表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/40

001 『笑顔と星空』 九月一日

 馬場和子、元気ハツラツ14歳です!


 といっても気持ちはハツラツなのですが、もっぱら病院住まいでドンマイあたし。

 代り映えの無い日々にもちょっとした変化があり、それらを書き留めます。


 例えば朝を知らせるモーニングラジオ。

 毎朝、リスナーにモーニングコールを掛ける事から始まります。

 いつかあたしも起こされ目覚めてみたいです。


 他には西日を避ける緑葉色のカーテンがあります。

 女の子らしくないと言われますが、元気な緑があたしのイメージカラーです!


 そして、最後に大切な想いがいくえにも詰まった本棚。

 これらがあたしの世界を彩っています。


 テレビも以前はあったのですけれど……。

 あたしが関われない世界のニュースばかりなので、返却を申し出ました。


 そして、ひとりでは降りられないベッドには、本を読むためのパッタン台が付いています。

 正式な名前はしりません。

 パタンと板を降ろせるので勝手に名付けました。

 板は簡単にパタンと降ろせるが、あたしの体はバタンと降ろせない困ったもんです。

 しかし、それでも構わないのです。

 体は自由にならないが、看護師さんを自在に呼び出せます。

 ちょっとした特権ですね。


 それに、あたしには本があります。

 それ以上の幸せがあろうか?


 今日もあたしは、本を読みます。


 あたしはライトノベルが好きです。

 難しい漢字が少なくて読みやすいですし、ここにはない非現実性があります。

 そして何よりとても魅力的な登場人物があたしを引き付ける。

 他にも()()()童話集や()()()ことわざ集などがお気に入りです。


 だから、あたしは凄く幸せだ。



 ……あたしは唯一無二なこの部屋・世界をカズコワールドと名付けました。



 ――――――――――――――



 ■ 2018年 9月 1日 ■


 この日はあたしにとって最高の天気でした。

 晴れ女、世にはばかるバリの晴天で、この祝福のような空が胸の内に溶け込んでいきます。


 とうとうこの日がやって来ました。

 今日を打ち勝てば、新しい世界がやってきます。


 大好きな小説を読みあさり、自分に置き換え想像する。

 そんな日々は今日でおわりです!


 手術に成功したら?

 まずはこの窓からいつも見ていた、あの中庭のお花畑を走り転げ巡りたい!

 お散歩のワンコのように……でもお花さんには悪いかな?



 ――――――――――



 あたしの病室に小さなタイヤが付いた移動式ベッド(ストレッチャー)なる物が運ばれて来ました。

 期待に満ち溢れた世界がやって来るワクワクでドキドキがいよいよです。


「せーのっ!」


 看護師さんたちの掛け声であたしの小柄な体がストレッチャーの上に乗せ替えられます。


 いつも出たかった病室から出される。

 自分の足で歩いて出られたら、どんなに素敵なのだろうか……。

 大きな荷物用のエレベーターに乗せられ、ヒンヤリした空気の通路を通り抜ける。

 思わず嫌な想像(霊安室)をしてしまうが、頭から振りほどきます。


 ストレッチャーは機械だらけの部屋に押し込まれると止まりました。


 さぁ、いよいよだ……。


 再度、掛け声と共に硬いベッド(手術台)に移され、あたしの体には色々な物が装着されていきます。

 さまざまな色分けをされた電気コードが体から垂れ下がる。

 手術室に沢山の人々が入ってきます。マスクで判別はつきませんが、体格でだいたいの見当はつきます。

 そのうちの若い先生があたしの傍に屈み込み耳元で囁きます。


「屋上で手術するのは無理だったけど僕が出来る事はすべてさせてもらうからね」


 その先生の声に合わせて手術室の明かりが消されていきます。


「真っ暗とまではいかないけど勘弁してね」


 あたしの横からオルゴールの音と共に上方に光が放たれます。

 煌びやかに輝きを放った光の星たちが天井に舞い上がります。まだ夏なのにオリオン座が見えます冬の仕様のようです。オルゴールのメロディは〝プラネタリウム〟ですね。手術室によく響き渡ります。

 あたし、先生に手術は地下じゃなくて青空か星の見える屋上がいいと言って困らせたことがあります。

 先生いっぱい悩んでくださったんですね……あたしの為に。


「ありがとうございます」


 病室に戻ったら願いが叶ったリストに加えておきましょう……今は心の中で[プラネタリウム]に済みのレ点を打ちます。


「カズコちゃん。麻酔をするから体の力を抜いて楽にしてね~」ホースのついたマスクが口元に当てがわれます。


「先生よろしくお願いします」ごもった声でどうにか返事をします。


 先生が笑い返してくれた気がしますが……あたしはそれを確かめることができません。

 笑え、笑うんだ……笑う()には福きたりです。


 ――あたしは眠りにおちて行きました。

 きっと最後に笑えたと思います。



 ――――――――――



「あれっ?? ここは……?」目が覚めると、見覚えのない開けた場所に浮いていました。


「あ・た・し……負けた?」


「君は負けていないよ」少し離れたところから声がかけられます。


 誰でしょうか? それよりもここはどこでしょうか? あたしはどうなったのでしょうか?


「私が誰でここがどこかは、さして重要じゃないと思うよ?」その存在は神々しくて直視することがかないません。


「そうですね。あたしは、あたしの身体はどこですか?」視界はいつも通りの気がしますが伸ばした手が見えない。実感としてあるのに実体としては無い。もっと実体がないのは足だ。こちらは実感としてあるが感覚として無い。両足を地が地についている気がしない。

 まるで幽霊にでもなったかのように思える。


「君の身体は弱かった。その魂の強さと違って」


 そして、返ってきた答えは[()()()]だった。


「魂? やっぱり、幽霊じゃ!?」


「いや――君は今、その強い精神体だけの存在。幽霊とは似て非なるものだよ」


 精神体?

 魂?

 幽霊となにが違うのだろうか?

 そんなことを考えていると更に声がかかります。


「君の魂。強い想いは私のところに届いたよ。だから、別の世界でもう一度頑張るといいよ」


「別の世界?」


「そうだよ。

 ちょうど君と同じ年の子がいてね。

 その子は身体は丈夫だけど精神が弱かった……君とは逆だね。

 今度はそちらで頑張って見てはどうかな?

 ――やりたい事。

 たくさんあるんだろ?」


「ハイ!」

「毎日、日記に書いてました! やりたい事を!」


 退院してする事。

 逢いたい人。

 食べたい物。

 全て書いてあります。

 書いて持ってます。

 あれ? 想いを込めたら日記が出てきました。


「そう、強い想いは時として大きな力を生むんだよ。

 私のところに届いたようにね……。

 その気持をいつまでも忘れずに、これからも頑張ってね。

 ――じゃあ、そろそろ行きなさい」


「ハイ! ()()()()!!」



 ――――――――――



 とまぁ~張り切ってイキってみたのですが……。


 ビックリ仰天・弁天様です!

 何やってくれてんですか!!


 あれって神様なんだよね?

 ザツすぎ、ゴッドならぬザッツ!

 アレって本当に神様?

 生き神?

 生き埋め神?

 もしかして神神詐欺かな?

 それとも死神だった?


 降り立った身体にはどんどん土がかぶせられ埋められている所でした。

 ホントもう生き埋めとか勘弁願いたいです!

 ホント危うかったです。

 もう少しでも深く埋められていたら……もう一度あの世で神様と再会だったかもしれません。

 行きなさい→生きます→生き埋めスタートとか何のコンボなんですかって、驚き、驚木、三途の木! いや土か……。


 土から這い上がってゾンビ状態のあたし。

 ホントにゾンビじゃないですよね?

 土塗れの身体を払いながら状態を確かめます。

 とりあえず生きているだけで丸儲けです。



 ホント、()髭危機一髪も真っ青の脱出劇を演じました。

 何一つとして面白いと思えなかったので詳細は土を被せてポイです!



 とにかくまぁー新しい身体に埋もれ落ちて、土の中から地上に生まれ出ました。




 こうして……あたしは別世界にたどり着き、新たなカズコワールドに埋もれ降り立ち上がったのです。



 ――――――――――――――

 ■後書き■


 正直に言います!

 生き埋めは勘弁してください……カズコです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ