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004 『選択と入力』 春の一月、三の日

 馬場和子です。


 驚いたことにぐっすりどころか丸一日も寝ていたようです。


 冬眠して月日が過ぎている浦島太郎状態ではありませんよね?



 とりあえず白い髭が生えていたりということは無いようです……。



 ――――――――――――――



 ■帝国歴308年 春の一月、三の日(朝)■


 さて、そんなこんなを考えていると村らしき? 建物が見えてきました。

 大きな門と館。左手に教会みたいな何か……。


 凄いです!

 何が凄いかって!?

 アーチ状の看板が飾ってあります。そして、それよりも何よりも歓迎の言葉が凄いのです。

 __________________


 ようこそ始まりの街へ


 ↓初めての方はこちらからどうぞ↓

 __________________


 天使さま……神神詐欺もですけど

 村村詐欺もどうかと思います。

 だって、()って書いてますよ!

 大丈夫ですか?

 早くおっきくしないと過大広告で訴えられますよ!

 凄いというよりもマズイですね。


 あたし、癖で何でも凄いで反応してしまいます。


 もし凄いを全てヤバイで対応したら?

 ヤバイ・ヤバイばかり言っていると本当にヤバイの人になってしまいます。

 じゃあスゴイ・スゴイばかり言っているとスゴイ人になれますかね?

 そうです、どうせならスゴイ人を目指します!

 そして言わせたいのは「ウマイ!」です。



 一軒家が3つぐらい並びそうな川幅に橋がかかっています。

 橋を渡ると鉄の大きな門と小さな扉の2つがありまして。

 あたしは小さな扉から入って欲しいと言われました。


 天使さまは鉄扉の門を開けて入って行きました。

 なんか自動ドアみたいでしたが『ゴゴゴ』と大きな音を立てていました。

 外壁もないのにその門は要りますか??


 あたしは右手の方にある小さな扉へ向かいます。

 こちらの扉は館らしき建物の勝手口の装いです。

 こちらも目の前に立つと扉がひとりでに開きました。


 これ! 来た人ビックリしますよー。

 ……スゴイですけど。


 さて。

 取り敢えず中へと入ってみましょうか。

 今日からここがあたしの住む世界(ワールド)

 頑張らないとですね!

 両手で頬をパンと叩き気合いを入れました。


 小さな扉を(くぐ)ると立方体の部屋で、鮮緑の光が部屋全体に灯ります。

 真正面に寝台があります。ほかには~と見渡すと正面の扉に何やら書いてありました。

[服を脱いでそこに寝るように]と書いてあります。


 脱ぐんですか? 服全部です?「パンツぐらいは良いですよねー?」誰ともなしに呟きます。

 さすがに全裸はどうかと思います。ちょっと心配になってきました。風邪ひいちゃいませんかね?


『まず、そこにある白い粉を全身に塗り身体を清めてください』

『黄色い液体と透明のオイルでお肌を(うるお)してください』

『次は養分を行き渡らせるので(クズ)を付着させてください』

『最後に熱い油のお風呂に入ってください』


 な~んってよからぬ妄想をしてしまいます。


 まさかとは思いますが食べられちゃったりしませんよねー?

 生き埋めの次は油風呂とか~もう地獄の一丁目……いや二丁目ですよ?

 どうせなら天国へ行きたいです……天ぷらで無く。


 天使さま・執事さま。どうか、あたしを食べませんように!



 あたしは意を決して麻の衣服を脱いでいきます。

 そろそろ上の下着も欲しいです。

 いよいよとなればヘアバンドをチチバンドに代用するしか……そう思いながらヘアバンドを外します。

 最後にスカートを脱ぎ、あられもないパンツ姿になります。

 パンツもかわいいのほしいなぁ~そう思いながら寝台に寝転がって目をつぶります。


 天使さまの話では、こちらの街で過ごすための身体作りをすると仰っていました。

 マッサージ師とか、もし来るなら女の人でお願いします!

 もしくは恥ずかしくはありますが、いっそイケメンのお兄さんでー!

 胸の前で両手の指を組み合わせ祈ります。

 主に天使さまに!



 寝台に横たわり目をつぶっていると、頭の中に静かですが声が響き渡ってきました。

 神様の声ですかね? いやいや女性の声ですので転移の時の声ではありません。

 天使さま? ……でもないようです。

 誰なのでしょうか?


『始まりの街にようこそ』


『新しい人生を始める為に』


『名前の訂正』


『今までの職業・経験を忘れ・記憶以外のすべて〝最初からやり直し〟を開始します』


『よろしいですか?』



 淡々と説明されました。目を開けて見ると真っ暗闇になっています。



『よろしいですか?』



 せっかちさんですねーもう!

 最初からやり直しという言葉が強調されて聴こえた気がします。

 ん~便利屋の経験が失われるのはあれですが、たいして積み上げた訳ではありませんし……。

 また便利屋稼業が出来たら嬉しいのですけどねー。

 あたしは生きる事で誰かの役に立ちたいです!


「オッケーです、OK!」


 反応がありませんねー。なぜでしょうか?


「イエスです! 神様・イエスさまではありません! はいです。ハイ!」


 なんだか身体に浮遊感が湧いてきました。やっと通じたようです。よかったです。

 目をつぶってもないのに辺りが全く見えなくなっていきます。

 視覚に限らず感覚の全てで暗闇からさらなる漆黒へと(いざな)われ無を感じます。

 手や足の全身の感覚はそのままあるんですが、自分を触ることも出来なくなっていました。


 おそらく精神体というやつですね。


 転移する時にも体験済みなので平気です。大丈夫!


 大丈夫?

 これ他の人、驚いて心臓止まったりしません?

 精神体だと心臓の感覚が無いから大丈夫かなー?

 イヤイヤ、いろんな意味で説明不足というか前振り必要なんじゃ――。


『――名前を決めてください』


 あたしの文句を(さえぎ)るようにして声がかけられます。そして目の前にほわ~りと薄い板が現れ始めます。

 どうやら操作パネルのようですが指も無いのに操作できるのです?



 半透明の薄い緑色をしたパネルです。両手で掴まないと重たそうですが、持つための腕がありません。

 そう思いましたが意外にも意思を込めると持てました。そして重さは感じませんでした。ふわふわーでぷわぷわーです。


 そして更に鮮緑で浮かび上がった文字が目に飛び込んできます。


 パネルが現れたのに驚いてしまったので。名前を決める? 変更できる事実に驚くのが遅れてしまいました。


 変えれちゃうんです? さすがです!


 といっても、あたしには市民権どころか名前すらも分からないままなんですけどねー。

 お墓には丸太を十字にしただけの墓石が立てていただけですし。

 あの時は――生き返った! ゾンビだって騒がれるのも怖かったので逃げ出しちゃいました。

 この体の持ち主の記憶もありませんからね……。


 では改めて馬場和子に戻りましょうか。


「あッ!」


 名前の入力欄に……名前が書いてあります……馬場和子って!?


 神様のイカした配慮でしょうか? (いき)な計らいに感謝です!


 でも、漢字入力がありません……カタカナ入力のみのようです。

 確かにこちらの人々は名前カタカナですけどもー母国語が日本語と同じなのですから漢字も用意しておいていただきたいものですね! 何か入力方法でもあるのかしら?


 とにかくカタカナじゃなくて良かったです!

 カタカタだとちょっと困った感じになるんですよね~あたしの名前ってば。


 バカ バズコとか……。

 学校には行けませんでしたが病院内の遊びに来てくれる人たちによく言われたんですよねー。

 他にはバカコとも呼ばれましたねー。

 あたしのどこにバカ要素があるんでしょうねー? 馬鹿? 馬かな? 馬か……不思議です。


 神様には改めて感謝をささげるために、膝をついて〔精神体なので付く膝ないんですけどね〕祈ります。

「家()は寝て待てと言いますし。ついでに寝てみましょう」寝るにしても寝てるんだか立ってるんだか分からない状態ですけどもねー。


『馬場和子でよろしいですか?』


「ちょっと待って!」

「ちょっと待ってくださいよー。たしかに馬場和子でいいんですけど~!」

「寝ませんから待ってくださいーッ!!」いや~既に本体は寝たままの気もしますがー。



『名前を決めてください』



 せっかちさん過ぎます。

 感動に(ひた)る時間ぐらい欲しいものです。



 嬉しくて[馬場和子]を改めて一字一字と見つめます。

 馬・場・和・子。

 一文字ずつ指をさして確認しました。



『名前を決定します。よろしいですか?』



 [はい]と[いいえ]が表示されましたので[はい]をなんとなくで触りました。



『新しく職業を決めてください』声と共にパネルが次の表示に切り替わります。



「職業選べるんです?

 なりたいものになれるんですかー?

 やりたい事が出来るって言ってましたもんねー」

 

 そうですね~。

 あたしは清く正しく美しく! そんなキヨコに、違ったカズコになりたいです!


 職業の項目が表示されました。

 職業のリストが表面に浮かんでいます。


 ちょっと天使さまってば、大丈夫ですか?

 ▽の表示がされてあり。下の方にもスライドシフトで何ページかありますけど……。

 これってこっちの世界の人、操作分かるんですかねー?

 というか文字が読める時点で大丈夫なのかな? 不思議だけども仕様的なやつかしら?

 自然とわかる的な?

 色々と疑問が尽きませんが職業のリストを見ることにしました。

 リストは元の適正が高い順で並んでいるようです。

 あたしにも出来そうな感じの職業が主に上方で目に付きます。

 改めて名前順などソートを出来ないかと探してみましたが項目は見つけられませんでした。

 モテる職業順とかあるなら並べてみたかったですー。

 そういえば! モテって何が持てるんでしょうね? 素朴な疑問です。


 よくよく見ると[運び屋見習い]という職業もありますね。すごく持てそうです。モテ職です。

 昔は素敵な男性に持ってもらいたかったです。お姫様抱っことか最高にモテ期ですよねー。

 病院の『せーの』は除外です。

 他にモテそうな職業はと……。


 農家とかもありますねー。でも重たいものを持たないといけないイメージがあります。重たい職業です。そして絶対必須の職業ですね!

 人口が増えて農家の人や牧場の人が増えるといいですね。


 お! 便利屋みたいな職業もありました!

 よかった[サポーター]ですって。


「くふふ」


 思わず声に出して笑ってしまいました。

 スポーツの応援する的な職業じゃないですよね?


「フーレ。フレフレフレー♪」


 他にはどんな職業がありますか?


 これらは必要な職業のでしょうねー。

 戦士とか神官とか魔法使いなどがあります。

 天使さまったら、闘う前提ですか? 別世界ですしねー。

 そういえば魔界ゾーンでしたねこちら側。大丈夫かなぁー? 魔物とか出るんですよね?

 噂に聞いただけで今までは見る機会がありませんでした。

 やっぱり戦わないといけないのですかねー?


 でもまあ、私がやりたいのは便利屋なので。

 サポーター・運び屋(見習い)・商人(見習い)。この辺りが希望に近いようです。

 殆どの職業は見習いって文字が付属していますねー。


 さすがにサポーターに見習いは無いようですが。サポーター見習い……。

 保護用具を付ける手伝いをする人ですか? 無くていいです!


 取り敢えずサポーターです。特技は整理整頓ですって。

 応援とか舞いとかではないので大丈夫でしょう!



『職業を決めてください』



 ホントせっかちさんですね!

 よし!

 では行っちゃいましょうーー!!


[サポーター]を選択します。


『サポーターでよろしいですか?』と聞かれましたので[はい]を押しました。


 身体がふんわりと降ろされた感じがします。

 辺りが明るくなりましたので改めて目覚めます。

 起き上がってみましたがパンツ一枚のままでした。

 コレって必要なことがらだったのですかね?


 誰得? って感じが否めないです。


 その後、誰にも何も言われませんでしたが、とりあえずは服を着ます。

 恥ずかしいです。また脱がなきゃーとかにならない事を祈ります。

 えっと~主に天使さまに?



 いつのまにか服の横に初期装備っていうのが置かれていますね。

 なぜ分かるかって?

 書いてありますもん! また扉にデカデカと表記されています。

 デジタルのホワイトボードみたいな機能でしょうか?

[初期装備を装備してください]


 ■マジックポーチ■

・アイテムを複数収納出来る個人専用ポーチ

・個人の魔力で作られている

・注:本人が死亡すると無くなります


 ■市民の腕輪■

・情報開示や手続きに必要専用装備

・街の出入りにも必要

・大変頑丈に作られている

・注:壊れたら修理が必要です


 よく分からない点も多くありますが。ポーチを掴んでみます。こちらの方が可愛かったので手に取りました。

 女性が良く持ち歩いている化粧ポーチぐらいの大きさです。

 残念ながら白無地ですのであとでお絵描きでもしておきましょう。

 色々触っていると身体にくっつく機能がある様でどこにでもピタリと張り付きます。ツルツルなのにくっつき虫みたいです。面白いです。

 最終的には腰にくっつけました。

 スゴイ機能ですね。どうなっているのでしょう? 摩訶不思議です。


 続いて腕輪ですね。

 こちらはゴテゴテと表面に模様が描かれています。

 あまり好きな感じじゃないですねー。

 そもそも手首用でなく腕周り用です。

 それでも大きいので男性用ですかねー?

 男性用でも大きい気がしています。


 どう考えても大きいですよね~。

 腕回り? ふくらはぎ? 太もも?

 あたしは太ももで()()()()でした。

 スカートの中に隠れますし丁度いいと思います。



 結局のところイケメンがマッサージに来るような事もなく、ましてやお迎えが来ることもありません。

 更にはここから出なさいといわんばかりの扉が登場しています。


 たぶん、この扉から出ないとお話が進まないのでしょう。

 何のお話かって?

 もちろん天使さまとあたしのうふふな物語です。

 そろそろ突っ込み役が欲しくなってきました。あたしの独り言に万事対応してくれる素敵な相方(天使さま)を大募集中です!


 天使さまは表で待ってますかねー? 行ってみましょうか。



 居た居た! ただいま戻りました。


「ただいま……かな?」


「おかえり~」


 いい笑顔で出迎えてくれました。

 どうだったか訊かれましたので、服を脱ぐのが恥ずかしかったと答えたら。

 そのままでも良いのに~と言われました。


「じゃあーなぜ書いた!! プンスカ」


 ご立腹のあたしを見て天使さまがかわいいと言ってくれました。

 あ、ほめられ慣れていませんのでご勘弁ください。

 天使さまには負けますよと答えておきました。戦闘力が一桁ぐらい違います。

 いえ、二桁かもしれません。

 ここでいう戦闘力とは美しさや可愛さなどの女子(りょく)バロメーターのことを指します。完敗です。天使さまと戦っても勝てる気がしないですからねー。


 次回からは着衣のままにするそうです。


「だからなぜ書いたぁ~」脱力して諦め気味の突っ込みです。



 天使さまにサポーターを選んだ事を伝えたら喜んでくれたので、それが何よりでした。



 ――――――――――――――

 ■後書き■

 今日の達成した出来事

・特になし(でも新しい職業のサポーターになった)


 正直に言います!

 便利屋に未練がある……カズコです。

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