013 『貴族と盗賊』
馬場和子です。
あたしは決して大食らいではないと思うのですが、アシュリーと比べると誰もが大喰らいの仲間入りだと思います。
――――――――――――――
■帝国歴308年 春の一月 六の日(晩)■
食事を済ませお腹の具合もほぐれた所で、再度本題に入ることになりました。
「結論から言いますね」
「この村々の食糧は貴族という名の盗賊が奪ったそうです」
「いや、違うのかもしれませんね?」
「盗賊という名の貴族でしょうか? この場合」
正しくは貴族を名乗った極悪人だと思います。
「そもそも本物なんです? 貴族って……」
事の始まりはこの村にひとりの青年が迷い込んだ事からなる。
以前、姫さまがこちらに到着した際に大層な逆おもてなしを施しました。
そして村の人々はその恩返しを次に来たその青年にしました。
その青年は貴族を名乗りこの村をいたく気に入ったそうな。
そして他にも二つ村が連なっている事を知り、お礼参りに来ると言い残し帰ったそうです。
それから十日ほどして、その青年は領主代理を名乗る者を連れて村に戻ってくると、お礼参りと称してこれまで免れていた税金の徴収を強制してきた。
そもそも、こんなへんぴなところに通貨が流通しているわけもなく。
払えない事を告げると、あるだけの食糧を徴収して『ひとまず、これで勘弁してやろう』と言い残して去って行った。
更に数日して今度は軍隊がやってきて足らない税金を労働力で払うように強制。
そして働ける全ての人々を連れ去ったのだと言う。
ただでさえ食糧を奪われ行き詰まっていたのに。労働力までも奪われ狩りなども出来ず。さらに時期も悪く畑なども種を蒔く段階だったらしい。
本当に全てを奪い尽くされ取れる手立てもなく、ただただ諦めの日々を過ごし昨日を迎えたのだそうです。
村の人々の絶望を想像することはできませんが、あたし達が数日遅れただけで大惨事になっていた事だけは想像がつきます。
「もう一度聞きます。本物なのですか? 貴族とか領主とかって! 単なる強奪じゃないですか!?」熱くなって唾を飛ばすあたしがいます。
「頭は痛くなっちゃいますが~経緯は全て本当の事なんですよね~」
「姫さま? どんな根拠があってそういえるのですか」
「正確な金額などの要求は無かったようなの」
「いや、それこそ盗賊の仕業なんじゃ? うーん」唸りながら考えます。
「根こそぎ奪った挙句に労働力を奴隷として……アレ? こっちの国。奴隷制度無いですよね? どこに連れて行ったんでしょう??」
「そうなのよ~」
「もし、盗賊ならここに逗留して、贅沢の限りを尽くして居座ると思うの~」
そう言われるとそんな気がしてきました。
「もう少し重たい話になるのだけれど~」そう言うと姫さまは重大な事を話し始めました。
「本当に込み入った話になるから」
「覚悟してきいてね?」覚悟させるわりには今サラッと可愛く言いましたねー。覚悟はしますが気合はだだ洩れです。
「ちゃんと聞いてね~?」再度、忠告が入りました。
誰に向けて言ってるのでしょう? 振り向くとアシュリーが床の上で寝ていました。
今日はよく働いてくれたので、ヘアバンドを外しそっと下に引いておきます。
おねしょはしないでくださいね。
スペインさんとアイスさんが小さく頷いていましたね。
二人には周知の話なのかな?
姫さまが語った内容は次のようになります。
大前提としてまず人族の住む人界ゾーンには大きな勢力が2つあります。
一つ目が元々細かく分かれていた国々を支配し一つにまとめた318年の歴史を誇る帝国。
二つ目が100年ほど前に帝国から反旗を翻し出来上がった反帝国都市連合。通称だと軍事連合と呼ぶ。
神様~じゃなかった! 姫さまに再度お絵描きをしていただいています。
100年ほど前に反旗を翻し独立した軍事連合と帝国は当然今でも戦争状態。
好機とみては軍事連合が果てなき戦いを繰り返している。
そうなるともちろんの事だが必然的に捕虜がうまれる。
◆帝国◆
帝国は軍事連合の捕虜を奴隷として雇う。
(売るでない。奴隷とは最下層の階級)
・対して軍事連合が帝国の捕虜をどう扱っているか。
◇軍事連合◇
人質交換か法外な賠償金に応じた場合を除き、帰ってくることがない。
軍事連合は死刑にしたといい、形見が欲しければ買い取れと言ってくるのみ。
農地の少ない食糧問題を抱えてる軍事連合なので捕虜も奴隷も養う事が大変な背景がある。
現在この村々が存在する地域は軍事連合の領地なので、こちらの国(軍事連合)には奴隷制度がない。
「ちょっとよくわからない所もあるけれど、奴隷制度が無い事は理解できた気がします」
「それと今回の件とどうつながるのでしょうか?」
姫さまが続けて言うには。
軍事連合が死刑したという人々は生きているのでは無いか?
そんな事を願い疑う人々が想いを訴えにきたらしい。
……調査をしてほしいと。
そして、捕虜になった方々の生死を調べた結果、未だに生存中である事が判明した。
姫さまはそれだけでは納得がいかず、更に調べ上げる事にした。
元々、奴隷制度の廃止を皇帝に訴えた事もあるらしく。
軍事連合のそれ以上の行いに憤慨し気がふれそうになったとの事です。
軍事連合は国土の魔力供給を地下の奥底で捕虜を生きたまま、魔力吸い上げの為だけに使っている事が判明。
ではこの村の人々、連れられた人々はどこに行ったのか?
今回もこれが答えではないと言い姫さまは締めくくりました。
「……今回もそれが理由であると?」姫さまは頷きます。
「連れ去られた先が同じであると……」再び姫さまは頷きます。
「ちょっとわからないのは魔力吸い上げて何ですか?」
姫さまから色々説明を受けましたが簡単に説明するのが非常に大変です。
特異点による都市機能には維持費が必要で。
その維持費が魔力で行われる。
どういうことー?
えっと~置き換えて考え説明しなおします。
――――――――――――――
◇維持費の説明◇
魔力=電気(お金)で例えてみます。
都市=豪邸、各50部屋+通路やホールにエアコン完備。仮に100台とします。
始まりの街=一軒家、合計4台エアコン完備。
エアコンの購入費
豪邸:100台=1000万
一軒家:4台=40万
電気使用料金
豪邸:100台=100万
一軒家:4台=4万
――――――――――――――
こんな感じかと思います。
詳しくは改めてお話ししましょう。
分かったのは凄く維持費が必要って事ですね。
「捕虜・奴隷の件はお父様に進言・依頼した事もあるんだけどね~」スペインさんが深く頷いています。
「ん? お父様?」
「姫様の父上は皇帝であらせられます」
「ハッ? 本物の姫さま!?」
「カズコくん、君は何を思って姫さまと呼んでいたのかね? 姫様はれっきとした第一王女でございますれば」
帝国の第1王女って……。ここはハハーっとひざまずくところ?
――――――――――――――
■後書き■
現在の人口:5名
やりたいことリスト(今日の達成した出来事)
・達成なし(都市機能の把握)
びっくりして言います!
姫さまは……王女だったのです。




