019 『勧誘と酩酊』 春の一月、十一の日
馬場和子です。
翌日の朝に都市に到着します。
威圧石を持ってきていますので、魔物との遭遇はありませんでした。
そして、すでに判明している山の方角には決して近寄りません!
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■帝国歴308年 春の一月、十一の日■
都市に到着しました。表玄関に回り、入場手続きをします。
朝一なのでそれほど待つこともなく、都市に入場ができました。
さて、昨日決めたとおりに、行動を開始しましょう。
姫さまは手紙の送り先である、商人と会談があるそうです。
スペイン先生は馬車を預ける宿探し後、姫さまに合流するとの事。
あたしは孤児院にあいさつへと向かいます。
アシュリーはあたしが連れて行くとして、どこに居てもらいましょうか?
「ここなのー」アシュリーはパタパタと飛び、こともあろうか姫さまのスカートの中に入っていきました。
「そこはあたしのワンダーランド!」
「なにを~いってる~のかな?」ワンダーランド……。
「ワン! ダー! ……とランドです……」あたしのおとぎの国……。
「スペイン先生! 魔法か何かであたしもピクシーぐらいに、小さくなれませんか!」
「無理でしょうな」ですよね……うなだれる私がいます。
こうなったら! 姫さまのスカートを合法的にめくりあげて、アシュリーを捕まえます。
そして、マジックポーチに突っ込み……入りませんね?
「カズコ~生きてるよ?」えっとーどういうこと?
「しぬのよ……」私の手の中では、自らの首を絞めて、アピールするアシュリーが居ます。
「死ねば入るのですよね? いけないいけない……おちつけーアタシ」
「ばたんきゅーなのー」忘れてた! 生命力が極少なのでした。
「ポーション! ポーション!」慌てて赤いポーションを飲ませました。ほぼぶっかけです。
「げんきでたのー!」荷台の中で飛び回るアシュリーです。見つかるからやめて!
「ごめんなさい!」
「いいのよー!」ホントごめんね。
でも、どうしましょうか?
「ねるぉ~」飛び回っていたアシュリーが、今度は谷間から姫さまの服の中に入ります。
「きゃ~」くッ、あたしのブレジャーランドが……。
「サポーターって……小さくなる特技とか覚えませんかね?」
「覚えないと~思うよ?」ですよね……再度崩れ落ちる私がいます。
谷間ランドも突撃したいのですが、グッと堪えアシュリーを呼び出します。
「なのよー」
考案した対策を講じます。
アシュリーを姿隠しのハンカチでくるみ、飴玉を渡します。
もう見えませんが両手いっぱいの飴玉を抱え満足げな事でしょう~。
透明の物体を両手で救い上げると、普通のカバンに収納します。
さて、ここからは二人と別行動です。
宿の場所が確定していませんので、用事が終わり次第、冒険者ギルドで合流することになりました。
あたしは雑貨屋さんに向かいます。
目的は靴です。
なぜなら、村の子たちも孤児院の子供たちも裸足なのです。
雑貨屋に入ると「まぁ~カズコちゃんじゃないのお帰り! 戻ったの? またこっちに住むの?」
「モゴモゴ」小太りのおばさまに抱きしめられ、返事の出来ないあたしが居ます。このワンダフルランドは要らないです。……苦、くるじぃ。
姫さまから必需の費用として、お金を預かっていますので、とりあえず孤児院の人数分の靴を購入しました。
今回買うのは、素材が木で出来ていない、皮製品のちょっと良いやつです。
サイズに関しては、子供用(大・中・小)程度の区分けですので、多めに購入しました。
様々な色がありますが、喧嘩になるのを予感して、茶色いで統一します。
余った分は、始まりの街の子供達へと、渡すことにしました。
古着もありましたので欲しいな~と思いましたが、何でもかんでも無償提供は良くないと、思い直し保留しました。
あ~でも街の子たちには、お土産に買ってあげたいなと思いましたので、また後ほど来ることにします。
お留守番もですが、きっと元気に働いていてくれることでしょう。
「後でまた来ます」そう言い残しお店を後にしました。
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「シスターただいま!」孤児院に到着し元気よく挨拶をします。
「早かったのね。もう帰ってきたの?」
そう言いますよね・思いますよねー。
ともかく事情説明です。
・人手が欲しい事。
・職にはありつけそうな事。
・場所は魔界です……。
安全に問題?
「ん~。大丈夫かな~外出しなければ?」外に出なければ安全だと思います、村中で活動する職業なら大丈夫でしょう。
「来たい人いませんかねー?」
シスターに相談すると、本人が希望するならば、喜ばしいと言ってもらえました。
子供たちを呼び集め、購入した靴を配り始めると共に、子供たちにわかるよう、簡潔な説明をおこないます。
今年、卒業の男の子が興味ありそうです。
12歳の年になると、見習い職を選び、働き始めるが、孤児院の決まりですからね。住み込みでなければ、孤児院から通っても良いのですが。
そうするとなかなか職にありつけません。
ご奉公の住み込みで働くのが、1番手っ取り早い方法みたいです。
でも賃金は雀の涙で、孤児院には仕送りもなかなかできないとの事。
孤児院の卒業生は仕送りが、暗黙の義務です。運営費用が掛かっていますからね。
そういえば、お賃金ってどうなんですかね?
稼げるなら→稼いだだけの気がします。
何をもって稼ぐかが、重要な気がしてきました。
男の子が稼げるのか? って聞いてきました。
あいかわらず厚かましいですよねーこの子。
「自分次第だよ?」そう自分次第! いい響きです。
自分次第……。
夢と希望がありますね。
「現実感がない!!」
何を言ってるんでしょうか? この子は。
そんな事だから、行き先が見つからないんでしょ?
「言っておきます! 人に頼らない様に!!」おっと、あたしのことでしたね。
でもまあ、やる気次第じゃないですかね? たぶん。
この子は保留ですね。やる気があるなら連絡するように!
ん?
あれ? なんだか今。閃いたような気がしたんですが……。
何だったのでしょうか?
ちょっと閃き切りませんでした。
何かが足らなかったのかもしれません。きっとカレイだったのでしょうー。
なかなか見つからないものですねー。良い人材、村人。
「またきますね、シスター」孤児院を後にします。
あたし一人では説得力にも欠けますね。もう一度、姫さまを携えて伺うことにしましょう。
当てが空ぶってしまい、することが無くなりました。
冒険者ギルドにでも向かうことにしますか……。
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一般人の住む地域で、一際大きな建物を目指して歩きます。
この都市の冒険者は荒くれどもの集まりで、正直あまりいい印象はありません。まあ、他の冒険者も知りませんけどね。
個人的には、貴族などお金持ちから、依頼を受けて活動する輩だと思っています。
一般の市民からの依頼は、報酬が安すぎる為に放置されることが多いです。
そのおかげ? なのか便利屋は繁盛していました。
貧乏休み無しとはよく言ったものです。
そして冒険者ギルドとは、その親玉的存在ですね。
依頼を受け付け、斡旋する業務を一手に引き受けているようです。
冒険者ギルドは2階が宿を兼ねていて1階が酒場になっていることが多いそうです。
ここの都市の建物は小さめなので、宿はありませんが酒場は完備されています。
さて、そうこう言っているあいだに、冒険者ギルドに到着しました。入るとしましょう。
西部劇に出てくる、両パタパタの扉をくぐりました。
これって何のためにあるんでしょうね?
扉の役目ゼロですよね?
音が鳴るわけでもなし……『ギー』……錆びているのか、音はするんですね。
もっとも城壁も無いのに、立派な門がある街に比べれば些細な問題ですが……。
中に入ってみますが、待ち人はまだのようでした。
見渡すと、奥のカウンターらしきところに、女性が一人。
中央の丸テーブルに男性が一人です。
おや? ここは閑古鳥の生息地ですか? どうしたのでしょう?
なるほど、そういえば酒場は朝からの営業をしないですよね?
目立たないように、手前角のテーブルに向かい座ります。
内側を観察できる位置取りですので、女性の方の様子を伺います。
受付のカウンターテーブルに突っ伏していますね。
でも枕にしている両腕の隙間からは、視線が伺えます。
寝てるわけではないようでした。
男性の方は何やら、書き物をしていますね。
冒険者には相応しくない気がします。
観察終了、することがなくなってしまいました。
やはり用事が終わるのが早すぎましたね。
お昼ぐらいには二人とも来るのかな?
『ギー』扉から音がしたので振り返ります。
スペイン先生が来てくれました。良かったです。一人でどうしようかと思っていました。
「お宿が前回同様の所で取れました。お陰様で、随分早く到着することができました。
カズコ殿はいまからですかな?」
「いえ、あたしの方は……」スペイン先生に結果報告をおこないました。
「そうしましたら。姫さまが戻られ次第、改めて伺うのが良いでしょうな」
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その後、姫さまも戻られ、全員が揃いました。
再出発です。
あたしの提案で孤児院もですが、その前に朝ご飯にしましょうと広場に向かいます。
広場では朝一の露店が出ており、賑わっていました。
幾人かに声を掛けられ「またお願いね~」などと声が掛けられましたので「機会がありましたら」とだけ答え、言葉じりを濁しておきます。
知り合いの露天商とも視線があったので、手だけ振り返しました。
他にも、蒸かし芋の屋台の若者に「ねえたん!」と声を掛けられたので『後でね』と手を振って答えておきます。
姫さまに買わなくても良かったのかと尋ねられましたが、晩になると飛ぶように売れるのでと、答えておきました。所謂右から左です。
半年程度でしたが、かなりのしがらみの形成を実感しました。
本日の朝ご飯はヒリヒリというサンドイッチです。
名前とは裏腹に辛くなく、野菜の炒め物が挟まっています。
お肉はお昼以降にと思っています。
そうだ! お肉屋さんに行きましょう~。
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「ゲンさんこんにちは~」
「よっ! 嬢ちゃん。ご褒美かい?」
「いえ、今日はちょっと相談にー」
自分へのご褒美にお肉を買っていたら、いつのまにか、皆さんに〝ご褒美の子〟で周知されていました。
月に一回買えるか買えないか、だったんですけどね。
実際、お肉の為に頑張っていましたので『お肉のおかげで今がある!』といっても過言ではありません。
人って意欲が大事だと思います。
命短し食せよ乙女です!
そういえば一年が短いです。
1年は十か月で一月は30日です。閏年はありません。
なので1年は300日です。春が二月、夏は三月、秋が二月、冬は三月の合わせて十月です。
今は春一です。
今日は春の一月、十一の日と言います。
ゲンさんに始まりの村で、お肉屋さんを開けないか尋ねてみました。
お肉屋は無理だけど、土地があれば牧場が出来るんじゃないかとアドバイスを頂きました。
なるほどなるほどです。
勉強になります。
結局、肉の仕入先を紹介していただく事になりました。……粘り勝ちというやつですかね?
仕入先は牧場と狩人ギルドだそうです。
牧場から向かいます日が暮れる前に。
牧場では食用ではありませんが馬と牛がいました。
あとは放牧の羊が居るそうです。こちらも基本食用ではないそうです。
食用は主に豚イノシシだそうです。
それらは小屋で飼っているので、ここからは見えないのだそうです。
なるほどなるほどー。
土地が余ってるので新しい村でも牧場を経営できないかと持ちかけてみます。
主に姫さまが。
流石にあたしでは説得力に掛けますしねー。
見た目は子供ですから。
中身も子供ですけどね?
最初は乗り気だった牧場主さんでしたが、場所を聞くとガラリと態度を変えて追い払われました。
あたしはそれでも食い下がり、お肉を卸してほしいと粘り、そちらは承諾いただけました。
お肉の為ならば、粘れよ乙女です!
次は狩人ギルドですが結果的には同じでした。
ただ、こちらは獲物が少ない事と危険が理由でした。
なんでも、魔界には獣が生息が難しいらしく。魔獣が多いのだそうです。
魔獣も食べれるそうですが。魔物が出るので冒険者ギルドでも立ち上がらないと戦力的に肉の確保は無理だそうです。
残念です。
食べたかったのに。魔獣肉。丸くて甘くて美味しそうです。
「魔獣肉?」ええ姫さま。食べてみたかったです……。
「食べれるぞ?」ギルド員の声に振り向きます。
この都市で魔獣肉が食べれるそうです。
早速行きましょう。
お礼の言葉も早々に食べに行く事になりました。
調査ですからね! 試食と言う名の調査。
食べましょう! 食べる事に調査はある。
よだれを我慢です。
獣は狩人の管轄らしく。魔獣は冒険者の管轄らしいです。
冒険者ギルドの酒場では気軽に魔獣肉が食べられているとの事で早速向かいます。
あれ? 大丈夫ですかね?
まだお昼でした。
ちょっと心配です。
魔獣肉が旨いのか……。
ヘアバンドの帯を締めなおして向かうことにします。
モーニング営業に引き続き、ランチの営業もやっていないようです……晩御飯に持ち越しですね。
渋々、元々の予定であった孤児院に向かいます。
孤児院に到着しましたが、来客があるそうでシスターは出てきませんでした。
ちょっと暇を持て余していましたので、新しく配る予定だったビラのダメ出しを行います。
前回配ったビラでもし住人希望者が居ても、連絡先はおろか所在地も書いてなかったのです。
姫さま自ら勧誘して連れて帰る予定だったのでしょうが、村人も増えたので度々こちらに来ることも出来なくなると思います。なので自然と来れるようにと地図を提案したのですが……。
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■■■■
■都市■
■■■■西へ約一日
↓
↓
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~川~
□←新しくできた村
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なんですか? これは?
姫さまベルトの帯を締めなおして取り組んだ方がいいですよー。
ちゃんと事前説明と連絡できる環境が必要ですね。
窓口として孤児院にでも引き受けて貰いましょうかね?
さてどうしたものか。
ヘアバンドで結い直し前髪をアップさせます。
そろそろ別世界の知恵の出番かしら?
読んだライトノベルに見習って知恵を絞り出します……。
でも、お金儲けじゃないんですよねー。
お金儲けなら色々と思いつくんですけどー。
お金を儲けてその資金で人口を集めるみたいな流れが必要かしら?
この世界、基本的に食材が良いのか食事が美味しいので、食での裏技は難しいのですよねー。
チートってそういえばどんな意味でしたっけ?
不正とかインチキみたいな意味合いでした? 疑問が深まります。
もう少し正当な感じの意味合いの言葉が欲しいところですねー。
ズルをしたいわけではありませんので!
そういえば孤児院出の男の子に芋屋台やらせたら儲かってるみたいだけど……。
姫さまって本物の姫様かも知れなくて、お金いっぱい持ってそうなんですよねー。凄く浪費家な気がしています。なので今はお金要らなさそうー。
ん?
お金でもいい気がしてきました?
人材雇えばいいじゃない。
とりあえず数人ぐらいなんとかなるんじゃないかしら?
カレイにヒラメきました!
役目を果たしたのでヘアバンドを元の位置に戻します。
ねぇねぇ姫さまー?
ご予算いくらぐらいありますか? ゲスいカズコは気にせずに聞けちゃいますよ!
予算は正に裏技級でした。
ちょっとわかんない!
それぐらいの予算です。
「そ~う。でも街の予算ぐらいだよ?」うの辺りで首を傾げて姫さまがいいます。
「いや、街作るんだからー。街の予算で十分じゃないですか?」姫さまの常識は規格外でした!
「そうなの~?」そう思うのはあたしだけ?
「使える物は親でも使えと言いますし。使いませんか?」シマッタ! 正に親の金だった。
気持ちを切り替えて行きましょう、姫さま!
「人材確保に必要な要素」
「それは夢や希望かもしれない」
「しかし、夢や希望では食べていけない」
「食べていくにはお金がいる」
「お金があれば夢や希望が見られるようになる」
「そう夢や希望を叶えるために先行投資するのです」
「代わりに人材という見返りを受け取りましょうー姫さま!」
ごまかそうとして色々たたみかけ姫さまを見ます。にこやかに笑われました。
少しはいい感じにまとめてみましたが、お金で動く人間はお金で裏切るそうです。
お金の切れ目は縁の切れ目ということわざもありましたね……そういえば。
別世界物の小説にありがちな奴隷の購入なども安易に考え、姫さまに進言したのですが。
この世界は奴隷が禁止されているそうです。
どうしたものか?
誰かに聞いてみたい所です。
いっそ誰かに聞いてみましょうか?
誰かいませんかね?
誰が良いですかね?
私の知り合いは大体、当たって外れたので……。
姫さま、知り合いプリーズです。
すみません。
居ませんでした知り合い。
この都市に……。
ホントすみません。反省。
どこから来たんでしょうね? 姫さま。
やっぱり天界とかじゃないんですかねー?
「姫さまは~お金持ち♪」
「お金は凄く~魅力的♪」
「魅力的なのは~姫さま♪」
「すなわち。姫さまは~お金♪」
駄目だー! あたしは作詞のセンスもゼロでした。
良い感じに三角関係にして伝えようと思ったら。
最悪なゲスコになってしまいました。もし呼ばれても否定できないです。
ババ ゲスコ。
「すみません姫さま……思ってませんので。姫さまが金ズルとか……。
まぁ今のところ紐みたいな生活ですけど……」
たしか、紐とは働かないでお金やご飯の面倒をみてもらう職業の事です。
なので働いて体で返します!
いえ、他意は無いんです。からだとか。
ご所望なら差し出します。
身も心も。
いえ、ですから体はー。
そう! 体を張って頑張ります!」って事です。
良かった。熱意は伝わったみたいです。
そうこうしていると、ようやくお客が帰ったのかシスターがやってきます。
なんだか青ざめた顔をしていますね。
体調でも悪いのでしょうか?
「シスター大丈夫です?」
「カズコちゃんちょっと……」ふらりとあたしの所に倒れ込みます。
「ちょっちょっとシスター!」シスターを抱きしめますが受け止めきれずに、あたしごと姫さまの方に倒れ込みます。どうにかスペイン先生にも受け止めていただき、倒れることは回避できました。
シスターはそのまま眠っていただくことにしておきましょう。
単なる体調不良ならいいのですけど?
姫さまにお使いを頼むことにしましす。
「広場に行って蒸かし芋を打ってる青年を呼んできてもらえますか?
なんなら屋台ごと持ってくるようにと、お願いします」
シスターは青ざめた顔から、ほてったような赤い顔になています。額を触るとかなりの熱を帯びています。
スペイン先生の薬で何とかなりませんかね?
体力は回復するので赤いポーションを飲ませておくことにしました。
うわごとを言い始めるシスターでしたがよく聞き取れません。
「知恵熱が出ているように見受けられますな。体の方までは発熱していないように見受けられます」
そうこうしていると姫さまが戻ってきます。その後ろからひょろっとした青年が駆け寄ってきます。
「シスター! ねえたん、シスター大丈夫? どうしたん?」
「落ち着いてハスキー大丈夫よ。ツバキも呼んできて」
1つ年上なのにあたしの事を姉さん扱いでねえたんと呼ぶこの子はハズキといいます。あだ名がハスキーです。犬のようにあたしにまとわりつくのでそう名付けました。そしてツバキとはハスキーの妹です。
「ちょっと疲労なのかもしれないので安静にさせてあげてね、ツバキちゃんシスターの事、見ててくれる?」ちいちゃな女の子が小さくうなずきます。この子もアイスさんと同様で人見知りというか対人恐怖症みたいで喋れないのです。
「ハスキーはみんなに蒸かし芋をご馳走してあげてね」
「もちのろんでっさー。別嬪の姉さまに屋台一台分のお代金を頂戴しました」いくらか知りませんけど払い過ぎでは? 全部持ってきてとは言いましたが、屋台ごと買う必要あります? そもそもアレはあたしとハスキーの自作屋台ですよ?
まずは子供たちを満腹にさせます。ハズキちゃんが料理もうまいのでシスターの御飯もお願いしておきます。
そして不謹慎ですが、あたしはお肉を食べに行くことにします! これは絶対です。譲りません!
明日また来るからとハスキーに言い残し、何かあったら冒険者ギルドに顔を出すように伝えます。念のためにスペイン先生に宿の場所も伝えていただきました。
もう少し密な連絡が取れるといいのですけどね? 猫ピヨちゃんは馬車の中で寝てるのかな?
アシュリーは……ん~。
とりあえず呼び出してみましょうか。
カバンを開けて手を入れます。アシュリーしか入れていませんので、感触だけを頼りに透明なアシュリーを取り出します。飴玉だけがポロリとこぼれ落ちカバンの中で転がります。
「ヒック」ん?
「ぶひ」ん? 豚が居る?
「アシュちゃんマント取ろうか」
「まだまだなのよ~」何がでしょうか?
「うひ~」
「ヒック」
「ちょっとアシュってば何やってるの?」手探りで透明ハンカチを剥がします。
「うぃ~」素っ裸で真っ赤になったアシュリーが姿を現します。お洋服なんとかしないとね……じゃなかった! どういう状態?
スペイン先生が覗き込んできて「よってますな」とおっしゃいます。
寄ってる? どこにどっちに?
「そういえばピクシー葬という花がありまして、花の蜜でピクシーを呼び込み喰らうのだそうです。なんでも蜂蜜にはピクシーを酔わせる効果があるのだそうで」
「よって、ないレスよ?」
「ヒック」
「きもチのいいー」
「ぜんぜんのなー」
「のなよー」
「ヒック」
「のなー」
酔っ払いは寝ました。カバンにそっと戻します。
「これはウッカリでしたな」そうですね。静かなのはいいことですが、連絡手段が一つ失われました。通信手段を今一度開発したい所ですね。
スペイン先生から本日の宿の場所を聞き出しハスキーに伝えます。明日の朝また来るけど、何かあればすぐに連絡してくるように言い含めます。
さて、これで憂いなくお肉にありつけますね。
みたび冒険者ギルドに戻ると酒屋が開店しており、数十人の冒険者で賑わっています。
「おや? また来たのかい?」書き物をしていたイケメンのお兄さんが声を掛けてきました。姫さまが反応を示しませんでしたので良しとします!
魔獣のお肉を食べに来たことを告げると、魔獣の肉の新鮮度だけはピカイチだからと喜んでいらっしゃいました。他にお勧めはありますかと聞いてみると、大変珍しい事に火食い鳥の刺身が今日は食べれるのと定番なのがアリゲーターの舌だそうです。
席に着き食事を注文しようとするとチンピラ三兄弟に絡まれました。
しかし穏便に済ませたいのか、姫さまが「今日の食事は私のおごりですよ?」大盤振る舞いをしチンピラをうまく料理し手なずけます。
今日の姫さまはご機嫌なのか太っ腹ですね。
まさかイケメンにいい所を見せたいのじゃないでしょうね?
そしてあたしは減りっ腹です。
やはりマネーパワーは最強です!
お金があれば何でも出来る! アリガトー!!
居合わせた人々の食事を奢る事でご機嫌になった一同とその他。
「美味しい食事に、目の保養をあてにお酒を飲めるとは~ありがたい!」
「お酒は自腹ですよ?」調子に乗った人々にくぎを刺します。
目の保養にはあたしも入ってますかね?
というか、あたしの保養はテーブルの上でした。
何故なら全てのお料理を並べたからです。左から右まで全部って言ってみたかったのですよねー。
座っている方々も居ましたが椅子を全て取っ払って立食形式です。
色々なお肉を食べてみたかったのでお肉料理を優先に実食です。
あるだけの食材を使い切って。
全てのテーブルにお料理が置かれて行きます。
冒険者の方々も貴族の真似事をして大いに盛り上がりました。
アリゲーターの舌は美味しかったです。
薄切りで炙った奴よりも厚切りで焼いた方が好みでした。
あとはひくい鳥の刺身! 絶品でした。
とてもとても希少らしくあたし達の分しかありませんでしたが、遠慮なく完食です。
とにかく、魔獣のお肉。ありです!
肉の目処が少しつきましたね。
ん?
お肉の確保が目的でしたっけ??
違った気もします。
あとはお風呂の確保ですかね?
どうします?
姫さまもご所望な様です。
「そういえば姫さま、温泉ってしってますか?」
知らないそうです。
肝心のお風呂ですが。
この都市の大衆浴場は到着したら閉店後でした。
こちらの世界のお風呂は仕事終わり夕暮れに入るのが普通なのだそうです。
知りませんでした。
今まで水浴びで済ませていたので、ここは是非とも入りたかったのですが。
仕方がありません。
しぶしぶ諦めトボトボ帰ることになりました……ホトホトな結果です。
明日こそはお風呂に入ります! 姫さまの裸に誓います。
そして、確保していたお肉、もとい! お宿に戻りました。
2部屋に分かれます。
スペイン先生の部屋にアルキマワロと猫ピヨも押し付けます。
アルキマワロが猫ピヨにじゃれ始めました。
「ピヨピヨさせちゃだめだからね」|諭して部屋を離れます。
性別が判明していませんが何となくの男女で分けるとあたし。
本当は二人っきりになりたいのですが。
アシュリーが酔いつぶれているので目をつぶり、部屋に連れ帰り面倒をみることにしました。
あとは寝るだけです。
「一緒に寝ますか?」
ベッドが2個もあったことが悔やまれます。
自ずと別々に寝る事になりました。
今後はお部屋1つにベッドも1つにして頂きたいです。
とりあえず合体しましょうー。姫さま!
「お部屋がひとつ♪ ベッドもひとつ♪ 扉を開けたら~布団にふたり♪」
あたしの方のベッドを姫さまのベッドに合体させます。
今日は姫さまの顔を見ながら寝る事になりました。
「おやすみなさい姫さま」姫さまの方を向いて声を掛けます。
「おやすみ~」姫さまが仰向けからこちらを向いて返事を下さいました。
これで運良く向かい合わせです。
明日も頑張りましょう。
連絡もなかったのでシスターは大丈夫でしょうが朝一で様子を見に伺うことにします。
――――――――――――――
■後書き■
現在の人口:18名
やりたいことリスト(今日の達成した出来事)
・達成なし(合体しました! ベッドが……)
正直に言います!
姫さまの寝顔を見ながら……就寝です。
頑張って目を開けたまま寝ようとしましたが無理でした。




