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【書籍・コミカライズ】冴えない加護持ち令嬢、孤高の王子様に見初められる(旧題 女神の加護はそんなにも大事ですか?)  作者: gacchi(がっち)


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60.女神の加護なのに

「ウダール侯爵夫人?それはおかしいな。

 ウダール侯爵家の離縁は認められていないぞ」


「は?」


「ウダール侯爵家の夫人は離縁の無効を訴えている。

 教会と王家の両方に。

 そのため、そのどちらにも離縁は認められていない。

 お前はまだ侯爵夫人ではないし、ここにいる資格はない」


「……そ、そんな」


「離縁した理由が子ができないということだったが、

 教会が調べた結果、侯爵夫人に問題はなかった。

 となれば、子ができない原因は侯爵にあるのだろう。

 その場合、離縁は認められない」


それを聞いたミレーが崩れ落ちる。

隣にいたウダール侯爵家のカーラ様がミレーを支える。


「大丈夫ですわ。フルール様が王太子妃になった時には、

 どうにでもなりますから!」


「え、ええ。そうよね」


カーラ様は侯爵夫人を気に入らないのか、

ミレーと再婚させたがっているらしい。


だが、侯爵夫人の生家との関係もあるのに、

そんな簡単に離縁できるようなものではない。

下手なことをすればつぶされるのはミレーの生家のほうだろう。


「まぁ、期待するのは勝手だが、

 フルールが王太子妃になることなんてないぞ。

 フェリシーへの暴言は俺が、王家が許さない。

 そのことをわかった上で発言するんだな」


「………」


怪我をしているせいか、フルールがいつもよりも大人しいように思う。

何も言い返してこないのを確認して、ハルト様はテラスへと戻ってくる。


「ハルト様……ありがとうございます。

 何か起きるってこれだったのですね」


「まぁな。あの女が黙ってやられたままでいるとは思わなかった。

 近くにフェリシーがいたら、必ず巻き込まれるだろうと。

 ……気にしてないか?」


「大丈夫です。驚きはしましたし、悲しいとも思いましたけど、

 それも全部ハルト様が吹き飛ばしてくれましたから」


「そうか」


休憩室ではまだ聖女の治療が続けられている。

フルールには二人の聖女がついて治療をしていた。

ひねってしまった右足首と切られた頬。

頬の傷口が治っていくのが見えたが、やはり傷痕は残ってしまっている。


「治療が終わりました」


「はぁ……やっとなの。ずいぶん時間がかかるのね」


「……申し訳ありません。失礼いたします」


治療してもらったにもかかわらず、聖女たちに文句を言っているが、

そのことを咎めるような雰囲気はない。

皆が、フルールが言うのであれば当然だと思っている。

異様なものを感じ、この先が不安に思えてしまう。


そんな中、一人の令嬢が女神の加護を言い出した。


「フルール様、ここで女神の加護をお見せください!」


「そうですわ!フルール様を支持しない者たちに見せつけてください!」


「ええ、そうすればフルール様が王太子妃にふさわしいって、

 誰もが賛同してくれるはずです」


一人が言い出したら、周りの令嬢たちが同調するように騒ぎ出す。

たしかにテラスの観覧席にいる夫人や令嬢たちは、

休憩室の中が気になるようで、先ほどからちらちらと見ている。

ここでフルールが女神の加護をつかえば、支持者は増えるかもしれない。


だが、フルールは気乗りしない様子だった。

あのフルールなら、頬の傷をそのままにしているのが不思議なのに、

ここで女神の加護を使うのをためらっているように見える。


「フルール様、わたくしもそう思います。

 ここでフルール様のすばらしさを見せてやりましょう」


ミレーにまで言われたからか、フルールが立ち上がる。

すぐに女神の加護を使うのかと思ったら、目を閉じて手を広げている。

何をする気なのかと思えば、ハルト様に耳元でささやかれる。


「フェリシー、すぐさま祈って。

 自分の、周りのみんなの力を奪われないようにして、って!」


「え?」


「フルールが周りから力を奪おうとしている。

 テラスにいる者も危ない」


テラスにいる者も?私が美しさを奪われていたように、

他の者たちから奪おうとしている?


そんなことはさせない。私も目を閉じて、神に祈る。


もう誰からも力を奪わせない。

私のものは私のもの。フルールのものじゃない。

みんなのものも、フルールのものじゃない。

だから、私に神の加護があるというのなら、

もう誰からも奪わせないで!


目を開けたら、フルールの頬の傷が薄くなっていく。

もう傷が見えないほどに薄くなって、歓声があがる。


あぁ、ダメだったのか。

そう思ったのは一瞬で、フルールの周りにいた令嬢たちがざわめきだす。


「え?なに、これ」


「あなた、顔にしわができている!」


「あなたこそ!急に老けてどうしたの!?」


見たら、令嬢たちの顔がカサカサになってしわができていた。

髪も白髪が交じり、急に老けてしまったように見える。


「どういうことですか!?フルール様!」


「フルール様、私にも女神の加護を!お願いします!」


「フルール様!?」


老けてしまった身体をどうにか治してもらおうと、

令嬢たちはフルールへと詰め寄っている。

が、その目の前でフルールの姿が変わっていく。


金髪の色がぬけて……真っ白になっていく。

それと同時に顔中にシミがひろがって、頬に大きなあざができた。

その頬をおさえる手もしわだらけで、まるで老婆のようになっていく。


「ひぃ……」


「フルール様がっ」


フルールまで老婆のようになってしまったというのに、

一部の令嬢たちはあきらめきれないのか、フルールへとつかみかかった。


「早く何とかして下さい!」


「もしかして、こうなったのはフルール様のせいなの!?」


「冗談じゃないわ!フルール様の言うことを聞いていれば、

 もっと綺麗になれるっていうからそばにいたのに!」


「………どうして」


ぼんやりとつぶやくだけのフルールに苛立ったのか、

令嬢たちにもみくちゃにされている。

見かねたのか、ハルト様が令嬢たちに声をかけた。


「おい、そこで暴れていると危ないぞ。

 お前たち、人工絹のドレスを着ているんだろう?

 そうやって暴れているうちに引火しても知らないぞ?」


「……もう、いや」


「…私、帰るわ!こんな危ないところにいられない!」


「私も!もうフルール様の支持者なんてやめるわ!

 この責任は後日、必ずとってもらうんだから!」


さっきまでフルールのことならなんでも言うことを聞いていたのに、

美しくなくなったフルールには用がないのか、

吐き捨てるように言って帰っていく。


残されたのはフルールとミレーだけだった。

ミレーは必死にフルールへと呼び掛けていたが、

フルールはどこを見ているのかわからないほどぼんやりしている。


「……フルール様、大丈夫です。

 もう一度、女神の加護を使えば」


「無理だ」


「え?」


「女神の加護は失われた。もう二度と戻らない。

 それがわかっているから、フルールは返事をしない。

 失われたことを認めたくなくて現実逃避しているんだろう。

 今のフルールに何を言っても無駄だ」


「そんな……失われたなんて。

 じゃあ、私はどうなるんですか!」


「そのまま、どうにもならないだろうな」


「……そんな……ひどい」


泣き崩れてしまったミレーを慰める者はいない。

その隣でぼんやりしたままのフルールに声をかける者も。


ハルト様の指示で、二人は馬車で生家へと送られた。

あれだけ気が強かった二人が、どちらも抵抗せずについていく。

あのフルールが何も言わずに人に従っているのは初めて見たかもしれない。


「ハルト様、女神の加護が失われたって、本当ですか?」


「本当だ……もうあの力が戻ることはないだろう」


「そうですか……」


これでもうフルールを王太子妃にと言い出す者はいなくなるだろう。

そのことに安心しつつ、複雑な気持ちになる。


フルールだけでなく、大勢の令嬢たちにも影響が出ている。

ハルト様の話では、一度でも女神の加護を受けていれば、

それなりに影響を受けるはずだという。


治療のために馬車で教会へ向かった者たちもいる。

狩りに参加していない、側妃様も。

これからどのくらい影響があるのか、想像もできなかった。



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