『赤き稲妻』第3章:滅亡への秒読み(タイムズ・ランズ・アウト)(5)
「大丈夫ですか? 夕食は菜食主義者向けのにします?」
トイレの外から、ロンベルグ少尉の声がしたが、こっちは、返事をする余裕は無かった。
たまには肉を食うのも良いか、と思って、出された日本の料理「肉じゃが」を食べたは良いが……どうも、肉など久しく食べていなかったせいで、胃が動物の肉……特に脂肪分を受け付けなくなっていたようだ。
食後、すぐに腹の調子が悪くなり、トイレに駆け込んだが、そのトイレも最悪だった。
「あの……本当に大丈夫ですか?」
「ええ、何とか……」
確かに、洗面台の鏡に写った私の顔は、そう聞かれても仕方ないような酷い代物だった。
私は、あまり軽からぬ足取りで、物置に戻った。
「何なんですか? あの、やたら脂っこい肉は?」
「彼らの荷物の中に有った携帯食料を温めたモノだ」
物置に居たエメリッヒ博士は外に居る2匹の恐竜型ロボットを指差した。2匹のロボット達は呑気そうに日向ぼっこをしている。ロボットが日向ぼっこをして、何の意味が有るかは全く不明だが。
「つまり他の世界の食べ物?」
「チャユ君によれば、パッケージには漢字で『黒毛和牛使用』……つまり『日本産の黒い毛の品種の牛の肉を使っている』と書いてあったそうだ」
「向こうの世界でも『日本産』『日本製』は『安いが低品質』の代名詞なんでしょうか?」
「ああ、流石に、あんな脂っこい肉は、私ぐらいの齢だと、少々、胃にもたれるな」
「あと、何で、トイレが水洗じゃないんですか? ここ、金持ちの別荘ですよね?」
「日本では、水洗トイレが有るのは都市部か、自前の下水処理施設を持てる規模の建物だけだ。学校とか工場とか」
「あの……じゃあ、ここのトイレは使い続けると……」
「次に糞尿収拾車が来るのは、半月先だそうだ。それまでに、トイレが溢れなければ良いんだが……」
どうやら、私は飛ばされたのは、思っていたよりとんでもない国らしい。それが、禁軍上層部の私への評価と云う事か。
「ところで、頼まれてたモノは出来たぞ」
そう言って博士は、刃渡り二〇㎝ほどの大型のナイフを私に渡した。
他の世界の「継ぎ接ぎの『鎧』の戦士」の装備である刃に柄を付けたモノだ。
これと「青い『鎧』の戦士」が落した短剣。
この2つだけが、私が持っている「他の世界の技術で作られた武器」。「継ぎ接ぎの『鎧』の戦士」の装甲に対抗出来る武器だ。
と言っても、私とあの「継ぎ接ぎの『鎧』の戦士」では技量が違い過ぎる。またしても「これで命中たつもりか?」となる可能性の方が高いが無いよりはマシだろう。
「ところで、テルマは?」
「チャユ君と車で久留米の市街地に出掛けた」
「どこに?」
「敵の正確な場所を探りに」
「大丈夫なんですか?」
「敵にその気が有れば、ただでは済まん。しかし、敵とて、それは望んでいまい」
「もし、仮に敵にその気が有れば?」
「世界政府軍香港基地を1人で壊滅させた者と、それと同等の力を持つ者が市街地で戦うなど……あまり想像したくないな……」




