2-25 魔王城攻略戦 運動神経
よろしくお願いします。
話が進まぬのはいつものことよ。
フィーちゃんの好感度を上げた俺は、ロロの面倒を見つつ魔王城を探索する。
一階を探索し終わったら二階へ……みたいな方法だと時間切れになるのは間違いないので、地図を頼りに最短距離で魔王ちゃんが居そうな最上階を目指す。
その進路上で出会った敵を片っ端から倒していき、ボスも1体だけ倒した。
魔王城のボスは法則があった。
パペット人形が雑魚敵として出現する最初のエリアのボスは、巨大人形。
スカブフサポヨが雑魚敵のエリアのボスは、巨大スカポヨ。
とまあこんな風に、非常に分かりやすい傾向になっている。
俺達は、ゴーレムのボスと戦った。
ゴーレムは怪力高防御力の魔法使いタイプなのでかなり強いのだが、本体のスピードが遅いという弱点がある。
ビットオーブのおかげで魔法は俺達にあまり通じないし、フィーちゃんの侵食・岩穿ちが高防御力を貫通する必殺技なので、相性が良いのだ。
難なくとは言い難いけど、普通に倒すことが出来た。
他にもいくつかのエリアを跨いだが、ボス部屋は他のプレイヤーが戦っていたり、相性が悪い敵だったりしたのでスルーした。
そうして、俺達は2階部分に訪れたのだが。
「おっ、コウヤ君。奇遇だね」
階段を上ってすぐの場所で、オルトさんと再会した。
他にも、彼の仲間3人、女の子4人、シルニャン、全員で9人の混成チームだ。
「こんにちは、オルトさん。休憩中ですか?」
「あー、休憩というか、ちょっと予想外な事態でね」
苦笑いを浮かべたオルトさんは、何が起こったのか説明してくれた。
「どうやらあの赤いタイルを踏むと罠が発動するらしくてね、いきなり壁から柱が飛び出てきたんだ。それをグローの奴が喰らってさ。まあ幸い、脱落判定を喰らうダメージじゃなかったみたいだけど」
見れば、確かに床に敷き詰められたタイルの中に、赤いのが混じっている。しかも結構な数だ。そして20センチ四方くらいの厚さがある柱が壁から生えている。
グローさんは、オルトさんと共に、イチャコラしていた仲間2人を愕然と見つめていた人だ。通称仲間B。
そんなグローさんは、女の子1人にめっちゃ腕を摩られている。
「あ、あー、グローはあの子を庇ったんだよ」
や、やべぇ、オルトさんの目からハイライトが消えているぞ。
その原因はグローさんだけではない。他の仲間二人も、女の子と青春しているのだ。
パーティメンバーが自分以外全員、女の子と良い感じになっていれば、それは目のハイライトも消えるよな。
なんて声を掛けて良いか分からない俺の隣で、俺の彼女が口を開いた。
「彼女欲しければシルニャンともう一人いるじゃん」
ズバッと行きやがった。
オルトさんは乾いた笑いで答えた。
「もう一人の女の子は年下の彼氏がいるらしい。さっき言ってた。シルニャンは……俺には無理だ。可愛すぎて荷が重い」
よくよく見ると、その女の子はインタビューの時に、アレックス君見てるかぁ、などと言っていた子だ。きっと彼氏はアレックス君だろう。
それにしても、シルニャンはそれほどまでに美少女なのか……
俺からすると、彼氏の贔屓目を抜きにしたって、ロロの方が綺麗だと思うんだけどな。
いや、これは俺の好みの問題か。俺、スレンダーな子が好きだし。つまりロロはパーフェクト。
そんなシルニャンと目が合った。
つつぅと目を逸らし、もじもじし始めた。
以前助けたのが、そんなに彼女の琴線に触れたのだろうか?
好意を持ってくれるのは俺も男だし嬉しいけれど、それ以上にロロを不安にさせたくない気持ちが強い。
まあ、あまり関わらないのが良いのかな?
人は失恋してもいずれ他の恋を見つけ出すんだから。
俺だって何回、恋と失恋を繰り返したか分からないぞ。
ちなみに、一度たりとも告れなかった。告白したのはロロが最初で最後なのだ。
「は、ははっ、もう大丈夫だ。ありがとなっ!」
「い、いえ、私の方こそ、庇ってくれてありがとう! か、感謝する!」
グローさんが腕をさすさすしてくれている女子に言った。
女子は、さすさすする手をどこか名残惜しそうに離して、答える。
二人ともじもじしている。なんだアレ。
女の子とイチャコラし終わったグローさんがこちらにやってきた。
ニヤけるのを我慢しているような顔だ。さらにそんなグローさんの背中を女の子が真っ赤な顔で見ている。
その両方が見えてしまっているオルトさんの心中やいかに。殴るまであるかもわからん。
「すまん、オルト。もう大丈夫だ」
「ああ、そりゃ大丈夫だろうよ。あんだけ看護して貰えればな……っ」
っていうか、そもそも魔王城攻略戦で肉体的なダメージを追う事はほぼない。仮に負ったとしてもテフィナ人はマシルドがあるので重症にも陥らない。
あの女の子がしていたさすさすは癒し目的ではないのである。
「ふぅ……まあいい。それじゃあ探索を再開しようか。コウヤ君たちはどうする? 一緒に行くか?」
俺はロロを見た。
ロロははわっ、みたいな顔をした後に、キス顔を作ってきた。
その凄まじい吸引力に俺の脳が瞬時にピンク色に染まるが、1秒後にはフィーちゃんにほっぺをぶっ叩かれた。そしてフィーちゃんは、ロロの唇に亜空間収納から取り出したマシュマロをムチューとくっつけた。
「むはーっ! こえおいひいね!」
お菓子を食べると前後のことを忘れる体質のロロが、一瞬にしてマシュマロに夢中になった。
「ふぅ、油断も隙もないですぅ!」
フィーちゃんは掻いてもいない額の汗を拭った。
その際にオレンジ色の前髪がサラリと動き、隠れていたお目々がチラリ。
セリフの割には楽しそうな眼であった。これなら離反はしなさそうだな。
「君たちはなんというか、凄いな。で、どうする?」
「それじゃあこのエリアだけご一緒しても良いですか?」
「ああ、構わないよ。君らが居ればボス戦も楽になりそうだしな」
こうして俺達はオルトさん達としばらく行動することになった。
「オルトさん、ここは赤いタイルを踏んじゃいけないんですよね?」
「少なくともあの曲がり角まではそうだけど、曲がったらどうなってるか分からないな」
確かに、20メートルほど先で廊下は曲がっている。
ちょっと見てきますぅ! と、飛べるフィーちゃんが偵察に行き、さらなる事実が発覚。
どうやら、このエリアはアスレチックステージらしい。
赤いタイルゾーンは曲がり角を超えると無くなり、その後はアスレチックみたいになるんだって。
敵の姿はなかったらしい。
「ふむ、そうなると……」
オルトさんがチラリと仲間たちを見た。
内2人が女子をおんぶしていた。
グローさんとペアの女子は運動は得意みたいなのだが、チラチラとグローさんを見ている。
オルトさんは廊下の窓から空を眺めた。青い空を見つめているのに、瞳に光沢はなかった。
なお、シルニャンともう一人の女子も大丈夫みたいだ。
ふむ、アスレチックか。
オルトさんには悪いが、ここは俺達も。
「ロロ、ここは合体だ」
オルトさんの心を壊さないために、俺は少し離れてロロに言った。
「え? いいよ、私、ここは一人で行くわ」
待った待って。
今まで散々おんぶしていたくせに、アスレチックなゾーンに突入した途端何言い出すの? 運動音痴のくせに。
「いやいや、こういう時こそおんぶだろ」
「な、なによ、こういう時こそって。ひぅううう……も、もしかして、コウヤ、まだ私が運動音痴だって思ってるの?」
「うん」
「か、彼女なのに?」
「彼女なのに」
「彼女なのにかー、ままならぬ。ふふっ。っていうか、内緒にしてたんだけど、実は私って運動音痴じゃないんだよ? 確かに魔法の方が得意だけど、運動もそこそこできるの」
「内緒にしてたの!?」
「そうよ。私、小学校の頃、マット運動で先生から花丸貰ったもん!」
「俺はいつも花丸上げてるけど」
「にゃん、そっちじゃないよぅ。んふふふ、お姉ちゃん先生もコウヤ君に花丸上げちゃうぞっ。コウヤにゃんはとっても上手です」
「ロロにゃんもとってもとっても上手ですよ。最高です」
「んふふふー!」
俺の頬をツンッとするロロにゃん先生。今日は先生って呼んでみようかな、必死な感じで。ロロが喜びそうなことは何でもしてあげちゃうサービス精神旺盛な俺である。
「まあそれはともかく。じゃあロロ、ちょっとそこで前転してみ」
「ほぅ。この前転の申し子と謳われた私にか。よかろう」
ロロはパッと足を開いてポージング。
ロングコートと太もものコラボはやっぱり良いな。我が彼女ながら最高です。
そんな最高の彼女を汚すのは嫌なので、俺は床に亜空間収納から取り出した自分の服を並べた。
俺の気遣いにロロは大変満足そうにはにかむ。
この頃になるとオルトさん達も何をしているのかとわらわらと集まってきた。
すみませんね、すぐに済みますから。
そして、いざ。
ロロは床に頭を付け、そのままころんと斜め横に転がってポテンとお尻をつけた。
俺は拍手した。超可愛い。
「上手だったでしょ!?」
「可愛さで言えば1億点だ。が、運動神経は息してない」
「は、はぁああ!? ちゃんとコロンって出来たじゃないさ!?」
「服の列からずれちゃってんじゃんよ!」
横幅40センチ程度の服の列からずれて、ロロが居るのは床の上だ。
「わ、私、出来てたよね!?」
ロロがギャラリーに回答を求めた。
男性陣は全員が顔を横に背け、シルニャンがプキャーし、女子二人が首を振り、女子二人がコクコクと頷く。フィーちゃんは、萌えですぅ、と俺の耳たぶをむにむにする。
問題なのは、肯定している女子二人だ。
「ほらぁ、分かる人にはわかるんだよ。ねーっ?」
「いや、待った。この二人はおんぶ勢だ。君たちもちょっと前転してみ」
俺はどうぞと俺の服のマットを手で示した。
普通なら断りそうなものだが、それぞれの男子をチラチラと見て、ふんすと気合を入れた。
一人目。ロロより真っすぐ転がれたが、コロンとした後にお尻がポテンと後ろに下がる。
二人目。そもそも回れなかった。この子はガチでヤバい。
この結果に、セイファスさんと仲間Cは盛大な拍手を送った。
端から見れば侮辱以外の何物でもない拍手だが、その気持ちは凄くよく分かった。可愛いよねぇ。
「では、どなたかお手本をどうぞ」
「じゃ、じゃあ、私が!」
グローさんに助けられた女の子が手を上げた。
4番手の女子。
彼女もまたころんと斜め横に転がった。
どうして出てきた。
グローさんが目をキラキラさせながら、口を手で押さえた。
女子が恥ずかしそうに元いた場所に戻ると、おんぶしようか、とグローさんが言う。女子はもじもじしながらコクンと頷いた。なるほど、確信犯か。
その後、アレックス君の彼女が普通に決めた。完璧な前転だった。
「というわけでおんぶします」
「くっ、こんな屈辱なおんぶなんて……っ」
「バカだな、ロロ。本当はロロをおんぶする口実なんだよ」
「にゃ……はわっ、それならそうと早く言ってよバカァ」
合体!
チョロイ。
こうして、男子5人中4人が女子をおんぶする奇妙な混成チームが出来上がった。
オルトさんの心のHPに深刻なダメージを与えた。
読んでくださりありがとうございます。




