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29.神の加護

「私のせいなのですね……」


「あぁ、そうじゃない。

 六割とは言うが、フェリシーが産まれる前の水準に戻っただけだ。

 領民が暮らせないわけじゃない」


「前の水準に?」


「そうだ。それに、何かあったとしても責任はラポワリー侯爵にある。

 フェリシーを跡継ぎから外し、婚約解消し、家から追い出そうとした。

 そうなのだろう?」


おそらく私が助けを求めるのを待っていただけで、

ラポワリー家で何が起きていたのかは調べられていたのだろう。

確認するような口調で言われ、嘘をつくわけにもいかず頷く。


ずっと頑張って領主になる勉強をしていたのに跡継ぎから外され、

九歳から婚約していたブルーノはフルールに奪われ、

自力で婚約者を見つけられなかった時には家から出て行く約束をしていた。


貴族令嬢が一人で暮らしていけるわけもないのに、

お父様もフルールも平気で私を家から追い出そうとしていた。

むしろそれを楽しそうに笑っていたのだ。


だから、神の加護がラポワリー家に使われなくなった?

私が侯爵家から出て行くことを決意したから?


今まで神の加護を軽く考えていたのかもしれない。

役に立たないと思っていたから、こんなに影響があるなんて思いもしなかった。

怖い……これから私の行動で飢える領民が出てくるかもしれない。



「あぁ、ああ、もう。

 父上、叔父上、フェリシーを連れだしてもいいだろう?

 これ以上ここにいたら、フェリシーが倒れてしまう」


「ああ、いいぞ」


「ハルト、後で迎えにいくからな?」


「叔父上、わかってるよ。ほら、行こう」


「え?」


ハルト様に腕を引っ張られてどこかへ連れて行かれる。

慌てて礼をするけれど、その礼が終わらないうちに謁見室から出てしまう。

どこに向かっているのかわからないけれど、王宮の奥に向かっている気がする。


連れて来られたのは、豪華な家具が置かれた広い部屋だった。

部屋の中には誰もいない。応接室というよりも、これは……


「ここは俺の部屋だよ」


「え?ハルト様の部屋ですか?」


「ああ、ここで少し休もう。もう手続きは終わったから、急ぐ必要はない。

 叔父上が迎えに来るまでゆっくり待っていよう。ほら、ここに座って?」


「は、はい」


この広い部屋はハルト様の部屋らしい。第三王子の部屋。

そう思えば豪華な家具も広いのにも納得する。

大きくて座り心地の良いソファに座ると、ハルト様は隣に座る。

向こう側にも同じソファがあるのに、すぐ隣に座ると私の手を取った。

両手で包み込まれるように私の手を握るから、ハルト様の体温が伝わってくる。


「ごめん」


「え?」


「俺は……フェリシーに神の加護があることも知っていた」


「知って…いたんですか?」


そういえば、私に神の加護をあることはハルト様は知らないはずだった。

それなのにハルト様は謁見室での会話に何も言わなかった。

知っていたから、口を挟まなかったらしい。

お義父様が話したのだろうか。陛下やコレット様も知っていたようだし。

お仕事として神託の儀式の報告をしたのかもしれない。


「聞いたわけじゃない。叔父上はさすがに言わなかった」


「え?じゃあ、どうして?」


「俺も神の加護があるから……黙っているのは話したくないんだと思って。

 勝手に知ってしまって悪いと思ったけれど、言えば無理に聞き出すような気がして。

 フェリシーに言えなかった。ごめん」


「え?」


ハルト様に神の加護があるのはローゼリア様から聞いて知っていた。

どうして私には話してくれないのだろうと思っていたけれど、

もしかして私が加護のことを言わなかったからハルト様も話せなかった?


「あの……もし、私に神の加護があるって話していたら、

 ハルト様も神の加護があると教えてくれていました?」


「それはもちろん話すよ。

 俺はフェリシーなら大丈夫だと思っているから」


「私なら大丈夫?」


どういう意味なのか聞き返したら、ハルト様は眼鏡を外してテーブルの上に置いた。

深い闇のような黒目。見つめられると吸い込まれてしまいそうだと思う。

私が勝手に目を離せなくなっているだけだとわかっているけれど。


「俺の神の加護は真贋だ」


「真贋?」


「真実が見える目とまがい物を正す力。

 こうして、真実を見ようとすると」


はっきりと目の色が変わった。血のような赤い色に。

少しだけ光っているのか、目だけが浮き上がって見える。

これがハルト様がもつ神の加護……。


「今、何を見たんですか?」


「あぁ、やっぱりフェリシーはそうだよな」


ほっとしたように笑うハルト様に思わず首をかしげてしまう。

今、私はおかしなことを言っただろうか?


「あぁ、ごめん。そうじゃないんだ。

 ……小さい頃、ローゼリアにこの目を見られて、気持ち悪いって泣かれたんだ」


「え?」


「ハルトが化け物になったって……泣かれて、ローゼリアは熱を出して寝込んだ。

 小さい頃だから、ローゼリアは覚えていないようだけど」


「ハルト様が化け物だなんてひどい」


「だから、いつもは眼鏡をかけて隠している。

 フェリシーは見た目で判断したりしないってわかってた。

 でも、本当にそういうふうに言われるとやっぱりうれしくて」


さっきの笑いはうれしかったからなんだ。

私がハルト様の赤い目を見ても怖がらなかったから。

でも、そう言われても……少しも怖く見えない。

真っ赤な目もハルト様に似合っていて、素敵だと思って……


「え?なんで顔が真っ赤になったの?」


「あ、あのっ………これ」


気がついてしまった。ハルト様にもらったネックレスが赤い宝石だったことに。

何か緊張したり困った時に握りしめて勇気をもらっていた宝石。

まさかハルト様の目の色だとは思わなかったから、部屋のカギだと思って大事にしていた。

だって……この国で目の色の宝石の首飾りなんて。


「あぁ、気がつかれてしまったか」


「ええ?」




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