029 『体操と浴槽』 春の一月、十六の日
馬場和子です。
昨日進軍してきた軍隊にミッカダケを混入し腹痛による遅延が成功しています。
あとはバルドルスさんとの通信網も確立されました。
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■帝国歴308年 春の一月 十六の日■
「おはようございます」
朝、始まりの館に向かうと何やら笛のような音が聞こえてきます。
『ピーーピィピィピ』『ピッ』『ピー』
リズミカルに整えられた音は昨日きたペンギンさんが鳴らしていました。
そして、それに合わせて残り11人のペンギンさんたちが体を動かしています。
あたしも混ざることにしました。
『ピーーピッ』『ピー』
『ピーーピィピィピ』『ピッ』『ピー』
腕や脚を様々な方向に向けて伸ばしていきます。
気が付くと小人さんたちもやってきてあたし同様に見よう見まねで動き始めました。
みんなで体をうごかすのって楽しいですね。
笛は一番大きなペンギンさんが口にくわえていましたのでお借りしました。
使ってみましたが『びふー』と鳴るばかり、笛ではなく貝殻状のもので全く鳴らすことができません。
たしか草笛という物がありましたよね?
同じような感じなのかもしれません――技ありきです。
さて、ペンギンさんたちに何をしていたのか改めて聞いてみたのですが〝毎朝の日課〟という答えが返ってきました。
挨拶と体操は忘れずにというのが先代の教えなのだとか……先代が居るんですね。
あたしはコレを〝ペンギン体操〟と名付けました。
これから〝ペンギン体操〟を毎朝の日課にしようと思います。
日課に参加しない子供は朝ご飯抜きです。
これでぐーたらな子も起こすことができますね。
小人さんたちも参加してくれますので拒否権は無しです。
〝体操せざる者・食うべからずです!〟どこかに書いて張っておきましょう。
そうそう、ペンギンたちは片言で喋れるようになっています。
「オハヨウ」「オハヨウ」
ちょっとオウム返しぽい喋り方をします。
全員での食事時間にペンギンさんたちと意思の疎通を図りました。
実はこのペンギンたち水場を探す名人らしいのです。
職業も様々で釣り師・狩り師・武芸士・陶芸士・土壌士などです。
なので井戸を掘れるか聞いてみたところ、お礼として掘りたいと言ってくれました。
『できれば温泉を掘り当ててほしい』と無理難題を厚かましくもお願いし、成功報酬として自由な住まいを提供することにします。
さて、浴槽をどうにかせねば!
こちらは小人さんたちに賄賂を約束し街の整備もお願いします。
あたしは既に温泉に入る気まんまんでいます。
住民もいっぱい増えましたし戦闘チームの疲れも取りたいのです。
ええ、本音を吐くと姫さまとの混浴が楽しみです!
あたしはやるべきことの整理がついていますので結構お気楽な感じでいます。
それを見たみんなの反応も上々で良いことずくめですね。
さて朝の食事も終わり皆様にお披露目です。
今日仕上がった準備物はコチラ!
〝ジャジャ-ン〟両手を広げて右手側に差し出し紹介しました。
滑り台です。
もうすでに子供たちが喜んで遊んでいますが実はこれ試作品です。
高さがもうすこし必要かなと思ったりしています。
使用者はアイスさんです。
アイスさんには矢とか魔法が飛んできたら、なんかこ~うまく叩き落として欲しいんですよね。
すごくいい加減なお願いなのですけどできます?
アイスさんの魔法って殲滅力殺傷力あり過ぎて使いずらいのですよ。
最終・身の危険を感じた場合においては――なんでしたっけ?
氷の棺は許可します。
兵隊さんたちは決して殺さないように――殺すぐらいなら人口が増えるのでウチで飼います。
では実際に上っていただきましょう。
「いかがですか? あとどれぐらい高ければ可能そうです?」
アイスさんの指がペケになりました。倍ぐらいと……なるほど。
試作品はあたしより少し高いぐらいなので4mもあればいいのかな?
「了解しました。降りて来てもらっていいですよ~」
アイスさんは体が小さいので様になっていますね。
サイカ姐も登り高さを確認しています。
滑り降りて逃げれるのが非常に良いと高評価でした。
そうでしょうそうでしょうとも!
趣味と実益を兼ねました。あたしも念願を叶えてきます。
この後、子供たちと一緒にはしゃぎました!
アルキマワロの転がり降り具合は突進力がありすぎて怖かったです。
このような感じでアシュリーと工作をすることが増えています。
長屋を手早く作れるようにしたのもアシュリーの活躍のおかげなのですよ?
以外でしょ?
では早速、その時の事を思い出してみましょう。
* * 長屋作成の出来事 * *
船着場をスペイン先生が構築考案されていましたのであたしは長屋について相談していました。
始まりの館とスペイン屋敷の間に長屋を作ることになりましたので、その近くに例のプレートを使って畑がドドーンと作られています。
残ったこの場所に長屋をパッと建てたいですね。
さっきのプレートは無限増殖のように際限なく使えますか?
「無限増殖がよく分からないけど、使えないわよ?」
「7人しかいないから7つまでね。
本来、あの子たちは自分の宿る家を自らで作り上げるのよ。
だから他の子たちはその応援ね」
「あたしが代わりに応援して頼んだり出来ませんかね?
ほらあたしってばサポーターですし……」
「それで何が変わるのか分からないけど、無理だとおもうわよ?」
「パッとが無理なら――ハッと作れませんかね?」
「ハットが何を指すのか分からないわ、カズコ……」
「姫さま! ハットといえば帽子ですよ
ハッとかぶれるからそう言うんですよね?
そう、ハッと被せればいいんですよ!」
「例の丸太を貰ってきましょう」
ちょっと行ってきます。
船着き場の予定地に置かれた二台のイカダを分解して丸太を運んできます。
重たいですが子供たちも総出で運んでくれました。
人力って凄いです――数の力って偉大です。
「そうそう、スペイン先生! 丸太に切り目を入れたいのですが便利な道具はありますか?」
「なくはないですが作った方がよろしいので?」
スペイン先生が数ある在庫を思い出そうとしているようです。
「あれば貸して欲しいと思っただけです」
もっと手早くできる便利な方法はありませんかね?
あたしは畑で小人さんを見ていたアイスさんを連れて来て訪ねます。
「アイスさん、この丸太をパッと切れるような魔法ありませんかね?」
「ん」
アイスさんが指差す先にはアシュリーがいます。
さすがにアシュリーでは切れませんよ~なにをいってるのでしょうか?
「やるのよー」
アイスさんに促されてアシュリーが腰振りダンスを始めます。
「【vaibréiʃən burēdo】」
本体と同じぐらい15cmほどの魔力の刃がアシュリーの腕の前に生えます。
「ほほ~珍しい魔法を習得いたしましたな」
スペイン先生が唸っています。
バイブレーション・ブレード。
略してバイブレ。
なんでも接近戦に弱い魔術師には不要の魔法なのだとか、
切れ味は抜群だが飛ばすと遅くて当たらないのだとか、
ご説明をいただきました。
アシュリーに飛ばしてみるようにお願いしました。
ブルブルブルっと半月の塊が震えながら進みます。
飛ぶスピードは亀の方が早いかも知れません。
震える方に効力を振り切っちゃった印象です。
アシュリーもう一回お願い――次は飛ばさないでね。
魔法の刃物を腕に帯びたアシュリーをそっと掴み丸太に添えます。
アシュリーを動かすとそれに添って丸太が輪切りにできました。
名付けてアシュリーカッターです。
「おもしよー!」「たのしのー!」「かゆいよー!」
ハイハイもっとやりましょうね……言いたいのは面白い・楽しい・愉快だと思います。
あたしは切りたいところを自前のインクで描いていきます。
ワクワクした表情でアシュリーが今か今かと待ち構えていますカッターを帯びたまま――。
――急かされてる感が半端ないです。
待ってるアシュリーの危険感に冷や汗が流れました。
切り目の部分も丁寧に説明しアシュリーにお願いします。
あたしが持たずともアシュリーは飛べますのでスイスイと切りつけていきます。
どんどん難易度あげて指示すると、それはもう楽しそうに切ってくれました。
あとは凹凸を組み立てるだけですのお願いしましょう。
ちなみにあたしが作った丸太小屋は馬小屋になりました。
その後、その馬小屋の問題点をスペイン先生が改善し丸太小屋を作成します。
大きさも造りも立派なものに仕上がり、そちらが母屋として活用されるようになりました。
ここまでがその時の回想です。
* * * *
では、アシュリーを連れて次の仕込みに行きましょう。
アシュリーにお昼に食べたいものは無いか聞いてみます。
最近、アルマジロのご飯に興味津々のアシュリーはナッツ系が大好物です。
今日はくるみにしましょうね。
「くるみよー!」
あたしは大興奮のアシュリーを連れて山登りに向かいました。
夕食時、3チームに向けて情報を伝えました。
ミッカダケ遅延開始一日目。
準備期間 残り4日
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■後書き■
現在の人口:51名(+1移籍予定者)
やりたいことリスト(今日の達成した出来事)
・ラジオ体操≒ペンギン体操(建築物の増加)
・滑り台で遊ぶ
総合レベル目標400/510
緊張感が無いと言われていますがすべき事はやっています。
……不思議です。
Attention, please!
読者の皆様の中にペンギン好きの方はいらっしゃいませんか?
もし、いらっしゃれば先代について書かれた記事が
↓コチラ↓にあります。
四作目『空を飛ばなくなったペンギンのお話』
https://ncode.syosetu.com/n0461ft/




