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2-22 魔王城攻略戦 突入

よろしくお願いします。

 後続の人達も門を越え、庭がわいわいし始めた。


「すっかり賑やかになっちゃったわね。あっ、コウヤコウヤ、あっちに落ち着けそうな小屋があるよ」


 ロロが完全ロック式おんぶの状態のまま耳元でこしょこしょと囁いた。

 見れば、庭の一画に庭師でも住んでそうなこじんまりとした小屋が一つあった。


 ふむ、確かに落ち着けそうな小屋だ。

 ここは少々がやがやしているし、二人きりで落ち着きたい。


「ロロにゃんはエッチな子ですねぇ」


 俺は自身の横顔にほっぺをくっつけるロロの反対側のほっぺを人差し指でこしょこしょと擽った。

 ロロはにゅんと甘えた声を出して身をよじり、俺のほっぺにスリスリと自分のほっぺを擦りつけてくる。


「にゃんのことですかぁ? 私は探索し甲斐がありそうな小屋を発見したから言っただけですよー? あれれ、もしかしてコウヤにゃんはそういうこと考えていたんですか? エッチですねぇ」


 ロロも俺のほっぺをこしょこしょしてきた。

 なにこれこそばゆい。俺はロロのほっぺに自分のほっぺをスリスリした。

 その光景はもはや、一つの生物みたいな感じ。頭が二つある的な。


「よし、それじゃあ行ってみようか。フィーちゃん、ちょっとあそこの小屋を見てくるから」


 次会った時もそんな面してたら花弁を散らしますからねぇ! とお花さんにブチギレているフィーちゃんに俺は一声かけた。


「へ?」


「10分くらいで戻ってくるからね。ほら、コウヤにゃん、早く早くぅ」


 ロロにゃんが俺の首をチュッチュッしながら急かしてくる。

 

「あはは、そう急かさないで、な」


「にゃふぅん……にゃ、にゃんっ」


 俺はロロにゃんの太ももをもにゅもにゅしながら歩き出した。

 そんな俺達の前にフィーちゃんが立ちはだかる。


「ちょちょちょちょっと待ってくださいー! 私も行きますぅ!」


「あの小屋くらいなら私達二人で大丈夫だから、フィーはお花さんを鍛えてあげてて、ねっ? 10分だけ、お願い?」


「ウインクって……バカーッ!」


 フィーちゃんがキレた。

 おんぶしているので分からなかったが、ロロはウインクしたらしい。

 フィーちゃんのおっきい声に俺はビクつき、俺の身体がビクついたことでロロがにゃんと甘い声を出してビクンとする。フィーちゃん2連鎖ゲット。


「それ完全に死亡フラグじゃないですかー!?」


「え? 死亡フラグって、ははっ、この俺がそんな不用意なこと……」


 そこでふと思い出す。

 パニック系の映画だと、集団から離れてエロいことをしに行く男女って、超高確率で死ぬなって。

 例を挙げれば、女が甘い吐息を吐いた辺りで男の方がまず死ぬ。女がキャーッと言ってから、あとを追うように死ぬ。

 そんな姿を、簡単に死ぬなよ、あと20分くらい見せろ、みたいな気持ちで俺は毎回見ていたわけだけど、今まさに俺がやろうとしていたことって……


「完全無欠の死亡フラグだ……っ!」


 まるで誘導されるかの如く、二人きりで得体のしれない小屋へ向かっていた。


 一体なんだこれは。こんなのいつものクールな俺じゃない。

 何か不思議な力が働いているとしか思えない。

 まさか、精神攻撃を喰らっているのか?


 俺は身体ごと周りを見回して警戒した。

 しかし、精神攻撃を放っていそうなヤツの姿はない。


「コウヤさん後ろ後ろ!」


 ハッとした。

 そうか、そういうことか。

 犯人は初めからすぐそばにいたのだ。

 この甘猫ちゃんだ。

 甘猫ちゃんが可愛すぎるからいけなかったんだ。


 だって首筋をチュパチュパするからぁ……っ!

 さらに小休止を良い事に胸のポッチをくりくりしてくるしぃ……っ!


「ロロにゃん、やっぱり中止。死亡フラグだよ、これは。めっ!」


「しゅん……」


 っていうか、カメラが回ってるんだから首チュパ以上の事はできない。むしろ首チュパですら世の親御さんを気まずくしている可能性が高い。


 切なげな声でしょんぼりしたロロは、仕方なしに首チュパを再開した。しかも今回はごく微妙な振動が俺の腰の後ろでブルブルやっている。ロロは魔法を器用に使うからなぁ。

 控えめに言ってド淫乱だった。


「まったくまったくーっ! ここはもう敵のお腹の中なんですよ!? 油断しちゃダメですぅ!」


「ごめん、フィーちゃん」


「もみょんにゃみゃい……くにゃうっっっ」


 フィーちゃんがプンプンだ。

 まったくその通りなので、俺達は素直に謝った。

 だけど首チュパしながら声は出さないで欲しい。さらにビクンビクンするのもやめてほしい。このまま脱落したくなっちゃう。


「キャーッ!」


 不意にそんな声が響き渡った。

 慌てて見てみれば、例の小屋から女の子が駆け出してくる姿が。

 そしてその女の子の背中に、小屋の中から飛んできた魔法弾がぶち当たる。


「「「……」」」


 1人は確実、しかし高い確率で2人脱落した。


「それ見たことかぁ!」


 ぽかぁー、ぽかぁーとフィーちゃんのちっちゃい手で俺とロロの頭がぶたれた。

 返す言葉もなかった。


 庭で休んでいた連中がすぐさま臨戦態勢をとると同時に、小屋が内部から破壊され頭が2つついたでっかい蛇の化け物が現れた。頭が50センチくらいあり、体長は20メートルはあるだろう。

 小屋の跡には地面にでっかい穴が開いていた。


「ツインヘッドだ! 強酸の魔法と丸呑みに気を付けろ!」


 たぶん、逃げた女子じゃない方の人は丸呑みされたな。地面から出てきたツインヘッドに食われた感じだろうか。凄く想像しやすい。

 もちろん、脱落すると強制転移なので安全だぞ。


 魔王城攻略戦もポイント制なので、みんなこぞって武器を手にして戦いだす。

 遠方から魔法が飛び、ツインヘッドにガンガンダメージを与え、攻撃させる暇を与えない。

 俺は鎖を放って蛇の身体を地面に縫い付けて援護する。


 テフィナ人は魔法が得意な人種なので、やはり俺のへっぽこ魔法とは違って割とエグイ威力をしている。

 とはいえ、魔力交換ブーストが掛かっている時のロロほどの威力は無いようで、ツインヘッドは未だ健在だ。


 魔法に怯んでいるツインヘッドにオルトさんとその仲間たちが魔導装具を手にして駆け出した。

 先ほど女の子とアドレス交換していたセイファスさんが、槍で片方の頭を顎の下から貫く。さらに、女子とアドレス交換していた仲間Bが双剣でもう片方の首を十時に切り裂いた。


 その二撃が決定打になったようで、ツインヘッドはポリゴンとなって消えていった。


「犠牲者は……2人か」


 オルトさんが言う。

 もちろん戦闘が始まってからの事ではない。始まる前の出来事。俺がした人数の予想は当たっていた。


 それにしても、危なかった。

 フィーちゃんに止められなければ俺達が犠牲者になっていた可能性は大。赤面しながらレオニードさんに会う未来が待っていたぜ。


 ところで、オルトさんと仲間Aが決して一方向を見ないようにしているぞ。

 その方向では、2組の男女が青春していた。

 女の子2人がセイファスさんと仲間Bを褒めちぎり、男共はてれてれしている。


 なんて声を掛ければ良いのか分からないので、俺はそっとその場を離れた。

 なにせ、俺自身も現在進行形で首チュパ天国の真っ最中だからな。そんな俺が声を掛けてもイラっとさせるだけだ。なお、ロロは戦闘中もずっとこうだった。発情っぷりが酷い。


「さて、それじゃあそろそろ城内に行こうか」


「よし来たですぅ! 皆殺しですぅ!」


 お花を扱いていただけあり、フィーちゃんの身体も良い感じに温まっているみたいだな。

 俺とロロの身体は、いけない感じに温まっているぞ。切なすぎる。早く帰りたい。




 事前に城内見取り図をゼットで読み込んでいるので、俺達はそれを見ながら探索を開始した。

 あくまで見取り図なので、他の情報は一切ないし、どこが何の部屋かも分からない。


 魔王城は凄くでかい。

 東京ドーム何個分などと言いたいところだが、東京ドームは行った事も見たこともないので知らん。というわけで、夏と冬に開催される祭りの戦地が3個は入る。

 廊下や部屋の広さは場所によって変わり、広さに合わせて各々の場所で何かが起こると予想される。


 とりあえず言えることは、最上階に行けばいいのだろうと思う。

 最短距離で行くなら『鎖を使って外から飛んでいく』なのだが、残念ながら結界が張られて無理だった。っていうか、テフィナ人は4メートルくらいならパルクールみたいにピョンピョン上ってしまうので当然の処置と言えた。もちろん、運動神経が普通なら、だ。


 入口は4つあり、俺達はその内の一つから入った。

 城内は青い松明を明かりにしており、不気味な雰囲気が漂っている。

 ゾンビとか出てきそう。


 他のプレイヤーも何組か俺達と同じ入り口から入ったものの、すぐに別の方角へ行ってしまった。やはり他の人と一緒だとそれだけチャンスが減るからな。


 城内なので鎖は使わず、徒歩での移動。なのでフィーちゃんは合体せずに解き放たれている。


「オラァですぅ!」


 そんなフィーちゃんがさっきから敵をぶん殴って殺しまくっている。

 敵はパペット人形みたいな奴らで、一体か二体ずつ出てきている。剣を持っていたり、槍を持っていたりするけれど、俺が捕縛しフィーちゃんが殴れば一瞬で終わる。ロロが魔法を使っても一瞬で終わる。

 正直、魔王軍侵攻戦で戦った雑兵よりも弱い。


「コウヤにゃん、私、怖い」


 ロロがぎゅっと俺の首に力を入れて、怯えた。

 フィーちゃんは解き放たれているが、こちらの猫ちゃんは未だ俺の背中だ。


「俺がついてるから大丈夫だよ」


 薄暗い通路なのでカメラ映りも悪いと踏んで、太ももの付け根付近をもにゅもにゅしながら俺は言う。

 にぅ、と俺の首筋を噛んでからロロは続けた。

 

「だけど後ろから襲われちゃうかも」


「それは言えてるな……閃きっ! それなら前で抱っこすればロロが後ろを警戒できるよ」


「私の彼氏に天才説が浮上した瞬間である」


 ロロはぴょんと俺から降り、ササッと移動してぴょんとだいしゅきホールド。

 ぬっくぬくな感覚が背中から抜け、代わりに前上半身を幸福物質が支配した。

 さっそく首筋をハムハムし始めたロロの頭をなでなでしつつ、俺は歩き出す。


「おっと」


「ひゃん、お尻触ったぁ」


「落ちちゃうかと思って。ご馳走様」


「お粗末様です」


「お粗末なんてとんでもない。最高だよ」


「んふふぅ、カプチュー、むひゅひゅぅ」


「そんなだから他の人達が別のところ行っちゃうんですよー?」


 うん、知ってた。

 俺達と一緒にいると減るのはチャンスではなく、サン値だ。きっとゴリゴリ減るはず。


 ふいに、ロロが俺の首と腰に絡める手足の力を少しだけ抜いた。

 なんだろうと思いつつそのまま歩くと。

 手足の力を緩めたので密着状態に遊びが出来て、ロロの身体がパスンパスンと連続で俺の身体に当たる。

 そのリズムに合わせて、だんだんロロの息遣いが甘くなる。


「これはコウヤさん達だけモザイク処理されている可能性が出てきましたねぇ」


「生放送だけどそんなことできるの?」


「出来ますよ? コウヤさんところは出来なかったんですか?」


「うーん、たぶん」


 よく知らないけど、放送事故って言葉があるくらいだからな。

 何にしてもモザイク処理されてるのはどうかと思うので、俺はロロの身体をギュッとした。


「こら、ロロ、めっだよ」


「しゅん……はぁーい」


 ロロは四肢に力を込めて抱き着いた。

 その瞬間、耳元でロロがニャーッと悲鳴を挙げた。


「なんかいっぱいいるぅ!」


 はたとして振り向くと、背後に壁が出来ていた。

 何十……いや何百体もの人形で出来た壁が。

 人形たちは俺達が騒ぎ出すと、一斉に小さな武器をギラつかせ始めた。


「ギャーッ!?」


「ニャーッ!? コウヤ、見えない怖い怖い!」


「おっ、おいでなすったですぅ!」


 俺が悲鳴を上げ、俺が振り返ったせいで敵が見えなくなったロロがパニックになり、フィーちゃんが殺る気を漲らせる。


「皆殺しですぅ!」


「いや無理だって逃げるぞ! フィーちゃん合体!」


 フィーちゃんが渋々俺の背中に合体したので、俺は前方へ向けた鎖を放った。

 ロロはニャーニャー騒ぎながら、敵の人形に拡散レーザを放つ。


「弱いけど数が多すぎぃ!」


 前だけを見て集中する俺にロロが報告する。

 一撃で倒せているけど、数が凄まじいのだろう。


 さらに訃報。

 前からも同じ敵が凄い数で飛んできている。

 そう、コイツらは飛んでいるのだ。


「クソッ、これは詰みか……っ!?」


 狭い廊下でアレだけの数に挟撃されるなんて、どう考えても無理だ。


 活路は一点だけ。前方にあるドアの存在。

 俺はそのドア目掛けて鎖を放ち、一瞬で移動する。

 鍵なんて掛かっているなよ!?


 そう願いながらドアノブを捻れば、幸い鍵は掛かっていなかった。

 すぐさまドアを開き、中の様子を確認せずに突入する。


「な、なんですかここー?」


 部屋に入るなり合体解除したフィーちゃんが困惑した声で言う。

 俺はドアを押さえつつ、目だけで部屋の様子を見る。


 部屋の中は廊下とは違って非常に明るかった。

 安心するレベルの光量の中で見たそこは、まるで巨大な子供部屋のような部屋だった。

 部屋自体もでかければ、床やベッドに散らばっているおもちゃもでかい。

 積み木、木馬、ぬいぐるみ、着せ替え人形、おままごとセット……その全てが巨大だ。対比するなら、着せ替え人形が俺の倍ほどの背丈がある。


「ま、まさかのもうボス部屋か?」


「その可能性はありますねぇ、うふふっ、面白くなってきましたぁっ!」


 魔王城内部には、何体かのボスが存在する。

 魔王軍侵攻戦が人がぶんぶん死んでいく仕様だったことから、ここのボスも相当に強いのは間違いない。なにせステリーナ魔王ちゃんは、魔王は勝たなければならない主義らしいし。


 しかし、いつまで経ってもボスは現れない。

 その代わりに、ドアがガンガンぶっ叩かれている。

 終いには斧が俺のすぐそばに叩き込まれる始末である。 


「他の出口は!?」


「なさそうですぅ!」


「ロロ、とりあえずでかいぬいぐるみは焼き払え! なんか嫌な予感がする!」


「了解!」


 ついに俺から合体解除したロロが、クマのぬいぐるみにレーザーをぶち込んだ。

 クマのぬいぐるみの頭が消し飛ぶけれど、ポリゴンになって消えたりはしなかった。敵ではないのか?


 そうこうする内に、ついにドアが限界に達しようとしていた。

 武器で空いた穴から人形たちの手がわらわら出てきて、手が出てない穴を覗き込めば無機質なお目々が俺をジッと見つめている。


「ホラーじゃん!? 魔王じゃなくてホラーじゃんよ! ロロ、フィーちゃん、合体!」


 俺の言葉に、二人はすぐさま俺に飛びついた。

 今度はロロが後ろでフィーちゃんが腹部だ。


 二人が合体するやいなや、俺はドアから出来るだけ離れるように鎖移動する。

 その瞬間、ドアがはじけ飛び、人形たちが流れ込んできた。


 その数はとてもじゃないが数えきれない。

 1000までは恐らくいないだろうという程度。


 人形が全て部屋の中に入りきると、ドアがあった部分に赤い光の膜が構築された。絶対逃がさない構えだ。


「ここで終わりかな?」


「諦めるの早いですぅ!」


 だけど、多勢に無勢なんだよなぁ。

 向こうは飛んでるし。


 まあ、出来るだけ頑張るか。

読んでくださりありがとうございます。

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