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冒険者見習い3

戦いは始まった、先手はやはりオレンジ髪の少年だった。

木製の剣を両手上段で構え大声を上げながら真っ直ぐに巨大なウサギに突撃する。


「いくぞぉッ! うおぉりゃぁぁッ!――――ぐぼぇッ!?」


案の定、なんの策もなく飛び込んで行けばこの様な結果になるだろう、オレンジ髪の少年は勢いよくウサギの横殴りのパンチに吹き飛ばされ、男の目の前まで転がる。


「……大丈夫か? 何をやってるんだ、あんな大きな獣相手に真正面からなんて子供の力じゃ通用する訳無いだろう……?」


「うう……ッ いや、だって俺は一流の冒険者を目指してるし……」


倒れる少年に近寄り上半身を起こしつつ声をかける、意識はあるようだが、どうにもダメージが大きいらしい、うんうんと唸りながら答えはするが起き上がる気配は無い。

一流の冒険者……この少年は多分、先程耳にした冒険者学校の生徒と見て間違いないだろう。



「行くわよッ! マジックソード!必殺技乱れ斬りぃッ!!」


ふと視線をウサギと少年少女に向けると、今度は赤褐色の髪の少女が青く輝く剣でウサギを攻撃していた。輝く軌跡は美しく、木漏れ日と相まって幻想的な光景が繰り広げられたが、少女はただただ剣をがむしゃらに振り回し、ウサギを叩いているだけに見える。


勿論、剣で叩くだけでもダメージは与えられる筈だが、ウサギはビクともせず、がむしゃらな動きで体力を使いきった少女が膝に手を置き休んでいる最中に顔を前足でポリポリと掻く始末。


「わ、わわわッ! わーッわーッ!」


ピンク髪の少女はただただ叫びながら目を瞑り、弓の弦を引いて弾く、引いて弾くを繰り返すが、そもそも矢がどこにも見えない……恐らく忘れてしまったのだろう、弦を弾く音だけが空しく響く…戦い方以前の問題だった。


「くっ……退いてろ! 俺が仕留める!!」


蝙蝠マントの少年はマントを翻しながら走り出すと強く地面を踏み締め跳躍する。赤褐色の髪の少女がよたよたとウサギから離れるのを確認すると翻したマントで一瞬だけ身を隠し……空気が破裂する様な音と共にマントを広げた瞬間、赤黒い短剣を2本、3本と計5本を素早く連続で投擲した。


「あれは……血か?」


赤黒い短剣はウサギや地面に突き刺さる訳でもなく、ウサギの顔の前まで迫ると小気味の良い音と共に弾け、液体となって飛び散る。吸血鬼らしい、血を用いた目潰し方だ。

液体が目に入ってしまったのか、大きなウサギはギューギューと 低い声を漏らしながら短い前足で両目を覆い、全身を左右に激しく波打たせ暴れ回る。


「とったぞッ!」


少年は鉄製の槍を強く握り締め、自分の体重を全て乗せた槍を暴れ回るウサギの首もとへ突き立てた。


―――だがしかし、少年の渾身の一撃でも巨大なウサギの分厚い毛皮に傷一つ負わせる事も叶わず。

自分の身体に突き立てられた槍の感触から敵の位置を割り出したウサギの一撃の前に少年は赤い線を描きながら紙屑の様に吹き飛ばされ、宙を舞う。


「……ッうぅあ!?」


少年の動きは悪くなかった、ただ相手の耐久力が高過ぎたのだろう、間違いなく……あのウサギは強い。

そもそもあの様な巨体を誇る獣はウサギだろうが熊だろうがどんな生き物だろうがこちらに危害を加える意志があるのならばかなり危険な存在だ。


少年の体格に似合わぬほど大きな音と共にその身体は地面に強く叩き付けられた。

……意識は無さそうだ。


事態は悪い方向に動いてしまう。

傷一つ付かなかったものの、目潰しを食らった獣は激昂している様だ。


「えっ えっ? どうしようどうしよう! 『ブラッド』がやられちゃったよ!!」


「馬鹿の『ユウ』もね……! 私たちも危ないかも……ッ来るわよ!」


先程までのとぼけた様子とは真逆に、フワフワだった毛並みはコワゴワに逆立ち、可愛らしい前足には鋭く凶悪な爪が生えている。

マントの少年は『ブラッド』、そして未だに男に支えられながらうんうん唸っているオレンジ髪の少年は『ユウ』と言うらしい。


「駄目だな、この子達では多分あれには勝てない……怒らせる前に戦う以外の方法を取るべきだったな」


「あっ! そこのおじさん! 逃げて逃げてぇ~ッ!」


「ユウ! 起きなさいッ!!早く!!」


男は冷静に状況を観察していた。マントの少年は戦闘不能…獣は現在マントの少年を無視し少女二人を狙って追い掛けている。動く獲物に釣られているのだろう。少女二人は当初の目的通りに道を走り出し、男とユウと呼ばれる少年の方向へと走ってくる。


「仕方がない……私が」


「うおぉぉおおぉ!!」


私がやろう、男がユウを寝かせ動こうとした瞬間……そのユウが勢いよく起き上がり、獣に向かって武器も持たずに走り出す。

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