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022 『頭領と禿頭』

 馬場和子です。


 なんだか思わぬ流れで住人候補が2名分増えました。

 1名はそのまま随員するそうです。



 ――――――――――――――



 ■帝国歴308年 春の一月、十二の日(午後)■


 冒険者ギルドにて、ワチャワチャと『あーでもない・こうでもない』と様々な思案・相談をしていました。


 ところが、そこに乱入者が現れてしまったのです。


「お嬢ちゃん、ちょっと顔貸せや!」


 急にのそっと現れた大きなおじさんは、ずいぶんと怖い顔をしていました。

 私たちの誰かを呼んでいようですが、誰のことでしょうか?


「お嬢ちゃん?

 こちらには3名の女性が居ます。姫さま・あたし、チョロ姐。

 はて? 誰をお求めなのでしょうか?

 言っておきますが姫さまはお高いですよ?

 お勧めは次点のあたしですかね? 手籠めにしやすいです。

 違いました。お手頃です。お年頃です」


 すると、おじさんはハァと大きなため息をつきました。


「誰でもいいから、一人こっちに来い」


 どうやら呆れている様です。


「あたしでもいいです? お色気担当なので」


 せっかくだし、私が行ってきましょうかね。

 なぜかチョロ姐はうずくまって隠れています。

 周りのみんなも固まっていますね。時、止まりました?


「冗談はもういいから、上までついて来い」


確かに〝お色気〟は冗談のつもりで伝えましたが、即座に切り捨てられるとショックを受けるものですねー。これがうわさに聞く因果(いんが)()()というやつですか。


 おじさんは階段を上がり私を二階へと案内しました。

 部屋に入る前にチラリと扉のプレートを見ると[ギルドマスター執務室]と書いてあります。

 おやおや、こんな部屋を勝手に使ってよろしいのでしょうか?


「まあ座れやー」


 おじさんは中に入るとソファーを指さしてぶっきらぼうに言い放ちました。

 なんか嫌な感じですね。


「座りますけど。お客様が来たら何かしら出すのが礼儀では?」


 向こうに主導権を握られるのも嫌なので、私は手を握り締めながら精一杯に啖呵(たんか)を切りました。

 あ、ちょっと声が上ずっていたかもしれないです。

 なれない事はするもんじゃありませんね。


「おっおう……」


 おじさんは少し戸惑ったような声をあげると、廊下に出て部下らしき人を呼ぶと何かを言いつけて戻ってきました。


「(あれ? これってばヤバイ感じです? もしかして、もしかして。ヤクザ屋さんの組長でしたかー。あたし生きて帰れますかね?)」

 キョロキョロと部屋を見渡しながら状況確認をします

 見渡した感じでの違和感は~ふむふむ。

 違和感をいくつも感じる部屋でした。

 変わったものが多いからかもしれません。


 おじさんは戻ってくるとまだ座っていないあたしを見ると、頭をポリポリかきながら反対の手でソファーを示してきます。


「おう、その、ま~なんだ。ギルド長なので組長って事になる。バルドルス・ガジムだ。命までは取りはしねえよ、まあ座れや」


 たしか〝一度目の面を上げよ〟で従ったらダメな作法があると聞いていましたので実践してみたのですが違いましたかね?

 そう思いながらあたしはちょっといい感じのソファーに座ります。見た目通りふわわふでした。

 そして、大きなおじさんは改めてみると(いか)つい顔をしていますね。

 頭に髪が無い為に更に増幅されているのでしょうか?

 それとも全身日焼けしたような褐色の肌のせいでしょうか?


 あまりにもジロジロと見ていたせいか、おじさんは手鏡を持ち出して顔に何かついていないか確認をしていました。


「何もついてないよな?」


「ええ、ちょっと怖く感じる要素が何かと思案していました……すみません」


「ならいいんだと」照れたように頭をポリポリとかき始めます。


 あたしはこの巨人族のおじさんが見た目ほどは怖くない気がしています。

 体の大きさ・肌の色・端がささくれ破けた道衣が威圧感を増大させているのだろうと推察します。

 そして、体の割には気が小さいのではないでしょうか?

 あたしのような子供にまで気勢を張る必要は本来ないと思います。


 大きな体を持て余しもじもじさせるとおじさんが辛抱できなくなったのか声を掛けてきます。


「そ、そうか。さっきの話なんだけどなー。お前らの事、凄い話題になってんだわ~」


「そうなのですか。ありがたい事です」皮肉も込めて座ったままですが深くお辞儀をします。


「こちらにとってありがたい事じゃないのはわかるか?」


 前髪もないのでこめかみの引きつりがよく分かります。結構、顔にも出るタイプかもしれません。


「わかると言えば分かりますし、わからないと言えば分からないですねー」


「何が分かって、何が分からない?」


 困り顔でまた頭をポリポリとかいています。

 どうやらあたしに聞きたいことがあるようですが、自然な形で聞き出したいのかもしれません。


「そうですねー。結果的にチョロ姐……えっと~受付のお姉さんが辞めてしまったことについては謝罪しますが。

 冒険者とは自由な人々の集まりと聞いていますので、人の行く先はわからないですね?」


 おっとチョロ姐は冒険者じゃないのでしたっけ?


「まあ~自由に生きたいってやつが多いのは確かだがそこまで自由があるわけじゃない」


 その~参ったな~っといった感じの顔になり頭を撫で始めるおじさんです。

 あたしは了解した旨を伝えながら考えます。ここに連れてこられた理由が何なのか……。

 まさか女子供と話したいだけでわざわざ呼び立てすることなどありませんからね。


「理解が早くて助かる。困るんだよ。引き抜きとかするならばちゃんと俺を通してキッチリ話をしてくれないか?」


 なるほど、話を通せば相談に応じると、しかし、そんなことを話したいわけじゃないですよね?

 ちょっとカマをかけてみます?


「それはそれで構わないのですがー。ははーん♪」


「なんだよ」


 あたしが知ったかぶりの顔をするとおじさんは明らかに動揺していますね。


「それでなぜ、わざわざここに呼んだのです?」


「それはお前達の事を思ってだなー」


「なるほどなるほどー。それで脅しをかける様に体裁を取り繕ってか弱い女性を呼び出したと……」


『コンコン』とノックの音がし部屋に秘書っぽい女性が入ってきました。

 女性はテーブルに飲み物カップ2つとお菓子の入った(かご)を置いて行きました。


 あたしの方にお茶らしきものが入っており。あちらには深緑のふわふわした何かがいっぱい浮いて

 そして、カゴの中には緑やら黒のお菓子が入っています!


「(お茶菓子が登場しました。初です! やりました全部。お持ち帰りです。一度やってみたかったのです。噂に聞く[()()()()()]ぐんずとお菓子を掴んでアイテムポーチにほり込みます。あとは()()()()()もしていただいていいのですよ? 最後は()()()さんの出番です)」


「なんだお前は美人局つつもたせか何かか?」


 あまりの興奮で心の声が駄々洩れだったようです。コホンと一つ咳をして答えます。


「美人と聞いて、お礼申し上げますー」


「だれもいってねぇーよ!」


「そうですか()()()()させていただきましたのにー」


「やっぱりお前が親玉か……」


 何を勘違いしたのか項垂(うなだ)れるおじさんがいます。


「いえいえ、親分は姫さまですよ。でもまぁ~なんだかんだで全てあたしにお任せされている感じはありますねー。で? 何が聞きたいのです」


「噂になってる話は真実なのか?」


 ようやく本題に入り始めましたかね?

 でもまぁ~少しとぼけてみるのも一興かもしれません。


「噂って何の事でしょうね? スゴイべっぴんの美人局つつもたせが居る話でしょうか? それとーも、肉に興味津々の()()()女の子がいるって事でしょうか? はたまた、パワハラで飛び出した受付嬢が冒険者を骨抜きにしてハーレムを作ろうとしている事でしょうか?」


「いや、そういう御託ごたくはいいんだよ。お前ら冒険者を引き抜いて何がしてえんだ?」


「どういう答えがお望みです? あたしの想像では叶えられると思いますけどー?」


「やりにくいったらありゃしねぇ~なぁ~。お嬢ちゃんは全てお見通しか?」


 おじさんは両手で頭を抱えるとあきらめたように上を向くと、大きくため息をつき肩の力を抜きます。


「見た目は子供、中身も子供……。もとい! 見た目は美しく、中身は賢くを目指しています。

 そんな知的で出来る女・カズコによるとですねー。

 すばり! バルドルスさん貴方。

 実はうちに来たいのではありませんか?」


 おじさんは目を見開きあたしを見ています。あーちょっとした快感を得れますね。


「なんでそうなるんだ?」


「そうですねー。

 先ほども言いましたが、一つ目に一階のみんなの前でいちゃもんを付けて呼び出した事。

 コレはその場でもめて追っ払えばいいですよね? なのでまず、本当に話を聞き出したかったのだと思います。

 しかも内密に。何の話を聞きたかったのか?

 察するにあたしたちが先ほど話していた内容が真実かどうかですよね?」


「その根拠は?」


「そこの壁際にラッパが上を向いた様なパイプがありますね。

 あれって一階の会話が聞こえるのじゃないでしょうか?

 他にもいくつかありますが開けばそこの会話が聞こえるのですよね?」


「なるほどな。それで?」


「なのでその事実確認を密かに行いたかったのかと考えます」


「何故そう思う!?」


「証拠はあがっているのですよ。ふふふ」


「何の事だ?」


「まず、貴方の飲み物はワカメスープですよね?

 それにこのお菓子も海鮮系の海苔がふんだんに使われています。

 更には、壁際にある透明の入れ物。さぞかし高価な物が入っていたんでしょうね~お酒? まさか~もっと高級な物ですよね?

 ラベルに何やら書かれてありますねエリクサーでしたっけ? ポーションなどは足元にも及ばない超回復薬。

 そう、そして極めつけの証拠はバルスさん! あなたのそのツルっぱです!  滅びの言葉の様な名前で滅びた頭が証拠です!!」


「人の名前をかってに滅びの言葉に位置付けるな!」


 おじさんは顔も頭も真っ赤にして叫びます。


「で、どうなのです? 内密に話したかった事からひもづけていくと答えが導かれて来たのですが?」


「ああ、降参だ。正直、元の身体って髪も戻んねえか?」


 やりました! 正解を引き当てたようです。


「さあ? どうなんでしょう? 可能はあるんじゃないでしょうか?」


「それは本当か!?」


 おじさんの大きな手があたしの両肩を掴みブンブンと揺さぶります。


「落ち着いてください。両肩が痛いです離してください。あたし壊れます」


 あたしは落ち着くのを見計らいおじさんに以前あった事例などを話しました。

・ご老人達の体調や視力が元に戻った事

・太っていた体系の子供が普通体系になった事


「ですがあくまで可能性ですよ? そんな所まであまり期待しないでいただきたい」下から見上げた目線で物を申しました。


「でもよー腕や目が戻るなら髪も戻るんじゃねぇのか?」


「どうなんでしょうねー。人の寿命が戻らないので髪の寿命も戻らないかもしれませんよ?」


「出来る事は何でもしたいんだ。髪が禿げ上がってからカミさんの態度が冷やかで冷やかでモウー。すぐにハゲだからってハゲのせいにするんだ!」


 えっとー御免なさい。気持ちだけは分かりますが。

 もし髪が元に戻っても、そこの関係性は戻らないかもしれません。

 そんな貴方に贈るピッタリな言葉があります〝万事()()


 ……あれ? 急須って何?

 意味はたぶん……『すべての薬を煎じて飲みなさいです!』


 簡易的に口約束を交わしたあたしとおじさんでしたが『こうしちゃいられない』と慌ててどこかに出かけようとし始めましたので、一応、釘だけはさしておきます。〝立つ鳥、跡を濁さず〟でお願いしますと……後の祭りだけは勘弁願いたいものですからねー。

 そしてアシュリーとの連絡用の黄色い紙を渡して説明しておきました。



 あたしは『どうにか収まったのかな?』と思いながらみんなの居る一階へと階段を下りました。


「お待たせしました」


 おや? 皆さんソワソワされていますね。

 もしかしてデザート待ちですか? あたしも食べたいです。


 あたしに真っ先に気が付いたのは姫さまでした。


「カズコお帰り~」ただいまです姫さま、万事抜かりなくです。


「お前、大丈夫なのかよ?」ええ、無問題ですよチョロ姐。

「度胸あるよなー」女は度胸と愛嬌です。決して、巨乳ではありません。


「それはそうと……。

 街に戻りましょうか~デザートを食べたらですけどね」


「ブレないね~」ええ、姫さま程にブレる胸がありませんので……。


「すみませーん。メロンってありますか? 出来ればバイーンと2つぐらい!」


 以外にも気を利かしてくれたのかチョロ姐が奥に引っ込み何やら探してくれているようです。いいとこありますねヤンキーなのに。


 残念ながら春なのでメロン……ありませんでした。

 今後の目標の確認のために食べておきたかったのですけどもね。仕方がありません。


「何かしら代わりにフルーツがあればお願いします」チョロ姐が真っ赤な果実をチョロまかして登場です!


「チョロ姐さん、ヤンキーなのにさすがっす!!」


『ヤンキーなのには余計だ!』と蹴られましたが苺の前にはどうじません。


「姫さま! いちごですよ()!」


「そうだね~苺だね~」


 姫さま感動が薄すぎます! そうなのですね春です苺の季節です。懸念していました。


「来年の今時分はいちご狩りをしましょう! 街のみんなで!」


「「「苺狩り?」」」


 なぜか異口同音(いくどうおん)の声が上がりました。


「苺のモンスターが居るのか?」そんな訳ないじゃないですかー「でもタピオカが……」聞こえません! 見えません! 食べません!


 ちなみにモンスターとは魔物と魔獣の両方を示しています。獣は除け者です。


「それに苺は摘むものです……命は紡ぐものです。

 みんなで一緒に楽しく苺を摘んで食べるのです。それを通称で苺狩りと呼びます。

 長年の夢でした。来年までは我慢します! 是非とも実現させたいものです!」


「そんなにッ!? 大げさじゃないかおめぇいくつだよぅ」


「お言葉ですがチョロ姐。

 年は関係ございません。

 夢は実現してこそ夢なのです。

 寝て見て忘れるのは()()です。

 そんなものは食べれたとしても何の腹の足しにもなりません。

 食べて美味しくてお腹が膨れるのが現実の夢で希望で野望です!」


「カズコらしいね~食への熱き~欲望?」


「ええ姫さま、欲望は丸出しですとも。いいじゃありませんかー、欲望・希望・願望です。

 熱き願いは思えば叶うのです。それを叶える夢と書いてカズコドリームと読みます!」


 ちょっと、あきれられた感も否めませんが苺狩りは絶対ですよー。


 甘酸っぱい苺を食べながら来年に思いを馳せました。

 苺の次はチェリーかな? あれ? サクランボの木ってどれぐらい年月掛かるのでしょう?

 思い出してしまいました! 何たることでしょう〝桃栗三年、柿八年〟


「今から始めても桃と栗は三年後。柿に至っては八年後……そんなに待てる気がしません」


 あたしは今、椅子から転げ落ち手足を地につけ項垂れ虚無・絶望・失望に支配されています。


「なってる木を持ってくればいいんじゃないの~?」


 姫さま! 天才か! そうしましょう。間に合います。来年までにそうしましょう。気を取り直しすくっと立ち上がります。



 *



 そんなこんなで自分を含めあらゆるものを振り回してしまいましたが、ウナギ兄さんから馬車を借りるとメロンの苗も購入し最後の用事を済ませに孤児院へ向かいました。



 *



 到着し中に入ると何やら随分と騒がしい気がします。

 またですか~?

 でもキンピラ三兄弟はここに居ますしね?

 居るとしたら閑古鳥かしら?

 騒がしい鳥~盛況鳥かな?

『カンコー・カツコー』とか『セイキョー・ハンジョー』とでも鳴くのでしょうか?

 居たら見てみたいですね。

 そう思いながら孤児院に入っていくと……シスターと対峙していました。

 鳥の羽がいっぱい付いた変な恰好をした赤い人と……。

 イケメンな顔以外が全身鎧(フルプレートアーマー)で覆われた黒い人が……。


「お前ら~いい加減にしないと~やっちゃうぞ~? このヒロキが」


 あたしたちがやってきたことにより多勢に無勢を感じ取ったのか声を荒げる赤い人です。

 先ほどまではシスター対赤・黒の2人だったのでしょう。

 現在はアシュリーを含めないあたし達3名が加わり4対2で逆転しています。

 ちなみにキンピラ三兄弟は物陰に隠れました。


「姫さま、この鳥。何ですか? ピエロか何かです?」


「ピエロが何か知らないけれど~例の長男みたいよ?」


「ああ~見た目通りに鳥頭で中身がゼロの鳥男ですね!」


「お前も調子乗ってるとケチョンケチョンにしちゃうぞ!? ヒロキが」


「なんですって? ぴえろが?」


 全身赤い人が顔も真っ赤にして叫びます。


「ちげぇよ! ヒロキだヒロキ。お前も知ってるんだろ~?」


「いいえ全く!」


「ねぇねぇ姫さまヒロキって誰です? 何者です?」


 姫さまに小声でヒロキについて聞いてみました。

 この都市の一番のツワモノで用心棒として例の長男に付き従っているそうです。


「ごちゃごちゃ言ってるとやっちゃうぞ――」


「――ヒロキさんが?」


「俺様の台詞を取るなっ取っていいのは俺様の人気だけだ!」


「あたしは人の揚げ足を取るのも得意なんですけどね。そして、あたしより人気ないと思いますよ? あなた」本当にトサカだってる頭を指さします。


「俺様の人気はこの都市一だ!」


 鼻高々になり天を仰ぐ赤い人がいます。

 こうでもしないと生きていけないのでしょうか? 惨めで哀れで赤面してしまいますね。

 これがうわさに聞く〝井の中の蛙〟もとい!〝井の中の赤い鳥〟ですね。


「そうなんです? あたしの人気は世界一ですけど?」


「下僕庶民が何を言ってやがる、俺様を称えよ! 俺様はこの都市の後継者であるぞ?」


 あたしは辺りを見回しみなさまの顔色をうかがいます。

 嘘はいっていないようですね。首を縦に振る人、青ざめたまま固まっている人。様々です。


「後継者ですって~。フラメンゴみたいな顔して――違った格好でした!」


「フラメンゴが何か分からないけれど~きっと奇妙って事よね?」


「そうです奇妙な……ん? ああ、フラミンゴでした……ミンゴメンゴ。そんな、羽の生えたフラミンゴみたいな恰好して!」


「フラミンゴは分かるけども~羽が生えてない鳥っているのかしら?」


 変な所が気になって考え込む姫さまが居ます。


「俺様はなぁ~逆らったやつをケチョンケチョンにしてむしり取った数だけ羽根を増やしていくんだ! これらは云わば撃墜数なんだよ~!」


「単に罪の数じゃないですか!〝赤い羽根募金〟に謝ってください!」


「なんで俺様が謝んなくちゃいけねぇんだ?」


「赤い羽根募金が何か分からないわ~?」善意の証です。


「で~? その俺様が何をしに来たんです?」


「ていうか、お前誰なんだ? ぶっ飛ばすぞ? ヒロキが!」


「誰かも知らずに話しかけていたのですか? ちゃんちゃらおかしいですね~。あ! あたしもあなたの事知りませんでした。誰ですか?」


「この都市の領主の息子だって言ってんだろ!?」


「言ってましたっけ?」首を振る全員です。

「言って無いそうですよ? お話があるなら名乗ればどうです?」


「しかたねぇ~耳をかっぽじってよくきけ?」

「俺様の名はフォルマッジ・クアトロだ、わかったか?」どこから取り出したのか(コーム)を取り出しトサカの様な色をした髪を手入れしながら言い放ちます。

「じゃあ次は貴様だ!」


「すいませ~ん。耳かっぽじるのに忙しくて聞こえませんでした~」

「もう一度お願いしていいです?」


「フォルマッジ・クアトロ」トサカを手入れし直しながらいい放ちます。


「何クアトロですって?」そのクシをトサカに当てないと名乗れないのですかね?


「フォルマッジ!」


「フルマッチョ?」


「フォルマッジ!」


「フォアトロ?」


「なにいっしょくたにしてんだ! 馬鹿か!」


「馬鹿じゃないです馬場です」


「どうでもいいから早く名乗れ!」


「バカですか? 貴方の方こそ~耳の穴カンボジアなんじゃないです?」


「カンボジアが何――」


「――かっぽじるのはどうでもいいんだ! 払う物払ってもらおうか!」


 姫さまが話しかけているのを遮って大声を出しています。あたし怒鳴る人って嫌いなんですよね~。


「いえ、耳をかっぽじってよく聞いてください? 昨日、耳揃えて全額分お支払いしましたよね?」


「ハイざんね~ん。こんなこともあろうかと、ちゃ~んと契約書はかわしてます~」


 見せつけられた契約書には、本物らしきシスターのご両親のサインがあり。契約内容には一年ごとに利息を支払うこと支払えなかったら娘を差し出すとあります。期日は年の終わり毎です。要するに期限は少し前です。


「毎年のべらぼうな利息の支払いって貴方もしかして馬鹿なんですか? こんなでたらめな契約書交わすはずが無いです!」


「ハ~イ。何を根拠にですか~。ちゃ~んと不正が無いように見届け人である領主の印もありま~っす。ざんねんでした~」


 キー! この男腹が立つんですけど~。ギャフンと言わせたくなってきました。


「この男こんなこともあろうかと言いましたよ!」

「それに見届け人ってこの男の父親じゃないですか!」


 スタジオニ・クアトロと大きな印鑑みたいなのが押されてあります。

 こんなの息子なら勝手に押せるじゃないですか!


「ハイざんねん、ハイざんね~ん。そういうわけだから()スターの身柄はもらっていくぞ!」


「待ってください。こんな横暴な契約は無効です!」


「向こうもこっちもねぇ! みんなちゃんと払うもんは払ってんだよ! つべこべいうな」


「カッチン! 言ってはならない事を言いましたね……みんなって? ダレデス?」我ながら座った目をしている自覚はありますが、コレでもまだ叫ばないだけましなのですよ?


「みんなはみんなだ!」


「言えないのにみんなっていうのかぁ~フーン」さらに目を細めて冷たく言い放ちます。


「鍛冶屋だろ、酒場だろ、それから肉屋……何を言わせやがる!」


「余罪タップリですね、ちょっと。ヨザイマッジさんにはお仕置きが必要かな?」


「キー!! またもや俺様の名を! もう~怒ったぞ、ヒロキこいつ始末しろ」


 のそりと黒い鉄の塊が音を立てずにあたしの前に忍び込みます。

 全身鎧で音がしないとかどうなっているのです?


「あなたがヒロキさんですか?」


「如何にも」イケメンから口篭った声が発せられます。


「あなたと敵対するつもりはありませんので、下がっていてくださいます?」


「そうにもいかぬ」


 微動だにせずに圧迫感を強めてきました。

 視覚では感じられませんが鳥肌が立ちピリピリとした威圧感が押し寄せます。


「どうすれば引いていただけます?」


「言葉を交わすつもりは無い」


 ヒロキが背中から人の身長ほどの超大剣(グレートソード)を抜き出します。

 ちょっとやり過ぎたかな?

 あんなので殴られたらかぼちゃを割った脳みそみたいになっちゃいますね


「カズコさがって」姫さまがあたしをかばう様に前に出ます。


「姫さまここはわたくしが!」姫さまをかばってスペイン先生が前に出ます。


「いえいえ、やはりここはあたしが~」あたしはスペイン先生の前に出ます。


「ここはあたしが」「わたくしが」「わたしが」かばい合い入れ替わりに入れ替わるあたしたちです。


 そろそろいいかな?「ではでは! みんな無しということで~」一同散開します。

 ヒロキさんとやらは何でボヤっと見ていたのでしょうね? 若干ですが好印象を受けました。


「ヒロキさん? 静観していてくださったのはうれしいですが、貴方の主君? 大変なことになりますよ?」


「なぜだ!?」


「アシュ~ご苦労様」カバンにゴソリと透明なアシュリーが入っていきます。


「くびおっぽよー!」首尾ね!


 フォルマッジが服の上から全身をかきむしり始めます。


「なんだ? 熱い! かゆいかゆい、かゆいかゆいかいかいい!」


「どういうことだ!?」


「内緒です」ウィンクを一つ入れ姫さまバリの色気を放ったつもりです。


「どうなされました、どこがかゆいのですか?」フォルマッジの体を触り始めるヒロキです。


「さわるな! かいいし! やめろし」


「何かがいくつも貼ってあります」ヒロキが剥がしていきます。


「帰ってお風呂に入ればよろしくてよ~!」


「私はそんな喋り方しないわよ?」姫さまを真似てみましたが不評でした。


「くそここじゃなんだ、行くぞ!」

「そこ退けし!」騒ぐだけ騒いで去っていく。

「くそかゆい! ちくしょう覚えてろ! お父上に言いつけてやるからな~」


「何を覚えておけばいいのか分からないわ~」「「ね~」」姫さまと疎通(そつう)が合い頷きます。


「俺様、オツカレ様~」


 あたしはドタバタトと出ていく〝降伏の赤い鳥〟に手を振ります。

 すると一同が顔を見合わせて笑い始めます。

 キンピラ三兄弟も苦笑いをしながら入ってきました。


 魔法の紙。第五弾! かぶれる紙です。注文したのはシップ薬なのですけどね~なぜか痛みは取れるが直ぐにカブレてかゆくなるのです。(うるし)成分でも使っているんじゃないでしょうか?


 先程のごたごたと時間を稼いでいる間にアシュリーに貼らせました。


「ペンペンなのー」


 そこはお尻を向けて二回叩くかエヘンですかね?

 あーもしくはペタペタと言いたかったのかな?


 あっ!〝ギャフン〟と言わせるの忘れましたね。


 負け犬なのだし〝キャイン〟でも良かったかなと邪な考えをしていると姫さまがあたしの顔を覗き込んできました。


「ところですごく怒っていたわねカズコ?」


「そうなんです。ちょっと色々ありまして……」



 ――――――――――


『みんなやっているから』あたしはこの台詞が大嫌い!

 皮肉だったのか? そう言った医者には本気で噛みついた。比喩でなく。

 憐まれたいとは思わないけれど……。

 みんなと同じ事ができないあたしに、よくもまあ言ってのけたものだ。


 この日を境にあたしの生活は一変した。

 別に周りが変わったわけじゃ無い。

 あたし自身が今ある現状を受けとめ、精一杯に生きる事を決めた!

 手始めに日記を書き始める。

 なんの代わり映えしなかった病院生活は些細なことまで観察することで激変した。

 コッソリと付き合っている医者と看護師のサインすらをも見抜けるほどに。


 憐まれるよりマシだったかも? とは思える程に今では成長していますが、別にだからといってみんなと同じ事をしようとかしたいとは全然思わなくて、むしろ、人とは違う事をたくさんやりたい。

 でも、人並みの幸せは味わいたいという矛盾を抱えていました。


 そして、あの時のあたしが今のあたしを形成しているのでしょうね?


 ――――――――――


 姫さまにお話をすると優しく頭を撫でてくださいました。



 ――――――――――――――

 ■後書き■

 現在の人口:18名(+20移籍予定者)

 やりたいことリスト(今日の達成した出来事)

・達成なし(キルドマスターが釣れる)


 ギルドマスターの一本釣りです。

 ん?

 狙って一人だけ釣ったわけではありませんので違うかもしれません。

 訳がわかりませんが、設置してもいない罠に飛び込んできた獲物がいます。

 獲物がデカすぎて対処に困ります。どうしましょうか?

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