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14.ハルト王子とローゼリア様

学園が始まってすぐ、私は困ったことになっていた。

それは、同じ教室にいるローゼリア様の行動が原因だった。

本来なら同じ教室に令嬢は二人しかいないのだから、

話しかけて仲良くすべきなのだと思う。


だけど、ローゼリア様は私たち他の者が見えていないように、

ハルト王子にだけ話しかけている。


「ねぇ、とても素晴らしいお茶が手に入ったのだけど」


「そう」


「ハルトもお茶会に呼んであげてもいいのよ?」


「呼ばなくていい」


今日も冷たくされるのがわかっているだろうに、ハルト王子に話しかけている。

断られなかったことなど一度もないのに、よく続くと感心してしまう。

いとこで幼馴染だそうだから、私にはわからない絆があるのかもしれないけれど。


教室にいる間、ずっとこんな感じでいられると

聞いているほうがハラハラしてしまう。

そして私にとっての最大の問題は休み時間だった。


ローゼリア様に話しかけられるのが嫌なのか、

ハルト王子は休み時間になるとすぐに教室から出て行く。

ローゼリア様もそれを追いかけるように教室から出て行ってしまう。


そうするとこの教室には九人の令息と私が残されることになる。

特に何かされるわけでもじろじろ見られるわけではないけれど、

令息たちの中に令嬢が一人というのはとても気まずい。


どこか私が逃げられる場所はないかと思っても、

食堂やカフェテリアにいけばフルールやブルーノに会うかもしれない。

必然的に逃げる場所は図書室だけになってしまう。


その図書室も入り口から入ってすぐは人が多いし、

ここは談話室かと思ってしまうほどおしゃべりしている人もいる。

フルールを知っている令嬢たちのそばに座ろうものなら、

すぐに陰口が聞こえてくる。


「ほら、あれ。フルール様の!」


「え?あの灰色の髪?

 あんなのが本当に姉?全然似てないのね」


「だから嫉妬して意地悪するんでしょう。

 フルール様もお可哀そうに」


おそらくお茶会などでフルールが話しているのだろう。

もしかしたら話しているのはブルーノかもしれない。

勉強できないように家庭教師を辞めさせたとかなんとか。

私がそんなことを言ってもお父様が聞いてくれないのは、

ブルーノが一番よくわかっているはずなのに。


悔しいけれど、言い返しても意味はない。

よけいに悪口が増えるだけだと思う。



図書室の中でも人がいない場所を探して、奥の方へ行くと書庫があった。

扉を開けて中に入ると古い資料と共に王宮文官と女官の試験も置いてある。

見てみると去年までの試験問題が積み上げてあった。


これも学生が読んでいいのだろうか。

書庫の入り口には立ち入り禁止の文字は無かった。


書庫の中にも閲覧用のテーブルと椅子が置いてある。

ここなら誰も入ってこないだろうと思い、女官の試験問題を手に取る。


その次の日からは教室で昼食を取り、図書室の書庫に向かうことにした。

こうすれば必要以上に人に会うことはない。

書庫の中は静かで、過去の試験問題は思った以上にたくさんあった。

ようやく落ち着いて勉強できる場所が見つかったと思い、

放課後もぎりぎりの時間まで書庫の中で勉強する。




そうして一か月半が過ぎた頃だった。

いつものように書庫に入ると、奥の壁に備え付けられた大きな姿見がズレている。

鏡がズレることなんてあるのかと思って近づくと、隙間があることに気がついた。

その隙間に手をかけてみると、鏡が横に動き出した。


「え?」


鏡の裏にはもう一つ部屋が隠されていた。

図書室よりもしっかりつくられている部屋。大きなお屋敷の応接室のように見える。

高価な絨毯の上に、古めかしいが価値がある家具が置かれている。


「どうしてこんなところに隠し部屋が?」


部屋の中に一歩踏み入れると、カタンと物音がする。

歩いた振動で本が倒れただけなのに驚いてしまって、おもわず扉を閉めてしまう。

もう一度開けようと振り返ったら、なぜかあちら側が透けて見えている。

どういう仕組みなのか、鏡だったものが透明になっているようだ。


透明な扉の向こう側に、さっきまでいた書庫が見えている。

あちら側からは鏡になっていて、こちらは見えないはず。

ここは誰かを監視するための部屋なのだろうか。

だが、問題はそれじゃないことに気がつく。


「え?閉じ込められた?どうしよう」


開けようとしたけれど、少しも動かない。

透明な扉を叩いたり、押したり、横にずらそうとしても無理だった。

どうしたらいいのかと困っていたら、誰かが書庫に入って来るのに気がついた。


顔にかかるような黒髪。ハルト王子だ。

どうして書庫にと思ったら、その後ろからローゼリア様も入ってくる。


「こんなとこまで追いかけてきたのか。しつこいぞ」


「ハルトが話を聞かないから追いかけるんじゃない。いいかげんにしなさいよ」


「あきらめればいいだろうに……はぁ」


よほどしつこく追いかけられたのか、ハルト王子がため息をついている。

あれだけ毎日追いかけられていたら嫌になるのもわかる。

かといって、どうして最初からローゼリア様に冷たくしたのかはわからないけれど。


二人に助けを求めていいのか迷っていると、ハルト王子がこちらを見た気がした。

え?あちらからは鏡になっているはずだから、私は見えないよね?

それでも、どうしてなのか、視線が合ったような気がした。


「私と婚約してくれたら、しつこく話しかけるのはやめるわよ」


「断る」


「どうしてよ。お父様の後ろ盾もつくし、私も手に入るのよ?」


「伯父上の力なんていらないし、お前も必要ない。

 王子妃になりたいなら、エミールのところへ行けばいいだろう」


「無理よ。お父様が側妃を嫌っているの知っているでしょう」


「だからって、俺を巻き込むな。

 兄上に断られた時点であきらめたらよかっただろうに」


そういえば、王太子様の婚約者になるって言われていたんだった。

成績もいいし、容姿も悪くない。血筋はこれ以上の令嬢はいない。

どうして王太子様はローゼリア様を選ばなかったんだろう。


「もういいわよ。無理やりでも婚約してもらうから」


「……おい。やめておけよ」



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