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2-16 魔王軍侵攻戦 終幕

よろしくお願いします。

 渓谷後半も俺達は撃破されることなく突破する。


 味方プレイヤーたちと一緒に雪崩れ込めたので、俺にヘイトが集中することもなく、中盤ほど手こずった印象はない。

 敵陣の上で飛び跳ね、背中におぶったロロに拡散レーザーをばらまかせ、敵の中衛の魔法部隊がノックバックしている間に味方前衛が敵前衛を処理したり、味方中・後衛が魔法を放って敵中衛にトドメを刺したり。


 まさに雪崩のように渓谷後半は突破できた。


 渓谷を抜けると、最後の荒野ゾーンだ。

 赤茶けた土と枯れた木々が物寂しいエリアである。

 エリアにうじゃうじゃいる敵の最後方には、でかいクリスタルが輝いていた。アレの破壊が最高得点となる。


 他の2か所から攻めた奴らはまだ来ておらず、俺達が一番乗りのようだ。


 渓谷の壁から鎖を伝って静かに大地に足を踏み入れる。

 一旦ロロを下ろして、小休憩を入れていると、大人びた顔つきの青年が声を掛けてきた。雰囲気からして義務冒険者2年だろうか。


「君達、さっきは助かったよ」


「中盤辺りですか?」


「ああ。いきなり魔法を使う部隊が現れて、一気に殲滅速度が落ちてね。危うく詰むところだった。前衛も硬かったしね」


「いえ。俺達もあれらを倒せないと判断して、みなさんと一緒に倒そうと考えていましたので。お互い様です」


「ははっ、何にしてもあそこで撃破されなかったのは君らのおかげだ。ありがとう。そうそう、俺はオルト、よろしく」


「こちらこそ、ありがとうございます。俺は洸也です。よろしくお願いします」


 オルトさんから握手を求められたので、俺は喜んで応じた。

 凄く嬉しそうな顔をしてくれたので、俺もニッコリ微笑んだ。

 そんな俺達の様子をロロが目をかっぴろげて見ていた。コイツは彼氏をどういう風にしたいんだろうか。


 手を離し、俺とオルトさんは同じ方を向く。


「元気ですね」


「彼らは後衛に居たんだろう。あの渓谷じゃあスイッチも無理だったし、やきもきしていたんだと思うよ」


 俺達の向く方向には、突撃を始めた連中の姿が。

 オルトさんの言うように、渓谷で後ろの方に居た奴らなんだろう。元気だ。

 魔導装具で強化された魔法が飛び、生き残った敵を前衛が倒していく。ランキングを競っているけれど、ある程度の連携染みたことをみんなしているみたいだ。


「「あっ」」


 そんな彼らの活躍を見ていると、一人の少女が魔導装具を敵に弾かれて手放してしまった。

 絶体絶命のピンチ。っていうかもう撃破は待ったなし。


 しかし、そんな彼女の前に一人の少年が光の尾を引いて現れた。

 少年は少女のお腹に腕を回すと同時に、手から鎖を放出して離れた大地に突き刺す。

 鎖や手には帯状の魔法陣が浮かんでいる。ヴァルドナの鎖・覚醒モデルだ。


「「「「おーっ!?」」」」


 俺とオルトさん、さらに他の休憩している人達が声を揃えてその救出劇に興奮した。

 そして。


「おぼぉーっ!」


 少年が高速移動を始めると同時に、少女の身体がくの字に曲がって一緒に高速移動した。

 それはまるで格ゲーで突進系の必殺技を喰らった女性キャラのよう。


 少年のおかげで攻撃からは逃げられたものの。

 少女は少年の腕からぐらりと抜け落ち、両膝をついてお腹を押さえ、ダラダラと涎を出す。

 少年は真っ青な顔であわあわするばかり。

 そんな少年に、キレた少女が無言でボディーブローを決めた。


 一部始終を見ていた俺達は、何ともいたたまれない気持ちになった。

 しかし、そんな中で楽し気な笑い声が一つ。俺の彼女である。めっちゃ指さしてケラケラ笑っている。クズであった。っていうか、俺達もアレとまったく同じこと以前にしたからね?

 

「ざ、残念でしたね。彼」


「残念には残念なんだけど、実はあれは今の一回だけじゃないんだよなぁ」


「え?」


「俺は今のを入れて今日3回見てるからね。やったのは別の奴だったけど」


「マジで?」


「何言ってんだよ。アレは君の動画に憧れてやってるんだぜ? 以前、女の子を助けただろう?」


「あ、はい」


 シルニャンな。

 ふと戦場を見回すと、シルニャンも休憩中で俺と目が合った。

 目が合ったシルニャンはピョンとジャンプすると、すぐに顔を逸らした。


「ああいうのは漫画だとよく見るけど、実際には中々ないだろう? それをガチでやってのけた鎖移動に一部の男子は憧れちゃったわけ。んで、このイベントだとピンチなんてそこら中に転がってるから、チャンスとばかりにみんな狙ってるのさ」


 それを聞いて思い出す。

 そう言えば、渓谷ゾーンで壁に張り付いていた鎖使いがたくさんいたな、と。

 もしかしてアレは救出する瞬間を狙っていたのか?

 アホだな。それならガンガン活躍した方が絶対にモテるに決まってるのに。だけど、ロマンチックな出会い方をしたいなら、一考の余地はあるのかな?


「っと、少し休憩しすぎたな。もうそろそろ動くとしようか」


「そうですね」


 確かにあまり休憩してられないな。

 俺達は話を終えて別れた。


「だから言ったでしょ? みんなコウヤの真似して鎖を使い始めたって」


 ロロが言う。

 そう言えば、開戦した時にそんな事を言っていたな。

 彼氏を過大評価しているのかと思ったけど、ある程度ガチな話みたいだ。


 う、ううむ、これはどういう反応をすればいいのだろうか?

 自分が流行を作った経験なんてないから、ちょっと分からんぞ。


 俺の背中に合体したロロが、おかしそうに笑う。


「照れてるぅ、可愛ーっ」


「さ、さーて、それじゃあ行くとしようか」


「おっ、はぐらかし。可愛ーっ」


「はいはい。ロロは味方がいない場所にガンガン撃て。フィーちゃんはどうする?」


「了解!」


「私も一緒に行きますぅ! 単騎駆けはさすがに無理ですねぇ。私一発貰えば撃破されちゃうんで」


 というわけでフィーちゃんも合体。


 俺達は戦場を駆けた。




 荒野ゾーンの敵は、部隊毎に動いていた。

 四足獣部隊、スライム部隊、プチゴーレム部隊、エレクリ部隊……等々。


 荒野ゾーンの序盤までは善戦していたのだ。

 みんなで協力すれば、倒せない敵じゃない、そう思えるレベルだった。

 しかし、中盤以降から敵のやり方がえげつなくなった。


 スライム部隊が前衛と接敵するや否や、鳥部隊が空中から魔法を放ち、空爆を始めた。

 それに反撃する魔法使いたちは、ロロが使う拡散レーザーみたいなのを魔導装具から射出し迎撃する。

 その隙をついて狼部隊が味方陣営の横腹に突撃をかまし、どんどんプレイヤーが撃破されていく。魔法使いたちが混乱すると、さらに追い打ちをかけるように鳥部隊が再強襲を仕掛けてきて……


「み、みんな、みんな、死んでいくわ……っ!」


 ロロが悲愴な声を上げた。

 ぶふぅと噴出さなければ、神秘的な顔立ちと相まって凄く良い感じだったのに。


「約250対1000以上は無理だよ無理」


 渓谷で見たのは200人以上いたと思うが、荒野までたどり着いたのは150人くらいだった。

 さらに、他の2ルートを抜けたプレイヤーが100人程度。森が100人くらいで、もう一つの渓谷は5人しか出てこなかった。あっちの渓谷はそんな地獄だったのだろうか。


 他にも拠点ゾーン周辺で戦っている奴らもいるだろうけど、攻めている奴らはこれだけだった。

 そんな人数で荒野に布陣していた敵軍を倒すのは無理であった。

 敵軍の数は1000以上と言ったが、もちろん正確ではない。もしかしたら500体くらいかもしれないし、2000体以上いるかもしれない。さらに補給付き。


 元々、このゲームには1500名のプレイヤーが参加している。

 義務冒険者は500人で他は中高生だ。

 この人数をフルに揃えれば、あるいは行けたかもしれないって感じの戦闘である。


 戦闘終了まで、残り時間が1時間を切った。

 

「これってさ、もしかしてクリアさせる気がないゲームなのか?」


「おっ、良く気づいたわね。さすが私の彼氏。偉い偉い、お姉ちゃん褒めちゃう」


 俺の両乳首を円の動きで偉い偉いしながら、ロロが言った。じゅくりと涎が口内を支配した。

 俺は涎を飲み下してから口を開く。


「マジで?」


「今回の魔王ちゃんは、魔王は絶対に勝たないとダメなのじゃ、みたいな主義なの。だから鬼畜仕様なわけ。今のところステリーナは一回も負けてないわね。過去の魔王はちゃんと負けるわよ」


「そ、それじゃあサークは奴の手に堕ちてしまうのか」


「コウヤ、さっきカメラに向かってアレだけ啖呵切ったのにね」


「やめて、軽く黒歴史候補に挙がってるヤツだから」


「そんな事ないわ。超カッコ良かった。動画落として永久保存するって決めてるのよ?」


「俺の居ないところでこっそり見てね?」


 あの時は魔王軍侵攻戦も魔王城攻略戦もプレイヤーがちゃんと勝てると思ったのだ。

 だからあんなこと言えたんです。

 ムリゲーだって分かってれば、もうちょっと大人しい事言ってたよ。


 それにしても、なんだよ負けイベントかよ。

 普通は、勝利を収めた上でランキング発表だろうが。

 敗北してのランキング発表とかテンション下がるわぁ。ソシャゲなら、もしかして俺のやってるゲーム過疎ってるんじゃないか、って心配しちゃうぞ。


「じゃあどうせ撃破されるんだったら、最後は一矢報いて散るか」


「拠点ゾーンのクリスタルに切り込むのね?」


「ああ」


「ひゃっふーっ! そう来なくっちゃコウヤさん!」


 俺の提案に、武闘派妖精のテンションが上がった。


 どうせ負け前提の難易度なんだし。

 それならイチかバチか賭けに出た方が良い。

 っていうか、この戦場じゃどこで活動しても大して変わらないように思える。総じて危険。


 というわけで突撃だ。


「ロロ、無理するから全力でしがみ付け。首は締めすぎないでね。フィーちゃんもちゃんと捕まっててね」


「分かったわ、ンチュー!」


「分かりましたぁ!」


 ロロの四肢によって、俺の身体がぎゅうと締め付けられる。

 フィーちゃんはロロの足に上手い事身体を乗っけつつ、俺の服をギュッと掴んだ。


 それを確認して、俺は鎖移動を全速力で敢行した。

 

 景色が加速する。

 ワンアクションで50メートルを一瞬で飛び、戦場を駆けていく。


 足の速い敵部隊や、空を飛ぶ敵部隊が俺達を狙い始めた。

 すぐさま、空爆される列車が出来上がった。


「超怖い超怖い!」


「カプチュムー!」


「ギューッ!」


 必死で鎖を放って加速する俺の首筋にロロが甘噛みキスをし、フィーちゃんが服の上から脇腹へ魔手を突き立てる。

 空爆による恐怖と、ロロの唇の感触による快楽と、フィーちゃんの魔手による恐怖が俺のちっぽけな身一つに降りかかる。

 微妙に恐怖が勝っていた。


 敵部隊をいくつも抜け、主戦場から大きく離れた。

 そして俺達の前に現れたのは、200を超える雑兵と、10を超える小隊ボス級、そして明らかな大ボス1体の姿だった。

 大ボスの姿は、翼の無い竜だった。地竜とかそんな奴だろうか。

 さらに、背後からはトレインしてきた団体さんが迫っている。こんな挟撃はなかなかあるまい。


「無理ゲーにもほどがあるだろ」


 割と心がぽっきり折れているのだけど、せっかくここまで来たのだし。

 俺はそのまま突撃した。


「ドラゴンを封縛する。ロロは最大の攻撃で、フィーちゃんは岩穿ちで、ガンガンクリスタルを攻撃して。まあ撃破されても良しとしようや」


「カプチュモムモムネチョムチューッ!」


「”#$%&!」


 各々の返事を聞いた俺は、歯列をギラつかせて笑うと。


 キリンから優しさを抜いて破壊と絶望を埋め込んだようなフォルムの敵に鎖を放った。

 鎖をソイツの首に巻き付けるとほぼ同時に、前から上から後ろから、魔法がアホみたいに飛んでくる。


 逆に考えるんだ洸也。

 当たっちゃっても良いってさ。


 偉大なる血統の紳士の言葉を思い出した俺は、勇気をだして鎖移動で飛び出した。

 キリンの首に巻いた鎖を辿ったことで滞空状態になった俺は、さらに比較的背の高い悪夢を背負ってそうなデカイ馬の首に鎖を巻き付け、鎖移動に立体軌道を加えた。


 いつぞやガリオン教官がやっていた、空中移動の変則的な動きを真似てみたのだ。

 魔力交換のブーストの力を借りてそれを実現した俺は、雑兵や小隊ボス級の頭上を取った。


 大空に飛び出した俺は、空中で手を叩いて二つの鎖を融合させ、さらに本命の鎖を2発放った。


「おぉおおおおおお!」


 1本はドラゴンの顎。

 身体を逆さにしながら放った鎖が、大口を開けたドラゴンの上あごに絡む。


 さらにもう一本は、先ほど融合させたキリンと巨大馬を繋ぐ鎖へすでに絡ませてある。 

 俺は手を叩き、計四本の鎖を融合させた。


 急激に縮まっていく鎖が、ドラゴンとキリンと馬、三頭の巨体を結び荒れ狂わせる。

 その三頭のせいで、クリスタル近衛部隊は大混乱に陥った。


「「「グラァアアアアアアア!」」」


 三体の怒りに染まった声を聴きながら、俺は最後の鎖をドラゴンにある巨大クリスタルへ巻きつけ、敵軍の心臓へ到着した。

 幸い、ドラゴンより後方に配置された敵はおらず、荒れ狂う3頭を迂回して敵がやってくるまで、しばらく掛かりそうだ。


「やれっ、二人とも!」


 俺の声に呼応して、ロロが腕を振るい、三体の人形を飛ばした。

 3体の人形は巨大クリスタルに身体を触れさせる。


「いっけぇえええええ!」


 ロロがラスボスを押し込む主人公勢みたいな感じで吠えた。

 だけど、どうしよう何をしてるのかさっぱり分からない!

 だって見た目は何も変わらないんだもの!

 俺のオーダーは最大の攻撃だから、アレはロロの使える最高の魔法なんだろうけど!


 さらに、フィーちゃんが真っ赤な闘気を纏ってクリスタルの背後に回った。


「コォオオオオオオ」


 と、不気味な呼吸法を始めたフィーちゃんの姿が巨大クリスタルの屈折で何十人にも見える。

 この恐怖感は、近場で荒れ狂っている魔獣共の所為か、それとも……


「浸食・岩ッティイイイイイヤァア!」


 巻き舌過ぎてよく分からない技名を叫んだフィーちゃんが、クリスタルを両掌でぶっ叩く。


「いっけぇえええええ!」


 ロロがまた吠えた。

 相も変わらず人形達はクリスタルに接触しているだけ。

 何をしているのか分からないので、俺はテンションを上げようがない。


「とりあえず逃げるぞ!」


 3頭の巨体が大暴走しているけれど、魔法が飛んでこないとは限らないからな。

 俺は巨大クリスタルからつかず離れずの位置取りをキープして鎖で移動する。


「いっけぇええええ!」


「いや、お前さっきから何してんの!?」


「振動魔法よ! 最大威力の振動魔法は岩石だってぶっ壊すからクリスタルならピッタリでしょ!?」


「正解!」


 ロロと出会った当初、交流魔法に分類される振動魔法は、威力さえ高めれば人の手の骨を粉砕すると言っていた。

 さらに威力を高めれば、なるほど岩をも砕くのだろう。


 さらにフィーちゃんがもう一発岩穿ちを食らわせて、こちらに戻ってきた。


「……っ」


 フィーちゃんの顔つきを見た俺はゴクリと喉を鳴らした。

 やっぱり劇画になっている。

 そんなフィーちゃんがおもむろに口を開いた。


「全ての鉱石はタンポポによって砕かれるですぅ。それは星すらも例外ではないですぅ」


 俺はカタカタと足を震わせながら、コクリと頷いた。頷かないと死ぬような錯覚を覚えたのだ。

 押忍押忍押忍ぅ! とフィーちゃんが十字を切ると同時に。


 ドガシャーンッ!


 フィーちゃんの背景にある巨大クリスタルが、粉みじんに砕け散った。


読んでくださりありがとうございます。


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