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44.ファーストダンス

「さぁ、入場するよ」


「はい」


一度大きく呼吸をして、お義父様の腕に手を添える。

門番は私たちの名前を呼ぶのではなく、王族の入場ですと大きく叫ぶ。

大きな扉が開かれると、会場の光が差し込んで一瞬何も見えなくなった。


お義父様が歩き出すのに、ついていくように足を踏み入れる。

会場内には王族以外のすべての招待客がそろっている。

そのすべてがこちらを見ているのを感じる。

うつむいてしまいそうになるけれど、意識して顔をあげた。


「え、あれって。……本当にフルール様の姉?」

「灰色じゃないじゃない」

「誰よ、姉は不細工だなんて嘘言ったのは」


こそこそと話しているつもりでも、静かな会場だと聞こえてしまう。

平気な顔を装ってお義父様についていくと、そのまま王族席へと着く。

すぐ後ろからハルト様が入場し、お義父様とは反対側の隣に立つ。


先に入場したフルールが近くにいるのではと思ったけれど、

フルールも側妃もエミール王子も見えない。

会場内のどこかにはいるはずなのに。


私たちの後に王太子様とシャルロット様、最後に陛下とコレット様が入場し、

王族席の真ん中に陛下が立って招待客へ声をかける。


「皆の者、待たせたな。今年も無事に収穫祭を迎えることができた。

 この一年を神に感謝し、夜会を開催する!」


わぁぁぁぁと大広間に歓声が広がる。

夜会の開始宣言により、酒を飲み始める人がちらほら見える。

陛下は、それをぐるりと見渡した後、こちらを向いた。


「まずは、新しく王族となった者を紹介しよう。

 ヨハンの養女となった、フェリシー・アルヴィエだ」


紹介されたが招待客に向けて頭は下げないで微笑む。

公爵令嬢とはいえ、王族でもあるお義父様の娘となった。

壇上から礼をするようなことはしてはいけない。

嫌々なのかもしれないが、あちこちから拍手が聞こえる。

それを聞いた陛下は頷いて、先に進める。


「そして、フェリシーは我が息子ハルトと婚約を結んだ」


会場内から小さな悲鳴が聞こえた。令嬢の声。

もしかしてハルト様を慕っている令嬢がいたのかもしれない。

ちくりと胸が痛んだが、隣にいるハルト様が私の手をとる。

何をするのかと思ったら、そのまま私の手に軽く口づける。


「は、ハルト様?」


「このくらいは見せつけないとな?」


ニヤリと笑ったハルト様は、眼鏡を外して胸ポケットにしまう。

こんな場所で眼鏡を外すなんてと思ったら、目が赤い。


「いいのですか?」


「そうじゃないと、その首飾りは意味無いだろう?」


そういえばそうだった。眼鏡をしたままだとハルト様は黒目に見える。

赤の首飾りがハルト様の色だとわかってもらうためには、眼鏡を外すしかない。


「来年にはアルバンとシャルロットの結婚も控えている。

 ハルトが婚約し、アリシエント王国はますます栄えるだろう!

 皆、祝福を!」


「「「おおお!アリシエント王国に祝福を!!」」」


お決まりの宣言が終わり、夜会は動き始める。

陛下とコレット様は壇上にある大きな国王席と王妃席に座る。

夜会の間、お二人はここで招待客からの挨拶を受けるらしい。


ファーストダンスは王族とその婚約者がつとめることが決まっている。

この夜会で踊るのはアルバン様とシャルロット様。

だけではなく、私たちも踊ることになっていた。

ここで二曲続けて踊ることで正式に婚約をお披露目したことになる。


中央が開けられ、アルバン様たちが前に進んでいく。

ハルト様に手を取られ、その後ろをついていく。



「緊張している顔だな」


「だって、それはそうです。緊張しないわけありません。

 初めての夜会で、ファーストダンスだなんて」


夜会デビューの令嬢たちはファーストダンスの後に踊ることになっている。

そのため私たちを囲むようにして夜会デビューの令嬢たちが待機していた。

こんな風に令嬢たちに見られているのを感じながら踊るのは……さすがに


「どこを見ているんだ?」


「え?」


こめかみのあたりでチュっと音がした。

ふたたび、令嬢たちから悲鳴のような声がもれる。


「な、なにを!?」


「よそ見したら、また口づけるよ?」


どうやらさっきのチュっという音はハルト様が口づけした音らしい。

あまりの恥ずかしさににらみつけたら、ふわりと微笑まれる。


「そう、ずっと俺を見ていればいい。

 ほら、音楽が始まるよ」


「え?」


音楽が始まって、頭の中が真っ白になってしまう。

どうやって踊るのか思い出せないでいると、ハルト様が私を導いてくれる。

ハルト様が動くままについていく。

見つめ合ったまま目を離せず、ただハルト様にすがるようについていくだけ。


「大丈夫、踊れているよ。

 ほら、一曲終わった。あっという間だろう?」


「え?もう終わったんですか?」


「あぁ、あと一曲で終わる。

 そのまま俺を見ていて」


「はい……」


もう逆らう気にはなれない。ハルト様の動きにあわせて足を踏み出す。

ダンスの授業は好きじゃなかったけれど、リリー先生には及第点をもらっている。

後は自信だけね、なんて言われていたけれど。


「あぁ、終わってしまったな。王族席に戻ろうか」


「ええ」


終わってしまえばあっけなかった。

最後の方は楽しくて、もう少し踊りたかったと思ってしまった。

ハルト様と王族席に戻ろうとしたその時、

踊り終えたアルバン様とシャルロットのところに一組の男女が近づくのが見えた。


「え?」


「あいつ、何を考えているんだ」


王太子様に近づいて話しかけたのはエミール王子だった。

隣にはあざやかな緑色のドレスを着たフルールがいる。首には何もつけていない。

エミール王子のエスコートではあるが、婚約はしていないということになる。


「兄上、さすが上手なダンスだったね」


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