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1-6 街に到着と義務冒険

 よろしくお願いします。

 ロロティレッタが調子に乗ってフサポヨにボコられたり、調子に乗って柱の天辺から落ちたりとトラブルはあったものの、町までの道程は順調であった。

 たぶん、普通の人ならもっと順調だったのだろうが、これはこれで暇しなくていいので多くは言うまい。


 俺の弛まぬ努力の末か、はたまた魂の双子を受け入れつつあるのか、ロロティレッタの態度は随分軟化して隣を歩いてお喋りしてくれるまでになっている。

 俺にとっては見るもの全てが新鮮なので、初見の魔物なんかが居ればすぐさまナニアレ小僧に変貌だ。


 会話していて分かったのだが、コイツは結構憎まれ口を叩く女だった。まあ、観察段階だったであろう昨日からすでにその片鱗は見え隠れしていたようにも思えるが。


 そんな俺的にはかなり楽しい時間はあっという間に過ぎていき、ついに俺達の前にウェルクの町が姿を現した。時間は昼の3時を過ぎたくらいか。想定よりも早く着いたな。


 ウェルク展望台という少し高い丘から見下ろすウェルクの街並みは、俺が想像するよりも遥かに広いものだった。視界に納まりきらないほど大きく、地平の先まで町が広がっている。


「おお! 異世界の町!」


 感嘆の声を漏らす俺の横で、ロロティレッタも安堵と達成感の混じった息を吐く。

 俺達は早速丘を下り、街へと向かった。


「なあ、俺はこれからお役所に行って保護してもらうつもりなんだけど、その後、なるべく早くお前の家族とかに挨拶した方が良いよな?」


 ルーラさんの話によると、テフィナは異世界人を保護してくれるらしいからな。まずはお役所に行けと別れ際に言われている。

 問題はその後だ。俺はともかくロロティレッタはこの文明の生まれだから、様々なしがらみがある。そして、そのしがらみは魂の双子である俺にもかなり関わってくる。その最たるものが彼女の家族だ。


「あー。うーん、それはおいおいで良いかな」


 ところがロロティレッタはそんな事を言う。

 魂の双子になったなんていう人生の大事件に見舞われたのだから、挨拶するなら早い方が良い気がするけど……

 しかし、俺は、そう言うわけにもいかないだろ、と出かけた言葉を飲み込んだ。

 俺はじっちゃんと凄く仲が良かったけど、世の中には家族とそりが合わない人も大勢いる。ロロティレッタもそうなのかもしれない。

 ところが、俺の考えを否定するようにロロティレッタが続ける。


「私の家族はみんな未開世界調査団に参加してるから忙しいのよね」


「未開世界調査団? なにそれ?」


「冒険者のお仕事の一つよ。テフィナは300の世界で繁栄している訳だけど、住んでる世界の数は人口増加に伴って増えるの。他の生き物のために広大で豊かな自然を残しつつ、この街みたいに人の住める環境を作らなくちゃならないから、移住地候補の世界を常に探しているわ。で、それが私の家族のお仕事。お父さんは学者さんでお母さんは冒険者。お姉ちゃんも冒険者」


「おお、冒険者! 凄く発展した文明かと思えばそんなロマン溢れる職業もあるのか」


「まあね。だけど、未開世界調査団は週に2回しかお休みが貰えないんだって。だけどやりがいがあるから好きみたい」


「そっか、やっぱりそれ相応にたいへ……ん?」


 言い間違いか?


「今、週に2回しか休みがないって言ったよな?」


「え、うん」


 あってるらしい。


「普通の人は何回お休みがあるの? っていうか、一週間は何日なんだ?」


「一週間は7日よ。で、お休みは普通の人だと週に3日はあるわね。祝日があると増えたりするわ」


 なんてこった、完全に勝ち組生活である。アルバイトの時点で社会でやっていけるか不安を覚えた俺であるが、この文明ならやっていける気がしてきたぜ!


「話を戻すけど。じゃあ、挨拶……というより連絡は本当に必要ないのか?」


「うん。必要ないわ」


 ロロティレッタの言葉に、ぶっちゃけ俺は少しホッとした。

 別に恋人の親に会うわけじゃないけど、俺にはまだハードルが高いし。


「お前がそう言うなら良いけど。じゃあさ、お前はどんな生活送ってたんだ。学生か?」


「あっ、それよそれ! 昨日から言わなくちゃって思ってたんだけどね。私って今、義務冒険がスタートしちゃってるのよ!」


「ぎ、義務冒険? なにそれ?」


「義務冒険は義務冒険よ。学校を卒業した子が義務で冒険する2年間のこと」


「テフィナ人って義務で冒険すんの?」


「そっ。これには深いわけがあってねぇ。語ると長いけど、聞く?」


「ぜひ」


 美少女にコテンと首を傾げながらそう言われたら、聞かないわけにはいくまい。

 俺の返答に、よろしい、と頷いたロロティレッタは義務冒険について語りだした。

 それによれば。




 今日こんにちでこそ300の世界で繁栄しているテフィナ文明であるが、これは異世界物のラノベみたいに人間贔屓な神様に人間天下の生活環境を与えられたからではない。

 進化と苦難の果てに自分たちの力でここまでのし上がったのである。


 そんなわけで、当然のことながら大昔は一つの世界で暮らしていたそうだ。

 その世界で過ごした歴史は他の世界へ足を延ばしてからの歴史よりもずっと長く、この件で重要なのもそんな遥か昔の話だ。そう原始時代。


 遥か昔。

 世界各地で進化した地球人と違い、テフィナ人はたった一つの地域で細々と進化を続けてきたそうだ。


 この理由は、進化途中の人類に対して世界の厳しさが全く以て釣り合っていなかったためである。

 地球のように原始人が作れる程度のお粗末な武器で撃退できる生き物は非常に少なく、他の地域へ人類を株分けすることが凄まじい奇跡でも起きない限り不可能だったのだ。

 テフィナ人の進化をハードモードに至らしめた生き物は魔獣と呼ばれ、魔獣の脅威に晒される生活はとても長い間続くことになる。


 当時から魔法は存在しており、それに着目したテフィナ人の祖は魔法特化の進化を始めた。

 魔法をイメージするための知を欲し、それを伝承するための口や器用な手先を欲した。それがテフィナにおける人類のフォルムとなったとされているみたいだ。


 たが、前述の原始人が作れる程度の武器云々と同じように、魔法・知能特化を始めたばかりの原始人が考えられる程度の魔法などたかが知れているので、あまり効果は高くなかった。

 前述した通り、彼らは広い世界の極々狭い地域でひっそりと牙を研ぎ続けた。


 その狭い地域とは驚くことに、半径たったの2キロという冗談のようなスペースだったそうだ。

 尤もそれは地表部分だけで、テフィナ人は地下に広大な生活圏を築いて繁栄したのだとか。まあ、それでも狭かったみたいだけど。

 この穴倉は『テフン』と呼ばれ、テフィナという名称の原型となっているそうだ。



 ―――この『一地域でのみ進化していった』という遺伝子は、後のテフィナ人の歴史に大きな影響をいくつも与えることになり、ロロティレッタ曰く、絶対に覚えておかなければならないことなのだそうだ。



 それから月日は流れ、ようやっと人類の生活が軌道に乗り始め、これまで一地域で隠れ住んでいたテフィナ人たちは、外の世界の調査を活発に始めることになる。冒険者の誕生であった。

 この時代は『大冒険者時代』などと呼ばれ、ロロティレッタ的に最も熱い時代らしい。


 さらに月日が流れ、テフィナは次元を越えて繁栄し始めた。

 魔導科学の技術は目まぐるしく発展し、この頃になると例外を抜かして多くの魔獣は脅威ではなくなり、むしろ保護対象となっていた。

 そんな時代に1つの発明がなされる。


 魔導魂魄人形『機人』である。


 高い性能を持った彼らは人に従事し、様々な仕事を代わりに行ってくれた。

 彼らの出現で人々の生活はとんでもなく楽になったのだが、2世代分経った頃に問題が生じた。


 元々『一つの地域で暮らしていた』テフィナ人は、種族レベルで重度の引きこもり体質だったのだ。


 その隠れた体質を押し込めていたのは皮肉にも魔獣との闘争の歴史であり、魔獣の間引き・管理を機人達に一切合切任せてしまった事で引きこもり病は爆発的に増えたのだという。

 外出率の低下や種族の弱体化はもちろん、出会いの機会が減ったことで出生率も急激に低下したそうだ。


 そんなある時、テフィナ中の機人達が一斉に反乱を起こした。

 テフィナ人はあっという間に負け、全ての人が収容所に送られた。

 収容所では過酷な日々が待っていたそうだ。


「朝は6時に叩き起こされ、ジョギングや筋トレを強制され、朝ご飯を無理にたくさん食べさせられて、それから畑仕事をさせられ、午後になると飼育されたスライムやゴーレムと戦わされたそうよ。へとへとになった夜は10時に就寝。それが週6日続いたんだって。週6よ週6!?」


 ロロティレッタは両肩を抱えてぶるっと震えながら語った。最後に、私なら死ぬわぁ、とぽつり。


 そんな日々が5年続き、機人達はテフィナ人を解放したそうだ。

 テフィナ人は基本的に賢い種族らしく、良き従者だった機人たちが厳しく接してきた理由を多くの者が分かっていたらしい。


 お前ら外に出て働け、と。


 これが世にいう『忠義戦争』のあらましである。

 テフィナ人は本当に賢いのだろうか。証言者がロロティレッタなので実に疑わしい。


「それからテフィナ人と機人は話し合って、基本的に週4日働くことで落ち着いたわ。所謂、テフィナ条約ね、知らないと恥ずかしいから覚えておくように」


 と、恥ずかしい歴史を持つ種族の女の子が偉そうに仰ってます。


「テフィナ条約では他にも色々決めててね、その中の一つが『義務冒険』なの。テフィナ人は引きこもり体質だけど、未知の世界を冒険して生存圏を広げていったカッコいい遺伝子もあるのよ。でね、この遺伝子を覚醒させるとちゃんとした大人になれるわけ」


「なるほど」


「というわけで、17歳で一般教育が終わると親元を離れて義務冒険に出かけるの。それから2年以上冒険して、色々な物を見て、聞いて、それぞれ興味を持った職の専門学校に通うことになるわ」


 高校卒業して大学や専門学校に行く前に、自分探しの旅が2年あるみたいなものか。


「でね、さっきも言った通り、私はその義務冒険が始まっちゃってるのよね」


「ほほう。ちなみにいつから?」


「昨日から」


「昨日!?」


「そっ、導きの群島に行く前に旅立ち式があったの。それが終わって見に来てた家族とご飯食べてからお別れして、そのあとから記憶がないし、たぶん現地に行く途中で次元の裂け目に落ちたんだと思うわ」


「な、なるほど……あっ、ちなみに、俺は学校帰りに落ちたみたいなんだ」


「アンタってまだ学生なの?」


「ああ、18歳までが高校生って言って、それを卒業したらとりあえず一段落。それからすぐに働くか、より高度な事を学ぶ大学とか専門学校っていう最後の学校に行く感じかな。まあ人生いろいろだし、例外はあるけどな」


「ふーん、旅とかしないんだ。まあアンタの世界のことは良いとして。アンタさ、冒険とか出来そう?」


「ふわっ、なにその上から目線、ビビるわ。お前こそ俺やフサポヨに負けてたくせに冒険とか出来んの?」


 超文明が定義する冒険がどんなものか知らんけど、冒険と銘打つからには走ったりジャンプしたりするくらいのことはするだろう。そして、この四肢のスラッとした女は見かけによらず、走ったりジャンプしたりするのが苦手そうである。

 俺の口撃にロロティレッタははんっと鼻で笑った。


「やれやれ、これだからトーシローは。自分が手加減してもらった事すら気づけないとかマジワロロン。私が本気出したらアンタもフサポヨも瞬コロだし。シュシューッ!」


 ロロティレッタは口で風斬り音を出してシャドーを始めた。

 手首が反っちゃってるのは捻挫希望なのだろうか。そして、突き指必死なその拳の握り方。親指の先っちょが拳の前に出てしまう拳の握り方をしていいのは、女性だと15歳までだぞ? ちなみに男は12歳。

 どうしてこのスラリとカッコいい四肢でここまでポンコツな体技を繰り出せるのか。コイツと暮らしていけば分かる日が来るだろうか。


「ま、まあいいよ。じゃあ、そうなると必然的に俺も義務冒険に出ることになるのか?」


「それが分からないのよねぇ。私達は魂の双子だし、アンタに至っては迷い人じゃない。もしかして延期になっちゃうかも」


「あー、それもそうだな」


 迷い人である俺が転移早々の現在、めっちゃ大変であることは誰が見ても明らかだ。まあ当の本人は割と余裕なのだが、客観的に見れば凄く心配されちゃうレベルで大変な境遇に映ることは間違いない。

 そんな中で、義務冒険などしていられるかという話である。


「だけど、義務冒険は凄く大切らしいし。うーん、やっぱり分からないわね」


「そっか、まあそこら辺はお役所で聞こうぜ」



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 コラム・ロロティレッタの文化案内


【テフン】


 世界・テフィナワンにある私達テフィナ人の故郷。

 魔獣がめっちゃ強かったために、テフィナ人のご先祖様は穴倉で生活していたんだって。そこで穴を掘るのに便利だった力、つまり魔法に可能性を見出して、魔法特化の進化をしたと言われているわ。

 まあ、人に進化しても原始人の使う魔法程度じゃ魔獣に太刀打ちできるはずないから、穴倉暮らしはその後も長い間続くことになるわ。

 勘違いしちゃいけないのは、ちゃんと少しはお外に出ていたって点ね。命がけだけど。

 これはテフィナの歴史を語る上で、絶対に覚えておかなければならない私達のルーツだからね。歴史のテストに出るぞ!


 テフンは今でも観光スポットとして残っていて、私も中学の修学旅行で見に行ったわ。洞窟キノコを大量に栽培している蝋人形を見て感動したってレポートに書いたら、花丸貰ったわ。まあ、全然感動とかしなかったんだけどね。めっちゃキノコ作っとるWWWって感じだったわ。あと、キノコ饅頭が美味しかったわ。




【機人族】


 耳部にカッコいい機械がついている以外、見た目はテフィナ人と変わらないわ。

 昔はテフィナ人の隣に寄り添って甘やかしまくっていたけど、忠義戦争以降はテフィナ人を陰から甘やかしまくってるわ。

 機人は一体一体が心を持っているんだけど、全員に共通してテフィナ人がしゅきしゅきなの。



 読んでくださりありがとうございます。

 次話は、0時予定です。

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