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46.美しさの基準

王族席は他の貴族に囲まれないように、

王族以外は入っていけないように近衛騎士が警備している。

先ほど紹介された時にいた広間から見える壇上ではなく、

その奥にある休憩室へと向かう。


そこではフルールの腕をなんとか引き離したアルバン様が、

大きな声でエミール王子を咎めているところだった。


「エミール!お前は何を考えているんだ!」


「何をってさっき言っただろう。

 俺は踊れないから夜会デビューのフルールを頼んだだけだよ。

 フルールの父親が招待されていないし、俺は踊れないし。仕方ないだろう。

 兄上だって美しいフルールと踊れて良かったじゃないか。

 正直、婚約者を選び間違えたと思ったんじゃないの?」


「……何が言いたい」


「兄上もフルールを見てこの国の令嬢で一番綺麗だと思うだろう?

 やっぱり王太子妃は華やかじゃないとね」


「は?何を馬鹿なことを言っているんだ?」


フルールこそが王太子妃にふさわしいだろうというエミール王子に、

アルバン様は無表情で吐き捨てるようにいう。

余裕の笑みを浮かべていたフルールも、それを見て顔が強張る。


「王太子妃が、将来の王妃が見た目だけの空っぽに勤まるわけないだろう。

 側妃だとしても、本来なら仕事があるはずなんだぞ。

 お前の母親が放棄しているからって必要ないなんて思うなよ」


「……いや、そんなことは思っていないけど」


「じゃあ、なんだと思って言ったんだ。

 あとな、美しさなんて人それぞれの好みがあるんだよ。

 俺にとってはそこの令嬢なんかよりもシャルロットのほうが美しい。

 その令嬢が美しいと思うのなら自分の妻にするんだな」


「……やだなぁ、そんなに怒らないでよ、兄上」


あまりの剣幕にエミール王子が慌てて取りなそうとしたが、

アルバン様はこれ以上相手にする気はないようだ。

エミール王子から離れて、近くにいる近衛騎士へと向かう。


「シャルロットはどこに?」


「王妃様のお呼びで、王妃席のほうへ行かれました」


「あぁ、わかった」


王妃席に?見てみると、国王席と王妃席の隣にもう一つ席が用意され、

シャルロット様はコレット様と楽しそうに話している。


おそらく、アルバン様がフルールと踊ったことで、

婚約者の交代があるのでは、という噂が出る前に手を打ったに違いない。

王妃の隣に座ることが許されるのは王太子妃のみ。

陛下と王妃様が認めているのはシャルロット様だと貴族に示したことになる。

そのため、アルバン様はほっとした顔になって王妃席へと向かって行く。


アルバン様がフルールには挨拶もせず、シャルロット様のところへ向かったせいか、

エミール王子はおおげさにため息をついて見せた。


「あーダメだったみたい。兄上はこうと決めたら譲らないからね。

 フルールもあきらめたほうがいいんじゃない?」


「なんなの、あの男は!美しさは人それぞれ?そんなわけないじゃない!」


「まぁ、そういうけどさ。兄上にとってはそうなんだよ。

 実際にフルールの魅力がわからないものもいるわけだし」


「信じられないわ!」


アルバン様に否定されたのが悔しかったのか、フルールが怒りをぶつけている。

それにたいしてエミール王子の慰めはどこか感情がこもっていないように思えて、

あまりフルールに陶酔しているようには見えなかった。


エミール王子もフルールの女神の加護の力を求めているのかと思っていたが、

二人の会話を聞いているとそんな感じはしない。

フルールへ恋愛感情があるようにも見えない。

それならどうしてエミール王子はフルールの側にいるんだろう。




「俺たちは控室に戻ろうか」


「ええ」


小声でささやいてくるハルト様に私も小声で答える。

ここにいたら私たちも巻き込まれそうだと思い、控え室に戻ろうとした。


が、少し遅かったようでフルールがこちらを向く。

私たちの姿を見て一瞬驚いたような顔をしたけれど、

機嫌の悪さを隠しもせずにこちらに向かってくる。


「なぁに、そのドレス。化粧も似合っていないわ」


いつものように見下してくるフルールに、後ろに下がりそうになって足に力を入れる。

昔のように下を向いてしまいそうな自分もいるけれど、

私の前に出ようとしたハルト様を止めてフルールと向き合う。


意識して口のはしをあげて、笑っているように見せる。

リリー先生に教えてもらったように、余裕があるように微笑む。


「そう?私は似合っていると思うわ。

 愛する家族が贈ってくれたドレスよ。

 私にぴったりだと思うわ。素敵でしょう?」


「ふん。高級なドレスなんてフェリシーにはもったいないのよ。

 そういうものは私にこそふさわしいのに」


このドレスが高級なのはわかるのか、ドレスを否定することはしないらしい。

どんなことがあってもフルールが私を認めることはないだろう。

だけど、そんなことはもうどうでもいい。

お義父様が、ハルト様が私を認めてくれている。だから、大丈夫。


「フルールはそのドレス、誰の色なの?

 あなたには青のドレスが似合うと思うのに」


「……うるさいわね。エミール、行くわよ!」


「ああ。行こうか」


初めてフルールに言い負かされなかった。

さすがにあのフルールもアルバン様のために用意したとは言えなかったらしい。

目の前で拒絶されていたのを聞いているし、言えるわけないか。


フルールはエミール王子をつれて広間へと戻っていった。

これからフルールを支持する令嬢や夫人と交流するのだろう。

それはそれで……心配にはなるけれど。


「頑張ったな、フェリシー。俺が助ける必要はなかったな」


「いえ、ハルト様が一緒にいてくれたから言えたんです。

 そうじゃなかったら、やっぱり言えなかったと思います」


強くなれたようでも、本質的にはそれほど変わらない。

ハルト様のために綺麗になりたい、強くなりたいと思うから、

フルールに負けたくないと頑張れる。


だけど、まだ足は震えている。

それに気がついているのか、ハルト様が腰に手をまわして支えてくれる。

少しだけハルト様に身体を預けたら、怖かったのが薄れていく。


「そうか。でも、無理はしなくていい。

 いつでも俺に頼っていいんだ。それを忘れないで」


「はい」





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