024 『帰路と岐路』 春の一月、十三の日
馬場和子です。
寝る子は育つと言いますね。
しっかりと寝るのでちゃんと育ってほしいものです!
……特に胸。
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■帝国歴308年 春の一月、十三の日(朝)■
翌朝になり寝ぼけ眼で起きてきます。
目の前に柔らかなお肉がぷよぷよしています。
思わずほほずりしていまします。
「カズコ~くすぐったいよ~?」えっと~姫さまの~これはどこだろ? お胸ですか?
なぬ! これは夢にまでみた膝枕ではありませんか!?
「もう少し~」覚醒させた脳皮に情報をインプットしていきます。
ぷよぷよ感である揺らぎはまるでプリン!
ぷにぷに感である弾力はグミ!
ぴちぴち感である張りは……スカートをたくし上げ頭を潜り込ませると地肌に耳を当てます。
すべすべでつるつるでぴちぴちです!
スカートを押さえ抵抗する姫さまに「姫さま~あと5分~」と延長を申し出ます。
「あとごふんが何かわからないけど~そろそろ起きてね?」
「ハーイ! 姫さま交代しましょう! あたしが御者します。できませんか?」
セバスチャンは賢いので手綱を自由にさせておくだけでいいそうです。姫さまにあたしの太ももを堪能していただきたいのです。姫さまほどプルンプルンはなくどちらかと言えば健康的な肉質ですがどうぞ!
姫さまのふくよかな髪と小柄な頭があたしの太ももに乗り、姫さまが目をつぶります。
これぞ! 至福の時! 二人っきりの幸せを……。
「おきたのー!」アシュリーのお目覚めと共にチビッ子たちも起きて来ました。
「お腹減った(おなかすいた)」だの「のどが渇いた」だのとチビッ子たちが騒ぎ始めたので、後部に乗り合わせていたハスキーになだめ役を一任しました。
あたしは静かになった良い子たちにご褒美をあげようと思いポーチから5cm四方の紙の束を取り出しアシュリーに配ってもらいます。
怪訝な顔の子供たちですがハスキーに実演をお願いします。
「ハイねえたん! みんな~こうやってこの小さな紙を口に入れて噛むんだよ? 飲み込まないようにね。噛むだけだって」
「ふわ~」「うわー!」「なにこれ」などの反応が返ってきます。
本当は大き目の紙で携帯食を作りたかったのですけどね。味付きの紙が完成しましたので小型化していただきました。味の出る紙~名付けて「深噛味」要するにチューインガムですね。
味はフルーツ系でまとめていただきましたが、噛むまで無味無臭無色、モトイ! 白いのでおっかなびっくりです。判別は大きさで決定します。
こちらの10cm四方の試作品は失敗作です。
元々、携帯食にする予定でしたので様々な味が付いています。
こんな物ごときに勇気を振り絞る労力が必要とはこれ如何にと思いますが、一つ勇気を出して食べてみましょう。
「うへ」牛乳味の紙です。急に味だけ広がるので不味いですね二重の意味で。
他にはカレー味やらもありますが辛すぎて罰ゲームかと思いました。
失敗は成功の母と言いますが、失敗は乳臭いと思いました。
さて、道中の半ばまで進むとさすがにお腹が減って来ましたので、ちゃんとしたお昼ご飯にしようと
思い馬車を停車させます。
アルキマワロは雑食で何でも食べます。固形の物をプチと潰して食べるのが大好きなのか木の実などが喜ばれます。春で木の実が手に入り難いので木の芽などを与えます。ムシャムシャと一心不乱なアルキマワロを見てよだれを垂らすアシュリーがいます。
アシュリーも木の実がいいのかな? そう思い落花生を一つ渡します。
ガシガシと殻をかじり始めました。
アシュそれ食べるの中身だよ?
「かたいのよー」
昔、あたしもだまされて食べたことがあります。
〝ピスタチオは殻まで食べる〟とか。
〝骨付きカルビは骨の芯をしゃぶると旨い〟とか。
〝シュークリームはストローで中身を吸い出すスイーツ〟だとか。
素直で騙されやすかったのでからかいやすかったのでしょうね。
殻をようやく外しピーナッツを舐め始めるアシュリーです。かじるのが無理な様なので割れ目で半分にし与えます。ようやくカミカミできる様になりましたね。残りの半分はアルキマワロにあげました。
少食にも程がありますね。
停止したついでに林の中へ行き色々なものを調達しておきました。
小さな木箱に葉っぱ、羽毛、砂などをそれぞれ敷き詰めアシュリーにプレゼントしました。どのベッドが良いのか観察しています。
「砂はトイレの気がしないでもないですね」姫さまも興味があるのか覗いてらっしゃいます。
「トイレが何か分からないわね?」
「お手洗いとか便所とかですね」ああ、厠ねと返ってきました。
そういえばピクシーってよう足すんですかね?
そういえば見たことありませんね?
ん? もしやピクシー粉って。本当に糞でしたの? そういうこと??
結果としてアシュリーはどれもお気に召さなかったのか紅茶のベッドを要望してきましたので検討しておきます。
そんなこんなでほのぼのとお昼の団らんをしていたのですが、後方から呼び声がし馬が掛けてきます。
早馬として駆けてきたのはウナギ兄さんです。どうされたのでしょうね?
そんなに慌てなくても、あたしたちもですが始まりの街は逃げませんよ?
そう思い話を聞いたのですが街が逃げはしないのですが危機には瀕していました。
まずウナギ兄さんはあたし達が何をしでかしたのか聞いてきましたので、あらましの説明を行いますーーといいましてもシスターの身柄を悪徳な方法で手中に収めようとしたので返り討ちにした経緯ですが……。
しかし、それにより。なんと都市から軍隊が派遣されたのだそうです!
「俺たちのせいだ!」と馬から飛び降り土下座を始めるキンピラ三兄弟です。馬がびっくりしているじゃないですか?
あたし始めてみました、飛び込み土下座なるものを……。
「あたしの知る世界の星座に土下座なんって星座は存在しませんよ?」
「星座が何か分からないけど? 土下座で軍隊は帰らないかしら?」手厳しいお言葉が向けられます。
「挽回の機会はあたしが作りますので、ひとまず立ち上がってくださいな。そもそも土下座禁止にしましたよね?」と説得し、一刻も早く始まりの街に戻らないとですよと告げます。
帰路を急ぎながらウナギ兄さんから詳細を聞きます。
領主の長男フォルマッジはあの後、自らの騎兵を用いて孤児院に迫ったのだそうです。
当然もぬけの殻の孤児院ですが、ここで新たな罪を捏造します(結果的には事実なのですけどね)
新たに交付された罪が[都市外逃亡]これにより大々的に都市の軍隊を使うことが可能になったのだそうです。
大義名分のもと、逃げ出したであろう新しい村に討伐部隊が派遣されることになり、現在、出兵の準備中との事です。
ちょっと大ごとになってしまいましたね。シスターも土下座せんばかりの勢いで謝ってこられますが、もうこれはあたし達全員の問題です。
討伐部隊ってどれぐらいの規模になるんです?
今回は捜索も兼ねているので傭兵も雇われ、本命は騎士1軍との事です。
騎士1軍? 1軍の騎士がやって来るって認識です?
1軍の騎士はヒロキただ一人!
そして騎士一軍とは25名から組織される
ただし、下っ端の1軍 見習い上がりの25名
侮るなかれ! 装備は一級、軍事訓練も兼ねてヒロキに従えられている。
そして、傭兵は主に冒険者ギルドの面々に声掛かり、こっちは使い捨て要員との事。
総勢50名ほどになる見込み。
アイスさんの魔法で冒険者以外を吹き飛ばすとかできませんかね?
「一所にまとめれば、あるいはといったところでしょうな」
スペイン先生が補足で声を上げ姫さまはあたしの目をじっと見ています。
「カズコどう?」
「姫さまはどう思いますか?」
「カズコなら何とかできるんじゃ無いかなとは思うわよ?」
「どうしてそう思うんですか?」
「カズコ確か色々と試していたでしょ?」
見られてたんですか……姫さまはどんどん他力本願がうまくなってきてますね。
「少しお待ちください」
ヘアバンドで前髪をググッとあげ――上げ過ぎてちょんまげのようになりました。
最初はオデコを出すのが良いのかと思っていたのですけど――最近は何故だがわからないけれど髪を上にたくし上げるのが効果的かもしれないと思っています。
あたしは全力で思案から→思考へと移行します。
確認すべき事柄。
実行すべき事柄。
それこそ山のようにありますね。
一刻も早く戻って対策を立てないと!
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■後書き■
現在の人口:18名(+20移籍予定者)
やりたいことリスト(今日の達成した出来事)
・達成なし(紅茶のベッド要望をされる)
正直に言います!
アシュリーは排泄の代わりに……汗として金粉をまき散らします。
効能は美容・健康・長寿だそうです。




