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15.隠し部屋

「もういいわよ。無理やりでも婚約してもらうから」


「……おい。やめておけよ」


「後悔しても遅いのよ」


何をするのかと思ったら、ローゼリア様が制服を脱ぎ出した。

こんな場所でいったい何をしようとしているのか。

ワンピースを床に落とすように脱ぐと、下着姿になる。


さすがに見ていられなくて叫び出してしまいそうになり、両手で口をふさぐ。

ここで叫んではダメ。騒ぎになったら人が来て、ローゼリア様が困ることになる。

そう思ったのは私だけだった。


「すぐ近くに令嬢が三人座っていたわ。

 ここで叫んだら、何かと思って見に来るでしょうね。

 そうしたらハルトに襲われそうになったって言うわ。

 きっと責任を取ることになるでしょうね、お父様は許さないもの」


「はぁ……本当にお前は最悪な性格だよな」


「あら、最高の誉め言葉だわ。それで、あきらめた?

 婚約するって約束するなら穏便にすませるわよ?」


「それさ、この部屋に俺とお前だけだったら、の話だろう?」


「は?」


え?もしかして、と思っていると、ハルト王子は私の方を向いた。

さっきの視線が合ったように感じたのは、まさか本当に?


「そこにいる奴、声はださなくていい。

 俺たちの話が聞こえていたなら、三度ノックしてくれ」


聞こえていたなら三度ノック?この扉をかな。

見つかってしまった以上、ここから助けてもらわなくては。

それに、さすがにローゼリア様のやりかたは見逃せなかった。


コン。コン。コン。


「え?本当にいるの?誰がいるのよ!」


「俺たちの監視じゃないか?王宮の」


「うそっ」


「お前の素行が悪いって、この前報告しておいたからな。

 騎士か文官か、壁の向こうのどこかから見えてるだろう」


「見えている……?」


ローゼリア様は自分が下着姿なのに気がついたのか、慌てて制服を着ようとする。

普段自分で着ないからだろうか、もたついている。


時間がかかっていたが、ハルト王子は手伝おうとしなかった。

警戒するように、近寄らないで壁際に立っている。

制服を着たローゼリア様は、にらみつけるようにしてから書庫を出て行った。


何だったんだと思っていると、扉があいてハルト王子が部屋に入ってくる。

やはり私に気がついていたのか、驚いている様子は見えない。


「巻き込んでしまって悪かったな。だが、助かったよ」


「いえ、お役にたてなのなら良かったです。

 すみません、この部屋に入り込んでしまって……。

 出られなくなって困っていました」


いつもローゼリア様に冷たいハルト王子しか見ていなかったため、

優しい言葉をかけられて力が抜けそうになる。

この部屋に入り込んでしまったことを謝ると、逆に謝られる。


「いや、入れたってことは、扉が開いていたんだろう?

 俺がちゃんと閉めていなかったんだと思う。

 閉じ込めてしまって悪かったよ」


「閉めていなかった?」


「ああ。ここは俺専用の部屋なんだ。俺の仕事部屋なんだが、逃げ場ともいうな」


「逃げ場……もしかして、ローゼリア様からですか?」


「そう。毎日毎日飽きもせず、しつこくて。

 でも、さっきのを報告すればさすがにローゼリアも叱られるだろう。

 悪いけど、何かあったら証言してもらっていいか?

 フェリシーには迷惑かけないようにするから」


「わかりました」


私の名前を知っているとは思っていなくて、少しだけ驚いた。

同じ教室で隣に座っているんだから、考えてみれば当然のことなのだけど、

それだけハルト王子は他人に興味が無さそうに見えていたから。


「お詫びに、この部屋を使ってかまわないよ」


「え?」


「お詫びというか、口止め料でもあるか。

 この部屋を使っていい代わりに、内緒にしてくれないか?」


「……私に使わせていいのですか?

 ローゼリア様みたいにならないとは限りませんけど、

 信用してしまっていいのですか?」


ハルト王子専用の部屋なのに私も使っていいなんて。

それを利用して近づこうとしているとか警戒しなくていいのだろうか。


「フェリシーがローゼリアみたいに俺にせまるって?無いな。

 席が隣なのに一度も話しかけてこないし、俺にも男にも興味ないだろう」


「う……それはそうですけど」


「あれだけ書庫で集中して勉強していたの見てたら、

 そんな疑うような気にはならないよ」


勉強していたのを見られていたと思ったら、なんだか恥ずかしくて顔が熱くなる。

それを見たのか、ハルト王子が慌てたように訂正した。

ずっと見ていたわけじゃない、と。

そうだよね、私を監視するためにこの部屋にいたわけじゃないのに、

勝手に恥ずかしがって……ばかみたい。


「というわけで、お詫びでもあるし証言してもらうお礼でもある。

 この部屋で勉強してかまわないよ。

 書庫は誰か来ることもあるし、この部屋のほうが勉強しやすいと思うぞ。

 俺も仕事をしているから、一緒の部屋にいることになるが気にしないでくれ」


「本当によろしいのですか?」


「フェリシーが真面目なのは教室で隣にいてよくわかっている。

 書庫でもずっと試験問題から目を離さなかったようだし。

 この部屋は広いからな。自由に使ってくれ」


「ありがとうございます」


確かにこの部屋は広い。奥にも部屋が続いているように見える

大き目の物書き用の机がおいてある上に、閲覧用のテーブルも二つある。

物書き用の机は、おそらくハルト王子の仕事用なのだろう。

閲覧用のテーブルは少し離れているし、ここを使えば邪魔にならないかもしれない。


「この扉は登録した者しか開けられないようになっている。

 登録しておくから、こちらにきて」


「はい」


何か奥から出してきたと思ったら、小さな石がついたネックレスだった。

赤い宝石。光らないけれど、何かぎゅっとつまったような赤い宝石。

私の手のひらにネックレスを乗せると、

上からハルト王子が手のひらをかざして何かしていたが、私にはわからなかった。


「もういいよ。これをつけていれば大丈夫。

 そのまま扉に手をふれてみて」


「はい」


言われるままに首にかけて扉に手をふれる。

さっきまで少しも動かなかった扉が簡単に横に動いた。


「一応は、この扉を動かす時は人に見られないようにして。

 ここに俺がいるとわかるとめんどうなんだ」


「わかりました」


「俺が言うことじゃないけど、閉める時はちゃんと閉まったか確認して」


「あ、はい」


そういえば、ハルト王子がちゃんと閉めなかったから私が入れたんだった。

気をつけておかなくちゃとネックレスと握りしめたら、ハルト王子に笑われる。


「フェリシーなら大丈夫だろうが」


「え?」


「俺は今日は帰るけれど、ここを好きに使ってくれ。

 仕事する予定だったんだが、ローゼリアの件を報告しなくてはいけない……」


「……お疲れ様です」


「あぁ、ありがとう。それじゃ」


ローゼリア様のことをうんざりしたように話すから、思わずお疲れ様と言ってしまった。

あんなことがあればさすがにローゼリア様を擁護できない。

ずっとあの調子で振り回されてきたのであれば、冷たく対応するのもわからないでもない。


ハルト王子は軽く手をふると部屋から出て行った。

この部屋は書庫よりも快適で、資料が必要ならすぐ隣に書庫がある。

人が入ってくる心配がないから、試験問題を広げて勉強することもできる。


あまり人が入って来ない書庫とはいえ、やはり警戒していたんだと思う。

もし万が一、フルールの知り合いに見つかってしまったら何を言われるか。

この部屋に入る時だけ気をつけていれば、あとはのびのびと勉強できる。


ハルト王子も邪魔されずに仕事をするためにこの部屋に来るのかもしれない。

そう思いながら、放課後ギリギリの時間まで勉強に集中していた。





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