2-24 魔王城攻略戦 休憩所
よろしくお願いします。
レアアイテムをゲットした俺達は、部屋を出る前に作戦会議をした。
「こっち行ってここ昇ってここ通ってここ調べてこっち行ってここーっ!」
「ドカバキドカバキドカバキドカバキ! 殴打殴打殴打殴打殴打滅殺ぅですぅ!」
「よし、その作戦でいこう」
作戦が決まり、俺達は廊下に出た。
廊下は依然として青い松明の不気味な薄暗さだ。
出てくる敵も先ほどと変わらずパペット人形。
「綿毛流しィイイッ!」
敵・即・殴の三文字を背負ったフィーちゃんが、出会ったそばからパペット人形をぶん殴りに出動。
パペット人形たちは来た道を逆戻りする形で吹っ飛んだり、壁や床や天井に叩きつけられたりしてポリゴンとなって消えていく。凄惨であった。
俺は出番がないので、だいしゅきホールドしてくるロロの頭をなでなでしたり、お尻を支えるふりをしてもみもみしながらその後に続く。ロロのコートはセンターベントが股上まで入っているのでお尻を触っているのを巧妙に隠せるのだ。
ロロは相も変わらず首チュパ業務に励んでいる。
よしよし、良い子良い子。
「ちょっと物足りないですねぇ」
パペット人形の頭を爆砕した戦闘狂がいらんことを言い出した。
フラグが立ったらどうする。
「平和なのは良い事だよ?」
「普段ならそうですが、ゲームなんですからワラワラ敵が出て欲しいんですぅ。それに弱すぎますよー。ピエロがいっぱい出てきて欲しいですねぇ」
ピエロはパペット人形の中でも精鋭なヤツだ。ピエロの服を着てる。
「これはハズレエリアでしたかねぇ?」
フィーちゃんはパペット人形の頭を床に叩きつけながら言った。
言うほど敵少なくないんだよなぁ。10秒に1体はエンカウントしているし。相当早いスパンに思える。
フィーちゃん無双を見ながらしばらく進むと、松明の明かりが普通の色のエリアが現れた。
エリアの前にはホログラムがあり、こう書かれていた。
『休憩所 10分滞在以降、10秒毎にポイントがマイナスされていきます。滞在は計画的に』
「これが休憩所ですかー」
フィーちゃんが言う。
事前に受けたルール説明で、休憩所については知らされていた。
このエリアに居れば、敵に襲われることはない。
ただし、注意書きにも書かれている通り、10分経過以降は10秒毎に獲得したポイントが減少していく仕様だ。また、敵と戦闘判定を受けているプレイヤーは入場できない。なお、ポイントの減少はエゲつない数字となっている。
休憩所は魔王城に何か所かあり、それぞれで最低10分は休憩できる。
エリア内には、座れるところとおトイレがあるのみ。
魔王城攻略戦は6時間も探索時間があるので、おトイレがちゃんと用意されているのである。もちろん、トイレ時にはカメラは回らないぞ。
エリア内に入ると、すぐに10分間のカウントダウンが始まった。
「じゃあトイレ休憩しようか」
「妖精はあまりおトイレ必要ないんで、私は待ってますねぇ」
へぇ、そうなんだ。
妖精の新たな生態を知った俺は、トイレに向かった。
しかし。
『ここは男性用トイレです。女性は入れません』
不思議な事に入場を拒否らされた。
俺は首を傾げた。俺は男なんだけどな。
俺はもしかしたら女の子だったのかもしれないと思い、俺は女子トイレに足を向けた。
『ここは女性用トイレです。男性は入れません』
「おいおい、どっちも入れないなんておかしいじゃないか」
「ペロチュッチュッ!」
「はぁー、極まってますねぇ」
俺を見つめながら、フィーちゃんが感心したような顔でコクリと頷いた。
さすがの俺も居心地が悪いので、フィーちゃんに言った。
「うそうそ、冗談だよ。ほら、ロロ降りて。おトイレ休憩にしよう?」
「久しぶりの地面! よし、おトイレ行こっと。あっ、ねねっ、ゼット出しといて?」
「え、うん?」
久しぶりに合体解除した俺達は、それぞれ分かれておトイレに入った。
テフィナの男子トイレは、女子トイレ同様に個室式だ。
「ゼットを出しといてってどういうことだ?」
首を傾げながら個室に入ると、ゼットが鳴った。
ロロからの通信であった。四六時中一緒にいるので、思えばロロから通信が掛かってくるのは初めてだった。
しかもホログラム通信という、相手の様子が見れる通信。
『コウヤにゃーん、見えてますかぁ? んふふふ』
「俺の彼女の頭がヤバすぎる件」
『にゃんだとぅ! 切っちゃうぞっ!』
「ふーん、切れるものならどうぞご自由に?」
『にゃわーッ、き、切るのはもうちょっと待ってやろう!』
10分間の戦いが始まった。
いや、すでに残り9分だし、それをフルに使うのは不味いので、8分……余裕を見て7分。
ギリギリか……っ!? ロロと付き合う前の制限時間付きお風呂タイムを思い出せ!
「ちょっと二人とも遅いですよぉ! あと1分しかないですぅ!」
トイレから出てきた俺とロロに、フィーちゃんがわたわたしながらキレた。
「ごめん、てこづった! 急いで出よう!」
俺はツヤツヤ美少女なロロにゃんの膝をすくうようにしてお姫様抱っこをすると、休憩所を飛び出した。
その後をフィーちゃんがピューンと飛んでくる。
「ふぅ、危ないところだったぜ……」
「そうね、恐ろしい罠だった。魔王ちゃんがこんな陰湿だとは思わなかったわ。卑怯者めっ」
「え、休憩所なのに何か起こったんですかぁ? 私の方には何もなかったですよ?」
フィーちゃんがキョトンとして言った。
あってたまるか、とは言えなかった。
「っていうか二人とも凄くまともな感じですぅ。色ボケはおしまいですかぁ?」
「ちょっとだけ満足したし、頭もしゃっきりしたよ」
「私も!」
「これも全部ロロの機転のおかげだね?」
「でしょーっ!」
「ほぇ? まあまともになったなら良いですぅ」
フィーちゃんがうんうんと頷いた。
ロロのおかげでみんな幸せになった。
ロロにゃんまともバージョンは自分の足で歩く仕様なので、お手々を繋いで仲良く歩く。
新エリアの敵は壁を縦横無尽に跳ね回るフサポヨだった。
コイツはフサポヨの魔獣バージョンで、スカブフサポヨというらしい。
ロロはスカポヨと言い始めたので、俺もそれに倣う。
「良い感じの修行ですぅ!」
フィーちゃんが速い動きに苦戦しながらも嬉しそうに戦っている。
争いなんて何も生み出さないのに。時代はイチャコラだぞ? 創造だよ創造。
たまに2体現れるとロロの魔法で消し去り、1体の時はフィーちゃんの修行タイム。俺はロロの手を暖める係り。
そんな道中をしばらく行くと、部屋があった。
中からドンパチ聞こえるぞ。
そっと中を覗くと、でかいスカポヨとたくさんのプレイヤーたちが戦っていた。
「入る?」
「いや、入れないみたいだな」
俺達が巨大人形と戦った時に現れた赤い結界膜がこの部屋にも張られていた。これが張られると通行できないみたいだ。
見物するのも時間の無駄だし、次行こ次。
そのままボス部屋をスルーして、敵をボコしながら再び休憩所を発見。
非常に悩ましいところだが、ここで先ほどと同じことをするとフィーちゃんの好感度がマイナスしそうだ。離反ルートに突入したら悲しい。
「フィーちゃんは疲れてない?」
「私は元気ですぅ!」
「ロロにゃんは?」
「私もあと15回はイケるわ!」
ロロにゃんは元気だなぁ。
良い子良い子。
「じゃあ、この休憩所はスルーで良いか」
「ほぇ!? 良いんですかぁ!?」
俺の言葉にフィーちゃんが驚いたように言った。
俺は離反を避けるための気遣いの姿勢をみせておく。
「フィーちゃんももっと楽しみたいだろうし、戦うチャンスをもっと増やそうと思ってさ」
「おー、コウヤさんが出会った頃のまともなコウヤさんですぅ! ネジ穴に詰まったヤバい液体が抜けたですぅ!」
「いや、それはここにどんどん蓄積されてるよ」
俺はトントンと親指で胸を叩いた。
「頭悪いセリフだけど、今回は勘弁しますぅ! よぉーし、コウヤさんがせっかく気を遣ってくれたんですから、私頑張っちゃいますよー!」
好感度+5!
離反ルートはしばらく回避だ!
読んでくださりありがとうございます。




