カインディアと世界樹の学園
「おぉ~ッ!お似合いですよ先生ぇ~ッ! やっぱりイケメンでしたねぇ?」
学園に併設された職員寮で鏡を眺めている先生、その顔に無精髭は存在せず、本来の先生の顔が鏡に映っている。切れ長で茶色い眼、髭は消えたが目元のシワが彼の今までの苦労を物語っていた。
隣には制服を身に付けた学園長が初めて出会った時と同じ様に尻尾と腰をフリフリしつつ、両拳を顔の前で握り締めガッツポーズをしながら笑っていた。
「この服……どうやって?」
「んふふ~ッ 先生? 貴方の着ていた服は、この世界では大人の男性が良く着る物とそっくりなんですよ? 勿論冒険者の男性、特に軽装を好む人が良く着ています! 私を育ててくれた人も着てました。」
男は今、白いワイシャツに黒いベスト、ベストと同じ生地で出来たスラックス、そして今、フックにぶら下がっている茶色い革のロングコート。
一晩でこれを用意したのだろうか?恐らく前もって用意をしていたのだなと先生は考える。どうやら獣人の少女……学園長はかなり前から先生がこの世界に来るのだと信じていた様だった。
「この格好で授業を行うのですか?」
「はい! 着慣れた服で授業をしてください! 冒険者は冒険時の服が仕事着、だから授業も仕事着で! 全身鎧で授業している人もいますよ?」
勿論生徒は制服で! そう続けた学園長はパタパタと短い足を動かしながら部屋の一角へ、相変わらず笑顔で両手を広げるように鋼鉄製の扉を指し示す。
「そしてここは、先生の装備品が置いてありますッ! 実戦授業や生徒達に稽古をつけてあげる時など! 勿論、先生が冒険者として依頼をこなす時にもご使用くださいね!」
学園長が鋼鉄製の扉を開く。すると中には……
「な、なぜこいつらが……!?」
先生は驚愕の表情を浮かべながら、まじまじと中を眺める。
そこにあったのは先生がその昔使っていた武具の数々……一つ前の世界で投げ捨てたノコギリ状の武器を始め、真っ赤な剣や絢爛豪華な鎧、刀身を妖しく輝かせる刀、中央に魔石を埋め込んだ短剣……古いボルト式のライフルなど【異世界転移】を初めて行った時から今までの世界までの全ての武器が規則正しく並べられていた。
「ふっふ~んッ! ビックリしてますねぇ? これこそカインディアという世界……そして世界樹のご加護ですッ!!」
自信満々にポーズを決める学園長の顔を眺めながら、先生は思案する。
聞く所によると、まずこの世界は元々名前は無いが豊かな自然と争いを好まぬ獣人族だけがいた世界だったのだという。獣人族は争いは嫌いだが暇な事も嫌いだった。だから毎日楽しい事を求めて遊び回る種族だった。そこに突如として多くの【転移者】が大量の本と共に時空を切り裂き現れ、獣人族に【本の世界に入る】力を授けた。その本は獣人族が今まで見た事の無い様々な世界やダンジョンに繋がっており、獣人族や【転移者】同様に本の中の世界にも様々な種族が住み暮らしていたそうだ。
獣人族は本の中に入ることを冒険に行くと呼び、いつしか本の中に入る獣人と、それに協力した【転移者】も【冒険者】と呼ばれるようになる。
きっとずっと楽しい事になるぞ。そう考えた獣人達と冒険者、本の中の住人は手を取り合い、ここを新しい故郷として……全種族の出会いと感謝を込めて【カインディア】と呼んだ。