『赤き稲妻』第3章:滅亡への秒読み(タイムズ・ランズ・アウト)(6)
そして夕方ごろ、テルマとチャユが帰って来た。整備員4名、ロンベルグ少尉、エメリッヒ博士、チャユ、テルマ、私が母屋の中の一番大きな部屋に集合した。
「今日の夕食の当番は?」
「私です」
ロンベルグ少尉が手を上げる。
「じゃあ、お願いね」
「はい」
「どうした? 溜息など付いて?」
テルマが私の様子を見てそう言った。
「よくよく考えたら、私は、料理も掃除もロクに出来ないので」
「私もだ……」
そうだ……私達は、あくまで「兵器」、特に私は「三〇まで生きられれば運が良い方」と云う扱いなので、それ以降の「人生」で必要な事は何も教わっていない。
「じゃ、こっちは、こっちで始めますか」
チャユは、そう言って、テーブルの上に久留米市内のものと思しき地図を広げた。使われている言語は日本語ではなく世界共通語だ。
続いて、テルマが鞄から様々なモノを取り出す。
定規。分度器。何種類かの色鉛筆。メモ帳。
「説明すると、私と同じような『神』の力の持ち主、数人がほぼ一箇所に固まっていた。ただし、方向は判るけど、正確な距離までは判らない」
「何人も居るの?」
「4人ね。私とまったく同じ『神』の力を持つ者。『太陽』の力を持つ者。『風』と『地』の2つの力を持つ者。そして『太陽』と『冥界』の2つの力を持つ者」
「まず、この交差点で、この方向に進んでいた時に……」
テルマはメモ帳を見ながら、地図上に色鉛筆と定規を使ってまっすぐな矢印を引く。
「1時ないし2時の方向」
続いて、その矢印から2本の線を引く。
「続いて、この交差点では……」
段々と、地図上に多角形が構成されていく。
「あの……まさか、これ……」
「信じたくは無いけど……もし、あの青い『鎧』の戦士を助け出すなら、多分、『亡命者』以外にも、かなりの戦力と戦う事になる」
「そう云う事か……あの爺さんか……」
「心当りが有るの?」
「あの場にたまたま、日本陸軍の久留米師団の師団長が居たの。継ぎ接ぎの『鎧』の戦士がやった事を見て、腰ぬかして、失禁してた……。あの後、あっさり、奴に屈服した訳ね……」
そして、地図上には「敵」の推定位置を示す多角形が描かれていた。おそらく、この多角形内に囚われた青い「鎧」の戦士が居る可能性が高い。
だが、問題は、その場所が……一般的に「テロリストのアジト」と言われて想像するような場所から最も懸け離れた代物だった事だ。
「なぁ……馬鹿な事を聞くが……その……『敵』が居る場所って……」
エメリッヒ博士が、呆然とした声を出した。
「そうです……『亡命者』は……日本陸軍の久留米師団の駐屯地内に居ます」