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21.相談

その日もいつも通り、授業が終わると隠し部屋へ向かう。

先にハルト様が来ていたのを見て、いつも通りにお茶を入れる。

そう、いつも通りにしていたつもりだった。


「何かあったのか?」


「え?」


「笑えていない。あぁ、無理に笑おうとしなくていい。

 何かあったら話せと言っていただろう?妹に何かされたのか?」


ちゃんといつも通りに笑えていたはずだった。

指摘されたことに驚いて、本当は無理していたのだと気づく。


「ほら、焼き菓子を食べるか?」


「あ、はい」


大好きなガレットを一枚差し出され、素直に受け取る。

落ち込んでいる私のためにハルト様が何かしようとしてくれることがうれしかった。


それでも、神の加護について聞くことはためらわれた。

まるで、ローゼリア様よりも親しくなりたいとお願いするような気がして、

ハルト様が隠していることに踏み込んではいけないと思った。

結局、言えたのは別のことだった。


「フルールが、エミール王子様と婚約するのではと噂になっているそうです」


「それはローゼリアから聞いたのか?」


「はい」


授業が始まる前に私がローゼリア様に廊下に連れだされていたのを、

思い出したようでハルト様は渋い顔をする。

ハルト様は私とローゼリア様が話すのを良く思っていないらしい。

まぁ、一方的に愚痴を聞かされているのを知っているからだろう。


「だが、フルールには婚約者がいるだろう?

 ブルーノ・アレバロだったか」


「知っていたんですか?」


「……フェリシーが長女でA教室なのにも関わらず、家を継ぐ感じではなかったからな。

 気になって、勝手に調べてしまって悪かった」


申し訳なさそうな顔をするハルト様に、慌てて否定する。

調べられて困ることでは全くない。知っていて驚きはしたけれど。


「いえ、ハルト様が知っているのなら話は早いです。

 フルールにはブルーノという婚約者がいるのに、

 噂になってしまってどうするのだろうと考えていました」


「そうだな……学園には婚約者の報告はされていないようだが、

 王宮への正式な手続きは終わっている。

 一度婚約してしまえば解消する手続きは面倒なはずだ。

 婚約者がいる令嬢を奪ったと評判が落ちて困るのはエミールのほうだしな」


「エミール王子様が困るのですか?」


考えてみれば、フルールの評判はあまり変わらないかもしれない。

美しいからと王族から求められたのであれば、断るのは難しい。

エミール王子が無理やりに婚約を迫ったと思われるかもしれない。


「エミールは王族に残りたがっている。

 だけど評判が落ちてしまえば、それは難しいだろう」


「そうなのですか」


先ほどローゼリア様から聞いた陛下と親子ではないかもしれないという噂。

それも関係しているのかもしれないが、さすがにハルト様には聞けなかった。


「俺は兄上に子が産まれたら王族から外れる予定なんだ」


「そうなのですか?」


「ああ。叔父上、ヨハン公爵は結婚しないからね。

 公爵家を継ぐ予定になっているんだ。

 だから、フェリシーのことも聞かされていたんだよ。

 お前の妹になるかもしれない令嬢がいると言われてね」


「そういうことだったのですか」


ヨハン公爵様には養女にならないかと言われていた。

神託を聞くことができる加護を持つ者は生涯結婚しないと言われている。

人よりも神に近い存在になってしまうため、そういう感情にならないと聞いた。

だから、ヨハン公爵の跡継ぎとしてハルト様が養子に入る話になっているのだろう。


「フェリシーが侯爵家を継ぐからと断られたはずなのに、

 必死になって王宮女官の試験問題を解いていただろう?

 叔父上も侯爵家は良くないと心配していたからな。

 何か起きたんだろうと思って、少し侯爵家のことを調べたんだ」


「いろいろとご心配おかけしてすみません」


「フェリシーのことは俺の妹になるかもしれないと、ずっと思っていた。

 いつ会えるんだろうとわくわくしていたんだがな、

 ようやく会えたと思ったら暗い顔しているし……」


「本当に心配させてしまって……」


「ああ、だから謝らないでくれ。心配するのはこっちが勝手にしていたことだ。

 だが、ちゃんと覚えていて欲しい。困ったことがあったら、話してくれ。

 叔父上の養女になる話はまだ消えたわけじゃない。

 俺のことは兄になるかもしれないと思って、信頼してくれないだろうか?」


「兄、ですか?」


「だめか?」


このまま何事もなく学園を卒業できたら、王宮女官になるつもりだったけれど、

その前にお父様やフルールに邪魔される可能性もある。

ヨハン公爵様に助けを求めたら、ハルト様がお義兄様になる?


向かい側で心配そうに私を見つめるハルト様のことは信頼している。

だけど、兄妹になりたいかと言われたら、違う気がする。


「光栄ですが、私はできるかぎり自分の力でどうにかしたいと思います」


「……そうか。気が変わったら言ってくれ」


「わかりました」


しょんぼりしてしまったハルト様には申し訳ないと思いながら、茶器を片付ける。

楽しかった時間も仕舞っていくような作業に、心も落ち着いていく。

甘えてはいけない。ちゃんと立場をわきまえないといけない。



閲覧用のテーブルに移り、何も考えずに試験問題を解く。

何も考えたくない。私の未来も、フルールのことも。

少しだけさみしそうなハルト様のことも。


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