待ってましたよ!先生!!
幾度となく経験した眩い光に包み込まれる感覚。
異世界転移の度に感じるこの暖かさだけは束の間の休息を与えてくれる。
暖かな感触に包まれて重力も感じず、何も考えずに束の間の微睡みを味わっていると、不意に重力が身体に帰ってくる。幾度となく経験した転移完了の感覚……
「今回は、早いな…」
無意識の内に声に出してしまえば、自分がこれからまた新たな戦いに望まねばならない事を強く意識してしまう。
「次の世界の目的は……どんなエンディングなんだろうな……」
ぼそりと、【異世界転移】をする前はゲームばかり遊んでいた少年だった自分を思い出し、苦笑いを浮かべる。
昔には戻れない、世界を移動し続けるしかない……自分でも気付いている。自虐気味に笑えばすぐに思考を切り替える、次の世界に辿り着いたらすぐにこのボロボロの服を新調し、世界の住人として馴染まないと……!
「よっし、行くか!」
全身を包む光が消え、新しい異世界に立った男の身体に、暖かな風が吹き付ける…!
太陽はサンサンと輝き、鳥達はピーピーと楽しそうに囀ずっていた。
「ん?…な、なんだ?」
男は辺りを見回して戸惑う、先程までいた世界とのギャップと懐かしいまでに暖かく迎えてくれる風と太陽の光の懐かしさに蝕まれ……否!包み込まれて……自然と笑顔になってしまう……!
「はっ!?……いかんいかん!俺は……じゃなかった……私はエンディングを目指さないと……!!」
自分は今、小高い丘の上で一人でニヤニヤしている変態だ、そんな事をしている場合じゃない!そう考えて意図して変えた一人称 "私"を用いながら頭を振り、頬をパチパチと叩く。
小高い丘は見晴らしが良い、周囲を観察するには持って来いだ!
そして見つける……あれは……!
「待ってましたよッ!先生ッ!!」
振り向くとそこには二足歩行の獣……獣人が立っていた……。
人と変わりないように見え、美しい白で先端が黒い髪型は人間の少女に似た様子で衣服も身に付けているが、顔も全身もしっかりと毛で覆われており、ケモ度2.5といった所だろうか。
そんな獣人が、制服を思い出させる可愛らしい服、ミニスカートにニーハイ……ニーハイは太股に食い込み肉と毛による段差を生み出していた。そんな服装に身を包んだ獣娘が、腰に手を当て…指をビシィッと男……いや、先生に向けていた。
「せ、先生……? 俺が……ッ?」
暖かな光と風、そして謎の獣娘……遠くに見えるのは常軌を逸した巨大さを誇る空に浮かぶ大樹………そしてその大量の葉や枝…それに護られるように規則正しく……時に乱雑に建ち並ぶ街並み……大樹の中心に位置するとても大きく眩い美しさすら感じられる建物……
「あれはこの世界に複数存在する精霊の大樹、一般的には世界樹と呼ばれています! そして先生ッ!あの一番目立つ建物こそ!!貴方が教鞭を取る カインディア第2冒険者スクールなのですッ!!」
「な、なにぃ~ッ?」
全ての優しさと懐かしさに迎えられて……男の……先生のカインディアでの戦いが始まったのだった。