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カインディアと世界樹の学園4

陽気な空気に包まれた【世界樹の学園】

偉そうにベンチにふんぞり返っている少年や転んだ生徒を優しくエスコートをする少年、中庭の中心にある女性の像に祈りを捧げる少女、とにかく真面目そうな眼鏡をかけた少女、そんな中を全力疾走でかけていく三人の生徒と先生。


「おーい! こっちこっち!」


一足先に辿り着いたユウは両手を大きく振って訓練場の入り口を示す。そこには四角を規則正しく並べた規則正しい青白い石畳の道があり、進んだ先には一つの建物が目についた。


「ここが……そうなのか? 私にはとても訓練場には……」


縦長の建物ではあるが、訓練場とするにはさすがに手狭過ぎる、それに生徒達が絶えず出入りをしている、本当にここなのだろうか?そう考えた先生の疑念を目一杯投げ飛ばすようにユウが言葉を発した。


「おいおい、先生! 冒険者だろ? 俺達は冒険者!……の見習い、冒険者は本の中の世界で活躍する仕事なんだぜ!?……ってことはぁ?」


「なるほど……ここは図書館か?」


はたして、先生の予想は当たっていた。その建物の中には大量の本が所蔵されており中では図書委員の生徒と司書が次々本を借りに来る生徒や先生相手に忙しそうに対応していた。


【冒険者】……ある者は強大な魔物を、ある者は至高の宝を、ある者は本の中の住人の願いを……それぞれの使命や目的、或いは単純にお金儲けの為に本の中を行き来する存在……そんな冒険者を育てる学園だからこそ、大量の本がある図書館こそが最大の訓練場という訳である。


「ここにあるのは、私達でも安全に入る事が出来ると【冒険者】や学園が認可した本だけなのよ。」


「そうか、確かに本の数だけ世界があるのなら、好きな場所で訓練も出来るしな……」


「でもさぁ、あんまり強い相手もいないから結果的に自主練になっちゃうんだよなぁ……」


エリーはこの図書館にある本の特性について話すと、小走りで図書員の女生徒に近寄る。お互い顔見知りなのか、仲良さそうに会話をしていた。


ユウが話すには本当に弱い魔物しか現れない為、危険はないが退屈だとの事……まぁ学園からすると生徒が自由に使えたりする本はそれぐらいの物でなくては気が気では無いだろう。

その代わり、どこかに実戦的な本もある筈だ、それは学園側が厳重に管理していることだろう。


「まぁ、学んでいればその内この図書館以外の本の世界にも行けるだろう……その時に活躍出来るように準備はしといたらいいさ」


「お! じゃあ先生が連れてってくれよな!」


「あ~! 私も私も~♡」


ユウとティニーはまるで今すぐにでも行けるかのような喜び様ではしゃぎ回る。そんな中、エリーが図書委員の女生徒と共にやってくる。


「先生、この子がブラッドの今いる世界を教えてくれるってさ」


エリーと共に現れた図書委員の女生徒は図書委員に相応しい銀フレームの眼鏡をかけた少女だった、髪は青紫のセミショート、他の女生徒と同じ制服だが、腕には図書委員の腕章。


「初めまして、先生! 私はリコ……リコ・ライブリルです! 図書委員やってます。」


「初めまして、まだまだわからない事ばかりだけど、よろしく頼むよ……」


リコ・ライブリル そう名乗った少女と先生はお互いに頭を下げ合い、初対面の挨拶を行う。頭を上げ二人で顔を見合わせて数秒、リコは4人を案内するようにふわりとした動作で手を動かし、歩き出した。


「ここいやだなぁ~……」


道案内をされている最中、ティニーがしかめっ面で先に進むのを拒む……そう言えば汗臭いと言っていたが、紙とインクの匂いはするものの、図書館に相応しくない汗臭さは一切感じなかった。


しかし、ふと視線を移すと僅かばかり離れた所に一際広い空間、扉に仕切られてはいるがそれでも近寄れば聞こえる荒い息遣いと雄々しい声。


「ふぅーッ! ふぅーッ!」


「どうしたっ!? もうヘバったかぁッ!? お前は何周目だッ!? 何ぃッ? 4周だぁッ!? それで鉄壁の盾になれると思っているのかぁッ!? お前の限界はそんなもんじゃないだろッ!! あと1周行ってこいッ!!!」


重なる荒い呼吸に厳しく生徒を叱咤激励する声、ここは図書館であるが、本を読むのではなく、本の世界に入る事を目的とした図書館の為、多少の音は問題ないらしい。


近寄って覗いてみると、そこに広がった光景は大変暑苦しい物で、ガッチガチの鎧姿の男子生徒達が次々と本に入り、しばらくして本から出て来る、そして横に並べられた本に入り、また出てきては隣の本に入るを繰り返していた。


眺めている男性は先程の叱咤激励の声の主、全身をフルプレートで固め腕を組み、開いた兜から見えるその顔には立派な白い髭を蓄え、鋭い眼光で本と生徒を交互に凝視している。


「アーサー先生だぁ……すっごい厳しいんだよぉ……それにいつもあれが終わったら汗ビチャビチャの男の人がここをたっくさん通るからすっごい臭いの!」


「あの本は一本道のダンジョンに繋がっててさ、10冊連続でそこを駆け抜けるんだってさ……すげぇよなぁ……」


フルプレートのアーサー先生は、冒険者として仲間を護る【盾】の存在を重視しているらしく、その【盾】を育てるべく希望者を募り、定期的にこの様な訓練を行っているのだとか。

一見厳しく見える訓練だが【盾】志望の生徒には人気がある訓練らしい。


「先生、そろそろ大丈夫ですか? ブラッドさんは最上階の訓練用の個室です。」


背後から声をかけられ、そういえばブラッドを追いかけて来た事を思い出し、先生は足早にリコを追いかける。


最上階、図書館の5階に位置する場所には扉で仕切られた個室がいくつもあり、魔方陣の浮かんでいる扉と、浮かんでいない扉がある。これは使用中・未使用を区別する為の魔方陣だ。そんな数多くある部屋の隅っこ、そこが今ブラッドが利用している個室らしい。

リコが書類と部屋番号を交互に見ながら間違いがないか確認をす

る。

実際に間違ってはいなかったが、その確認も待たずに、エリー、ユウ、ティニーは個室を開きそのままの勢いで突入していく……

すると、暖かな光が個室から放たれたと思えば、三人の姿が忽然と消えてしまう。


残っていたのは、宙に浮かび、ページをペラペラとめくりながら漂う本が一冊だけで。

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