『赤き稲妻』第3章:滅亡への秒読み(タイムズ・ランズ・アウト)(8)
「わかった」
のっけから、作戦失敗。作戦と言えればだが。
「あ、正面の建物の屋上に狙撃手らしい人物が複数名」
「了解。あと、弾種の切り替えボタン押して」
「弾種は?」
「片方が徹甲弾。もう片方が対人弾。……ああ、ありがと。下ってて」
そして、私は両手の奇環砲を発射。
「おめでとう……。ようこそ、私が居るのと同じ世界に……」
チャユがそう言った。
「えっ?」
「もう、今晩から、ずっと、自分が殺した人間の夢を見る事になるわよ……。生きてここから帰れればだけど……」
目の前に有った建物は蜂の巣になっていた。
しかし、その時、何かの車両の音がした。おそらく、かなりの馬力のものが複数台。
「ちょっと待って……どう云う事?」
車両の音が聞こえた途端、チャユが何故か慌てだした。
「どうしたの?」
「逃げて〜っ‼ 早くっ‼」
「ええええ⁉」
私達を迎撃しに現われたらしい複数の装甲車……。しかし……それらは急に暴走を始め……。
装甲車は互いに追突し、炎を上げ……中には……火に包まれたまま走り続けるものまで有る。
「えっ……と……まさか……その……」
「『神』の力……それも、火や熱に関する『神』の力の持ち主が……私達を助けてくれたみたい……。操縦士の体温を急激に上げたり、内燃機関を暴走させたり……」
「普通は、こんな状態を『助けてくれた』って言わないわよ」
「助けてくれ〜っ‼」
装甲車の中から火に包まれた兵士が飛び出る。
「うわあああ〜っ‼」
私は思わず、その兵士を銃撃。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ちょっと、酷くない?」
「ら……楽にしてあげたのよ」
「あのさぁ……本当に大丈夫……?」
「本当に……今晩から、毎晩、夢に見る事になりそう……」
私達を助けるつもりらしい、おせっかいな誰かのお蔭で……辺りには地獄絵図が出現していた。
しかし……それは……まだ地獄の第一層に過ぎなかった。
「まずい……今度こそ、全速力で逃げて」
「何?」
「その『鎧』でも耐え切れない程の事が起きる。何も考えずに……何で、そっちに走るのッ⁉」
私は、駐屯地の内側に向けて走った。
次の瞬間、後方で轟音。
「な……何よ……あれ?」
大型の竜巻が起きていた。しかし、その突風は地獄の業火を吹き消すのではなく、鞴のように、更に酸素を送り込んだらしい。
「そ……そんな……あれは……」
やがて、装甲車の乗員を消し炭に変えたであろう炎の竜巻は……巨大な魔鳥に姿を変えた……。
「日本の神話の……太陽の女神の荒振る分身……黄泉の穢れより生まれた……災厄の神……」
そうだ……私は……この魔鳥を駆る者と、かつて戦った事が有る……。
「大禍津日神……またの名を荒祭宮」
「どう云う事? こ……今度は……私達の味方に回ったの? それとも……」
「判らない……けど……居る場所は判る……。大体だけど……」
「どこ?」
「多分……地下……」