『赤き稲妻』第3章:滅亡への秒読み(タイムズ・ランズ・アウト)(7)
「あの……改めて聞くけど……気は確か?」
チャユが、ここに来るまで何度も聞いた質問を、また行なった。
「東洋の兵法書にも有ったでしょ。『兵は拙速を聞くも、未だ巧久しきを睹ざるなり』って……」
「あのねぇ、貴方、一応、士官でしょ? 作戦立案の方法なんか……」
「ごめん、士官と言っても、使い捨て要員だから、そんなの習ってない。そもそも、私達の任務は『超強力だけど、単体または少人数の敵に1人または少人数で立ち向かう』だから、普通の『作戦立案』の方法を習っても意味は無い」
「やれやれ……」
私は両手に「青い『鎧』の戦士」の従者である恐竜型ロボットから取り外した奇環砲を手にして、整備チームの1人ナウマン軍曹が運転するトラックの荷台から降りる。背中には、更に奇環砲を2つブラ下げており、左の脛には「青い『鎧』の戦士」が落した短剣を、腰には「継ぎ接ぎの『鎧』の戦士」の装備である刃を加工した短刀を装備。
私に続いて、チャユもトラックから降りた。
「ご……御無事で……」
「ええ」
「連絡が有るまで、安全な場所に退避してて」
「了解しました」
世界政府・禁軍の「鋼の愛国者」が1人。動き易さ重視の男ものの作業着を着た若い女性が1人。
その珍妙な組合せが、日本陸軍・久留米師団基地の正門から、堂々と入ろうとしていた。
「あ……あの……申し訳ありませんが……貴官の所属・階級と……その……」
あまりの事に門衛も、どう対応すれば良いか判らないようだ。
ブーン。
私の答は奇環砲の銃撃だった。だが、問題が一点。
「えっ……と、これ、非致死弾って……」
奇環砲は、本来は電気信号で制御するようだが、一応は手動操作も可能。
そして、弾は3種類。非致死性の対人弾。通常弾。そして徹甲弾。1つの奇環砲に3種類の弾倉が取り付け可能で、弾種の切り替えはボタンで行ない、今は、非致死性の対人弾を撃った筈なのだが……。
辺りに倒れている門衛達は、銃弾が貫通してこそいないが、顔は変形し、胸や腹はへこみ、手や足はあらぬ方向に曲っている。思ったより遥かに血が飛び散り、今後、義眼や入れ歯が必要になりそうな者も少なくない。
「至近距離から何十発も当てれば、非致死性弾でも、こうなるに決ってるでしょ‼」
やや離れた場所に居る将兵が、建屋の中に逃げようとしている。
「チャユ、お願い」
「判ったわ」
次の瞬間……何も起きなかった。
数秒後……やはり何も起きなかった。
十秒以上が経過し……。
「しまった……」
「どうしたの?」
「敵には、私と同じ『神』の力を使える者が居る」
「つまり……?」
「私が力を使おうとした次の瞬間、力を打ち消される……。しかも……向こうの方が力を使い慣れてるみたい……」
「ええっ? 香港基地を壊滅させた貴方の力が頼りだったのに‼」
その時、基地内にサイレンが響き渡り……。
『基地正門より正体不明の侵入者あり。手の空いている警備隊及び歩兵部隊員は、侵入者の捕縛または撃破に当たれ。捕縛または撃破が叶わぬ場合は、最低でも足止めを行なうべし。なお、侵入者はかなりの戦力を有していると見られる。装甲車隊は一〇分以内に出撃準備を完了させよ』
「ねぇ……お願いが有るんだけど……」
チャユがそう言った。
「何?」
「せめて……気の効いた遺言を考え付ける時間ぐらいは稼いでもらえるかしら?」