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48.お茶会

お茶会の日、ハルト様も一緒に王宮へ行ってくれるという。

初めてのお茶会に緊張していたのもあるし、少しだけ不安もあった。

お茶会の間はアルバン様の仕事を手伝ってくるというハルト様に、

きっと私のために無理に用事を作ってくれたのだと思う。


「シャルロット義姉上のお茶会だから大丈夫だとは思うけど、

 何かあったらネックレスの石を握って?」


「ネックレスの石?を握るのですか?」


今日はお茶会ということで夜会の時のような豪華な装いは必要ない。

首にはいつものように、隠し部屋のカギになる赤い石のネックレス。

ドレスも控えめに、薄紫色のドレスを選んでいる。


首元からネックレスを出して見せると、

ハルト様は赤い石を手のひらに乗せる。

何をしているのかと見ていたら、赤い石がうっすらと光っていた。


「この赤い石には俺の加護の力が込められている。

 強く握って俺のことを呼べば、どこにいてもわかると思う。

 だから、困ったことがあったらちゃんと俺を呼んで」


「……そんなことができるんですね。

 わかりました。何かあったらハルト様を呼びます」


約束したからか、ハルト様はほっとしたように笑う。

同じ王宮にいるのだし、呼ぶようなことはないと思うけれど、

何かあれば助けに来てくれるのだとわかるだけで安心できる。


王宮に着いて馬車から降りると、女官と近衛騎士が案内をしてくれる。

お茶会の会場は壁の一面がガラス張りになっている部屋だった。

私とハルト様を見て、シャルロット様が嬉しそうに出迎えてくれた。


「よく来てくれたわね、フェリシー!」


「お招きいただきありがとうございます。

 ここは温室になっているのですか?」


「ええ、そうなの。ここなら中庭の花も綺麗に見えるのよ。

 ハルト様、フェリシー様を預かりますわね?」


「ええ、フェリシーをお願いします。

 俺は兄上のところにいるので」


「わかったわ。お茶会が終わる前に連絡するわ」


「はい」


お茶会の会場まで送り届けてくれたハルト様は、

名残惜しそうに私の頬を一度撫でてから出て行った。


「ふふ。心配性なのは兄弟そっくりね」


「アルバン様もそうなのですか?」


「ええ、アルバンもあんな感じだわ。

 さぁ、どうぞ。こちらに座って?」


用意されていた席に座ると、テーブルにはたくさんのお茶菓子が並べられている。

チョコレートやクリームたっぷりのケーキ、大好きなガレットもある。

喜んだのが顔に出ていたのか、シャルロット様が微笑んでいる。


「フェリシー様も甘いものが好きなのね。

 王宮のお茶菓子はどれを食べても美味しいわ。

 好きなものを選んでね」


「ありがとうございます!」


目の前にあった焼き菓子を一枚とって口に入れる。

薄く焼かれた生地がさっくりと割れて、口の中で溶けていく。


「美味しいです……」


「ふふふ。美味しそうに食べるのね。

 気に入ってくれてよかったわ」


お茶菓子もお茶もとても美味しくて、

シャルロット様との会話も楽しい。

だけど、いつまでたっても二人きりのままだった。

まだ来ないのだろうかと、部屋の入口の方を気にしてしまう。


「何か気になっているの?」


「いえ、他にも令嬢を呼んでいると聞いていたので、

 遅れているのか気になってしまって」


私の他にも令嬢を呼んでいると聞いていた。

このお茶会が王太子妃の相談役を選ぶためのものだとも。

それなのに、ここにはシャルロット様と私しかいない。

椅子の数は四脚……では、二名の令嬢がこれから来るのだろうか。


「……もう来てもおかしくない時間なのだけど、どうしたのかしらね」


「どちらの令嬢なのですか?」


「ロチエ侯爵家とウダール侯爵家よ。

 侯爵たちのほうから娘をぜひに、ということだったのだけど」


「まぁ……どうしたのでしょうか」


この国には二つの公爵家と六つの侯爵家が存在する。

六つの侯爵家のうち、二つは南北にある辺境伯家。

あとはシャルロット様のルキエ家。

今日呼ばれているロチエ家とウダール家、そして私が生まれたラポワリー家だ。


ラポワリー家が伯爵家になった場合、代わりにどこかの伯爵家が侯爵家になる。

正式な処罰が遅いのは、それがどこの家になるかで争っているのかもしれない。


公爵家のローゼリアが相談役に選ばれないのは、

今の相談役がローゼリアの母であるため、二代続けてになるのを避けたのだろう。

ローゼリアが王太子妃になりたがっていたこともあるかもしれないが。


いつまでたっても令嬢たちが来ないせいか、

シャルロット様が今日の本題を話し始める。

お茶会が始まってから、もう一時間が過ぎていた。



「今日、フェリシーを呼んだのは聞いていると思うけれど、

 私の相談役についてほしくて」


「私でつとまるのであれば喜んで」


「本当?ありがとう」


私に相談役がつとまるかという不安はあるけれど、引き受けない理由はない。

フルールのせいでシャルロット様とアルバン様を困らせているのもある。

私にできることならお手伝いさせてほしいと思う。


「良かったわ……他の令嬢が来てから話すつもりだったけれど、

 少し悩んでいることがあって」


「悩みですか?」


「ええ……先日の夜会、フルール様が着ていたドレス、覚えているかしら」


「フルールのドレス……はい」


突然、フルールの名前が出て、胸が嫌な感じに痛む。

また何かシャルロット様を困らせるようなことをしたんだろうか。


「あのドレス、人工絹というものでできているの、知っている?」


「ええ。人工絹のことはローゼリアから教えてもらいました」


「さすがローゼリア様ね。

 あまり人工絹のことは知られていないのだけど、あれは危ないのよ」


「危ない、ですか?」


たしか隣国で開発されたもので、安く作れると。

普通の絹よりも染めやすくて、発色がいいのが特徴だって。

それが危険?


「人工絹は、火にとても弱いの。

 近くで火を使っていたら、すぐに引火してしまうのよ」


「そんなに火に弱いのですか?」


「弱いだけでなく、燃え広がりやすいのよ。

 ドレスに火がついてしまったら、着ている人も火に包まれてしまうわ」


「ええ!?」


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