表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/171

2-29 魔王城攻略戦 闇シルニャン戦決着!

よろしくお願いします。

※※本日二話目です、ご注意ください※※

 激闘が始まった。


 とにもかくにも接近されたら終わりだ。

 相手は高威力の斧を2丁持ち、ブンブン振り回してくる。

 鎖では防ぎようもないし、達人みたいに至近距離で回避を続けるなど無理だ。


 だから、背負ったロロに魔法をガンガン放ってもらい、俺は鎖を使って常に距離を取ることに専念する。

 ホログラムなシルニャンは素早いものの鎖移動ほどではないので、遠距離からガンガン攻撃だ。


 しかし、シルニャンとてテフィナっ子。

 魔法は上手である。

 しかも、闇モードになって強さもマシマシで設定されているため――


「ルォオオオオオ! ダークフレイム!」


 斧を振り下ろすと同時に放たれた黒い炎が、遠距離で攻撃していた俺達に迫ってきた。


「く……っ!」


「ひぅうう、か、カッコいい……ッ!」


 必死で回避する俺の背中で、ロロが心底悔しそうに呟く。

 テフィナはわざわざ魔法名を叫ばなくても魔法が使えるわけだが、シルニャンの中二病な姿が、ロロの琴線に触れちゃったらしい。


「しゃ、シャイニングレイ!」


 ロロが負けじと自分の得意な拡散レーザーに名前を付けて、叫んだ。

 シャイニングという単語は使わないで欲しいのだが、今はそれどころではない。


 シャイニングレイはシルニャンの身体を打ちつけ、シルニャンの後方に忍ばせておいたビット人形に吸収させる。


「え、えっと、シャイ……み、ミラージュレイ!」


 即興で魔法の名前を叫ぶロロ。

 背後のビット人形から再び放たれた拡散レーザーを受けたシルニャンは、たまらずジャンプする。


 そうして先ほども見せた斧投げのフォームを取った。


「ルァアアアアア! ダークネスハリケーン!」


 二丁の斧が弧を描いて俺達の下へ飛んでくる。


「くっ、アクセルチェーン!」


 俺はアクセルチェーンで距離を取った。

 二人が必殺技名を叫んでいるので、俺も叫びたくなったんだ……っ。


 ところが、回避したはずの斧がブーメランのような軌道で俺達の下へ飛んできた。


「嘘だろっ!?」


 横っ飛び、いやダメだ!


 ロロを背負っているので、ロロに当たる要素が高い回避の仕方は出来ないと咄嗟に思い至り、俺は慌てて身体を捻った。

 一瞬の迷いのせいで、斧が胸を抉って通過していく。


 胸に軽い衝撃が走る。

 その直後、眼前に『ヒット 高ダメージ』と表示された。


 このイベントで初めてダメージを喰らったが、なるほどこうなるのか。

 HPゲージ的なものは無いが、このイベントは個々人のマシルド限界値を越えたダメージを受けたら脱落となる。

 高ダメージを受けた以上、もうダメージは受けられないと思っておこう。


「だ、大丈夫!?」


「うん、大丈夫。それより攻撃の手を緩めるな」


 ロロがすかさず俺の心配をしてきたので、俺は冷静に指示を出した。


 一方、手元から斧が無くなったシルニャンに、フィーちゃんが猛然と突っ込んでカカト落としを食らわせた。

 バキンと片方の角が砕けるも、シルニャンは自身の回りに黒い炎を出現させてフィーちゃんを追い払う。ふっ飛ばし技なのか、黒い炎はすぐに消えた。


「ひゅーっ、やりますねぇ! 死にかけましたぁ!」


 戻ってきた斧をカッコよくキャッチするシルニャンの姿を上空から見下ろして、フィーちゃんは楽しそうに笑った。




「デッドリースマッシュッ!」


「オービットディザスター!」


「ダークドーム!」


 シルニャンの攻撃は苛烈を極めた。

 斧を大地に叩きつけて地を走る三つ筋の斬撃を飛ばしてきたり、フィーちゃんが近づくとコマみたいに回ったり、新技が続々と登場する。魔法もブンブン放ってくるぞ。


 俺は、当たれば終わる攻撃を、中庭はもとよりその周辺の地形をフルに使って回避し続ける。

 ロロは攻撃を続け、少しずつダメージを負わせているように思う。

 しかし、次の瞬間にも俺が墜ちそうだ。

 長くはないなと俺自身が一番理解していた。


「ロロ、もう一度斧を投げてもらう。その隙に捕縛する」


 先ほど巻きついた鎖は斧で断ち切られてしまったが、斧が無ければどうなのか。

 思い当たる隙がそれくらいしかなかった。

 もし捕縛できれば見っけものだ。


「分かったわ。じゃあ私はとにかく攻撃しまくっていれば良いのね」


「うん。シャイニングレイで上に逃げるようにして欲しい」


「分かったわ」


 ロロは俺の後頭部にキスをして、攻撃を再開した。

 フィーちゃんも飛行しながら、いつでも飛び出せる態勢でシルニャンの隙を伺っている。


 シルニャンがシャイニングレイを回避しながらダークフレイムを放ってくるが、俺は冷静にアクセルチェーンで逃げ回る。

 ロロが上手い事ビット人形を配置していき、次第にミラージュレイの規模が派手になっていく。


「閃きっ! トリニティレイ!」


 すでに発動している魔法にロロが名前を付けた。

 ロロの魔法を起点にして、3体の人形がシルニャンの回りをグルグル回りながら拡散レーザーを放ちまくる。

 完全に滅ぼす気満々のえげつない攻撃である。


 そして、その時は来た。

 シルニャンは飽和する攻撃にたまらず上空へ逃げ、斧をぶん投げてくる。

 両サイドから弧を描きながら飛んでくる2丁の斧。

 俺は、ロロがすぐに人形の攻撃を止めてくれた前方へアクセルチェーンすることで、一時的に回避する。


 斧が追尾もできることは分かっているので、俺はすぐさま、未だに滞空状態のシルニャンへ鎖を巻きつけた。

 鎖が胴と一緒に片腕を封じた。


「っっ!」


 予想以上に好機だ!

 その鎖を持ったまま俺はさらにアクセルチェーンを発動した。


 俺の移動と共に、鎖の先でふん縛られたシルニャンが身体をくの字に曲げて急加速する。


 俺達の前方には真っ赤な悪魔が、コォオオオオ、と腕を回して待機していた。

 何をしようとしているのか理解した俺は、フィーちゃんの真横をアクセルチェーンで駆け抜けて着地する。


 まるでフィーちゃんが回す腕に吸い込まれるように、鎖に繋がれたシルニャンが背中を向けて飛んできた。


「浸食……」


 人にあの技を使うとどうなってしまうのか。

 グロ耐性が低い俺は、目を逸らしたくなった。

 けれど、好意を抱いてくれていた女の子の最後の瞬間に、目を逸らすわけにはいかない。


 真っ赤な闘気を纏った小さな妖精さんが、寸分違わぬタイミングで両手を突き出し、叫んだ。


「岩穿ツェイヤァアア!」


 くの字に曲がって飛んできたシルニャンが、フィーちゃんの手を起点して、逆くの字に折れ曲がった。

 同時に、シルニャンを捕縛していた鎖もろとも、闇の鎧が音を立てて粉みじんに砕け散った。黒と白の光が周囲に降り注ぐ。


 シルニャンの背中から腕を抜いて残心したフィーちゃんは、くるりと俺達へ顔を向けた。その背後でシルニャンがどさりと崩れ落ちる。


 俺はガクガクしながら、劇画調に変わったフィーちゃんの顔を見つめた。


「タンポポの前に光も闇も、愛も憎しみもないですぅ。あるのはただ侵食のみですぅぎゃふぁっ!」


 シルニャンを追ってきた斧が、カッコつけていたフィーちゃんにクリーンヒットした。


「ふぃ、フィーちゃーん!」


「フィーッ!」


 俺とロロが叫ぶ。


 紙装甲のフィーちゃんが斧投げなんて受けて、助かるはずもなく。


「ど、どうやら私はここまでのようですぅ……二人もすぐ後を追ってくると思いますが……あとは任せたですぅ……ガクッ」


 別に痛くもなんともないはずだが、凄く苦しそうに最後の言葉を口にしたフィーちゃんは、ふっと消えていった。


「フィーッ!」


 ロロの悲痛な叫びが夜空に溶けていった。

 ロロも演技派だ。


 フィーちゃんがお亡くなりになった。

 しかし、フィーちゃんの犠牲を以てしても、シルニャンは死んでいなかった。


 よろりと立ち上がったシルニャン。

 鎧は砕け散り、角も片方が折れてしまったその姿は満身創痍と言うにふさわしい。


「ま、魔王に身を捧げても……貴様には勝てないのか……ろ、ロロティレッタ……」


 ホログラムなのにセリフを言うという事は、シルニャンがどこかで声を当てているのだろう。

 ルァアアとか叫んでたのもそうなのかな? 迫真の演技だったぞ。


 ロロはシルニャンの言葉にふっと笑った。

 そうして、俺のお腹から足を解くと地面に降り、シルニャンの前に仁王立ちした。


「最後の勝負よ、シルニャン。全力で来なさい!」


 敵が瀕死になった途端、最後の勝負を持ちかけるロロにゃんマジかわゆす。

 だけど、どうしよう。凄く死にそう。


「ふ、ふふっ、面白い。お前は確かに強かった。魔王から力を与えられてなお届かないほどに。ならば、私の全てをこの一撃に込める……っ」


 シルニャンはそう言うと、足を引きずりながらロロから離れた。


「コウヤは見てて。これは一騎打ちよ」


「う、ぐぅ……わ、わかった」


 正直やめてもらいたいんだけど、ぶっちゃけシルニャン関係は口を挟みづらいんだよな。

 日本にいた頃の俺は、好きな人が誰かの彼女になっちゃった経験が何度もあったし、シルニャンにやや同情的なところがあるのだ。まあ彼女の場合は、俺と違って凄まじいモテ顔らしいけど。


 十分に距離を取ったシルニャン。

 その距離はどちらかと言えばロロに有利な距離だ。


 いつの間にか、闇シルニャン戦のBGMが止んでいた。

 星が瞬く夜空の下、一陣の風がロロとシルニャンの髪を撫でて通り過ぎていく。


 まるでそれを合図とするかのように、二人が動き出した。


「シャイニングレイ!」


 対するシルニャンは拡散レーザーを一身に受けながらも、斧を持った両手を振り上げる。

 バキンッと仮面が砕け、目元が顕になる。

 その顔は、なるほどモテ顔と呼ばれるにふさわしい、絶世のロリ顔だった。


「テフィナに暮らす全ての女の子の妬みと嫉みよ、我が双斧に宿れぇ……っ! うぁああああ、斧投げぇえええええ!」


 ブロロロロロッと風を切りながら、二つの斧が宙を舞う。


 ダークネスハリケーンとか言う必殺技ではなく、ただの斧投げ。

 されど、運動音痴なロロにそれを避ける術などなく。


 ひ、ひぇえええ、と目を瞑って身体を硬直させるザコなロロ。

 そんなロロの身体に斧がぶち当たる瞬間、俺はロロの身体を抱きしめた。


 俺の背中に斧が当たった感触があった。

 眼前には、ゲームオーバーの文字が出る。


 負けちゃったかぁ。

 俺はすぐさま最後の言葉を考え、口にした。


「ろ、ロロ、愛してるよ。約束守れなくて、ごめんな……ガクッ」


「こ、コウヤァアアアアアア!」


 そんな叫びを聞きながら、次の瞬間、俺は魔王城が見える浜辺に転移させられた。


「コウヤ君!」


 その声に振り返ると、あれれ、おかしいな。オルトさんがいらっしゃる。


「えぇ? 負けたんですか?」


「あんなのに勝てるわけがない」


「そんなにか」


 あとでどんななのか動画で見てみよう。


「コウヤさーん!」


 続いてフィーちゃんが飛んできた。

 フィーちゃんは俺の肩に合体すると、耳たぶをもにもにしてきた。


「やっぱりすぐに死にましたぁ! 5分も持ってないじゃないですかぁ。まったく、私がいないとダメですねぇ!」


「面目ねえ」


 もにもにうにょーんと耳たぶが引っ張られる。

 浜辺に座りながらそんな事をやっていると、空中にある観戦用ホロウインドウの映像内で、シルニャンが再び装填した斧投げで、ロロがぶっ殺された。

 斧を両手に持つ、ルァアアアアアと満月に向かって叫ぶシルニャンが何ともクレイジーである。


「ひぇえええんえんえんえん! アイツ強すぎるよぅ!」


 こちらに戻ってきたロロが、俺の股座に顔を埋めて泣いた。

 そんなロロの頭を、俺はいつものように優しく撫でる。


「なんかその体勢で頭なでなでするの手慣れてませんかぁ?」


「気のせいだよ、フィーちゃん」


 まだ数日の素人なでなでさ。


「ボロボロだったのにぃいいんうぇんえんえん!」


「ボロボロだから勝てると思っちゃったかぁ」


 俺の言葉に、ロロはコクンと頷いた。俺は頭をなでなでしまくった。


「だってだってぇ、ラスボス戦後の主人公とラスボスの一騎打ちは鉄板じゃないさぁああんあんあんあん!」


 確かに鉄板やね。

 憧れていた頃の姿に戻ったラスボスとの一騎打ちとかさ。で、最後は必殺技で決めると。

 ロロはそれがやりたかったらしい。


 その後、俺達の後にやってきたプレイヤーたちが次々とシルニャンにぶっ殺される映像が続いた。

 一つの戦闘が終わると全回復する仕様らしく、俺達が如何に惜しかったか分かる映像だった。


 こうして、俺達の魔王城攻略戦は終わりを告げた。

 あれだけ啖呵切ったのに、魔王ちゃんまでたどり着けなかった……っ!

読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ