006 『妖精と乱入』
馬場和子です。
基本的に姫さまって説明不足ですよね?
あたしがサポートしなければ!(使命感)
さて、その後どうなったのでしょうか?
――――――――――――――
■帝国歴308年 春の一月、三の日(午前)■
可愛い小人さんが現れました。
緑のプレートから『ポン』と変化して着地しました。
現れたのは緑の小人さんです。
驚いて固まっていたあたしですが……。
次々と小人さんがどこからともなく現れます。
七色でないのが残念ですがどんどん増えて7人になりました。
白い子が二人いますね。あとは黒、青、緑、黄色、紫ですね。
小人さんの大きさは~拳ぐらいですね。
小人さんたちは7人並ぶと端の子から号令を始めます。
「イチコ」
「ニコ」
「サンコ」
「ヨンコ」
「ゴッコ」
「ロッコ」
「ナナコ」
「「「「「「「七人だぜ全員集合!」」」」」」」
各自のキメポーズが決まり点呼が終わったようです。
正直、思わずこけそうになりました。
名前に果物ぽいのとコンビニぽいのが混ざってますね。
小人さんは手のひらに乗りそうな大きさでかわいい。
一番かわいいのは女の子ぽい小人さんですね。
茶色のおかっぱ頭でお人形さんみたいな目や口をしててクリクリです。
三角形に広がったワンピースもいいですね。
七人ともお揃いのグローブとブーツを身に着けています。
といっても色は違いますが。
一人摘まんで家に持って帰り飼いたいです。
といってもまだ家はありませんけど……。
そんな余計な思案をしていると、緑の小人さんが小走りでやってきて質問を始めます。
主に『どんな家がいい?』なのですが……あたし病院住まいだったので全く分からないです。
しかたがないなといった感じで妥協案として4つの選択肢をくれました。
・豪華な一軒家。中庭付き
・一軒家。別宅付き
・一軒家。風呂付
・一軒家。庭付き・ペット付き
どれが良いのかな~風呂付が凄く魅力ですねー。
でも、ペット付きにします!
「ペットは小人さんがいいなぁー。ペットは庭で飼うのですよね? それともベッドで一緒に寝ます?」
緑の小人さんが不思議そうな顔で見てきましたので、あたしは庭になるであろう辺りに目をそらしました。
「ちょうどいいペットが居る。俺っちより強いから門番にしな! 俺っちは昼寝で……忙しいんだから(ボソリ)」
ごまかそうとしてあっちを向いて小さく言いましたけど、昼寝がバッチリ聴こえているので台無しですよー。
いえ、強いとか要らないんで。かわいいのをください。
大きいのも要らないです。小さいくて可愛いのがいいです! たとえば手乗り小人さん。姫さまを真似て首を傾げてみます。
片手でも乗るかもしれません「ほら~怖くないよ~」一番可愛い子と思った小人さんがをめがけてゆっくり静かにと右手を差し出します。
この白い子は一番下っ端のつかいっぱしりといった感じです。
作業に一心不乱のため見向きもしてくれません。
そうだ!
手乗り姫さまとかなら尚良しです。
あたしは振り返ります。
姫さまがこっちを見てにこやかにしています。
乗りますか? 手の上に?
あたしは両手をくっつけて広げ差し出してみました。
手の中を覗き込みキョトンとする姫さま。
可愛いですが乗ってはくれませんでした。
きっと小さくなれないんですねー。
勿体ないです。
残念です。
そんなやり取りを繰り広げている間にも小人さんはちょくちょく姫さまの所に材料を取りに来ます、喋ってる小人さんがすごく可愛いかったです。
さすがは姫さまですよね~ポンポン材料を生み出していました。
どういった仕組みなのでしょうねー?
「見てるのも楽しいけれど、時間が掛かるので~村の案内でもどう?」
「そうなんです? 小人さんはちっちゃいのに凄く力持ちですね~」
「そういう妖精さんなのよ?」
「へぇ~小人さんというか妖精さんなんですねー。でも、妖精より姫さまの方が格が上だと思います!」
「何の格なのか分からないけれど~。早く街に馴染んでほしいから、カズコをみんなに紹介したいわ」あれ? あしらわれた?
「あれぇ~!?」急に難しい顔をする姫さまです。
「どうかしましたか?」
「ちょっとね~誰か来たみたい?」
「何で疑問形なのでしょう? 住人はあたしを含めると全員で4人なんですよね?」
「それはそうなんだけどねぇ~ちょっと戻りましょうか~」
「どこまでも付いていきます! 姫さま!」
ふふふと笑われました。
よく笑う姫さまにあたしはほっこりした気持ちにまります。
はじめの館に戻りました。
便宜上、始まりの館と名付けたのですが、それでいいとの事で確定しました。名前は付いていなかったのですね。
しまった! いっそ天使の館にすべきだったかも!
そんなどうでもいいことをあたしが思案していると――。
「新しい住人~? ほんとに~希望者なのかしら?」
なんでしょう姫さまの眉間にしわが寄っています! いけません!
「姫さま~しわになる~ぅ」
あたしは眉間のしわを右手の人差し指と親指で丁寧に伸ばします。
首を傾げてあたしの指から逃れる姫さまです。
「こそばいよ~?」
「それで何が起こっているのです?」
「えっと~。部屋にだれかはいってるみたいなの~」
「部屋って? 人生リセットする。あの部屋です?」
あの部屋とあたしが言うと「ここよ」と言いなおし見つめる姫さまです。
だだっ広い部屋の真正面に〝人生リセット〟をした、あの部屋があります。
「喜ばしいことじゃないですかー。住民が増えるのですね。でも、どんな人で何者なのでしょうね?」
「人なのかなぁ~?」
「(またまたー何をいいだしているんでしょうね。幽霊はNGですからね……)」
「幽霊はたしかに居るけど~そろそろくるわよ?」
「えっと何が!?」え!? お化け居ないのに幽霊はいるの?
「人生リセット~だったかしら? 終わったみたい」なんで分かるのでしょうか? というか人生リセットでいいんですね……。
あたしたちは扉の前で来訪者が現れるのをジッと待っています。
扉が開きました「なのよー!」大きな声をあげて小さな物体が通り過ぎていきました。
え? なに? なにがどうして、どこいった?
なんらかの物体が『ビュー』っと飛んで通り過ぎました。
飛んで行った羽の生えてる物体が館の出口の扉にぶつかって『どでん。ひらひらひら~どちゃ』落ちました。
扉から出ようとしたのか、ぶつかった挙句に床に落下して転げまわっています。
「痛いのよー! 痛いのよー!」
そりゃー痛いでしょうとも。というか喋れるんですね?
姫さまがやさしくそれを抱き上げました。
「ガルルル!」そこはあたしのポジションです! 姫さまに抱き上げられた小さな何かは姫さまの谷間で痛みを取り除こうと体全体をこすりつけいています。
「幸せなのよー!」そんなことは聞いていません! 姫さまから物体をとりあげ、あたしが抱えます。
ごしごしごし、あたしにも同じように体をこすりつけてきます。
「幸せになるのよー!」
ん? なぜか殺意が沸きました。
物体はトンボみたいな羽が合計4枚生えています。体は人間状ですが非常に小さいです。掌ぐらいで片手でも乗ります。さっきの小人さんとどっこいわっしょいです。
小人さんがどっこいで謎の物体がわっしょいですね。
意味はどっちもどっちだけど大きさが若干違うときに使います。
ほぼ透明な服を着ていますのでほぼ真っ裸です。描写事細かく書いてしまったら日記といえどもR15判定待ったなしです! 何を言ってるのかあたし自身よくわからないです。裸に驚いて錯乱しているのだと思います。スミマセン。あと、女性のようです色々と無いので……。
「痛かったのよー」
あたしに体をゴシゴシとこすりつけます。
なんなのでしょう? えっとー「あなたは何?」
「アシュリーなのよー!」
いや名前じゃなくて! 何かを聞いてます。え? 名前?
「なんなのよー!」
えっとーだめだこりゃ。姫さまどう思います?
「かわいい妖精さんね~」
だめだこりゃー。そんなこと聞いていませんけど……え? 妖精?? この子、妖精なんです? さっきの小人さんも妖精って言ってましたっけ?
「この子~ピクシーかも?」首を傾げる姫さまです。
「フィギュアか何かですか?」
精巧に出来たフィギュアが丁度こんな感じですねー。
動くフィギュアと言われても納得します。買うと高そうです!
「ピクシーなのよー!」なのよーしか言えないのーこの子!?
「つおいのよー!」
まぁいいです。で、ピクシーって何ですか?
大方の予想はついてますけど聞いておきます。
「フィギュアが何かは~分からないけど~フェアリーという種族で~妖精名はピクシー? この子ぐらいの大きさで~。羽があって~飛びます~」
姫さま半分ぐらいは説明になってませんよ? 見たまんまです! そして多方向からピクシーとやらを見るのに夢中な姫さまが居ます。裸がそんなに気になりますか? どうせスケスケなのですから下から覗かなくても見えますよね?
そして、会話が成り立つ人がいない! ダメ元で振り向くと当然ですが誰もいないです。居たらオバケですやん! 自らに突っ込みます。そういえばオバケ存在しないんでしたね。
「なのよー!」小さい手で指さしてきます「何よー!」対抗しておきます。ぶっちゃけなぜかライバルの気もします! 負けません!
でも……「ちょっと頭が痛くなるので黙ってもらってもいいですか?」
「いいのよー」腕を組んで黙り込む妖精さんです。
あれ? 意外に素直だったし。
とりあえず意思の疎通はとれるようですね。見た目もかわいいですし。
「姫さまこの子、あたしの家で飼っていいですか?」
「カズコずるいのよ~! 私もほしいかもー!」
姫さま、語尾……口調がちょっとうつってますよ……お気をつけください。
「じゃ、等価交換です。この子は姫さまに譲るので。姫さまは私にください!」
あたしの手からすり抜けるとアシュリーという名のピクシーがふわふわと飛び始めました。
「アシュリ~ちゃん? どうしてここに来たの~?」はやくもちゃん付けですか。ちゃん付けにうれしかったのか、姫さまの周りをグルグル回り始めます。というかあたしのどさくさ紛れ名案がスルーされました。
「なんかねーツンツンなのよー」ツンツン? 何のことでしょうか?
「ビンビンいっぱいなのよー」ボーリングのピンみたいな感じでしょうか?
「気になったのー」何が?
「みたかったのー」何を?
「のぼりたいのー!」どこを?
「もうすこし詳しくお願いします」軽く頭を下げて頼むことにしました。
「えっとねー」頬に指を当てるアシュリーです。
「なんかねーおもしろそうなのー!」両手足をバッと広げます。
「だからー」今度は顎に指を当てます。
「きてみたのよー!」あたしをビシリと指さします。
「だれか入っていったのよー!」急に飛び始め扉の方に向かいました。
「わー」扉の前で右へ〝ツイー〟と飛び。
「バーン」左へ〝ツイー〟と飛び。
「ん~」右へ〝ツイー〟と飛び。
「おお!」左へ〝ツイー〟と飛び。
「バタン」右へ〝ツイー〟と飛び。
「入ったのよー!」戻ってくるとあたしをビシリと指さします。
「正直、ちょっとよくわかんないです……」
このような事柄を意味不明といいます。
又は頓珍漢です。略すとトチカンです。
あたしは……今も子供ですけど、もっと小さい頃はトン・チン・カンは何かゲームの事だと思っていました。トン・チン・カン・ロン! ジャラジャラする大人の遊びです。
そしてこのような発言を支離滅裂といいます。
個人的にはほぼ丸見えなので[尻みえてる]と思っています。
ほんとに支離滅裂ですね。
「あれかな~? 建物に行こうとして~ココに入ったって事~?」
姫さまがどうにか要約します。スゴイ通訳力を発揮しましたね。
「なのよー!!」
弾けんばかりの笑顔で答えてくれました。というか本当に何か弾けてますね。金粉みたいな粉が舞い散りました。
「ピクシー粉だとおもうわよ~」
え? なにそれ?? おいしいの?? ちょっとピクシー糞って聞こえたので、味は想像したくないです……見た感じピクシー菌。すごく繁殖しそうです。
「集めて売ると大金になるとかならないとか?」結局どっちなんです……それ?
「撒くのよー!」
面白がって飛び回るピクシーです。サービス精神……なのかな?
「ところでーアシュリーちゃん? でいいのかな?」
「なのよー!!」あたしに〝正解!〟といった感じで人差し指を向けてきます。
「〝最初からやり直し〟みたいな事を言われたと思うのですけど……」
「したのよー」
「そうなんですかー。よく操作できましたねぇ」
「まほう使いなのよー」話が飛んでますねピクシーだけに……。
そうなんだ~答えになってない! って気もしますがまあいいでしょう。
「つおいのよー!」
「リセットしたんですよね? レベルはゼロからじゃないです?」振り返り姫さまをみます。姫さまが頷いています。
「つおくなるのよー!」
「はいはい。強くなりましょうね~」
色々宥めてみたのですが「見たいのよー」「あるのよー!」っとすっ飛んでいきました。
非常にすばしっこいのでとどめておくことが出来ませんでした。
どこに飛んでいったんでしょうね?
なんでしたっけ? トゲトゲ? ツンツン? ビンビン?
入ったのよー。でしたっけ?
「スペイン屋敷の事かな~?」あ~そんな感じの建物が建ってましたね。
「ちょっと見に行きましょう、でも小さいから見つけるの大変そうですねー。他の住民に会ったら何って聞けばいいんでしょう?」
「ピクシ~来なかった?」姫さまそれです! 盲点でした。まんまじゃんと思わないでもないですが錯乱していたのか頭の中に花が咲いていました……春ですしね。
「(そういえばスペイン産のインドカレーでしたっけ?)」
「家令だよ~」おっと呟きが声に出てましたね。
「ええ、カレーですよね?」
お互い少し納得できないままに出かけます。
* * *
スペインさんの家・屋敷前に到着し見上げます。外側には居ないようですね?
複合された建物が、尖がり帽子のように空に向けてつきあがり、確かにツンツン・ビンビンしてます。
「なるほどーこれを見たかったのか~」
ちょっと教会ぽいです。
例えるなら完成した桜な家族の住まいです。
といっても写真でしか見たことないですけどね~サクラダファミリア。
見上げているあたしをそっちのけにして、姫さまは建物に入っていきます。
もちろんついていきます。
「中はどんな感じなのでしょうか?
なっ! なんですかこの模様は。英語で何やらいっぱい書かれていますね。
アルファベットあるんですね。こっちの世界にも。へ~」
「カズコ~ル~ン文字~読めるの?」
姫さまがあたしの呟きを拾い上げて聞いてきました。
「いえ何を言ってるのですか?
知りませんよ?
アルファベット読めるだけなのでー。
ん? ルーン文字? この英語が??」
「英語が何か分からないけど~。そうよル~ン文字。それを覚えないと魔法は唱えれないのよ~?」
「ほほうーそれはいいことを聞きました!
あたしはもう英語=ルーン文字を習得済みです。
ということは?
あたしもしかして魔法使えますかね?」
「サポ~タ~に魔法ってあるのかしら~?」
「う゛え゛」あたしは言葉にならない声を発します。
しかし、凄いですね。部屋の平面な場所すべてにルーン文字が書かれてあります。
天才学者が思いついたことを書き止め、そこら中の壁や床で計算したらこのような乱雑性になるかもしれません。
「あたしが見た限りでは法則性が見当たりませんねー。
文法などを度外視した感じです?
ifなんちゃらとか……。
nullがどうとか……。
わけわかめです」
建物の中は小部屋が多いです。いくつもの部屋をかき分けるように奥へと進んでいきます。
ようやくここが中心ですか? 中心らしき場所は吹き抜けになっています。
吹き抜けの外周は螺旋階段で覆われています。
姫さまが上がっていきました。スカート裾を拝借します。
階段を姫さまが先に上がりますのでワンダーランドが見え隠れします……ここにあったか! 新しいあたしの世界!
グルグルと階段をあがり最上部の部屋を姫さまがノックして入ります。
部屋はちょっとした応接間のような造りをしています。ちょっとしたというのはあまり大きくないからです。こちらも小部屋です。しかし今まで通ってきた中では一番大きな部屋です
現代でいうところの六畳ぐらいの広さで正六面体の造りをしています。
(おっと、色は紫でした……あしからず)
部屋に入ると応接セットのソファーでくつろいでいる執事風の人が居ます。
机の上に陶器のテーポットが置いてありますので紅茶を楽しんでいるようです。
「ピクシ~みなかった~?」
「アシュリー殿ならこちらにおられます」
ティーカップを机に置きながら執事風のご老人が答えます。
ん? どこ? あたし目が悪くなった?
「とりあえず、お二方ともお座りになられては如何ですかな?」そういうと立ち上がり離れていきます。背中越しでは見えませんでしたがその向こうにティーカップが二つ並んでおり、その片側に探し人は居ました。
「アシュちゃん何してるの~?」姫さまがソファーに座り覗き込みます。
「あったかなのー」満面の笑みで答えを返してきます。
「そうなんだ~」姫さまは良いなーといった羨ましそうな表情をします。
「ホントもうーなにやってんですかね?」私も姫さまの反対側に座り覗き込みます。
「まぁ、よいではないですか、紅茶のたしなみ方は人それぞれです」
そう言いながらあたしたち二人にもティーカップを差し出してきます。
「それをたしなむとは言わないと思います……」
紅茶が入ったティーカップに肩まで浸かり、もたれ掛かっているピクシーがそこに居ました。
「たしかに健康には良さそうですけどねっ!」
それ、そのために用意されたわけじゃないよね?
あたしの言葉なんて素知らぬ顔です。鼻歌が聞こえるのは気のせいだと思いたいです。
「ふふふ~ん♪」ティーカップの縁に両肘をついてご機嫌の様子。
「金粉たっぷりの紅茶とか実は美味しかったりしますかね?」
「えっと~飲むの~?」
いえ……あ、はい。
価値観の違い、見解の差異を感じました……。
いえ、興味本位で言ってみたまでですよ……些事だと思いたいです。
あーでも、でも、あれが姫さまの残り紅茶なら飲みますね~興味本気です。
「そうだ! 姫さまお風呂を作って紅茶風呂に入りましょう!」
「紅茶の~お風呂? いいわよ~」了承確認! 言質を取った下衆なカズコがここに居ました。
「えっとーところでスペインさんでしたっけ? この子の言うことがよく分かりましたね?」
「いやはや、紅茶をお出ししただけですので」あーあーっ、会話してないんだーきっと。
「紹介しておきます。新しく住人になった。えっとーピクシーのアシュリーちゃん……だからアシュちゃんです!」
「つおそうなのよー!」
紅茶風呂の中でバシャバシャと振り返ります。いいんだねその場であだ名を決めたのですけれど……。
そういえば羽は? アシュリーの背中には羽がありません。
「羽、溶けちゃった?」
あたしが覗くと姫さまも心配そうにのぞき込みます。
アシュの背中には六角形が折り重なった模様が四つあります。両方の肩甲骨に二つずつ。
「パタパタなのー」
どうやら折り畳みが可能なようです。それでも濡れると思いますけど大丈夫ですかね?
「ふいてほしいのー」ハイハイ。拭きますからねー。やっぱりかー!
「それよりも色々教えてほしいのだけどー。時間はいいかな?」
「ひるなのよー」ハイハイ。いいのね。
「どこから来たの?」
「あっちよー!」方向わかっていってないよね?
「何しに来たの?」
「ごなのよー」用件は済んだのね。
「これは何本だ?」両手で3本と3本を立て聞きます。
「ろくよー」
「じゃあ~3+4は?」
「ななよー!」おっと! 以外に計算もできるようです。これは仕込み甲斐がありますね! 通訳が必要ですが頑張りましょう! と思って振り返ると姫さまが指を7本立てていらっしゃいました。
ふーっと深く息を吐いた後、ヘアバンドをたくしあげます。
「そうだ!? アシュちゃん? これなーんだ?」私は一口チーズを取り出します。
「たべたいのー」
「そうだねー食べたいよねー」若干、ニヒルな笑顔になった自覚はあります。
「ほしいのー」
「じゃあ、あたしの話をゆっくり聞いてくれるかな?」
「いいのよー」
「じゃあまず、お風呂からあがろうかー」
私はハンカチを差し出します。
「わかったのー」
いそいそとティーカップから出てくるアシュです。もちろん全裸です。たいして変わりはありませんけどね。
丁寧に吹き上げたので「とりあえず服を着てください」
「ハイなのー」いそいそと着替え始めました。
姫さまはスペインさんにチームを申し込みしているようでしたので便乗することにします。
「はい、アシュちゃんチームを組みましょうねー」姫さまに視線を送ります。
「チーム」姫さまがアシュの髪を拭きます。
「なんなのー」小さい目をキョトンとさせています。
「それ承諾してねー」
「なんなのー」ちゃんと出たかな~と問うと「でたのー」と元気よく答えてくれます。
「それはチームというのよー」
「おいしそうなのよー」
経験値的においしいといいねーと同意だけしておきます。そしてアシュにチーズを渡します。
アシュリーは両手でチーズを抱えかぶりつき始めます。あたしはそんな様子を横目で見ながら「チーム ステータス オープン」と呟きます。
不透明なパネルが表示されます。
__________________
ビクトリア[レベル:10 HP:30 SP:20 MP:20 ]
馬場[レベル:0 HP:20 SP:10 MP:10 ]
スペイン[レベル:15 HP:35 SP:25 MP:25 ]
アシュリー[レベル:0 HP:1 SP:20 MP:40 ]
__________________
「え゛」再び声にならない音を発します。
「ななな……」
「なななよー!」ちゃいます! HP1なんですけど……。
「いちばんなのよー!」スゴイけど。一番ですけどー。世界中でダントツかもですけど~むむむ。
「姫さまこれはどういうことでしょう?」姫さまも首を傾げています。
「アシュちゃ~ん。言葉を真似てね~」姫さまが子供に言い聞かせるように話し始めます。
「まねるの~!」両手で大きく丸を作ります。それはまるなのーだと思います。
「チーム オープン」
「チーズ~オーブンなの?」美味しそうだけど違います!
「チーム。オープン。」姫さまがゆっくりと伝えます。
「チーム~オープン?」
「次は~」
「次は~なの~」
「表示対象 変更 チーム」
「ひょうじたいしょう~へんこう~チーム」
「カズコ。アシュリー ステータス オープンって言ってみて~」はい。
「アシュリー ステータス オープン」
新しくパネルが開きアシュリーのステータスが表示されました。
__________________
◼︎ステータス◼︎
【名前:アシュリー 種族:ピクシー 年齢:■■■ カルマ:12 職業:魔法使い レベル:0 】
【HP:1 SP:20 MP:40 】
【筋 力:1 】
【耐久力:1 】
【器用度:10 】
【敏 捷:20 】
【知 力:10 】
【感 性:10 】
【精 神:10 】
【魔 力:20 】
【魅 力:1 】
【 運 :20 】
【特 性:円転滑脱】
【スキル:未選択】
【武器:無し 装備:天使の羽衣 】
__________________
「あれ? なんで年齢見れないんでしょうか?」
意識的に見せたくないところは隠せるみたいよと姫さまが教えてくださいます。
「レディなのよー!」あざといのよー!
「でも、おそらく年齢は三桁ですよね?」
「ひどいのよ~」姫さまの口調が混ざっていますよ?
「なのよー!」呟きが聞こえたのか言い直すアシュリーです。
スゴク能力値がかたよっていますね。見た目通りに力や耐久力が無いんですね。
天使の羽衣ってその透明の服ですか? スゴイ名前です。
初期装備にしてはズルいアイテムな気がします。
「そんなのは~ないとおもうよ?」姫さまが首を横に振ります。
「(え!? だって普通は杖とか持ちません? 魔術師ですよね?
そして武器無しって……)」
「おもいのよー」え?
「おっきなのよー」え? もしかして!
「姫さま。初期装備って人間サイズしか対応してないんじゃ?」
「そうかも~」あとで見に行きましょうか。
「アシュちゃ~ん。あとで都市にいく?」
「え゛」三度目の声にならない音を発します。見に行くとこそこ?
「連れて行くんですか? HP1ですよ?」何を言ってるのでしょうか? 姫さまは……。
ため息を吐きながらあたしはヘアバンドをもとの位置に戻します。
――――――――――――――
■後書き■
現在の人口:5名
やりたいことリスト(今日の達成した出来事)
・達成なし(姫さまと一緒にお風呂に入る言質を取る)
正直に言います!
ヤバイ子が来ました……カワイイです。