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51.手を打つ

屋敷に帰って夕食を取った後、

ハルト様とお義父様に今日のことを話すと、二人とも渋い顔をする。


「どうりで二人とも難しい顔をしていたわけだ。

 他の令嬢もいなかったし、どうしてだろうと思っていたんだ」


「フェリシー、人工絹の方は私の方で調べさせておこう。

 兄上に報告する前に、本当に人工絹が危ないのかどうか確認しておかないとね」


「あ、そうですよね。いくらシャルロット様から聞いたとしても、

 報告するためにはきちんと調べなくてはいけませんよね」


「布の取引自体はしていないが、うちの商会の傘下にも古着屋はあったはずだ。

 まずはそのドレスを手に入れてからだな。報告が来たらフェリシーにも教えるよ」


「はい、よろしくお願いします」


とりあえず人工絹のドレスについては、調べた結果を陛下に報告することになった。

アルヴィエ公爵家も商会をもっているらしく、

そのつてで人工絹のドレスを手に入れられるだろうとお義父様は言う。


「ただ、問題はそれだけじゃないな」


「フルールを支持する令嬢たちですか?」


「そうだ。側妃の宮でお茶会を開いていたと言っていただろう。

 そこに誘導した女官と近衛騎士は誰の指示で動いていたのか」


「それもそうだけど、その令嬢たちは本当に知らなかったのか?

 フルールの支持者なら知っていて、そちらに参加したのかもしれない」


ハルト様に言われてハッとした。あの令嬢たちが着ていたのは人工絹のドレスだった。

最初からシャルロット様のお茶会ではなく、

フルールのお茶会に参加するつもりでいたのだろうか。


それともシャルロット様のお茶会が開かれるのをフルールが知って、

令嬢たちを自分のお茶会に来させて、シャルロット様に恥をかかせようとしたのか。

どちらにしても大きな問題になる。


王宮でお茶会を主催できるのは王族とその婚約者として認められた者だけ。

本宮ではなく側妃の宮とはいえ、王宮の敷地内だ。

王族の婚約者でもないフルールが主催でお茶会を開くなんて。

許可が下りているわけはない。


「それも調べさせて、女官と近衛騎士を処分しなくてはいけないな。

 どちらにしても王宮内で王族の意向を無視して動くものなど必要ない」


めずらしく怒っている様子のお義父様に、ハルト様がこっそり教えてくれた。

昔、お義父様のほうが国王にふさわしいと勝手に動いていた文官と女官たちがいたそうで、

巻き込まれたお義父様は大変な思いをしたそうだ。

もちろんお義父様にその気はなく、文官と女官は処分されたという。


数日後、人工絹のドレスの報告が来たと教えてくれた。


「人工絹のドレスは火花の引火だけで一瞬で燃え広がったそうだ。

 予想していたよりもずっと燃えやすい。これは貴族でも危ないかもしれない」


「そんなにですか」


「とりあえず、兄上には報告して、貴族には通達してもらうことになった。

 今すぐ着ることを規制するのは難しいが、

 これほどまで危険だということは知らせておいた方がいい」


「規制できないなら、回収することはできませんか?」


「回収?ドレスを?」


もし規制できなかったとしたらとずっと考えていた。

貴族が着るのは問題ないとされてしまった場合、

平民に流れないようにするにはどうしたらいいかと。

先日、うちの商会の傘下にも古着屋があると聞いてそれならと思っていた。


「シャルロット様が言っていたんです。

 着なくなったドレスは古着屋に売られて、そこから裕福な平民が買っていくって。

 なので規制するまでの間は古着屋のほうにお願いして、

 ドレスが売られた場合は公爵家で買い上げることはできませんか?」


「それはできると思うが」


「規制できるようになった時にはもう遅いかもしれません。

 それまで人工絹が市場に出回らないようにすればと思ったのです」


「なるほどな。やってみよう。王都に顔のきく商会は四つだけだ。

 うちとルキエ侯爵家、ジョフレ公爵家。あとは南の辺境伯家だ。

 ルキエ侯爵家とジョフレ公爵家はすぐに協力してくれるだろう。

 南の辺境伯家は直接のつながりがないから、兄上にでも聞いてみるよ」


「ありがとうございます!」



これで大丈夫だろうとほっとしたのもつかの間、

学園内で人工絹を見かけるようになっていた。


制服があるのでドレスではなく、

フルールを支持する令嬢たちが緑色のリボンを髪に結ぶようになったのだ。


人工絹でできたリボンは色鮮やかで、遠くから見ても目立つ。

一学年から三学年まで、リボンをつけているのはC教室の者が多かった。

B教室では少し見かける程度。

A教室の者がつけていないのは、シャルロット様がA教室だからかもしれない。


同じ教室の者はシャルロット様が学園の勉強と同時に領地の改革、

その上、王太子妃教育を受けていたことを知っている。

だからこそ、フルールを選ぶようなことはしない。


勉強や礼儀作法などはどうでもいい、

美しければいいという考えはC教室の者を中心に広まっていた。

令嬢だけでなく、令息はハンカチーフを胸ポケットからのぞかせている。

その数が日に日に増えていく気がして、どうなってしまうのだろうと不安に思う。


「まったく、何を考えているのかしら。

 本気でフルールが王太子になれるなんて思っているなら馬鹿げているわ」


「それが、本気で支持しているみたいだったわ。

 ロチエ侯爵令嬢とウダール侯爵令嬢も」


「あの二人も勉強嫌いなのよね。

 特にウダール侯爵家は父親が亡くなってカーラ様の兄が継いでいるの。

 年の離れた妹に甘いのよ」


「あぁ、そう言えば。兄に言われてお茶会に来たって言っていたわ。

 侯爵たちは本人が相談役を辞退したって聞いて頭を抱えていたそうだけど」


あの後、お義父様から令嬢たちのことも聞いた。

侯爵家のほうから無理を言ってお茶会にねじ込んできた形だったのに、

令嬢たちが勝手に辞退してしまいシャルロット様に恥をかかせた形になった。

お茶会の話を聞いた陛下と王妃様もお怒りのようで、

侯爵たちはしばらく議会には出ず謹慎することになったらしい。


もっとも令嬢たちは反省している様子はなく、

大きな緑色のリボンを髪に結んで歩いているのを見かけた。

あんなに大きな人工絹のリボンをつけていて大丈夫なのかハラハラしてしまう。


「そういえば、人工絹のドレスの回収の話はお母様から聞いたわ。

 フェリシーが言い出したのですって?」



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