一章
一章
「ーーーー!逃げなさい!
前だけを見て走り続けなさい!」
視界がぼやけ、意識もハッキリしない中
力強く叫ぶ声がした
その声に背中を押されたかのように
少女は、走り出した
周りの音や光が一切入ってこなかった
ただ、声の通りに走る、走る、走る、走る…
どこへ向かっているのかも
今自分が何処にいるのか
何が起こっているのかすらも わからず
闇に向かって、走った
「ハァハァハァハァ……」
呼吸が苦しい、
肺の辺りに棘の塊が突き刺さったように痛い
ー決して後ろを振り返らないで…どうかーーーーが
生き残るように…無事に生きて………………
………………………………私も生きたかった…ー
泣きながら、掠れていく声を最後に
プツンと音を立て、意識が途切れていった
そこからの意識はなく
ただ、体は動き続けた
常に自分の後ろにある、死から逃げるために
止まれば死ぬ、捕まれば死ぬ、
しかし、どこへ逃げても、どこまで走っても
見えないものが追い掛けてくる
どこかに張り付いて取れない
死の恐怖によって、体が動いていた
次に意識が戻ったのは、自分が落ちているときだった
そのまましばらく落ち続けた
そこで、わずか9歳の少女は死を覚悟した
しかし、不思議なことに
その小さな体が地面に激突もせず
岩の破片に突き刺さることもせず
突然、フワッと体が一瞬浮いたかと思うと
地面らしきところに足が着いた
走り続けたこともありそのまま膝から崩れ落ち
前のめりに倒れてしまった
『生き物も寄り付かぬ、こんな洞窟の奥深くに
人の子が、一体何用だ?』
突然声がした、その声は怒っているようでもなく
怖がっているようでもなく、渋く貫禄のある声だった
目を開けようにも視界が揺らぎ
意識もままならない
呼吸は荒く、身も心もボロボロだった
ボンヤリと目に映る姿は
この世の生き物ではないことがすぐ分かった
「あな…たは…神様で…すか…?」
『儂が神だと?ハッハッハッハ、たわけ!
そんな訳があるか!儂はそんなものでは無い!』
「じゃあ…あな…たは…わたし…を……しあわ…
楽園へ…連れ…ていっ…」
『なんだ?生命の限界か小娘…………
フム、眠りについたか、まぁ
外であれだけの目に合えば、
疲弊するのは仕方のないことか。』
そう言って、その声の主は
少女の周りの何も無い場所に
瑞々しい草木を生やし
一粒の涙を落とした
『これで、回復はするだろう
しかし…楽園とはな、そんな場所があるならば
是非とも行ってみたいものだな……。』
その龍は静かに眠りについた
少女を護るように