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もうしばらくはこのままで ~トライアングルレッスンⅯ~

作者: なるせちあき

「まさか七五三だけでなく、成人式まで一緒になるとはな」

 ひろしが呟いた。


 11月。休日の昼下がり。

 オレ達は七五三の子供達に紛れ、一足早く成人式の記念撮影をするためにフォトスタジオに来ていた。


「なーんで2コも歳下のゆいこと仲良く成人を迎えないといけないんだよ。納得いかねー」

「法律が変わったんだ。仕方ないだろ」

 民法大改正とやらで、18歳から成人認定されることになったのだが、二十歳のオレとしては、ゆいこが飛び級してきたみたいで変な感じだ。

 子供の頃からいつも3人一緒に過ごしてきたが、ここまでくると腐れ縁も極まれりだ。


「それにしても、ゆいこの着替え遅いなー」

 スーツのオレ達と違って、振袖のゆいこは支度に時間がかかるらしい。かれこれ30分は待っている。

「あいつが着物を着るのって七五三以来だな。なーんか、すげえ張り切っていたけど、見せたい奴でもいるのかな?」

 チラッとひろしを見る。

「さあな。お前じゃないのか?」

 ……ダメだ、これは。

 ゆいこ、お前の気持ちはひろしに全く届いていないぞ?

 まあ、それはひろしも同じなんだが……




「ひろし、たくみ、お待たせ〜!」


 着付けが終わったようで、ゆいこが小走りで駆け寄ってきた。

 髪を結い上げ薄く化粧をした振袖姿のゆいこは、なんというか…綺麗だった。


「振袖なんて初めて着たけど、似合う…かな?」

 オレ達の前でくるっと一回転し、ひろしを見上げる。

「ああ、すごく似合っている」

「ありがとう!」

 嬉しそうに頬を染めるゆいこに、顔を赤らめ照れ臭そうにするひろし。

 見つめ合う2人を前に、オレは叫びたくなった。


(なんでお前ら付き合わねーんだよ!)


 はたから見れば明らかに両想いなのに、こいつらは互いの想いに全く気づいていない。

 ひろしに至っては、ゆいこが好きなヤツはオレだと勘違いしているくらいだ。


 ゆいこがひろしに片想いをしていることに気づいた時は正直ショックだったが、ここまでくるといい加減さっさとくっついてほしい。

 なんというか、3人一緒にいると落ち着かないし、いたたまれないのだ。



「たくみ、写真撮るよ〜」

 店の人に案内されてスタジオに入る。

 オレはさりげなくゆいこを避け、ひろしの横に立った。

 最初は不思議そうにしていたカメラマンだったが、ゆいこの髪飾りを直すひろしと真っ赤になった彼女の様子を見て察したのだろう。何も言わずにカメラを構える。

 その時だった。


「もう!たくみはこっちでしょ!」


 ゆいこはオレの手を引くと、自分の隣に立たせた。ひろしとオレの間。そこがゆいこの定位置だった。

「これで七五三の写真と同じだね!」

 腕を絡めて無邪気に笑うゆいこを見た途端、オレの中のモヤモヤした気持ちは一瞬で吹き飛んでしまった。


(……やれやれ。もうしばらく3人でいることにしますか)




 出来上がった写真には、子供の頃と変わらない笑顔のオレ達3人が写っていたのだった。

「小説家になろうラジオ」の特別企画「ゆいこのトライアングルⅯ」に応募した作品です。

両片思いのゆいこ×ひろし、それを見守るたくみのお話です。


残念ながら不採用でしたが、楽しんでいただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても自然な日常の一コマで、情景が目に浮かびました。 さりげなく、ゆいこの隣を避けて写真に写ろうとするたくみを引っ張ってくる天真爛漫なゆいこが可愛くもあり、罪作りだなと思います。 たくみの…
[良い点]  実はひっそりと思いを寄せていながら、ゆいこの気持ちを知って、そっと身を引いて二人を見守っているというたくみが一番大人びて(あ、20歳だから大人か)いますね。  私はたくみを軽い感じにしが…
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