2-31 そして戦場へ
よろしくお願いします。
結果発表が終わり、俺達はオルトさん達と会うために特設ステージから少し離れた場所へ移動。
俺達が一番に来たみたいで、5分と待たずにオルトさん、女子4人、シルニャンがやってきた。
シルニャンがやってきたことで、ロロが威嚇態勢に入った。
「にゃ、ニャギャシャー!」
頭一つ分ほど身長が違うロロが、さらに身体を大きく見せるために腕を上げて威嚇した。
それを受けたシルニャンはまるで昨日とは別人であるかのように、鼻に皺を寄せて。
「フーシャニャゴォーッ!」
「ひぁ、ひぁああああ!?」
裂帛の気迫。
ロロは上げた腕を瞬時にコンパクトに畳み、急いで俺の後ろに隠れた。
そうして、俺の背中から顔だけ出して、フカーッ、フカーッと情けない声で威嚇した。俺があげたネコミミがペタンと閉じてしまっている。
昨日のインタビュー時には、ロロが圧勝し、シルニャンが負け猫だったのが。今日は立場が逆転してしまっていた。
シルニャンが俺の前までやってくる。
ロロが慌てて俺の前に立ちふさがるが、シルニャンのギンッとした眼光にすぐさま俺の背後に隠れた。なぜ出てきた。
そんなロロにフィーちゃんが、なに負けてんですかぁ、これは鍛えないとダメですねぇ! とちょっとお怒りな様子。
それはさておき、対面したシルニャンは俺にペコリと頭を下げた。
「この前はお礼もしなくてすみませんでした。あの時、危ないところを助けていただきありがとうございました」
考えてみれば、シルニャンとは一言二言程度しか話したことがない。それも以前助けた時の少しだけ。
昨日再会して、どのくらいかは知らないけれど俺に好意を持ってくれているというのは分かったけれど、こうして絡むのは初めてだった。
どう答えて良いのか分からなかった俺は、当たり障りのない返事を選択した。
「いえ、気にしないでください。君に怪我がなくて良かったです」
「怪我がない? あははっ! 大ケガってほどではないですけど、そこそこの怪我をしちゃいましたよ。ふふっ」
シルニャンはそう言って、悪戯っぽく舌を出した。
それが何を揶揄した事なのかは、俺でもすぐに分かった。
罪悪感が生まれるけれど、それは乗り越えないとならないものなんだろう。目の前の美少女が『そこそこの怪我』をいずれ乗り越えていくように。
しかし、確かにこれはモテるだろうな。
シルニャンの可愛い仕草に若干見惚れる俺の身体が背後からギューッと抱きしめられた。
「ふぐぅ……っ!」
絶対渡すもんかと、その呻き声から聞こえてくるようで。
俺は腕ごと抱きしめられたこの体勢に酷くもどかしさを覚えた。俺もロロを抱きしめてあげたい。
シルニャンはそんなロロの様子に苦笑いを浮かべた。
「人生こんな事もあるって良い経験をしました。ねえ、ロロティレッタ、出てきなさいよ」
俺はもぞもぞ動いてロロを促した。
ロロは精一杯の虚勢を張ってシルニャンに対峙する。しかし、猫耳がペタンとしていた。
「なによ、その情けない顔」
「にゃ、にゃんだとぅ……っ!」
「……私に始めて敗北を与えた女、ロロティレッタ」
ふぁさと海風が見つめ合う二人の間を流れる。
オルトさん達は完全に背景だった。そして、他にも割とギャラリーが多い件。
俺達はシルニャンの続く言葉をゴクリと喉を鳴らして待った。
シルニャンは、亜空間収納からゼットを取り出し、言った。
「よ、良かったら、友達になってあげても良いけど?」
シルニャンはゼットを両手で握り、もじもじしながら言った。
なんかもうちょっとカッコいいセリフが飛び出るかと思ったのだが。
対するロロも、何故か物凄くもじもじし始めた。
「そ、そこまで私と友達になりたいなら、べ、別にいいけどぉ?」
そんな態度を取りつつも、ロロはすぐにゼットを取り出して、アドレス交換の構え。
二人はピッとゼットを近づけて、アドレスを交換すると。
「「ふ、ふん!」」
二人してそっぽを向いた。
「だ、だけど、コウヤはあげないからね?」
「アンタの唾液に塗れてる男とかいらないし」
何故か二人が友達になった。
ギャラリーから拍手が巻き起こる。
解せん。
なお、アレックス君の彼女も二人の友達になった。
オルトさんたちと打ち上げの日取りを決め、俺達は別れた。
そうして今度はレオニードさんと待ち合わせだ。
非常に忙しい。
「ロロ、シルニャンと友達になれて良かったね」
「べ、別にぃ?」
「フィーちゃん、コヤツ照れておるぞ?」
「ツンデレですぅ! そういうのは彼氏にやれですぅ!」
ロロがポンと赤くなって頬を膨らます。おこである。
フィーちゃんの意見は確かに尤もだが……
ほぼ常にボディタッチが発生する日常と、時折見せるデレの価値がバカ高な日常、どちらが良いか。
俺は迷わず前者、つまり現状を選ぶぞ。心も体も満たされる最高じゃんね。
レオニードさん達の下へ行くと、レオニードさんがイケメンスマイルで迎えてくれた。
「やぁー残念だったねっ!」
「せっかく応援してくれたのに、なんかすみません」
「いや、シルニャンとのバトルは中々面白かったよ。やはり君の戦いは見ていて面白いな。なっ、クリス?」
レオニードさんがクリスちゃんに水を向けると、ステラさんの足の裏に隠れていたクリスちゃんが、パパンにモモパンを食らわした。
「あっはっはっ! しかし最後の詰めが甘かったね。まあ、ロロちゃんのエンターテイナーとしての挑戦は好感が持てたよ。負けたけど!」
「ひぅぐぅ……だってシルニャンがぁ! ボロボロだったのにぃ……っ!」
さっきから何度目かわからない言い訳を聞きながら、俺達は家路についた。
クリスちゃんはそんなロロをドンマイみたいな感じで慰めた。
イベント中ずっとトロ甘カワ猫化していたせいで、クリスちゃんのロロへの態度が一段下がっているような気がした。
その後、ルシェに帰った俺達は、レオニードさんにステーキを奢ってもらった。
日本でだったらリッチな奢りだが、テフィナだと普通だ。他の外食とそう大きく値段も離れていない。
夕日が沈んだ町で、ロロと手を繋ぎながら家路につく。
アレが良かった、あそこがもっとうまく出来た、などと今日のイベントを振り返ってロロが饒舌に喋る。
家が見えるところまで来ると、会話が途中でピタリと止まり、手が強く握られる。んふふっ、と悪戯っぽく笑ったロロは、俺を引っ張るようにして少し歩みを速くした。
夜道に灯った送り蛍の光に煌めくロロの姿に、俺のテンションがイベントの時とは比較にならないほど上がった。
玄関の前で立ち止まるのすら惜しいとばかりに身分証を事前に出しておき、ロロが玄関のドアに押し当てて開錠する。
玄関に入り、ドアが閉まるよりも早く、ロロが俺のジャケットの胸倉を掴んで玄関横の壁に押し付けた。
賑やかな町の喧騒を聞きながら始まったキスは、ドアがひとりでにパタンと閉まったことで二人が奏でる音だけに包まれたキスへと変わっていく。
家の中の明かりも点けず、心許ない常夜灯の中で、俺達は夢中でキスを繰り返す。
ジャケットの胸倉を掴んだロロの手がそのまま左右に動かされ、されどあとは自分で脱げとばかりに離れて行く。ロロの手はすぐさま自分のコートの留め具を外す作業に入った。
上着を脱ぐのすらもどかしくて、けれどお互いの熱をもっともっと感じたくて。唇を重ねては離す。離した際にお互いの濡れた唇を熱い息が撫でていき、すぐに恋しさが募ってまた唇を重ね合う。
ようやっとコートを脱いで、いつものボディラインがくっきりなエロティレッタルックになったロロ。
ロングブーツとショートパンツの間の太ももが常夜灯の光で妖艶に輝く。
長いキスを終え、コツンとお互いの額をくっつけ合う。
乱れた息を整えながら、ロロの大きな口が俺の唇のすぐ近くで言葉を紡ぐ。
「コウヤ、どうしよう。目が回るほど好き」
「ロロ、俺も好きって気持ちの成長が止まらないよ」
「私もそう。きっとこの気持ちに限界なんてないのよ。ずっとずっと成長し続けるんだわ」
「そうかも。ロロのことが好きすぎて、何でもしてあげたくなる。愛してるよ、ロロ」
「うん、私も愛してるわ。だからコウヤに何でもしてあげたくなっちゃう。そゆわけでっ! んふふっ、手始めにぃ……っ」
脳が蕩けるようなメロディを奏で続けるロロの頭を俺は撫でながら、自身の後頭部を壁にコツンとぶつけて天井を見上げた。余ったもう一本の手が、背中を預けている壁をガリッと引っかく。
体の奥から湧き出してくる熱くて切ない感情を声に乗せて音にすれば、それは全て愛しい人の名前となって暗い玄関の天井へ溶けていく。
「ろ、ロロティレッタァ……ッ!」
「べう?」
玄関開けたら15分でシャイニングブラスタァアアッ! ニャー溺れりゅーっ!
その後、めっちゃキスされた。
愛してる人からのキスなのに、オプションのせいで吐きそうになった。
だが、ロロのためだ。慣れよう。だってなんでもしたくなっちゃうんだもの。
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