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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「あの子の子供になりたい」

作者: 未来

   寒い寒い冬の日のゴミ捨て場。


 クマのぬいぐるみである私が自我を持ったのは幼い頃から一緒だったはずのあの子から捨てられた時だった。


 保育園に行くときも家族で旅行へ行く時もずっと一緒だった。


 けれど、彼女の背が伸び友達も増え大きな学校へ通う内に私は忘れられて押入れの奥底にしまわれた。


 大量の埃にまみれた時に最後にあの子を見たのはお腹が大きくなった姿だった。そしてあの子は何も告げすにゴミ箱へ私を捨てた。


 捨てられた瞬間、あの子と思い出が消えていく感覚に襲われた。


 ゴミ捨て場から去っていくあの子。私を愛してくれたあの子はお腹をさすりながら、優しい目で話しかけていた。


 私はあの子のお腹の中にいる物から視線が外せなかった。


 私もあの子のお腹の中に入れたら…人間になってあの子とずっといられるのに。


 だけど、ぬいぐるみの私は人間になる方法など知らない。


 やがて私の終わりの時が来た。


 ゴミの回収業者が私を収集車の中に無造作に投げ込む。収集車にはどんなゴミもすぐに分解する大きなプロペラが回っていて私の体が引き裂かれていく。


 何度もあの子の小さな手でなでられた頭部の綿と綿がコマ切れになり、あの子が裁縫を習いたてで一生懸命に縫ってくれた手足がちぎられていく。


 体が引き裂かれて私の自我が消えて溶けていく。


 私はぬいぐるみに生まれた事を呪いながら叫んだ。


(いやだぁ!! 死にたくなぃ!! いきだぃ!! あの子ともう一度会いたい!! ぬいぐるみじゃなくて、あの子の子供でいたぃ!!)


 収集車の中に積まれていくゴミに埋もれながら私は叫び続ける内に元は何だったのか分からないゴミたちの声が聞こえた。


 皆人間に対して恨みの言葉を吐いていた。


 まだ自分は使える。役立たずじゃないのに捨てないで。


 誰かに盗まれて捨てられて理不尽だ。持ち主の所へ帰りたい。


 恨みの言葉はやがて「自分も人間になりたい」「消費される側なのはいやだ」に変わっていく。消えゆく私の自我は他のゴミたちと混ざって意識が遠くなる。


 そんな中、唯一はっきり覚えていたのは「人間になりたい」と強い気持ちだけだった。


 一方的に作られて消費されて捨てられたゴミはリサイクルと言う形で転生していく。


 紙でも鉄でも混ぜればどんな物にでも作り替えられた。


 子供のおもちゃや公園のベンチなどありとあらゆる物に作られては廃棄されてまたリサイクルを繰り返しゴミたちの怨念が増幅している事に人間は知らなかった。


 混ざりあう意識達は「人間になりたい」と強い意識を持ち続け転生を繰り返し次は自動車の部品として作られた。


 寒い寒い冬の日の事。


 その車に親子と幼い娘一人が乗っていた。


 娘はどこかで見たことのある新品のぬいぐるみを抱いていた。


 母親は少し膨らんだ腹部をなでて優しく声をかけている。


 家族の幸せなひと時の中、部品の中に溜まっていた膨大な怨念の中にかすかな自我が芽生えた。


 あの、子の…こどもに、なりたい…


 既に精神が壊れた元ぬいぐるみがつぶやき、車の部品に亀裂が走る。


 ブレーキがきかなくなった車は大きな下り坂を減速できずガードレールを突き破り崖から落ちた。


 車は大破し3人の家族は大けがを負い気絶していた。


 しかも、母親の腹部には車の部品の一部が食い込んで悲惨だった。


 幸い近くを通った人の通報のおかげで3人の命は助かった。


 奇跡的にも母親の腹部に食い込んだ車の部品が摘出されお腹の中の女の子はそのまま手術室で生まれた。


 大きな産声を上げる我が子を優しく抱く母親。


 女の子は涙を流し母親のぬくもりを感じながら心の中でつぶやいた。


 よかった…あの子の子供になることができて… 



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