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32.新しい関係

次の日、学園に行く準備を終えて馬車に乗り込む。

アルヴィエ公爵家が使う馬車は王族用で大きくて一人では乗り込めないが、

これから毎日この馬車に乗るのだと思えば、慣れるしかない。


ハルト様の手を借りて乗ろうとすると、

後ろから抱きかかえられて馬車に乗せられる。

いくらなんでもこれは子ども扱いではないだろうか。

確かに、他の令嬢に比べたら小さいほうだとは思うが、

まだ成長は止まっていない。すぐに人並まで大きくなるはずだ。


「ハルト様、毎回こうして抱き上げて乗せるつもりですか?」


「そうだけど?」


「……恥ずかしいのでやめてください」


「そうか?考えておくよ」


まさかそんなことはしないだろうと注意したのに、ハルト様は上機嫌で肯定する。

学園ではやめてくれるだろうと思ったのに、降りる時も抱きかかえられる。

……もしかして、本当にこれから毎回こんな風に降ろすつもりなんだろうか。

考えておくと言ったのはなんだったのか。


学園の馬車付き場は身分によって三か所にわけられている。

王族と公爵家、侯爵家と伯爵家、そして子爵家以下の家に。

エミール王子とフルールは侯爵家の馬車付き場を使っていると聞いたので、

ここで会うことはないと安心して油断していた。


他の二か所とは離れた場所にある馬車付き場に降ろされた途端、

聞いたことのある甲高い声で叫ばれる。


「ちょっと!何しているの!」


「え?」


声に驚いて振り返ったらローゼリア様がわなわなと震えていた。

忘れていた。王族と公爵家は同じ馬車付き場を使うんだった。

エミール王子とフルールがいなくても、ローゼリア様がいた。

どうやら馬車から抱きかかえられて降りたところを見られたらしい。


「ハルト!フェリシーをどうする気なのよ!離しなさい!」


「朝からうるさいな。ローゼリア。婚約者を大事にしているだけだ。

 それなら問題ないだろう」


「はぁ??婚約者?」


昨日、お義父様から聞かされたけれど、書類上はもう婚約者になっているらしい。

正式には夜会でお披露目してから認められるそうだ。

一緒に暮らしている以上は書類だけでも先に陛下の許可を取ったと説明された。

私ですら驚いているのだから、ローゼリア様が驚くのも無理はない。


そういえば、ローゼリア様はハルト様と婚約したがっていた。

私はその邪魔をしてしまったわけで、怒られるかもしれない。

そう思って覚悟をしたのに、ローゼリア様の怒りはハルト様に向けられていた。


「フェリシー、あなた脅されているの!?」


「え?」


「ハルト!いくらフェリシーがおとなしくて素直だったとしても、

 無理やり婚約を承諾させるなんて許されないわよ!」


「そんなことしてない」


「信じられるものですか!

 だって、フェリシーと一度も話したことなかったじゃない!」


「あ」


それもそうだった。ハルト様とは教室内で一度も話していない。

隠し部屋以外で一緒にいたのはカフェテリアの一件だけだ。

あの時ですらハルト様とは話していないということになっている。


それなのに婚約したとなれば、王族からの命令だと思われることに……ならないよね。

王命で無理やり婚約だなんて。美しいフルールならともかく。

それでも疑問に思われるのは間違いなかった。


「ローゼリア様、今までハルト様と仲良くしていたようには見えないと思いますが、

 無理やり言うことをきかされたとかはありません。

 自分の意思で婚約をお受けいたしました」


「フェリシー。いいの?こんな腹黒で口の悪い男」


「ええ、とても誠実で優しい方だと思います。

 私ではハルト様の婚約者にふさわしくないと」


「え?違うわよ。逆よ、逆」


逆とは?第三王子でもあるハルト様が私にふさわしくないと思われるわけはないし。

どういう意味だろうと思っていたら、ハルト様が口を挟む。


「たしかに俺にはもったいないくらいの素晴らしい令嬢だが」


「そんなことありません!むしろ……私でいいのかと不安で」


「……やっぱり騙されているのね?」


「違いますよ?」


どうしても信じてくれないローゼリア様に思わず笑ってしまう。


「フェリシー、そんな可愛い顔でローゼリアに笑いかけなくていい」


「ええ?……可愛くなんてありません」


「何を言っているんだ。可愛かっただろう」


真贋の目を持つはずなのに、ハルト様の美的感覚はおかしいらしい。

求婚されてからずっとこの調子で、どうしていいかわからなくなる。


それまで一度も可愛いと言われたことがなかったのに、

もう何度言われたかわからないくらい可愛いと言われている。

それだけでなく、私を見る目がこれまでになく優しい。

今までも優しいと思っていたのけれど、全く違うように見えるのはなぜだろう。



「あぁ、はい。何となく理解したわ。

 ハルトの一目惚れに、フェリシーが絆されたのね……」


「納得したなら、もういいだろう。フェリシーにからむなよ」


「フェリシーにからんでるんじゃないわよ。ハルトから守ろうとしたのよ。

 だって……友人ですもの」


本気で心配して守ろうとしてくれたらしい。

それに、私のことを友人だなんて。

真っ赤な顔しているローゼリア様に、うれしくなって駆け寄る。


「ローゼリア様、心配してくれてありがとうございます。

 でも、ハルト様のことは大丈夫です」


「フェリシーがそういうならハルトを許してあげるわ。

 あと、ハルトと婚約したのなら身分は私よりも上になるでしょ。

 ローゼリアと呼んでもいいわよ……」


「ふふ。はい、ローゼリア」


恥ずかしくなったのか、ローゼリアの声がだんだん小さくなる。

私の方が身分が高くなることで、どう接していいのか悩んでいたけれど、

友人という形で落ち着きそうだ。

二人で笑いあっていたら、後ろから拗ねた声が聞こえた。


「授業が始まるから行こう。ほら」



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