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13.学園の入学

学園に入学する日、えんじ色のワンピースの制服に着替える。

まだ時間よりも早いが準備を終えて馬車に乗る。


ブルーノがフルールを迎えに来る時間は先日の侍女に教えてもらっていた。

ミランという名の侍女は、今までのフルールの侍女とは少し違って見えた。

これからもフルールの出かける時間を教えてくれるそうなので、

馬車に乗って出かける時にばったり会うということは避けられそうだ。


十五分ほど馬車にゆられて、学園についた。

石畳の上に下りると、目の前には蔦がからまった古い建物がいくつもある。

学園の事務員らしき人たちが入学生のために講堂の場所を案内していた。


講堂に入る手前で、教室名簿が配られていた。

それを一枚もらってみると、私の教室はA教室。

幸いにもフルールはC教室。ブルーノはB教室だった。


教室が三つしかないのに見事にわかれたと思ったら、

私の次に名簿をもらった令息たちが騒いでいる。


「うわ!俺、Bだった。やばい!親に怒られるかもしれん」


「俺はAだった。怒られるだけだったらマシだろう。

 うちはAじゃなきゃ家から追い出すって言われてたからな。

 ほっとしたよ。お前も早くAに上がって来いよな」


「あぁ……少し遊びすぎたな。反省するよ」


その会話が気になってしまい、くるりと振り向いて話しかける。


「あの、この教室はどうやって決まったのかわかりますか?」


背の高い令息が二人、突然話しかけた私に目を見開いたが、面白そうに笑った。


「成績順ですよ。といっても、試験は無かったでしょう。

 どの家も家庭教師をつけていますよね?

 家庭教師からの報告書を読んで、学園が判断するんです」


「え?家庭教師がですか?」


「ええ、そうです」


家庭教師なんて十三歳の時に辞めさせられているはずなのに。

それ以降は一人で勉強していた私がなぜA教室に?


もしかして、リリー先生が報告書を書いてくれたのだろうか。

でも、礼儀作法の指導をしてもらっていたけれど、勉強面の指導はされていない。

どういうことなのかわからなかったけれど、とりあえず令息たちにお礼を言う。


「教えていただいてありがとうございました」


「いいえ」


令息たちは私が知らないことが不思議だったようだが、その後、

私がA教室の席に座るともっと驚いた顔をしていた。


そんなに驚くことかと思ったけれど、入学式が始まる頃にはわかった。

A教室の席には十二人が座っていたが、令嬢は二人しかいなかった。


もう一人の令嬢は少し離れた席に座っていて、話しかけられそうにない。

しかも機嫌が悪いのか、私と視線があってもふいっとそらされてしまった。


栗色の髪を綺麗に巻いて、はっきりとした二重で緑目の気品がある令嬢。

名簿を見たら、ローゼリア・ジョフレと書かれている。ジョフレ家は公爵家だ。

今の王妃様の生家ということは、王子の従姉妹にあたる。


たった二人しか令嬢がいないのに、相手が公爵家の令嬢とは。

仲良くしてもらえるだろうか。あの様子では難しいかもしれない。


入学生代表が呼ばれて壇上にあがる。黒髪の令息。

少し長い前髪の下には黒縁の眼鏡。光の反射のせいか、眼鏡の下は見えない。

隣に座っていた令息たちがこそこそと話しているのが聞こえる。


「やっぱり代表はハルト王子だったな」


「そりゃそうだろ。神童だって有名だったしな」


「あれって、勉強嫌いのエミール王子と比べてマシ、

 っていうことだけじゃなかったんだな」


「俺もそう思った。エミール王子、C教室だってよ。

 いくら勉強嫌いでも王族がC教室だなんてありえないだろう」


どうやら入学生代表は第三王子のハルト王子らしい。

たしか王妃様の第二子で、王太子であるアルバン様の弟なはず。

側妃様から生まれた第二王子エミール様はフルールと同じ教室らしい。

勉強嫌いか……フルールと同じだ。気が合うかもしれない。


ぼんやりしている間にハルト王子の挨拶は終わった。

視線はあわなかったが、一瞬だけ見えた眼鏡の下は黒目だったと思う。

王妃様が黒髪黒目だから、王妃様に似たのだろう。



教室に向かう途中、フルールとブルーノが一緒にいるのが遠くに見えた。

手を取り合って、何かを話しているようだった。

教室が離れてしまったことを悲しんでいるのかもしれない。


馬車だけでなく学園でも関わることがなさそうで、心から安心する。

残り三年間。できるかぎりあの二人とは関わらずに生活したい。



A教室に入ると席順が決められていて、身分の順に座ることになっていた。

一番前の中央がハルト王子。その左隣にローゼリア様。

そして侯爵家の私がハルト王子の右隣となっている。


王宮女官になるためにも、ハルト王子に嫌われるわけにはいかない。

こちらからは関わらずにいようと思ったが、ハルト王子は誰とも関わろうとしなかった。

ローゼリア様はハルト王子に何度も話しかけていたが、

ハルト王子はうっとおしいという態度を隠しもせずに冷たくあしらっていた。


たしかハルト王子もローゼリア様も婚約者がいなかったはずだ。

ローゼリア様は王太子様の婚約者候補になると思われていたそうだが、

王太子様が選んだのは侯爵家のシャルロット様だった。


あれだけフルールを王太子様の婚約者にしようとしていたお父様たちが、

あっさりブルーノと婚約させた理由もそれでわかった。

王太子様は婚約者候補を集めることもせず、婚約者を決めてしまったらしい。

結婚式はシャルロット様が卒業する来年に行われる予定だ。


王太子様の婚約者に選ばれなかったローゼリア様は、

ハルト王子かエミール王子の婚約者になるのではという噂も聞いたが、

教室での対応を見る限りハルト王子とは無さそうだと思った。




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