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010 『遭遇と逃走』 春の一月、五の日

 馬場和子です。


 昨日、交代と言って姫さまを抱き枕にして寝たのですが……起きると抱かれ枕になっていました。

 不思議です。



 ――――――――――――――



 ■帝国歴308年 春の一月、五の日(午前)■


 次の日の朝になり

 都市へ向かって出発することになりました。


 総出で都市に行くのですか?

 お留守番とか要らないのです?

 万が一新規の住人が来たりしたら対応できませんよね?


 立て看板しておくことになりました

 雑だな~この雑さはあの神様に通ずるところがありますね。


「ゴッコ。何かあったらお願いね。この燕が都市に届くことになってるから」伝書燕と筆記できるものをゴッコに託し都市に向かいます。



「そういえばこの道中には人が住んでいないのですか?」来るときは熟睡していたので一瞬でした。


「そういえばあったわね~あの村のみんなは元気なのかしら?」


「あれ? なんでお誘いしなかったのです?」


「あの時はまだ拠点(始まりの街)がなかったのよ~」


「では今こそ、その時では!?」


「そうよね! じゃ~先に向かいましょう」


「馬車に乗っては行けないですが、よろしいのですか? また、あぜ道をかき分けて進まないとですが」スペインさんが念のために忠告くださいました。


 進路を変更する事になり馬車は一旦戻らせることになりました。


「じゃあ~よろしくね。セバスチャン!」


「ちょっと待ったー!」姫さまと馬の間に割り込みます「姫さま!」後ろを指さします。

「大変申し上げにくいのですが……これは馬です!」


「うん、馬だけど~?」


「ええ、馬には違いありません!」


「何をいっているの~カズコ~馬以外の何に見えるの?」


「だって……セバスチャンですよ?」セバスチャンらしき馬が後ろから顔を突き出してきます。


「そうよ~かわいいでしょ~?」姫さまが馬の顔を撫でまわします。


「セバスチャンといえば()()でなければなりません!」


「カズコ? ()はもっとモコモコだから~」馬の口を両手で掴みモゴモゴさせて言います。


「あえて呼ぶなら赤兎馬でしょうに……」つややかな赤の毛並みを見ながら呟きます。


「赤い兎は~馬じゃないよね?」


「くっ……」言いくるめられてしまいました。


 こっちの世界に色付きの髪色人族はいませんが。エルフと馬はカラフルです。赤い髪のエルフにでも出会えたらセバスチャンか聞いてみることにします。


 でも本当に執事だけがセバスチャンを名乗るべきだと思うのです……それが、お約束なのです……馬()


 賢いセバスチャンは一人で戻れるのです……離れ往く馬車を見送ります。



 姫さまたちが獣道を探し出し、草原の奥へと入っていきます。


「ところで姫さま。あたしはレベルがちょぴり上がりましたが、まだ全然お役に立てそうにありません、魔物が襲ってきたらどうしましょうか?」逃げる一択かな? と思いながら尋ねます。


「威圧石もってるから平気よ?」スリング用の石ですか?


 威圧石というアイテムがあると魔物が寄って来ないのだそうです。

 そんな便利なものがあるんですね~。

 どうりで呑気に寝ていられたわけですといってカラ笑いをしました。


 しかし、このチームは前衛職っていうのでしたっけ? 守り手が一人も居ませんね?

 もちろん姫さまはあたしが守りますけどね。


 遠距離攻撃の3名と非戦闘職の2名……かなり極端だと思います。



 道無き道を進みます。ズンズン奥へと進んでいきます。


「よくこんなところへ入って見つけましたね?」


「私たちもまさか村があるとは思わなかったわよ?」


 姫さまが言うには都市の高い税金から逃れ逃亡した住民たちが住み着いた隠れ里なのだそうです。


 その隠れ里は農業を営む集落、山手で放牧を営む集落、川辺で釣りや狩りを行う集落の3つが集まり里をなしているのだそうです。



 それはさておき。

 こんな所に本当に村があるんですかねー?

 人が通った気配がありません。


 姫さま一行は村を立ち上げる際に周辺調査を行い、いくつかの村に遭遇したのだそうです。


 村3つで細々と独立した農村。

 そんな所は魔獣がフラリと訪れただけでアウトなんじゃないんですかね?


 ええ、アウトでした。あたしたちが……。



 森の中を進んでいたあたし達でしたが地響きが鳴り始めました。


「地震ですかね? 姫さま」まだ呑気のんきなあたしがいます。


「地震ってなぁ~に?」エッとー。どう説明すればいいのやら?


「この地響きの事~?」ええ、そうです。地面が揺れる現象の事を総称で地震と呼びます。


 地響きがドンドン大きくなり、地面の縦揺れもドンドン大きくなってきます。


「アースクエイクという魔法がございますな」スペインさんがそう言います。


 魔法攻撃でも食らっていると? なんだか『ズドーン! ズドーン!』と鳴っています。

 そのたびに地面が揺れ振動がやってきます。強い縦揺れが起こるのでその度に両足で踏ん張ります。

 段々と近づいてませんか? この地響きと揺れ?

 ミシミシと木々がなぎ倒される音も聞こえてきます。近づいてきてますね。


「ん?」スペインさんの呟きがもれます。

 その直後、大きな影がやってきて『ズガーン!』と音と共に辺りを踏み抜きました。

「姫!」スペインさんが叫びます。一同が姫さまに振り向きます。


 さらに影が真上を通過します。


「姫さまー!」姫さまが居た場所に壁が落ちてきました。一面壁です。土と岩の壁です。

 思わずどこからと見上げます。


「皆様散開!」スペインさんが叫びます。あたしも我に返り走り出します!

 スペインさんが姫さまを押しやり、二人とも走り始めています。

 反対方向です。こちら側にはアイスさんとアシュリーがいます。


 影がゆらりと動きました。木々がなぎ倒されていて日光が差し込んできます。

 まずいです! 影は姫様の方に動いています。

 もう一度、上を見上げてみました。

 山があります。

 山が居ます。

 山が揺れています。

 山が動いています。甲羅の様な山、足は象。それも特大の丸いビルほどの足。


「アイスさん! アレ何!? 何とかしてー」


「ん!」アイスさんは思いの丈を受け止めてくれたのか、体の周りにオーラの様なものを展開し始めました。


「なんなのー?」知りません!!


「……」アイスさんの周りのオーラが冷気の嵐となって具現化していきます。


「ちょっと向こうには姫さまが居るんですよ!?」ほとばしるアイスさんの魔法によって岩土の壁の表面がちょっぴり凍り付きました。


「姫様ー!!」


「カズコ~逃げて~!」なんでそんなにゆったりなんですかー!


 逃げてる場合じゃないような気がします。


「アシュ! ずんと上から何かできない?」


「いくのー!」ぐんと上へ飛び立ちました。


「姫さまはあたしが守って見せます!」言ってみたかった台詞を吐きながら、姫さまが居るであろう方向に走り始めます。


 少し凍り付いた壁が持ち上がります。「姫さまー! 踏み抜かれます!」どう考えても姫さまを狙っています! アイスさんの攻撃でダメージがあるようにも見えませんし全く気も引けていません。姫さまを狙うのはあたしだけでいいんです!

 きっと姫さまを狙う原因があります。考えるんだ()()()! 走りながらヘアバンドをあげなおし前髪を上にあげます。


 デカイ山の何かが踏み荒らしている。狙われているのは姫さま。二手に分かれて人数も2対3でこちらが多く、アイスさんの攻撃にも反応しない。スペインさんも一緒にいるが初手が姫さまであったのは間違いない。姫さまの魅力に気が付いているのはあたしだけのはず? 姫さまに引き付けられる理由! 姫さまだけが持つ魅力……持つ!? そうでしたか!


「姫様! 威圧石です! 威圧石が狙われています!」


「わかった~」ですから緊張感をお願いします!


 姫さまが見えてきました。姫さまは走りながら腰のベルトを外しました。


 この切羽詰まったタイミングでまた脱ぎ始めるのでしょうか?


 もちろん違います。


 ベルトをグルグルと回し始め「え~い!」姫さまが大きく投げるように振り回しました。


 何かが明後日の方向に飛んでいきます。おそらく威圧石でしょう!


 姫さまが回れ右して反対方向に走っていきます。あたしもそちらへ向かいます。


『ズドーン!』ビルの様な足が明後日の方向を踏み抜きます。


「姫さまー」「カズコ~ありがと~」まだです離れましょう!


 一目散に離れるあたし達をスペインさんが追ってきています。アイスさんも見つけてくださったようで近づいてきます。


「あぶなかったですね。随分離れましたか?」


「とはいえ2、3歩も歩かれればここもどうかと思いますが」


「動きはゆっくりですが大きすぎて一歩の距離と範囲がわけわかめです!」


「わけわかめは美味しいの~?」


「美味しいのはカズコだけです。お召し上がりください!」


「アハハ」ようやく一同に笑顔が浮かびます。


 もう少し離れていきましょうね念のために。


「目が合ったのー!」アシュリーも返ってきました。


「ハイハイ。大変な目に遭ったねー」アシュリーを人差し指でなでなでします。


 しかし、間違いなく威圧石狙われていましたねー。


「あぶなかったわね~」まったくあぶなそうに聞こえませんが、紙一重とはこの事をいうのだと思います。正直実体験したくないものです。


「で? あれは何ですか? 山ですか? 別世界は山が動くんですか? 山ってなんですか?」山の定義がわからなくなってきました。


「別世界が何か分からないけど~山は動かないとおもうのよ~?」動いてますやん! ましたやん! 関西人の本性が騒ぎ始めています。


「あれはベヒモスですなぁ~山の様な甲羅を持つカバの様なサイの様な象と言われております」


 よく見えなかったので確かではありませんけど部分部分がそんな感じだった気がします。あれを見て生きてる方が不思議だと思います。魔界不思議ですかね? おっとこちら側、魔界じゃないですね。そして、カバなのかサイなのかゾウなのかハッキリしてください。そして、あたしはババですし、スペインさんは奇才です!


()ウですなぁ~」スペインさんに落ちをかっさらわれました。錬金術師と書いてシーフと読みますよ? 錬金術師(シーフ)


「ベヒモスはそこら中にいるもんなのですか?」


「ベヒモスは大精霊ですので見ることなどはまずありえないのです」


「でも、居ましたよね?」精霊ってなんやねん! っていうのがあたしの正直な気持ちですね。


「精霊は本来~かわいいのよ~?」イヤあれ可愛くないですよね? デカイだけ!


「うちの街の精霊はフォーセリアよ?」またなんのこっちゃ案件が浮かび上がりましたね。


 はい。姫さまの~精霊講座ー!


・火の精霊 サラマンダー → 炎の精霊 イフリート → 核の精霊 フェニックス

 以下、精霊略

・土 ノーム → 山 タイタン → 大地 ベヒモス

・水 ウンディーネ → 湖 ネッシー → 海 リバイアサン

・風 シルフ → 竜巻 ジン → 大気 ガルーダ

・草 スプライト → 木 ドライヤード → 大樹 エント

・雪 フラウ → 氷 フォーセリア → 氷河 フェンリル


 で、なんで大地の精霊がこんな所に居るのよー!!



 こちらの世界にきて初めて死ぬかも!? 体験をしました。これは[やりたくないリスト]を作って加えます!

 死ぬかと思いました。

 ()一重と言いますが姫さまは()()です!



 ――――――――――――――

 ■後書き■

 現在の人口:5名

 やりたいことリスト(今日の達成した出来事)

・達成なし※やりたくないリストが発生(ベヒモスに出会う)


 もう一度言います!

 セバスチャンは執事だと思います……カズコです。

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