから、兄上も問題ないと判断して侯爵を継がせることにしたようだ」


そういえばエミール王子は本当は優秀なのだとハルト様が言っていた。

アルバン様が大丈夫だと判断したのは神の加護かもしれない。

それならばラポワリー侯爵領のことはもう心配しなくていいのかな。


「ああ、結婚の話はついでだったんだ」


「え?その話を聞くために王宮に行ったのでは?」


「いや、もっと大事な話をしに行っていたんだ。

 兄上がフェリシーに頼みがあるそうだ。

 これから学園の休みや長期休暇の間、地方領地をまわってきてほしいと」


「私にですか?」


「もちろんフェリシーだけ行かせるようなことはない。

 今頃はハルトが詳しい説明を受けているだろう」


「だからお義父様だけ先に帰って来たのですね。

 でも、どうして私たちが領地に?ハルト様の視察ですか?」


「はぐれ神の置き土産が発生したらしい」


はぐれ神とは、フルールに加護を与えていた神のようなもの。

お義父様の説明によると、フルールに与えていた加護を外す時に、

フルールの力を使っていた者たちの領地にも影響を及ぼすことがあるという。

前回の王女の時も、同じように支持者の領地が不作などの影響が続いたという。


「放っておけば、短くても三年、長ければ十年以上も不作になる可能性が高い。

 だから、フェリシーの豊穣の加護に助けてもらいたいそうだ」


「私の加護ですか?……お役に立てるのでしょうか?」


春の狩りの時、周りの令嬢や夫人たちを守ったらしいけれど、

私自身はまったくそんな気はしていない。

本当に私に加護の力があるのか疑ってしまうくらいだ。


「ハルトはフェリシーなら大丈夫だと言っていたよ。

 もちろん、無理にとはいわない。

 ただ、このまま加護の力を疑うくらいなら、実感して来てもいいのではないか?」


「ハルト様が……わかりました。

 どこまでお役に立てるかわかりませんが、行ってきます」




そうして学園の休みや長期休暇にあわせて、私とハルト様のお忍び視察が始まった。

お忍びで行く理由は、私の神の加護が知られてしまわないようにだった。


はぐれ神の置き土産は不作だけでなく、魔獣の被害も多かった。

それが、私たちが行って祈ると、魔獣の被害はすぐにおさまる。

不作については次の収穫を待たなければわからないけれど、

魔獣の被害についてはあきらかに違いがわかるものだった。


私とハルト様が被害があった領地ばかりをまわっていると知られてしまえば、

その理由を知ろうとするものがでてくるだろうと。



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