2-15 魔王軍侵攻戦 渓谷2
よろしくお願いします。
「ハッ! ロロ、俺はどれくらい寝ていた?」
「10分くらいじゃないかしら?」
「うん、知ってる」
夢と現の狭間でブランコに乗っているような意識が、穴倉の外から聞こえてきた喧騒で一気に現実方面にジャンプしてしまった。
中途半端にウトウトしたので、非常に怠い。魔力自体はそこそこ回復したみたいだけど。
「もしかしてアンタの世界のネタ?」
「ネタってほどじゃないけど、よくアニメで見かけたかな?」
「言われてみればテフィナのアニメでもたまに見るかも」
「長時間寝ちゃいけない場面で寝て目覚めた奴が、2割程度の確率で言うよね」
「言う言うー!」
んなことはいいとして。
穴の入り口で寝そべって外を見ているフィーちゃんに倣って、俺も寝そべって外を見てみる。
「みんなで固まりながら攻めてる感じですねぇ。結構手こずってますぅ」
フィーちゃんの言う通り、プレイヤー側は大勢で固まって攻めていた。
200人くらいいるのかな?
前衛の殲滅速度が遅いため、中・後衛が詰まってしまっている。相当なイモ洗い状態であった。なにせ、幅5メートル程度の渓谷だし。
さらに、ここら辺はもう魔法を使う敵がわらわら出てくるゾーンなので、そんな有様のプレイヤーたちは、良いようにやられちゃってる。
プレイヤー側にも当然魔法特化タイプは大勢いるのだが、そういう子は中・後衛にいるみたいで、上手く機能していない。
テフィナ人は魔法が巧みなので、前衛も魔法を使いながら戦っているけど、魔法特化の魔導装具の補助なしではあまり威力が高くない。
その様子を見ていると、やはりロロは魔法において非常に優秀なのだ改めて実感した。
また、捕縛師も何人かいた。
ただ、後方で壁に引っ付いてまごついている。そんな事してるくらいなら、魔法使いの一人でも抱えて壁に張り付けば良いものを。よく分からない奴らだ。
「どれどれぇ? プーッ、めっちゃボコボコにされとるわい!」
寝そべる俺の身体の上に、同じように寝そべって身体を重ねてきたロロが、外の様子を見て嬉しそうに草を生やした。
最近思うのだが、ロロは割とクズである。そんなところも可愛い。
「隙あらばイチャつきますねぇ。それでどうしますぅ?」
「ふむ。とりあえず、俺とフィーちゃんで出ようか。ロロには、ちょっとやってもらいたいことがある」
「うーん、一緒に行きたいけど……私が背中に乗ってたら、コウヤ全力出せないもんね?」
分かっていたか。
ロロが背中に乗っていたら、本気の高速移動は出来ないし、アクロバティックな動きも出来ない。さらに叩きつけ攻撃もロロの頭に鎖が当たりそうでやりたくない。
「じゃあ、行ってきて良いよ。我慢する。で、私にやってもらいたい事ってなに? え、エッチなのはダメだよ?」
そう言いながら、ロロは俺の両手の指に上から指を絡め、太ももに自分の太ももを擦りつけてきた。
崖の下では今の瞬間、魔法に撃たれて一人撃破されていた。最低な奴らだった。
ちなみに、撃破されるとどこぞにワープするようだ。
スケープゴートが発動したわけではないはずだが、仕組みは当然のことながら分からん。
俺はロロにやってほしい事を伝えた。
それを聞いたロロは、やりたい放題じゃない、と獰猛な笑みを見せた。
「んじゃ、行ってくるよ」
「ぷっ殺してきますぅ!」
俺とフィーちゃんで出撃だ。
ロロは、穴の中で寝そべって待機。
今回は長距離移動するわけではないので、フィーちゃんと合体せず別行動。
フィーちゃんは強いし、一人でも大丈夫だろう。
プレイヤー群とぶつかっているのが敵の前線とするなら、俺達三人で前線後方から中衛全般を攻撃しまくる作戦だ。
とにかく、味方に向いている魔法の数を減らしてあげたい。ランキング上位を狙うなら甘いちゃんな考えかもしれないけど、遊びなのだから別に良いだろう。
俺は鎖を放ち、敵の頭上へ躍り出た。
穴の対面の壁下方にある岩に着地し、わらわらいる雑兵の群れへ向かって鎖を叩きつける。
まとめて5、6体の敵の頭をぶっ叩いてダメージを与えたが、倒すまでには至らなかった。
敵が強いのか、俺の攻撃力が弱いのか。ウネウネ草やエレクリは一撃だったんだけどなぁ。
とはいえ、俺の一撃は挑発効果抜群だったらしく、周囲一帯の敵が俺に注目する。
すぐさま魔法がガンガン飛んできた。
そうなることは分かっていたので、鎖で移動する。
今度は敵前衛方面に飛び、鎖を横薙ぎにぶん回して3体をまとめて捕縛する。非常に適当な捕縛なので効果のほどは定かでない。
これにより俺はさらに注目を集めた。
俺の居た場所や移動した後を追って、魔法がガンガン飛んでくる。
それを回避していると、敵中衛へ頭上から拡散レーザーが降り注いだ。
ロロの人形2体だ。
例の穴で寝そべるロロが遠隔操作しているのだ。魔法の補給は敵の魔法頼みである。つまりカウンター戦法。
こうすることで、人形には注目されるがロロ自体には注目されないのである。まあ遠隔操作している奴がいると理解できる知能を持った敵ならその限りではないが。
なお、保険のために人形1体はロロが持っているぞ。
そして今度は、俺や拡散レーザーに気を取られた中衛壁際の辺りで、爆発したようなポリゴンのきらめきが立て続けに起こった。
悪魔だ。いや、フィーちゃんだ。
これを好機と見たのか、プレイヤーたちも躍起になって敵前衛を押し込んでいく。
俺は彼らにガンガン敵を倒してもらうために、適当に捕縛しながらピョンピョン移動していく。
「ふはっ! はははははっ!」
気づけば俺は笑っていた。
鎖で縦横無尽に飛び回り、敵を捕縛し、叩きつけ、戦場を引っ掻き回す。
どうしようもなく楽しかった。
そんな中で、シルニャンと目があった。
戦場にも関わらず、斧を片手にボケッと突っ立っている。
俺は鎖移動の途中で身を捻ると、シルニャンに突っ込もうとしている小型のイノシシに鎖を巻きつけ、そのまま鎖移動を再開する。
転倒したイノシシはシルニャンの目の前で止まり、シルニャンは呪斧・ルビカンテで慌ててイノシシを爆砕した。
「あはははははっ!」
見れば崖付近でポリゴンの花が咲きまくっている。フィーちゃんも頑張ってる様子。
ロロは、味方を巻き込みそうなので拡散レーザーの向きを敵陣後方へ向けて放ち始める。
そのまま味方プレイヤーは雪崩のように敵中衛を押し込んでいく。
プレイヤーたちがロロがいる穴倉辺りまで来たので、俺とフィーちゃんは一度穴倉に戻ることにした。
「おかえり!」
あぁ、なるほど。
これが正真正銘、戦場の熱に茹だるという奴か。
ロロの顔を見た俺は、すぐさまロロにキスをした。
そのまま押し倒したいほどに猛っているけれど、さすがに思いとどまる。
唇を離し、とろんとしたロロの顔を見つめる。
「ただいま、ロロティレッタ」
「にゃ……ぁ……だ、抱いて……っ」
「ぅおらせぅーっ! はぁわ、メスの顔っ!」
興奮しすぎて意味の分からない奇声を上げながら戻ってきたフィーちゃんが、見つめ合う俺達を見てドン引きした。
俺はそれを見て、ふっと笑いつつ、冷や汗を流す。
やべぇ、どこかでカメラが回ってるんだった。
会場のお父さんお母さん、もし、お子さんと気まずくなっていたらすみません。
「それじゃあ、リベンジに行こうか」
ロロがピョンッと俺に飛び乗り、首筋に甘噛みチューをしてきた。
唾液がついた部分を風が撫で、スッとする。
続いてフィーちゃんがガシンと俺のお腹にくっついた。
3体の人形にロロが魔法を注入してから、俺達はプレイヤーがガンガン戦線を押し込む戦場へ飛び出した。
「敵も良い感じに慌ててるな。ロロ、いけるな?」
「はい……はい……イきます……にゃぁっ」
下方で繰り広げられる戦いを見ながら俺が問うと、ロロはそんな返事をして俺の側頭部に頬を擦りつけてきた。何故かロロの腰から太もものあたりがビクンと跳ねた。
「フィーちゃん、隙ありと見たら、ゴーレムかクリスタルの爆散を頼む」
「侵食・岩穿ちですねぇ!?」
「う、うん」
「押忍ぅ!」
この瞬間、ゴーレムかクリスタルに死の宣告が下された。
先ほどとは違い、プレイヤーたちの頑張りによって俺達への魔法攻撃が格段に減っている。
俺達はさっきの苦労が嘘だったかのように簡単にクリスタル周辺に近づいた。
とはいえ、鎖移動を止めればすぐさま撃ち落される程度には俺達にも魔法が来ているので、移動はしまくる。
そんな中で、ロロが3体の人形を上空に移動させ、下方へ向けて拡散レーザーを放った。
気づけばフィーちゃんが俺のお腹から消えていた。
隙ありと見たのだろう。
拡散レーザーが降り注ぐ中、ゴーレムの背後で真っ赤な闘気が煌めく。
あの技はどうやらタメが必要なようで、しばしの間が開く。
そして。
「浸食・岩穿ティイイイリヤァ!」
甲高い死神の声が戦場に響き渡った。
さらに、フィーちゃんはベ○立ちをしながら光の雨の中を気持ち悪い軌道でふわりふわりと飛んでいく。タンポポ真拳の奥義『綿毛漂流』だ。あんなのが自分を殺しに飛んできたら恐怖以外の何物でもない。
そして、ゴーレムがドグシャーッと内部から爆散した。
後に残ったエレクリみたいな核は、すぐさま拡散レーザーに撃たれてお亡くなりになった。
壁の端っこまで移動したフィーちゃんは、ついでとばかりに綿毛漂着でグロ映像を作り上げ、俺の方へ飛んできた。足がガクついた。
「お、おかえり!」
「%&”#せぅっ! 倒したですぅ!」
「う、うん、凄かったよ!」
気合がもはや人語になってなかった。
再びフィーちゃんと合体!
俺のお腹の服を掴むこの両手は、岩をも爆散させる魔手。
さ、さて。
とりあえず、クリスタルは……
うーん、おせおせムードだし、ここは他の人に譲るか。
おっ、シルニャンが敵の頭を蹴って、マキ割○イナミックした。
さすが破壊力だけは抜群のルビカンテだけあり、クリスタルが一撃で破壊された。ロロの魔法攻撃である程度弱っていた可能性はあるけどな。
シルニャンが俺の方へ手を振ってきた。
俺も手を上げて応える。
応えたあとで、今のはロロに振ったのかもしれないな、と思ったけど、まあ良いか。
「よし、渓谷後半だ。ロロ、ガンガン行くぞ!」
「しゅきぃ、ンチューッ! しゅきしゅきぃ、カプチューッ!」
さっきから凄く首筋を攻められているんだが。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマありがとうございます。




