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034 『ばばとあほ』

「阿呆!」

「あたしの阿呆!」

「来なさいよ! あたしの阿呆像!」


 あたしは二つの滑り台の間にうずくまらせていた物体を呼びつけます。


 琥珀の塊が立ち上がりこちらに歩いてきます。


「なんだソレは! 卑怯じゃないかそんなデカ……」


 この赤い人は何を言っているのでしょうか?

 戦力でいえばヒロキの方が卑怯でしょう。

 なんで全身鎧なのにそんな速度で移動できるんですか!

 完全に想定外でしたよ……音もなく移動していたのに……。

 忘れていました。

 ありません……人の域では。

 ……ちくしょう。


「おいカズコ、そのデカブツは何だ。どうせ単なるデカブツだろう? ……だよな?」


 カズコ呼ばわりはやめてください……クソカズコです。


「そもそも、ヒロキ一人倒せば終わる戦いだったんですよ」

「でも、戦意を削がないとダメだったのでみんなに協力してもらいました……」

「無血迎撃とか……どの口が言ったのでしょう」

「あぁ~この口かぁーーあきれます」

「でも貴方も全くの他力本願じゃないですか!」

「こちらも他力本願ですよ! 文句は言わせません!!」


「阿呆像、やってください! 標的はあの黒い騎士です」


 あたしの横を阿呆像が会釈(えしゃく)を返しながら通り過ぎます。

 最初から一騎打ちを申し込むべきでした……あたしの失敗(ミス)です。

 あたしは〝マジックポーチ〟から50cm四方に3回折りたたんだ紙を取り出しました。

 一度広げると綺麗に真っすぐ端から折りたたんでいきます。

 コレも……敵の前でのうのうと折るとバカにできて楽しそうとか……。

 ……あたしは馬鹿か!


 ヒロキに向かって進んでいく阿呆像。

 対するヒロキも大剣を左下45度に構え待ち構えます。

 背丈の兼ね合いか上段から切りつける事が出来ないからだと思われます。


 阿呆像の上部の腕、二本がヒロキに向かって振りかぶられる。

 ヒロキは大剣をここぞとばかりに振り上げる。

 その大剣が先に阿呆像の腕組みされた肘裏の隙間かに差し込まれ止まる。

 阿呆像は上半身が前倒しにできなくなった為か振りかぶった両腕が空を切る。

 事前に余裕をかまして戦うように伝えたけど腕組みはしなくていいと思うのよ?

 挟まれた大剣を引き抜くとそのまま体をグルリと一回転させて右上段から切りつけるヒロキ。

 阿呆像の胸元中央に目掛けて大剣がやってくる。

 上部の空いた二本の手で大剣を挟み込み受け止める阿呆像。

 腕組みしたまま『中々やるなお主』といった表情を浮かべてヒロキをみる。


 ヒロキが大剣を引き抜きます。

 阿呆像はその隙に殴りかかります。

 ヒロキは当たり前のように大剣で横へ薙ぎ払います。

 やはり素手による攻撃はいまいちのようです。

 背丈があるので殴りかかる毎に前屈みになるのは分かっていました。

 といっても阿呆像に人間の剣を渡しても短剣以下なんです。

 だからこうしてとっておきを折っています。


 端っこを折り曲げ魔力を少し込めます。

 コレは魔力で鉱質化する紙なので、魔力を込めると折り目に沿って伝わり紙は一直線に折り曲ります。

 また折ります。

 同じ要領でどんどん折っていきました。

 半分の半分の半分の半分ぐらいまで折り続け25cmほどに束ねられた紙を更に真ん中で折り曲げ出来上がりです!

 あたしは泣きながら叫びます。


「出来ました硬質ハリセン~!」


 こんな馬鹿を言いたかっただけのためにあたしは……。


 ハリセンを阿呆像に差し出しました。

 最後に半分に折るから2mになってしまってる計算外。4mの武器のつもりだったのに!


 阿呆像は右手でヒロキに殴りかかり、そのまま勢いに任せて振り返り左手で受け取ります。


 そして受け取った阿呆像はハリセンを腕を組んだまま見やります。

 隙有りとばかりにヒロキが背中を斬りつけます。


 阿呆像の表情は首を少し傾けたので『これどうやって使うんだ?』といった感じに似ています。

 一方『斬りつけたのに傷がつかないのはどうしてだ』といった表情で青ざめるヒロキ。

 そして『事前に使い方を教えておくのだった』と顔を赤らめる(あたし)


 最初に体勢を整え直したヒロキが渾身の力を込めて大剣を振りかざす。

 その渾身の一撃をそのポーズも正さずに右上腕だけではじき返す阿呆像。

 崩れた体制のヒロキに左上腕のハリセンが振り下ろされます。

 すごい勢いの風が発生しヒロキがよろめき後ろに吹き飛ばされました。


「阿呆! 何やってんの!?」


 阿呆像が振り返り表情を変えずにシテヤッタリポーズを決めます

 具体的にはハリセンをヒロキに向け真っすぐピンと伸ばしました。


 それ殴る武器だからね? 少なくとも衝撃力はあるはずなの!


「ねぇカズコ! その子は何で上腕の2本しか使わないの!!」


 遠くから見ていた姫さまが声を上げてきました。

 阿呆像をソノコ呼ばわりですか流石です姫さま。サスガっす!


「前の二本は腕組させて余裕の雰囲気を出しているのです! たぶん封印中です」


 本当は腕が4本もあっても邪魔で仕方がないんです!

 ん? そうか! 一度に4本使おうとするからダメなんだ!

 阿呆像は一方的に殴り掛かっていますがヒロキに躱され当たりません。

 逆にヒロキの攻撃はというと……ハリセンで弾き始める阿呆。

 ……それも違います。

 こんなはずじゃ無かった……。


「思い付いたが吉日(ほんき)です!」


 こんなこともあろうかと予備の在庫を取り出します。ちょっとした防壁にでもなればと思い準備していたのですけどね。


 あたしはもう一度50cm四方に折りたたんだ紙を広げます。

 そしてクルクルと少し先をとがらせて丸めます。

 魔力を込めて硬質化させると叫びます。


「前腕の2本はこれを使って!」


 4mに丸まった紙の棒を後ろから手渡します。

 阿呆像がそれを受け取り円柱状の紙を端から覗きます。

 ヒロキがそれを見て躊躇(ちゅうちょ)しています。

 吹き矢でも飛び出てくると思ったのでしょうか?


 若干、先端が広がっていたのがいけなかったか!

 ちがう!

 槍をイメージしたので先を細めたの!

 それがまさかあだになるとは恐るべしだな阿呆め! もう! あだって何よ!!


「阿呆さん、それ武器です武器」


 祈るようにして伝われと声を掛けました。

 あたしの言葉に頷き返すと落ちていた石を拾い筒に詰めます

 そして状態を少しそらすと勢いよく筒に息を吹き込みます


〝ブオン〟と耳をつんざく音がすると噴出された石が炸裂しヒロキの足元で地面が爆ぜます。

 その爆ぜた勢いでヒロキは転がり倒れました。


 あたしは正直「あっ息できるんだ~」って思いました。


「降参しますか? これ以上やっても無駄ですよね? 主に阿呆像が……」


 あたしは色々と呆れてため息を吐きます。

 同じくヒロキは諦めたのか息を吐きだし全身脱力させます。


「これだけは使いたくなかっただが……覚悟」


 ヒロキは起き上がると何処から取り出したのか怒り顔の面を装着しています。

 お面を装着すると全身から黒いオーラーが舞い上がりお面の額から赤い1本の角がそびえたちます。

 と同時に「ギョエェー!」と奇声を発し阿呆像に突っ込んでいきます。


 攻撃の速度と威力が増したヒロキの攻撃を阿呆像がタジタジながら受けていきます。


 あれ? これってまずい感じ?

 これ以上の切り札は無いのだけれど……。


「阿呆さん大丈夫?」


 声を掛けますが返事どころではないようです

 困りました。これ以上何も考えていません。

 あんな攻撃がこちらに向かって放たれると手に負えません。


「ツノなのー! ほしいのー! つけるのー!」


 アシュリーが興味津々で飛び回り始めました。

 ハイハイ取れたら上げますからね……それどころじゃないんです。


 互角の戦いが繰り広げられる。

 双方に決定打が無く戦いが続きます。

 アシュリーがドンドン近くで飛び回り始めます。

 阿呆像には魔力切れはありますがスタミナ切れはありません。

 普通に過ごすだけなら1年分ぐらいの魔力が込められています。

 一方のヒロキには立ち込めるほどに上がっていた覇気とでもいうべきオーラがどんどんと減っていき――。



 ――もう残り僅か。もう見る影もありません。


 さすがに勝負ありですかね?


 でも、このまま戦いきるとヒロキ……生命力を燃やし尽くして死にません?

 どう考えてもそんな気がします。


「アシュ~あのツノ上げるから、その仮面を剥がせない?」


 あの戦いの中、ひょうひょうと飛び回るアシュリーになら可能かもしれません。

 一抹の望みをかけて彼女にお願いしてみました。


「はぐはぐよー!」


 アシュリーはヒロキの仮面に飛び掛かり角にしがみつきます。

 両手いっぱい抱きついた感じになってますね――奇しくもハグをしています。

 そして、当たり前ですが取れそうにありません。

 しかし、位置は完璧です……正に想定外。

 

「アシュ! バイブレよ」


「なのよー!」


 アシュリーは抱きついた角を始点にしてグルグルと回り始めます。

 そして魔力が十分に上昇したタイミングでアシュリーは〝バイブレーション・ブレード〟を放ちました。


「【vaibréiʃən burēdo】」


 この魔法は指先に振動の刃をまとい攻撃するのですが、魔術師はそもそも身体能力が低いため、命中率もそれに伴いが非常に悪いのです。

 魔法使いが近距離に接近された時の最終手段として開発されたといわれています。

 しかし、今回の様にハグ状態だと別です。

 放たれた魔法は角の根本を削り回り角がポキリと折りました。

 ヒロキも同じくしてポキリと倒れ落ちます。


「よくできました!」


「なのよ~」


 角を抱えたまま地面に転がり落ちご機嫌のアシュリーが居ます。

 アシュリーは角をどうにか持ち上げて額に当てますが、もうどっちが本体なのやらって感じになってますね。


 さてと、残すは赤い雑魚だけですね!


「そんな……ヒロキが……おいコラ、立って戦え!」

「俺様の為に戦えよ~」


 鳴き声で叫び始めるフォルマッジ。

 よろよろとヒロキの方に駆け寄ってきます。

 ちょうどそこにアルキマワロが転がりやってきました。

 アルキマワロを走り蹴り上げるとフォルマッジが転びそのまま泣き崩れます。


 こっちが……泣きたい。


「なのよ~」


 角の上に乗り〝出発進行!〟と身ぶり手ぶり(ジェスチャー)でご機嫌のアシュリーです……がアルキマワロが後ろで寂しそうですよ?


 あたしは涙を拭きながら姫さまの方に走り出しました。

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