036 『偽りと統治』 春の一月 二十一の日
■帝国歴308年 春の一月 二十一の日■
夜更けになりヒロキさんが目を覚まします。
「起きられましたか?」
ヒロキさんが起き上がろうとして失敗をしました。
がっしりとして筋肉質なその体を姫さまとあたしの二人がかりでどうにか起こし上げます。
「ここは?」
「そうか俺は……負けたのか」あれを使っても負けたのかと聞こえました。
「紙一重の勝利です。あなたは本当に人間ですか?」
「それはコチラの台詞だと思うのだが?」
「誰の事でしょう? か弱い女子供ばかりですけど?」
「こんな女子供ばかりの村に軍隊派遣とか横暴ですよね?」
「なんであんなものがここにあるんだ?」
「ああ……あれば阿呆像です」
「元守護神らしいですよ……たしか」
「元? たしか?」
「お前たちはなんなんだ?」
「このむらはなんなのだ?」
「よくぞ聞いてくれました!」
「ここがカズコワールド、イエあたしたちの世界ですーーと言いたいところですが。ここは離れの村です。あたし達はここに住んでいません」
「よくわからない事ばかりだな……」
「それはコチラも同じですよ。何がしたかったのですか?」
「俺が命じられていたのは一つ目がイスターの身柄の確保。二つ目は人材の確保だと聞いていた……」
「イスターはともかく、人材の確保が何を示すのかヒロキさんは知っていますか?」
「いや、人手の欲しがる都市に移住させていると聞いている」
都市の機能。魔力供給についてヒロキさんに語ります。
「そんなはずは無い! 俺自身で見送りもしたのだから……」
「欺かれましたのでは?」
ヒロキさんどうしてフォルマッジさんに従っているのですかと尋ねました。
そのあたりの事をフォルマッジさん自身が知らないのですよね~それに彼は本当にヒロキさんを慕っている節があります。
返答は領主の策略に嵌り心を殺して従っているとの事でした。
具体的な内容は住んでいる街で嫁と娘が監視され脅されているのだそうです。
フォルマッジさんはこのことをと尋ねますが伝えていないので知らないだろうと。
もう少し掘り下げておかしなことや疑問に思うことが無かったかを聞き出していきます。
最近、家族に会いに戻ろうとすると買い物ついでにこちらの都市に来たことがあり。
留守番の為、娘に会えなくて残念だった事を話してくれます。
そういえばと思い出した顔でその後の手紙は娘の事がおざなりだった気がすると思い越し始めます。
娘さんについてどのようなことが書かれていたのか聞きなおすと『元気』とかそれっぽい言葉が書かれていたこと思い出し始めます。
「まさかとは思うのだが……」
おそらく娘さんを拉致されて奥さんは縛られているのではないでしょうか――そう思います。
「もしかするとそういうことかもしれませんね」
「貴方に頼みがある!」
ヒロキさんが足を組みなおし平伏を始めました。
日付は変わっていますが本日あたしを含めて何度目の土下座でしょう……。
「あらたまって何でしょうか?」
「俺の罪は償う!」
「……だから」
「都合のいい話で申し訳ないが俺の家族を救い出し匿ってはもらえないだろうか?」
もう便利屋ではないですけど言い放ちます。
「モチのロンです! 便利屋カズコにお任せを!」
「私たちはそのために動いているのよ?」
ヒロキさんにウィンクをされる姫さまです。
あたしにだってしたことないのに~。
「命をとしてあなた方に尽くそう!」
「あーそうだ! ヒロキさん。一つだけ約束してください」
「何でしょうか?」
「貴方のことなので大丈夫だと思いますけども命を粗末にしないでくださいね」
あたしはへたっぴで初めてのウィンクを決めておきます。
「さあ、皆さん! 勝負パンツは履きましたか? 行きますよ!」
あたしは立ち上がり振り向くと一同に声を掛けました。
一同〝どこへ?〟といった感じでポカンとしています。
なぜでしょうか? 今の話の流れ聞いていました?
「決まっているじゃないですか、都市にですよ」
「え? 何でみんな〝やり切ったよなー〟みたいな顔でいるのですか?
攻めてきた落とし前はつけてもらいましょう!」
フォルマッジさんが体を小さくして震えていますね。
落とし前つけるのは貴方じゃないですよ。
都市にです。
強いて言うなら貴方のお父様に責任を取っていただきましょう!
失敗した子供の尻拭きをするのは親の務めだと思いますよ?
では! 向かうは都市です。
フォルマッジさんは〝人生リセット〟を行ってから追いかけてきてくださいね。
事情の呑み込めないフォルマッジさんに始まりの街の事を話しました。
特に〝人生リセット〟についてきちんと説明し実行を促します。
我々は先攻して移動をする事をお伝えしましたが、それに反対の声が上がり始めます。
〝ケツは熱いうちに打て〟と聞いたことがあるのですけどと伝えると〝熱いのはカズコだけ〟と姫さまに落ち着くように諭されます。
お言葉ですが姫さま! あたしのお尻はそんなに厚くないですよ? そりゃ~胸よりは……。
『ひひふ~ひひふ~』深呼吸をして熱を冷まします。
本当はこのまま夜中に攻め入るのも楽しそうだったのですけどね。
他にも〝心の準備を知ってるか?〟などの苦情が多数寄せられたのではやる心を落ち着け次の作戦を皆様にお伝えしました。
「黙っていてすみません。忙しくてそれどころじゃなかったのですよ?」
白々しくとぼけたいいわけをしてみました。
鎮圧後、元々都市に向かう予定を姫さまにもしていなかったので怒られました。
怒られたというか盛大に拗ねられました。
プンプン怒る姫さまが可愛かったです。アッ、抓らないでください……。
フォルマッジさんが始まりの街に向かいますので、その往復の時間を利用して残りの皆様にはお休み頂く事にしました。
「俺だけ徹夜の気がするのだが……」
「それがどうかされました?」
あたしは黄色いポーションをフォルマッジさんに手渡します。そしてポーションの効能を伝え飲ませると送り出します――まだ何か言っていたようですけど気のせいでしょう。
「確かにカズコは鬼だ……」
* * * *
夜明けと共にフォルマッジさんが戻ってきましたので、今度こそ都市に向かいましょう。
あたしはアシュリーを連絡用に飛ばします。
「びゅびゅんよー!」
飛び去ったアシュリーは山の向こうに消えます。
「カズコ? あっちはダメなんじゃ?」
「もう話はつけてありますので大丈夫です」
『ズシンー!』『ズシーン!』と派手な音と共に大きな縦の振動が近づいてきます。
「バカバカ!」「なんじゃこりゃー」「やべぇやべぇ」「逃げろ逃げるんだ!」
大慌てになる一同です。
だから言ったじゃないですか~あれはベヒモスですよと……山賊の皆さんには言ってませんでしたね。
「あれはあたしが呼んだので大丈夫ですよ?」
あたしは姫さまを真似て笑顔で首を傾げました。
山が近づいてくるのを見ながら一同はあんぐりと口を開けて固まります。
「俺達も聞いてません……」騎士の皆様方もあっけにとられて呟きます。
フォルマッジさんは「俺は死にたくない……俺は死にたくない……」と呟きながらうずくまっています。
もうフォルマッジくんでいい気がしてきました……。
「皆さん大丈夫ですよ! アレにはちょっと頼みごとをしてただけなのです」
「用無しになっちゃったので、タクシー代わりに使っちゃいます!」
「タクシーが何のことだかわからないけど、すごいわね~」
アシュリーがあたしたちの遥か上空で飛び回っています。
ベヒモスの身体が近づいてくるとあたしたちの前に沈み込みました。
ここから登っていいみたいですね。
「ちょっと頑張ってよじ登りましょうか! 登ったら落ちないところを探してくださいね」
各自が慌ててベヒモスに登り始めます。
フォルマッジが俺は嫌だと駄々をこね始めたのでそこに居ると踏みつぶされますよと声を掛けるとものすごい速度で駆け上がりました。
ここと都市の間に今ベヒモスが存在しています。
今からグルリと方向を変えていただきますのでくれぐれも落ちないようにしてくださいね。
「アシュリーお願い!」
「なのよー!」
アシュリーが山の頂上の頭っぽい所に飛んでいきグルグルと旋回を始めます。
それに合わせるかのようにベヒモスは立ち上がりその方向に旋回を始めました。
「あの子、何気にすごいのね?」
「姫さま! 褒めるのならあたしにして頂きたいです!
あの後、何度も往復して説得したのですよ~」
「それだとアシュリーよね? 往復したの……」
冷ややかな視線があたしに向けられてきます。
なるべく受け取らないようにゆっくりと視線をそらしました。
「ええまあ……そうとも言いますね」
その後、前後真逆に移動を終えたヘヒモスが沈み込みます。
あたしはベヒモスさんに相談を持ち掛けました。
そして逆に2つの依頼を受けたあたしはベヒモスさんの背中に住むドワーフさんたちの受け入れを了承しています。
あとこの場所にベヒモスの抜け殻(仮宿)を放置するらしいので、その際に始まりの街と都市の直線を埋めずにトンネル状にして頂く事もお願いしています。
代償はゆっくり寝れる代わりの仮宿らしいのです……。
小さいところでひっそりと休眠した居そうなので硬くて良さそうな所を伝達しておきました。
「皆さん、一度限りのタクシーアトラクションいかがでしたか?」
「アトラクションが何かわからないけど次は遠慮したいわね~」
姫さまの答えに〝うんうん〟と一同が体ごと縦に頷いています。
ちょっとした巨大なメリーゴーランドのつもりだったのですけどね。
街に帰ったら〝やりたいことリスト〟の達成に追加しようと思います。
ベヒモスから降り立ち都市の裏口に向かいます。
何やら大騒ぎになっていますね。
「フォルマッジさんうまくやってくださいね!」
シスターの代わりにあたしを伴って都市に入ってください。
みなさまも姫さまを連れて随行してくださいね。
騎士の方々に声を掛けます。
あたしと姫さまは両手を後ろに回すとロープで括られました。
優しく掛けられたロープが今にも外れそうなので自らの手で挟み込み固定します。
裏門がフォルマッジさんの掛け声で開かれます。
拘束したあたしたちを見せつけて門をくぐりました。
下町では歓迎されませんでしたが貴族街へ入るとフォルマッジさんがもてはやされ始めます。
苦い顔でそれらを受け止めるフォルマッジさんですがコレも一種の罰かもしれません。
そのフォルマッジさんはあたしたちを場内に案内すると離れます。
残りの騎士たちとヒロキさんに伴われて領主の前に進み出ます。
室内の脇に居た衛兵はあたしたちに正座を強要してきました。
強制的に膝をつかされ一部の騎士たちが少しざわつきます。
あたしはともかく姫さまをこのような目に遭わせてしまったのは失敗でした。
屈辱に歪んだ顔で反省しながら姫さまを見ます。
しかし、姫さまは予想に反してワクワク顔です。
どうもこの先何が起こるのか興味津々で仕方ないようです。
「ほほう~こいつがイスターか。まだまだ子供じゃないか~」
「しかし。こっちのお嬢ちゃんは色気があっていいのう~」
領主の目線があたしの胸を一瞥すると、姫さまの顔や胸やお尻で何度も往来します。
オッケーこの男は私刑だ!
絶対に!
駆逐する!
あたしは心の中で叫びました。
その後、いい所に案内してやろうと地下の施設に引き立てられます。
牢屋ならいざ知らずこの領主は権力を見せつけたいだけのタイプのようです。
「ここが何の施設か分かるか?」
「ククク」二重顎に手を当てて笑う。
「お前たちに二つの選択肢をくれてやろう」
右手を前に差し出すとⅤの字に人差し指と中指であたし達を示します。
「一つは我の可愛い人形として仕える事」
「二つ目は都市の為に魔力供給の人形になる事だ」
「どっちも人形じゃないですか! 冗談じゃありません」
「我自ら可愛がってやってもいいんだぞ?」
「汚らわしい! 遠慮させていただきます」
「そうですよ! 姫さまを可愛がるのはあたしだけです!」
「おとなしく娼婦にでもなっていればいいものを~」
「丈夫でもないので承服できませ~ん」
あたしは親父ギャグで煽っておきました。
「お前たちこいつらをこの中に収容してしまえ!」
領主が声を荒げて荒事を支持を出します。
先ほどの衛兵が即座に扉を開きあたし達を突き飛ばします。
目の前には無数の長細い透明の筒が並んでいます。
筒は黄緑の水溶液に浸されており気泡が所々に上がっています。
ヒロキさんが慌てて奥の方に走っていきます。
「ヒロキ! お前は入るな!」
ピタリと立ち止まりヒロキさんは兜の機能にある顔の面を閉じて戻ってきます。
先の戦いで角は折れていますので鬼になる事はありません。
装着された仮面は恐ろし気な意匠をしています。
しかし中の表情はもっと恐ろしいものになっているでしょう。
「(ヒロキさん我慢してね)」
すれ違いざまに声を掛けると少し頷いたように思えます。
ヒロキが戻ってきたのを見計らって領主が口を開きます。
「さっさとこいつらをここに漬けこんでしまえ!」
領主の周りにいた兵士たちがあたしたちのもとに急行し押さえつけます。
「あたしたちは漬物ではありません!」
「特にこっちのちっちゃいのは漬物石にもならんわ~」
ブチリとあたしの中の何かが切れた音がしました。
「誰がちっちゃい胸ですって!? 人の胸をけなすほどの器量が貴方にあるんですかねぇ? どっちの胸が優秀か勝負をしましょう。ええ! この無い胸を貸して差し上げますとも! 戦いましょう正々堂々と戦争です!」
「カズコの逆鱗はそんなところにあったのね~。でも、これは私の役目だし。言わせていただきますね~」
「始まりの街、盟主として。都市の盟主〝スタジオニ・クアトロ〟に宣戦布告をします」
『始まりの街より戦争が申し込まれました』
大きな音でアナウンスが流れます。
今頃、始まりの街でも〝申し込みました〟とアナウンスが流れている事でしょう。
「馬鹿な!? 戦争だと! いや、馬鹿め! 勝ち目など無いに等しいのにこの馬鹿どもめ」
「我の持てる軍隊のすべてで貴様らを倒してくれるわー!」
「では、お受けになるって事でよろしいですか?」
「もちろん受けるにきまっておろう~いただけるものは全て我の物じゃ!」
『始まりの街との戦争を受諾しました』
『戦争を開始致します』
「あーそうなんです? ではこの都市戦争の勝利条件ぐらいは知っていますよね?」
「知らぬはずもあるまい! 我は領主だぞこの都市の盟主として引き継いでおるわ!」
「じゃあ言ってみてくださいな」
「まぁいいであろう」
「一つ目が相手の盟主を倒す事。殺してしまってもいいし降伏させてもよい」
「二つ目は侵略し相手の都市機能の旗を奪うことだ」
「そうですか……。で、貴方はどちらを選ぶのです?」
「決まっておろう、戦争が始まったことによりそちらの姫とやらに盟主の旗が見えるわ!」
「おい、娘! 降伏するなら我の嫁にしてやってもいいぞ?」
「子が子なら親も親ですね……」
あきれ返った顔になる姫さまとあたしです。
あたしと姫さまは縄を解いてヒロキの方に離れます。
「馬鹿な! なぜ縄が解ける!」
「なんでお前たちがそこに隠れる!」
領主はヒロキを指さしてあたしたちを睨みます。
「一つだけ言わせていただいていいですか?」
「畜生め何だ言って見ろ」
「馬鹿じゃありません馬場和子です!」
『始まりの街が都市の核を占領しました』
『都市の敗北になります』
「ハァ?」
~~ココで区切って、フォルマッジに切り替える?閑話でいいかな~~
領主は間抜け顔になりアナウンスのした上方をみています。
そんなところに答えは書いてありませんよ?
「何が起こっている、なぜ敗北のアナウンスが流れるんだ!」
「あたしたちが二つ目の条件を達成したからですよ?」
「ど……どういう、ことだ……我に……」
領主が剣を抜き姫さまに切りかかろうとします、ヒロキが鉄のガントレットで剣を弾き飛ばします。
「邪魔をするなヒロキ! こいつを殺せば我の勝ちじゃ!」
素手で飛び掛かろうとする領主をヒロキが止めに入り、領主が来る勢いを利用して首を吊りあげます。
プロレスでいうネックハンキングですね。でも片手でできましたっけ?
そして釣り上げたあと領主を真下に叩きつけます。
えっと~喉輪落としでしたっけ?
生きてますか~。
「ヒロキさん殺生はダメですよ」やりすぎです。
「つい……」
「ツイで倒していたら切りがありませんよ?」
領主が地面で伸び散らかし痙攣をしています。ひとまず生きてはいるようです。
ヒロキさんが叩きつけたときに体重を掛けていたら死んでいたのではないでしょうか?
格闘技も出来るみたいですね。
他の兵士たちは戦意を失いただ立ち尽くしています。
ヒロキさんが部屋の奥に走り出しました。
あたしと姫さまも付いていきます。
奥の方にあった筒にヒロキさんがしがみつきます。
小さなお子さんが溶液の中で浮いています。
この装置を解除したいのですがそれらしき機能が見当たりません。
姫さまが言うには核によって制御されて居るであろうの事です。
部屋にフォルマッジさんを筆頭に盗賊団の方々もやってきました。
「フォルマッジさんよくやりました!」
「俺は案内された通りに進んだだけだぞ?」
ここの権利を引き継ぐために必要な処理でしたのでやっていただかないと困るのですよ。
あたしは姫さまに後処理をお願いします。
「姫さま行ってきていただいていいですか?」
案内はフォルマッジについてきた盗賊団にお願いしましょう。
姫さまが都市の核へと向かいます。
あたしはフォルマッジさんと筒を一つ一つ見ていきます。
ヒロキさんは奥さんが居ないか探し始めます。
やはり離れの村の大人たちが入れられていたようでフォルマッジさんが怒りを露にしています。
「ちくしょう~! こんなところに……」
「おい! そこの衛兵! そのクソ親父を縛り上げて牢屋にぶち込んでおけ!」
兵士たちは敬礼をすると元領主を、あたしたちを縛り上げていたロープでぐるぐる巻きにします。
「せーの!」
元領主は掛け声と共に抱え上げられ運ばれていきました。
ヒロキさんの奥様はいらっしゃらないようなので手紙が代筆ではなく本物であったようです。
*
『戦争の敗戦処理により盟主がフォルマッジ・クワトロに譲渡されました』
姫さまが都市の核にたどり着いたようですね。
「ファ!?」
フォルマッジさんが妙な声を上げて腰を抜かしていますね。
ここへ来る道中で姫さまと話し合って決めたのです。
この都市を新しく統治していくのはフォルマッジさんがいいと……。
「なんで俺?」
色々と理由はありますけどね。
貴方じゃないとこの都市を動揺から救えないでしょ?
「細かいことは後にして先にするべきことをしましょう」
「細かいことではないと思うのだが……」
「何か言いました?」
筒から水溶液が排水されていきます。
さらには上部の蓋が回転し開きました。
ヒロキさんが兜を脱ぎ捨て中の娘さんを抱き上げます。
「パパ……」
力なく声を上げた娘さんをヒロキさんが抱きしめ泣き始めます。
「ヒロキさん娘さん壊れますよ!」
慌ててヒロキさんは娘をあたしに預け鎧を脱いでいきます……なんだか締まらないですね。
囚われていた他の方々も覚醒と共にうめき声をあげていますのでフォルマッジさんは顔見知りを救出していきます。
ようやく鎧を脱ぎ終わったヒロキさんに娘さんを抱き渡します。
ヒロキさんは宝石を抱くようにやさしく包み込むとキラキラ目で娘さんを見つめています。
「ママは……?」
「ああ、お母さんの所に行こうな……」
泣きながら娘さんを抱きしめています。
――――――――――――――
戦争勝利への道を解き明かすと……。
まず派遣された軍隊が戻る事の無いように始まりの街に攻め込ませたままにします。
ミッカダケによる疑心暗鬼を起こさせ傭兵部隊を都市に帰還させる。
帰還した都市では下っ端の騎士たちが出払っているために、冒険者にとって衛兵である市民は身内同然。
このあたりはバルドルスに確認済みで、さらに先行して調査を依頼。
調査内容は以下の3つです。
①都市で犯罪者やフォルマッジがでっち上げた人々がどうなったかの調査。
【調査結果①】
都市から中央都市に移され市民にしては莫大な移籍金が支給される。
それを知っているファルマッジは事あるごとに無理矢理移籍をさせていた。
(今にして思えばお金ある事が幸せだという価値観の元だと推測される)
②さて、その人々はどこへ行ったのか?
【調査結果②】
中央都市に送られたはずの人々はその後音沙汰が急に途絶える。
支給されたお金もどこに消えたのか?
姫さまが持つ情報と照らし合わせこのカラクリを考えるに都市から出たふりをして都市に戻ってきているのではないか?
③戻す方法は?
【調査結果③】
門の衛兵に調査するもそれらしき情報が得られない。
となると隠し通路の存在が考えられる。
更なる冒険者たちの調査により隠し通路を見つけ出す。
あとは当日の今日。
身内であるフォルマッジさんが隠し通路の扉を探し出し冒険者などの味方を向かい入れる。
その後、核の部屋があるであろう扉をフォルマッジさんが突破。
血縁には譲渡機能がある事を始まりの街の核において事前に調査済み。
案の定、血縁には通過できるようで核にたどり着き待機。
あたしが喧嘩を売り。
姫さまが戦争を叩きつける。
フォルマッジさんが核に接触。
戦争に勝利したという流れです。
あたしはこう見えてやるときはやる女ですよ?
――――――――――――――
「とりあえず移動しましょうか執務室とかあるんでしょ?」
色々と落ち着き始めましたのでフォルマッジさんを連れて執務室に向かいます。
元々悪さをしている面々や書類も押さえないとです。
その後、この事態を分かっていないであろうフォルマッジさんに色々と説明とお願いを始めます。
まず、あたし達が都市の領民にとっては降って沸いた侵略者にしかなりえない事を理解していただきます。
なのでフォルマッジさんの領主として祭り上げることにしました。
フォルマッジさんに〝人生リセット〟をお願いしたのは戦争状態になった時にコチラの住民である必要があるからです。
もしかすると都市の権利をフォルマッジさんに譲渡したことで都市の住民として再登録されているかもしれまん。
そして今後、領主としてできる事・してほしいことを伝えましす。
「元々出来レースであったことを公表して領民を安心させ、以前よりも良い統治をすることで領民の興味と信用を得てください。前の領主が行ってきた悪事をしないだけなので簡単だと思いますよ?」
「媚びなくていいので普通にしてください。あなたならできます」
「スラム街の子供たちは全員あたしが引き受けますので、残った大人たちをどうにか先導して都市の浄化に努めてくださいね。そうじゃなかったら――」
「――あたしたちの街に都市の領民ぜんぶ貰っちゃいますからね?」
へたくそなウインクをフォルマッジさんにもして肩を叩きます。
「頑張って! 新領主さん!!」




