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59.誰のせい

結果としてハルト様を呼んだことは正しかったらしい。

コレット様や近衛騎士の多くが休憩室の二階にいて、

下へ移動できる手段が階段しかないのにも関わらず、

その階段は倒れている令嬢たちでふさがれてしまっている。


テラスから休憩所の外にいるハルト様に事情を説明すると、

すぐさま近くにいる者たちを集め、倒れている令嬢たちを別の場所へと動かす。

怪我の軽いものは馬車に乗せて教会へ連れて行き、

動かしてはまずい者は休憩室の二階へと移動させた。


その頃には狩場から聖女たちが到着して、重傷なものから治療していく。

その中には頬を切られたフルールや、足を痛めたミレーもいた。

令嬢たちのほとんどがひどく痛いと騒いでいたが、

骨を折るような大けがは一人もいなかったことにほっとする。


ただ、このような大きな事故が起きてしまったことで、

コレット様たちは王宮へ戻ることになった。

事故が起きてしまった以上、王妃様を危険な場所にいさせるわけにはいかない。

シャルロット様はアルバン様が狩場にいるために残りたそうだったが、

コレット様に説得されて王宮へと戻っていった。


「ハルト様、狩りの途中だったのではないですか?」


「もう大丈夫。ちょうど大物を仕留めた直後だったんだ。

 あれ以上の大物はそうそう出ないだろうから、俺がこっちにいても問題ないと思う。

 あとは兄上がどうにでもできるだろうから」


「それならいいのですが、ずっと私の隣にいるので……」


私は怪我もしていないし、ブルーノに襲われたわけでもない。

フルールたちが襲われそうになったのを見て怖かっただけだ。

それなのに、まるで私がひどい目に遭ったかのようにハルト様は私から離れない。

ローゼリアがそれを見て、意味ありげに微笑んでいる。


「あぁ、それはこれから起こるかもしれないことへの警戒だ」


「え?」


もうブルーノは取り押さえられ、近衛騎士たちが連れて行った。

王宮の貴族牢に入れると聞いていたが、まだ何か起こると?

疑問に思っていたら、休憩室の方からフルールとミレーの会話が聞こえた。

聖女に治療を受けながらも、おしゃべりする元気はあるらしい。


あんなことがあった後だから、テラスの観覧席にいる者たちは静まり返っている。

それにガラス窓が割れてしまったことで、休憩室の会話が筒抜けになっていた。


「本当にあの男には腹が立ちますわね」


「まったくだわ。ブルーノなんかにケガさせられるなんて。

 これも全部フェリシーのせいだわ」


え?どうしてブルーノのことまで私のせいになるの?

驚いたのは私だけではないようで、フルールのそばにいた令嬢が騒ぎ出す。


「え?あの男をけしかけたのはフルール様の姉なの?」


「まぁ。フルール様を嫌って虐めているという話は本当でしたのね」


「王太子妃になるフルール様のお顔に傷をつけさせるなんて、

 なんて卑劣なことを考えるのでしょう」


私のせいではないのに、私のせいだと決めつけられて会話が進んでいく。

今までと何も変わらない会話に、目の前が真っ暗になりそうになる。

どうして何もしてないのに、こうして責められるのだろう。


思わず涙がこぼれそうになったら、ハルト様が私の頭をなでて席を立つ。

そのままハルト様は休憩室に入り、フルールたちに問いかける。


「なぁ、どうしてあの男がしたことがフェリシーのせいになるんだ?」


「あら、ハルト様。何か用かしら?」


ハルト様に問いかけられて、令嬢たちはしまったという顔をするが、

フルールとミレーだけは平然とした顔をしている。


「公爵令嬢で王族の婚約者でもあるフェリシーにそんな疑いをかけるのであれば、

 無実だとわかった時には謝罪したくらいではすまないぞ。

 今度は伯爵家から籍を抜くことになるだろう」


「はぁ?どうしてそんなことに?」


「今のお前は侯爵令嬢ではない。

 ただの伯爵令嬢で、すでにフェリシーを虐待した罪に問われている。

 爵位が落ちる時に王家から警告されていたはずだぞ。

 これ以上フェリシーに何かするのであれば貴族の籍を抜かれると」


「……」


さすがに貴族で無くなることは嫌なのか、フルールがハルト様をにらむ。

ここで謝るか、勘違いだったとでも言えばすむのに、それはしないらしい。


「だって、ブルーノはフェリシーの婚約者だったのよ?

 フェリシーが逃げずに侯爵家を継いでブルーノと結婚していたら、

 こんなことにはならなかったはずでしょう?

 ブルーノをちゃんと手なずけられなかったフェリシーのせいだわ」


私が侯爵家を継いで、ブルーノと結婚すればって。

そうさせなかったのはフルールとお父様なのに。

どこまでいっても私はフルールにとって都合のいい駒で、

見下していいと思っているに違いない。


「ふうん。事実がどうなのかは、そこにいる侍女が知っているよな。

 わざとブルーノからの手紙をフェリシーに届かせないようにしていたんだしな」


「え?」


「跡継ぎとして育てられたフェリシーから、

 婚約者のブルーノと跡継ぎの立場をむりやり奪い取ったくせに、

 今さらフェリシーのせいか。呆れてしまう」


「……申し訳ありませんが、わたくしは侍女ではありませんわ。

 ウダール侯爵家に嫁いで侯爵夫人となりましたので」


ハルト様に言われたことを事実だと認めることはできないのか、

ミレーは別な話にすり替えようとしている。

優しかったはずのミレーが今では全く違う人に見える。

美しさというのは、人格まで変えてしまうのだろうか。


「ウダール侯爵夫人?それはおかしいな。

 ウダール侯爵家の離縁は認められていないぞ」


「は?」


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