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54.議会で

新年となり、王宮での議会に出席していたお義父様とハルト様が、

ぐったりした様子で公爵家に帰ってきた。

今回はラポワリー家から取り上げる領地についての話し合いだと聞いていたが、

何か問題でも発生したのだろうか。


「話し合いはどうでしたか?」


「あぁ、結論としてラポワリー家は侯爵家から伯爵家になった。

 議会後すみやかに通達が出されたよ」


「そうですか……」


生家とはいえ、残念だと思う気持ちはなかった。

ただ領地が半分になることは気になっていた。

取り上げになった領地をどの家が持つことになるのか。


「領地なんだが、王領とすることで決まった」


「え?王領ですか?」


「一時的にな。どこの伯爵家を陞爵させるかでもめてね。

 最終的に候補は三家まで絞られたんだが、これという決め手がなかった。

 とりあえず王領にしておいて、一年後に決めることになったよ」


「そういうことでしたか」


この国の侯爵家は六つと決められている。

そのため、ラポワリー家の爵位を落とす代わりに、

力の強い伯爵家の爵位をあげることになっていた。

その一つがどこか決められなかったために一年様子を見ることにしたのだろう。


「そんなにもめたんですか?」


「あぁ、それもひどかったんだが、その話し合いが終わった後、

 アルバンの婚約者を変えた方がいいのではと言い出した者がいてね」


「え?」


「フルールのほうが王太子妃にふわさしいと言い出して……

 義姉上が激怒していたよ。

 王太子妃の仕事はそんな簡単にできるものではないと」


コレット様が怒るのも無理はない。

フルールに王太子妃の、王妃の仕事など無理だと思う。

いくら美しくても公用語すら話せないのでは外交もできない。


「いや、アルバンのほうが怒っていたかな」


「あぁ、兄上は本気で怒っていたね。

 そりゃあ、シャルロット義姉上を側妃にしたら、

 なんて言われたら怒るのも当然だよ」


「えええ?そんなことを言いだした人がいるんですか?」


「兄上がシャルロット義姉上が妃じゃないなら王太子を下りると言ったんで、

 とりあえずその話は無かったことにされたが……嫌な流れだな。

 令嬢や夫人だけでなく、当主までフルールを支持し始めるとは思わなかった」


「さすがにまだ一部だけのようだがな。

 数名が賛同してただけで、残りは渋い顔をしていた。

 これ以上支持者がでないうちに結婚させてしまわないとな」


これまでフルールの支持者は女性が多かった。

だが、学園でも少しずつ男性の支持者が出てきている。

まさか貴族家の当主にまで影響があるとは思ってもいなかった。


「だがなぁ……アルバンとシャルロットの結婚を早めたところで、

 今度はフルールを側妃にと言い出すものがでかねない。

 どうにかしてあきらめさせる方法があればいいんだが」


「……フルールに王子妃教育を受けさせてみてはどうでしょうか?

 勉強嫌いのフルールですから、嫌がると思うのですけど」


「ダメだな、それでは逆効果だ」


「え?」


いい方法だと思ったのに、お義父様は首を横に振った。

リリー先生の指導は厳しかったし、それ以前にフルールは基本的な教養がない。

王子妃教育を受けさせたら初日で逃げ出すと思うのに、どうして逆効果に?


「今の側妃は王子妃教育を受けていない」


「あ」


「正式な妃ではないが、表向きは側妃扱いだ。

 本宮に部屋は持てないが、王宮の敷地内には住める。

 そういう前例を作ってしまった以上、

 フルールもそうすればいいとなってしまう。

 それに一度でも王子妃教育を受けさせてしまったら、

 王家もフルールを妃にするつもりがあるのだろうと言われる。

 アルバンがフルールを妃にするつもりがないと言っているのが無意味になってしまう」


「そうですよね……」


言われてみたら納得する。側妃様のようにしてしまえばいいと言い出すだろう。

アルバン様が頑張って否定していることも無駄になってしまうし、

シャルロット様も傷つくことになる。

もう少し考えてから話せばよかった。


「そう落ち込むなよ。

 フェリシーが兄上とシャルロット義姉上のことを考えて言ったのはわかってるよ」


「ハルト様……」


「大丈夫だ、最後まで兄上は抵抗するだろうし、俺たちも止めるように頑張るから」


「はい」


落ち込んでしまいそうだったのに気がついたのか、ハルト様が私の頭をなでてくる。

それを見たお義父様が慌ててハルト様に注意する。


「あまりフェリシーにふれるんじゃない」


「わかってるよ」


もうすでに口づけされましたとは言えず、そっと目をそらす。

ハルト様はお義父様に言われたからか、私から少し離れる。


「あぁ、そうだ。これも話してきたんだ。

 春の狩り、観覧席が二か所になりそうだ」


「二か所ですか?」


「例年なら休憩室の二階のテラスに席を作るんだが、

 休憩室の中にも観覧席を用意することになった」


「テラスのほうが良く見えると思いますが、何か問題でも?」


「テラスにはかがり火が焚かれている」


「かがり火……あ。もしかして人工絹のドレスのせいですか?」


春の狩りは夜になるまで続けられる。夜のほうが魔獣が出てきやすいからだ。

そのため、テラスや狩場ではかがり火を焚いて明るくしているらしい。


「念のため、かがり火も観覧席からは少し離れた場所に設置するが、

 それでも危険なことには変わりない。

 人工絹のドレスを着ている者はテラスには出てはいけないことになる」


「それは仕方ないですよね。本当に危ないのですから」


「議会に出ていた者たちも、それについては文句は出なかった。

 自分たちの妻や娘が危ないとわかれば、

 テラスに出られないくらい仕方ないと思うのだろう」


「そうですよね。

 テラスに出たいのなら絹のドレスで参加すればいいのですし。

 これで少しは人工絹のドレスが減ってくれるといいのですが」


「そううまくいくといいのだがなぁ」


そうはいかないだろうと思っているのか、お義父様は難しい顔をしたままだった。

春の狩りまであとひと月。

フルールの支持者は増え続け、ついに議会で出るまでになってしまった。

何をすればフルールを止めることができるのかわからなくて途方にくれる。


部屋に戻ろうとしたら、ハルト様が部屋まで送ってくれる。

屋敷の中なのだから送らなくてもいいのだけど、私がそれだけ暗い顔をしていたらしい。


「あまり悩みすぎないようにな?」


「……はい」


「ん」


部屋の前まで送ってくれると、一度だけ口づけをしてハルト様は戻っていく。

うれしかったけれど、お義父様に見つかるのも時間の問題かもしれない。



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