『赤き稲妻』第3章:滅亡への秒読み(タイムズ・ランズ・アウト)(3)
近くに止めてあった大型のトラックに乗って数十分。まるで地震のような、車のサスペンションが無事か心配になるほどの揺れを経て到着したのは、鄙びた農村の中の一軒の家だった。
「ここは?」
「田主丸と云う名前の村。この辺りには、私に取り憑いてる『神』に仕えてきた一族の末裔が住んでいる。この家は、この辺り出身の実業家の別荘。持ち主が私の養父の知り合いだったツテで借りてる」
広めの庭と大き目の物置と離れが有り、母屋も日本の規準では大きい方だろう。
「あの屋根の上のモノは何?」
「他の世界の技術で作られた太陽電池。この季節でも、その鎧の整備に必要な電力はまかなえる。ところで、いい加減、その『鎧』脱いだら?」
「整備員の手助けが無いと脱げない」
「あぁ、そうか……。で、整備チームは、こっちに連れて来てるの?」
「そろそろ、私が行方不明になって騒ぎ出してる頃だと思う……」
「戻ったら懲戒どころじゃないわね」
「軍法会議で死刑になった史上初の『鋼の愛国者』の誕生かな?」
「ああ、整備用の機器はこっちだ。今、整備員を呼んでくる」
エメリッヒ博士は、物置の方を指差した。
「すいません、あと、水と何か軽い食べ物が有れば……」
「わかった」
物置の中に有ったのは、各種の工作機械。工作機械の種類などを見る限り、「鎧」の整備の為ではなく、「これさえ揃っていれば大概の事は出来る」と云う規準で選ばれたように思える。隅の方には、この物置に元々置かれていたらしい農具や掃除用具が有った。
「そこの椅子に座ってくれ……まず、頭から外す」
エメリッヒ博士の声だ。
古びた木製の椅子。「鎧」を着装したまま座ると壊れそうな気もしたが、実際に座ってみると、思ったよりも頑丈だった。
「そもそも、ここは、どう云う所なんですか? 金持ちの別荘だと言われても……」
「元々は、この辺り出身の実業家が、里帰り用に作ったモノだそうだ。空いてる時は、芸術家志願の若者に作業場所として貸したり、管理人をやってる、持ち主の親類が、敷地内を畑代りに使ってるらしい。その実業家が、チャユ君の養父の知り合いだったので、今は我々が借りてる」
「あと、ここに来るまで何が有ったんですか?」
「まずは、あの夜に、彼女に助けてもらって……」
「まずは、あの夜に、彼女の助けてもらって……」
同時に2人の返事。
後からはエメリッヒ博士の声。そして、前からは聞き覚えのある女性の声。
「えっ?」
「無事だったんですね、ミリセント少尉」
待て、チャユが「私の恋人が2人居る」と言ってたのは……。
「食事を持って来たぞ……ん……?」
物置の入口の辺りから、テルマの声がした。
「え……えっと……積る話は後にして、まずは、ちょっと頼みたい事が……え〜っと、ここの工作機械なら出来そうな事だけど」
私は、ロンベルグ少尉とテルマの顔を交互に見ながら、そう言った。
待て、私は、一体全体、何を慌てているんだ?